【R18】VRMMO 最強を目指す鍛錬記

市村 いっち

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悪役令嬢 リュシエンヌ・デュ・ルロワ

悪役令嬢 リュシエンヌ・デュ・ルロワ(3)

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 両軍に戦闘開始を告げる電子的なサイレンの音が戦場に響き渡り、戦闘が始まった。

「えらく機械的な音だな?」
「中世ファンタジーにはありえない音のほうが、
 システムからの通知とわかりやすいからだろうね。
 さあ、開戦だ。よろしく頼むよ」
「はい」

 アジムは思わず漏らしたつぶやきに声を返してくれたミヅキに応じてから、兜を被る。目以外は金属で完全に頭を覆ってしまう防御力を優先した無骨な兜だ。鎧は兜と合わせてリュドミラが作ってくれたものにメルフィナが魔法を付与してくれた金属鎧プレートアーマーとソフィアが見つけてくれた腕鎧を組み合わせた、いつものもの。剣は魔法を打ち込まれることを前提に<抵抗レジスト>を付与してもらったものを持ち込んだ。
 持ち物は腰に投擲用短剣スローイングダガーと、6本セットの取り出しやすいポーションバックには普段持ち歩いている解毒剤と暗視薬を取り出してすべて回復薬を用意してある。後はその辺りで拾ったこぶし大の石ころが2つだ。

 アジムは身につけている装備を確認して、大剣を背負うためのベルトを外し、それを手にすると右肩に担いだ。<抵抗レジスト>のかかったそれは盾としても使う。背負ったままのほうが走りやすいがそういうわけにもいかない。

 兜を被ったことで狭まった視界から、自分の軍団を見渡す。全員がアジムと同じように兜を目深にかぶり、得物を手にして血を滾らせながら指示を待っている。

「歩いて前進。左右の仲間に気を配って飛び出さないように。
 とにかく攻撃を後ろに逸らさないよう気を付けて」

 軍団の面々から野太い承諾の声が返ってくるのに頷き、アジムは足を進めだした。

 左右には盾を持った軍団の男たちが並び、後ろはアジムと同じような装備に身を固めたものが続く。アジムの軍団が動き出したのを見て、ミヅキの部隊は少し間を開けてそれを追う形で前進を始めた。

 重装備の男たちが草原を往く。たった30人だが、戦意に満ちたその集団は爽やかな風が吹き渡る草原に圧力を撒き散らしながらまっすぐに進んでいく。一直線に敵陣を粉砕せんとに歩みを進める。

 アジムと軍団が目指す敵陣の正面で目を閉じ<集中>しているのは金色の髪をした女だ。戦場には不似合いな豪奢な赤いドレスで遠目にも男の欲情を誘う豊満な身体をラッピングして、擬い物イミテーションにはありえない輝きを帯びた装飾品で飾っている。おそらくはドレスも装飾品アクセサリーも魔法の品で、彼女の魔法の威力を向上させるものなのだろうが、縦に巻いた美しい金髪と相まって世間知らずのお嬢様が戦場に出てきた感が強い。その彼女に付き従い、同じように<集中>に入っている10人ほどの軍団の女性たちもドレス姿なので、余計にそう感じる。

 だが、そんな目立つ身なりで最前列に構えたものたちが、ただのお嬢様であるはずがない。

 アジムと軍団の男たちが発する圧にもひるまず、 ただひたすらに<集中>を続けていた彼女たちが、アジムを含む一列目の男たちがある地点に差し掛かったところで目を見開き一斉に叫んだ。

「<爆発エクスプロージョン>!」

 スキル、パラメータ能力値、装備。そのすべてを魔法に注ぎ込んだ魔法使いが放つ、十分な集中時間を取った<爆発エクスプロージョン>の魔法。それが立て続けにアジムと軍団の男たちを襲う。

「ぬ、が、ああぁぁああぁぁぁぁぁっ!!」

 身を守るためにかざした<抵抗>の大剣の前で、苛烈な大華が咲き乱れる。

 リリィがよく使う行動制限ストッピングを目的とした<爆発エクスプロージョン>とは比べ物にならない、明確な殺意の乗った激烈な熱気と衝撃、そして轟音と閃光が襲ってくる。しかもそれが一度だけではなく、軍団の人数の分だけ一斉に叩きつけられるのだ。

 痛い。熱い。痛い。苦しい。耳が。息が。熱い。痛い。
 前進することなどできず、ひたすら耐えるしかない。
 歯を噛みしめて身を焼く苦痛をこらえる。

 そんな地獄のような時間は、長くは続かなかった。
 耐えて耐えて、耐えきれないかもという考えが頭をよぎった瞬間に、ぷっつりと苦痛の時間が終わる。

 お嬢様風の女たちの魔法の斉射が終わったのだ。アジムは急いで腰のポーションバックから回復薬を取り出して呷ると、残りを左右でうめき声を上げている軍団の男たちに回してやる。

 数の足りなさに後悔しながら目を走らせると、最前列は盾を持っていなかった2名がたおれて動かない以外は、全員が痛みに声を上げつつも健在だ。後ろの列の面々はどうか。

「<風の矢ウィンドダート>!」
「<石礫ストーンバレット>っ」

 後列を確認しようと振り返ろうとしたところに遠くから声が聞こえ、咄嗟に大剣で身を守る。強い衝撃が剣を揺るがせるが、先程の<爆発エクスプロージョン>ほどの衝撃はない。軍団に目を向けても、新たに斃れたものはいない。

 見れば、最初に魔法を放った正面にいるお嬢様たちの横に、魔法剣士たちが展開していた。風と土の魔法はそこからだろう。

「全員、石を手に全速!」

 後ろの面々を確認している余裕はない。
 呼吸をするたび胸が痛む。熱い空気を呼吸してしまって肺を痛めたのだろう。それを我慢しての声はそれまでよりも声が小さくなった。末端まで指示が行き届かなかったかもしれない。だが、アジムが今度は大剣を左肩に担ぎ、右手に懐の石を手にして駆け出すと、軍団の男たちもそれにならって走り出した。

 重装備のアジムたちの脚は遅い。
 アジムたちが接近する前に、正面のお嬢様たちの手に炎が収束していく。

「投擲開始!」
「<火の矢ファイア・ダート>!」

 アジムとお嬢様たちの魔法の声が戦場に響く。
 お嬢様たちの放った<火の矢ファイア・ダート>は戦場をまっすぐに走り、最前列でポーションが行き渡らなかった男たちを撃ち倒した。

 アジムたちの投げた石は放物線を描いてお嬢様たちに降り注ぐが、

「<土壁アースウォール>っ」

 横に展開していた魔法剣士が作り出した土壁に阻まれる。

 だが、これでアジムとその軍団を大きく傷つけることができたお嬢様たちからの射線が切れた。

「つっこめぇええぇぇぇぇぇぇ!!」
「ぅおおおぉぉぉぉぉおおぉぉぉぉ!!」

 アジムは痛む肺を無視して叫び、自分の軍団がどれだけ残っているか確認もできず敵陣に向かって駆け出すと、軍団の男たちも雄叫びを上げてそれに続く。

 正面は土壁が立ち、その左右に魔法剣士たちが展開している。普通なら右の風魔法剣士の軍団か、左の土魔法剣士の軍団に向かって行くのだろうが、アジムはどちらも選ばず、左右に逸れることなく土壁に向かってまっすぐに突っ込む。

 魔法剣士たちは土壁を利用してアジムの軍団を半包囲で殲滅しようと動き出す。アジムの軍団の後ろを追っていたミヅキもそれを阻止するため動き出した。

 しかし、戦場にいるものすべてが、アジムという重戦士の突破力を甘く見ていた。

「ぶち抜けええぇぇぇぇ!!」
「っだらあぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 アジムを先頭に土壁にぶち当たり、それをまるで障子か襖かと思うような容易さで簡単にぶち破った。
音を立てて壁が崩れ去った向こう側にいたのは、驚きに目を開けてしまい<集中>が解けたお嬢様たちだ。

「術師を潰せ! 終わったら好きに暴れろ!」
「おう!!」

 即座にアジムと軍団が襲いかかる。一番身体がでかいのはアジムだが、軍団の男たちも負けず劣らずだ。アジム自身と鎧、武器を合わせると200kg近い。軍団の男たちも似たようなもので、大盾を持っている男たちは下手をするとアジムより総重量は重いかもしれない。

 だがそんな男たちの突進を目にして状況を理解したお嬢様の顔に現れたのは、恐怖ではなく覚悟だ。

「っ、全員、一秒でも稼ぎなさい!」

 そう指示を出して、躊躇いなくアジムに掴みかかってきた。長が模範を示せば、軍団の女たちもそれに続く。華奢な女たちが鎧姿の大男たちに掴みかかる。

「邪魔だ!」
「きゃああぁぁぁぁっ!?」

 当然、彼女たちは簡単に打ち払われてしまう。しかし、彼女たちが打ち払われながら稼ぎ出したそのほんの数秒の間に、中央をぶち抜かれて背面を突かれる形になった魔法剣士たちがアジムの軍団に襲いかかられる前に反転して構え直した。

 アジムは思わず舌打ちする。

 魔法が効きにくい重戦士であれば、魔法剣士に有利に戦える。だが、アジムたちは何度も魔法を受けてボロボロだ。これ以上は身体が持たないかもしれない。

 そんなアジムたちの後ろから、魔法を一切受けずに済んだミヅキの軍団が躍り出た。

「ありがとう!
 あとは引き受けた!」

 ミヅキのような軽戦士は魔法剣士に相性が悪い。だが、それは魔法で対応できる距離があってこその話だ。

「手数で押せ!
 魔法を使わせるな!」

 疾風の足さばきで魔法剣士たちに詰め寄り、刃を叩きつけて魔法を使う余裕を与えない。そうなれば技と速さに勝る軽戦士たちが、次々に魔法剣士たちを討ち取っていく。

 あっという間に掃討戦だ。アジムはミヅキとその軍団と肩を並べて戦いながら、その手早く容赦のないを学ぶ。敵プレイヤーのいる場所を推測し、そこに向かって突撃し、逃げたらまた推測して追いかける。それを繰り返してミヅキが軍団の指揮官であるプレイヤーを討ち取ると、その軍団は武器を手放して投降の意を示した。

「プレイヤーを討ち取れば軍団は降参するんですか?」
「厳密にはそうではないんだ。
 軍団に士気があれば別の味方プレイヤーの傘下に入って戦闘を継続してくれる。
 アジムさんの軍団であれば、アジムさんがやられても私の下についてくれただろう。
 今回は、まあ、ほぼこちらの勝ちが決まっていたからな」

 アジムの疑問に応えてくれたミヅキが、刀を血振りして鞘に収めながら返り血のついた顔でにやりと笑い、高らかに叫ぶ。

「我々の勝利だ!!」

 それに応じて軍団から爆発した、喜びの声が地を揺るがせた。

 驚いて目を丸くしたアジムだったが、自分の軍団の男たちも笑みを浮かべて叫んでいるのを見て、兜を外してその喜びに加わった。

「うおおぉぉぉぉおおぉぉぉぉ!!」


  ◯


 しばらくすると転送の輝きが身を包み、気づけば戦闘準備を行っていた控室に戻っていた。

「お、アッちゃんお疲れー」
「あ、お疲れ様です」

 先に戻っていたらしいアカネが、戻ってきたアジムに声をかけてくれる。戦闘が終わって帰って来ると怪我も疲労もなくなっていることに驚いていたアジムが言葉を返して頭を下げている間に、アカネは目を閉じていた。何やらデータを確認しているようだ。

「おお、アッちゃんめっちゃ活躍したっぽいやん。
 ウチのチームで貢献点上位やわ。勧誘したウチも鼻が高いわ」

 目を開いたアカネが嬉しそうに言うが、アジムは首を傾げた。

「貢献点?」
「うん。戦闘で勝利のためにどれだけ貢献したかが数値化されて見れるようになってるんよ」

 「ちなみに、こっちのギルドでは別働隊で敵を斬りまくったウチが1位やねんで」と得意げに大きな胸を張って続けたアカネの言葉を聞いて、アジムはまた首を傾げる。

「俺、あんまり敵をやっつけたりはできなかったと思うんですけど」
「敵を倒すだけじゃなくて、味方を庇った、支援した、治療したとか。
 他には戦闘に有利な場所を先んじて確保したとか、
 作戦を立案したとか、色んな要素で決まるから、
 別に敵を倒せてなくても貢献が上位になることはあるよ」

 アカネはそう言ってまた目を閉じた。

「んー。今回やと、敵の魔法から味方を庇った、
 土壁ぶち抜いて有利な場所を確保した、あたりが貢献高いと判断されたんちゃうかな。
 実際、敵の魔法使いをそのまま撃破できたのはすごい良かった思うし」

 アジムの戦闘ログを確認したらしいアカネはそう評価する。

「そうだな。土壁を迂回して魔法剣士たちと正面から戦っていたら、
 足止めをされてリュシエンヌさんの火魔法でもっと損害が出ていただろうし、
 もしかしたら負けていたかもしれない。
 個人的には貢献1位はアジムさんだと思うな」

 いつの間にか戻ってきていたらしいミヅキが、アカネの評価を後押ししながら声をかけてきた。

「リュシエンヌ……ああ、あの金髪の」
「初手で<爆発エクスプロージョン>を使っていた人だな。
 彼女が今回戦ったギルド<悪役紹介>のエースなんだ。
 彼女を暴れさせずに退場させられたのは本当に助かった。
 ありがとう、アジムさん」
「いえ、お役に立ててよかったです」

 アジムはミヅキと笑みを交わしあった。

「さて、そしたら戦後処理やな。
 アッちゃん、全員からご指名来てるで」

 そんな和やかな雰囲気に、アカネが目を閉じてデータを確認しながら声をかけてくる。

「ご指名?」
「プリンセスからの陵辱役のご指名やな。
 <悪役紹介>は悪役をやりたくてやってるギルドやから、
 負けたら徹底的にされるとこまで楽しんどる。
 せやからプレイヤー全員がプリンセス登録してるんやけど……
 アッちゃんみたいなマッチョは珍しいから全員から陵辱役にご指名来たみたいやな」

 戦争ギルドウォーに負けたギルドのメンバーは勝ったギルドのメンバーに陵辱される。

 だが、負けたギルドメンバー全員が陵辱されるわけではなくプリンセス登録しているメンバーがその対象となる。プリンセスと名前はついているが女性だけではなく男性も登録できるので、逆レイプも可能だ。また、プリンセス側が自分を陵辱する相手を指名することができるようになっているし、プレイの内容も拒否できるものを設定できるようになっている。

「えっ……俺、全員をお相手しないといけないんですか?」
「いや、気分が乗らなければ全員拒否でもエエし、
 一人だけとか二人だけとか、自分に都合がエエ人数だけ相手してもエエで。
 もちろん、全員でもOKやけど、これだけの人数がご指名やから、
 一人くらいは相手したってほしいかなぁ」
「いや、全員は流石に……」
「というか、全員やったら男もぞろぞろ来るな。
 アッちゃん男もイケる口か?」

 アジムは首を横にふる。
 前回一緒に冒険した後に陵辱した<プリンセスプリンセス>は女性プレイヤーと紹介されたうえで性転換薬を使って女性として抱いたから問題なかったのであって、普通の男性はアジムの性の対象外だ。

「婚約破棄してされそうなアホっぽいイケメン、
 後半に絶対裏切りそうな銀髪糸目の京都弁イケメン、
 嫌味ったらしい面した陰険貴族風イケメンあたりは、
 アッちゃんと絡んだら腐った薄い本が厚くなりそうやけどなぁ」

 アジムは必死に首を横に振る。

「じゃあ女性陣やな。
 こっちもよりどりみどりやで。
 どんな娘が好みや?」
「いや、特に好みは……」

 ニヤニヤするアカネに問われるが、アジムの好みはリリィ一択だ。
 それ以外と言われると言葉に困る。

「それなら貢献点の順で選んだらいいんじゃないか?
 相手ギルドの貢献順位も見えるぞ」
「ああ、そうですね。
 そのほうがややこしくなくていいです」

 ミヅキの言葉に頷いたアジムに、目を閉じて<悪役紹介>の貢献順位を確認したアカネは納得して目を開けた。

「さすがエースやな。
 アッちゃんの部隊を何人か削ったのが評価されたらしいわ」

 アジムも目を閉じて二人から敵ギルドの情報の見方を教えてもらいながら確認すると、リュシエンヌ・デュ・ルロワの名前がトップに表示されている。

「そっちは戦闘貢献の一覧やから、
 相手したるんやったらプリンセス登録一覧のほうから確認して、
 リュシエンヌを選択してチェックしたら、陵辱開始を選択や。
 プリンセス一覧のほうのリュシエンヌの詳細を確認したら、
 向こうが拒否しているプレイと希望するプレイが見れるから、
 考慮したると喜ばれるで」
「これ、拒否しているプレイをやっちゃったらどうなるんです?」
「その時点でプレイが強制終了になってそれぞれ別部屋に転送される。
 うっかりやっちゃっただけなら後で謝ったらエエけど、
 繰り返すとゲームからペナルティくるから気ぃつけや」
「わかりました」

 アジムはリュシエンヌの詳細に目を通し、アカネとミヅキに挨拶をしてから「陵辱開始」を選択して転送の光に身を任せた。
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