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第二十三話 待ち伏せ

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「依頼荒らし」
 町にそんな噂が広まっていた。
 詠み人を介さずに依頼を受注し、並みのパーティーが一日にこなせても一つという現状でカエデとブレンはは日に数個と依頼を解決していった。遠慮どころか、誰にも目も気にしないその姿を疎む人も多くいたがその反面、二人を英雄視するものもあらわれた。
 この国では城の外にいる人間が裕福な生活をするためには、強くなるしかなかった。しかし、それには多くの矛盾が潜んでおり、死なないためにより多くの異物を倒すには大規模パーティーを組むほかなかった。
 しかし、そうなれば一人分の取り分は減る。金が無ければさらに効率のいい依頼任務を受けることすらできない。
 そんな拮抗した状況での二人は、実力一個でのし上がってきたのだ。
 カエデという特質な存在がこの国に与えた影響は大きなものであるとあった。しかしそれを知っているのはごく一部の人間だけではある。


 さらに噂は噂を呼び、金で城に入れる権利が買えるという根の葉もない噂が出始めたころであった。



「いやー、今日も稼いだな!」

 今日も依頼をこなし町に戻る二人は、一仕事終えた達成感とこの後貰える報酬のことを考えている。

「そうですね。もうヘロヘロですよ」

 それでも、ここ数日の激務によりカエデには目に見える披露感が出ている。もともと運動が得意なわけでもなく、勉強が得意な訳でもない平凡だったカエデにとってはこの世界の日常は、厳しいものであった。

「なんだ嬢ちゃん? 珍しく泣き言いってんな」

「ここ連日ずっとこんな感じじゃないですか!?」

 休むと言っても、この世界ではなにもすることがない。友達もいなければテレビもない。娯楽というものがすっかり抜け落ちているこの世界では、休むという行為は体を休めること以外にないのだ。

「確かにそうだな。そろそろギルドの依頼もなくなっちまうんじゃねーか?」

 だったら稼ぎに行った方がいいとブレンが言い出すものだから、異物と戦わない日は無かった。そのためこなした、依頼の数はこの町のパーティーの中でもダントツでトップであろう。
 そもそも、そんなにかなせる人がいないというのと、国から直々のものも多いため数は溜まる一方であった。そう考えると、誰も手を付けられないものを片っ端から片付けてくれているのだから、ギルドとしてはありがたいだろう。
 2人は呑気にそんな会話をして、今日は店主の店でなにが出てくるかなんてことを考えている時であった。

「……なんだお前ら?」

「!?」

 周りに少し背高の岩などがあり、すぐ目の前は町であるもののそこからは視界に入らないそんな場所に十何人くらいの集団が待ち伏せていた。
 布で顔を隠しており、明らかに普通の用事でないことは一目瞭然である。
 ブレンの少し後ろを歩いていたカエデもそれに気がづくと、すぐさまブレンのそばに寄る。この世界での生活は少女の警戒心を人一倍強くするものであり、そのおかげで察しもよくなっていた。もし仮に今の状態であの日に戻っていたのならば、どんなに少女が油断していたとしても、あのような失態はしていなかっただろう。

「金ならここにはないぞ? それとも依頼書を奪おうってか?」

 カエデとともに行動するようになってからは一度もなかったが、人が倒した異物のコアを横取りする専門のパーティーもいた。国は城の外にいる人間には関与しないため、そういった連中は野放しにされている。ただ、そうはいってもあまり派手に行動する他のパーティーが徒党を組んで盗賊狩りをしたりすることは多々あった。
 カエデがくるちょっと前にそんなことがあったため、ここ最近はおとなしくいていたのだろう。
 それでも、人間を狩るのと異物を狩るのは訳が違う。もちろん人間を狩る方がはるかに簡単だと思う輩を少なくないため、度々こういったことがある。

「そんなものに用はない」

 なにも怖がっていないブレンが、その明らかに盗賊であろう集団を挑発する。しかし、驚くことに金品が目的ではないようだ。
 口は笑っているが、その目は異物を前にしている時と同じ目をしている。その場に流れる空気は誰もが感じ取れるくらいにピリ付いており、火種があれば勢いよく燃え出すであろう。それでも、ブレンは一歩も引くことは無いし、周りの人間もそれを分かっている。

「じゃあ、なんだ?」

 予想が外れたブレンは眉をひそめる。金目当ての浅はかな人間であったならば、返り討ちにすれば良い。しかしそうでないのならば、その目的は予想不明である。
 それにも関わらず、この人数とこの雰囲気である。このま大人しく返してくれることは無いことだけは分かる。

「お前らを捕まえるように言われてきたんだ」

「へぇー」

 ブレンの正面に立つ男が一言だけ口を開く。こんなことをしている割には、急ぐ様子もなく落ち着いているように見える。それは、勝利を確信しているからなのか、それとも他に何か理由があるのか。どちらにせよ、はたから見ても異常に見えるこの状況を通りすがった他のパーティーがどうこうしようとは思わないだろう。

「いつまで正体隠してんだ? バレバレだぞ?」

 思わずカエデがブレンの顔色を伺うとそれは異物と戦っている時と同じ目つきのだった。すでに戦闘態勢は整っているようだ。
 未だ間合いは狭まらず、視線でのけん制が続く中、ブレンが状況を動かそうとする。どうやらその人物に心当たりがあるようだ。この町での知り合いはブレンの方が圧倒的に多いだろう。しかし、二人はこの町の人間であるならば誰も知っている有名人である。故意的に何かをしていなくとも恨みを買っていることはあってもおかしくない。
 子どもが些細なことでいじめを受けることと同じことが大人の世界でもある。幼いカエデにとっては少しばかり、まだ早いことではあった。

「おおい、さすがだな」

 そういって顔を隠していた布を取り払う。


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