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43話

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「あ、来た!」

 最後のニシが到着して、会場の最寄り駅に4人が集まった。二日間と短い期間のため、皆荷物は少ない。よくよく考えると、この間のテツとの方が長かったのか。

「久しぶりだね」

 タイガがそう言うが、違和感しか感じない。決して間違った使い方ではないが、毎日一緒にいる人達にこの言葉はなんだか合わないな。
 こういった時に、適切な言葉とはあるのだろうか? 

「俺とヴィクターさんは違うけどな」

 テツがタイガの肩に肘をかけながらそう言う。

「ついこの間まで一緒だったからな」

 まさにそのとおり。俺達はなおさらだ。

「と言っても俺たちが集まったのも2週間ちょっとくらいだけどな」

 ニシに言われて思い出す。確かにそうだった。俺はあのあと色々あったから、かなり前のような感じがするが、まだそれしか経っていなかったのか。

「じゃあ、そろそろ行きますか」

 最後に到着したニシ以外は、地面に置いてある荷物を持ち、タクシー乗り場の方へ向かう。 確か領収書さえあれば、後日チームに振り込む手筈らしい。俺達の場合はチームに所属していないので、代表選手のところに振り込まれるらしい。

 真っ昼間だということもあり、すぐにタクシー捕まった。2台に分けようかと思っていたが、タイガが「一緒がいい」と言うので、少し窮屈な思いをして、皆一緒に乗った。
 一番デカいテツが助手席に、テツ、タイガ、俺の順番で後ろの席に座った。
 運転手におじさんには、会場を言うだけで、伝わったので楽だった。

「楽しみだね~」

 まるでこれから、遠足に行くかのようなニュアンスだ。

「お兄さんたち、何しに行くの?」

 タイガの発言に、運転手さんが反応した。

「大会だよ!」

「ええ~、なんの大会ですか?」

 タイガの返答に少し疑っているようだ。俺たちの服装的にも部活ではないと予想がつくだろうし、まず同年代にはみえないだろうからな。

「フォージの大会です!」

 果たして、それで伝わるだろうか? 野球やサッカーのよう誰でも知っているスポーツとは違い、ゲームの、しかもタイトル名を言っても伝わらないだろう

「なんですか? それは?」

 案の定だ。

「おっちゃん、俺達これからもゲームの日本一を決める大会に出るんだ」

 横にいる運転手の方を見ながら、テツは簡潔に分かりやすい説明をする。
 さすがだ。みんなと会えてテンションが上がって、より精神年齢が下がったタイガとは大違いだ。

「へぇ。今どきはゲームの大会なんてあるんですね。しかも、日本一なんて。お兄さんたち凄い強いんだね」

「まあ、それほどでも」「そうっす」

「そこ、ストレートにそうですって言うのかよ」

「強いんだね」って言われて嬉しかったであろう、タイガとテツの反応が面白く、つい声にでてしまった。

「うちの息子も、ゲームばかりやってるけど、そのうちお兄さんたちみたいに、プロゲーマーってやつになれるのかね?」

「………いやー、どうですかね?」

 タイガとテツが一瞬黙ってしまったため、俺が変りに返答する。恐らく「プロゲーマー」という単語に反応してしまったのだろう。俺たちはプロチームに所属していないため、厳密に言うとプロではない。だからといってそこで強さは変わらない。
 だけど、ゲームについて詳しくない人に、それを説明しても上手く伝わるかどうか分からない。そのため、なんと言えばいいか分からなかったのだろう。

「僕たち、ODDS&ENDSっていうチーム名なんです。もしよかったら息子さんと応援してくれると、嬉しいです」

 さすが、年長者だけあってしっかりとした、大人なの振る舞いに驚く。しかも、ニシのこの発言で一連の会話が終わったた。
 この後社内では特に会話をすることなく、目的地に着いた。駅からも大した時間ではなかった。

 3人が先に降りて、トランクから荷物を取り出している間に、俺が会計を済ませる。おつりと領収書をもらい、俺も車から降りようとしたときに。

「頑張ってくださいね」

 運転手さんが、体の前で控えめなガッツポーズをしてそう言う。

「ありがとうございます」



 会場の入り口に着き、本人確認を行って中に入った。規模は2000人くらいの場所らしいが、実際は配信やら機材の関係でそこまで人は多くないらしい。
 前日までは、実際にプレーする場所には入れないらしいので、一旦は控室に行く。

 案内された部屋のドアを開けると、想像していたより広かった。ゲーミングPCが4台並んでいるのと、別に机とソファがある。まだ関係者しかいないものの、設営準備などの関係で、ぱっと外に出られないらし。
 だけど見た感じ、そこまで不便を感じずに、プレイ出来そうだな。

 荷物を隅に置き、パソコンの前に行く。

「座る順番どうする?」

 一番端のパソコンの前に、座ろうと椅子に手をかけた時に気づいた。
 4つあるうちのどこに座るかだが。

「無難にヴィクターさんとタイガが真ん中でいいんじゃない?」

 確かに主な指示を出すのは俺がほとんどで、戦闘のコールはタイガだ。とはいえ、ヘッドフォンをつけて、ゲーム内音声でやり取りをするのだから、あまり変らないような気もするが。

「じゃあ、テツがタイガの隣でニシが俺の隣でいいかな」

「そうですね、それでいきますか」

 それぞれが、今ので決まった配置に座り、デバイスのセットやゲームない設定をし始める。

「いよいよ、本当に始まった感じがしますね」

 タイガが俺の方を向きながら言った。

 その後俺達は、普段通り、個人練習の後チーム練習をした。控室を使えるのが、20時までだったので、普段よりはかなり早い時間に切り上げる必要はあったが、質のいい練習が出来た。
 デバイスはそのままで、宿泊の荷物だけを持ち会場を出る。ホテルはすぐそばだったので、歩いて向かいその日は終わった。







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