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51話

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 運命の3マッチ目が開始した。ここで決め切れれば、俺たちの勝ちだ。しかし、負ければ流れは向こうに傾き、一気に3連勝。なんてことも十分にあり得る。
 相手チームがどんな話をしているかは分からないが、追い詰められているからって、弱気にはなっていないだろう。そこまで差が無いことは向こうが一番良く分かっているだろうから。

「タイガと俺で、先頭を行く。テツとニシは、少し離れて後ろからきてくれ」

「了解」「分かりました」

「追い詰められて、強気に来るかもしれないから、不用意にいかないようにな」

「はい!」

 注意喚起はしたものの、そう来てくれるのが、一番こちらとしては、ありがたい。今までは、上手いように、向こうの策に引っ張りこまれる形だった。しかし、焦って無理してもらえれば、こちらの思い通りの展開に持っていきやすくなる。
 さっきは上手く、偵察されたため、こちらが姿を補足する前に、陣形を取られていた。あれをやられると、こちらが初動を予想で動かないといけない。そのため、出来れば見つけられるようにしたいが、簡単に見つけてしまうと、それはそれで作戦の内では? と勘ぐってしまうため、なんとも言い難い状況だ。
 この時点で既に策に溺れているのかもしれない。

「タイガ、今回は俺から絶対に離れないで。いつでも、俺の盾で射線が切れるとこでしか戦っちゃダメだからね」

「はい! 分かりました!」

「ニシは位置バレを気にしなくていいから、後方でガンガン撃っちゃっていいよ」

「分かりました!」

 ニシにはまた、スナイパーを持ってもらっている。

「テツは、遊撃で好き勝手動いていいよ。ただ、相手陣にツッコミすぎないのと、無理してキルを取りに行かなくていいよ」

「了解!」

 俺とタイガとニシが固まって行動して、そのサポートをテツに、やってもらうことにした。この2試合を見た感じ、相手のアタッカーが自ら、果敢に前に出てくることは少ない。そのため、こちらから行かなければ、距離を詰められずらいことになる。劇的に伸びた、テツの中距離AIMを活かせすために、ちょっかいをかけまくってもらう。

「そろそろ中央ラインに着くけど、才華の姿はまだ見てませんね」

「そうだな、でも、さっきみたいに一気に来るかもしれないから気を付けて」

「了解です」

 もしかしたら、移動職を辞めてアタッカーか何かで来たか? 今回俺たちは一直線に並んでいるため、視認するのも早いはずだが。既に見つかっていて、待ち伏せされているのだろうか?

「ヴィクターさん! 敵一人視認した。多分向こうも気が付いたと思う。でも、才華じゃない!」

「了解! さっき言ったとおり、無理に倒さなくてもいいよ。あと、囲まれないように、出来る限り同じ場所に長いしないで」

「おけっす!」

 テツをタイガと間違えたのだろうか? それとも、確実にワンピック取りに来たのか? どちらにせよ、恐らく俺たちの前方は手薄だろう。

「このまま前出るよ!」

「はい!」

「テツ! お前の正面と、中央寄りの方にもう一人いる、前に出たら横から突かれぞ」

 ニシが、スナで確認してくれたようだ。テツにとっても俺達にとってもこれはありがたい情報だ。

「わっっっ!」

「大丈夫ですか!?」

 ニシの報告を聞いて、少しテツのいる方を見ていたら、正面から銃撃された。慌てて盾を構えたため、HPは半分削られただけで済んだが、危なかった。
 今のは、才華ではなかった。

「ヴィクターさん! 左!」

 タイガの声よりも先に真後ろから銃声が聞こえた。どうやら、俺のHPを削ったから、横から一気にキルを取ろうと才華が顔を出したようだ。
 今回は、さっきまではだいぶ作戦を変えてきた。機動力を活かし、自分で勝負を決めにきた。

「ニシ、俺のヒールが終わるまで、タイガと一緒に才華を追い払って!」

「はい!」

「テツ、下がってもいいから、牽制しながらこっち寄ってきて」

「おけっ!」

 恐らく、才華は自分が囲まれることを嫌がって、今いる位置から大きく動くことは、無いだろう。だったら、だけど、先に俺たちの正面の敵を倒してしまうと、また動きを変えてくるかもしれない。
 だからテツ側にいる2人を先に仕留める。それから、正面の敵、最後に才華の順番だ。

「正面のことは、いったん無視していいよ。才華の方にだけ集中して!」

「了解!」

 テツが、合流するまでは少し時間がかかる。その時間だけ稼いでくれれば、何とかなるのだが。
 その時、正面にいた敵がこちらに向かってきているのが、分かった。

「タイガ! 正面撃って!」

「え、はい!」

 タイミングが悪かった。いや違う、きちんとタイガのリロードの瞬間を狙って詰めてきたようだ。
 そのため、すぐに撃ち返すことはできずに、すぐ目の前の遮蔽物まで迫られてしまった。これで、お互いいつでもキルを取れる距離感だ。

「もう、目の前にいるからね!」

「才華ヘッショ当てた! 前やるなら今!」

 俺の報告とタイガの返答に割って入り、ニシのヘッショ報告が来た。

「ナイス! 前潰すよ!」

 どこかで何かきっかけが作れないかと思っていた矢先のことだった。才華HPは恐らくミリだ。そのため、すぐには動けない。今がチャンスだ。
 俺が盾を構えて前に出るのと同時に、タイガも俺の後ろから、大きく右に周り込んだ。相手は、自分の隠れている遮蔽物から、俺の盾が先に見えたため、つい反応して俺の盾に乱射する。しかし、その行動には何の意味も無く、その横から出てきたタイガにダウンさせられる。

「1人ダウン!」

 ニシが作ってくれたチャンスで、一気に優勢になった。そう思ったのが。

「ヴィクターさん! 横!」

 後方のニシからの報告と同時に、俺の視界にかすかに才華が映った。
 なんとも想定外だった。絶対に、ヒールを優先すると思っていたのだが、それを無視して、特攻してきたのだ。

「やばい!」

 才華が狙っているのは、タイガだということが分かった。今のタイガは銃に弾は入っていないし、才華から体は丸見えの位置にいる。
 その時俺がとっさに取った行動は、盾ではなく、俺の体で才華とタイガの間に入った。
 俺のその行動は間に合い、才華が放った全弾がんは全て、俺にヒット。俺はダウンした。

「今だ!」

 才華は弾切れの状態で、タイガのリロードは間に合った。これで、才華もダウンを取れる。
 そう思ったのだが、才華はリロードをせずに、タイガの方に銃口を向けトリガーを引いた。タイガの方が一歩遅かった。ここで俺とタイガがダウンしてしまうと、ひっくち返すのは困難になる。
 テツとニシにどう指示を出そうか、考えなければと思ったのだが。

「才華やった!」

「ナイス!」

 まさか、この状況で競り勝つとは思っていなかった。撃ちだしはおそかったものの、ヘッショを拾ったか? 

「ナイスカバーだよ! テツ!」

 どうやら、テツのフォローが入ったようだ。

「早く俺の所来てくれ!」

 テツはこちらが危ないと判断するや、目の前の二人を無視して、こちらのフォローに入ったようだ。

「すぐいく!」

「大丈夫牽制する」

 俺が特に指示を出さなくても、すかさずニシがスナイパーで牽制する。いや、既に1発当てているようだ。
 ポイント的に、才華があの段階で、マガジン付の銃を持っているのはおかしい。となると、テツ側にいる敵の一人は、まともな武器を持っていないことになる。

「一気に、押し切っちゃっていいよ! 多分武器一人しか持っていない!」

「ナイス報告!」

 テツが強気に、相手が隠れて入り遮蔽物に回り込む。多少のダメージを食らったものの3人目もダウン。

「後一人!」

「どこだ?」

 恐らくニシに、撃たれたやつが勝ち目がないと思い、逃げたようだ。
 このままでは、リスポーンされてしまうが。

「いた!」

 才華をダウンさせて、すぐに移動を開始したタイガが相手を補足する。

 VICTORY


 少し離れた距離であったが、ニシに削られた分もあり、数発当たっただけでダウンしたようだ。

 俺達の決勝進出が決定した。















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