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52話

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 実況
・激闘の末第3マッチを制したのは、ODDS&ENDS!!! これにより、決勝戦進出を決めました。 すさまじい攻防でしたが、いかがでしたか?

 解説
・両者とも最後まであきらめない素晴らしい試合でしたね



「勝っのたのか」

 準決勝を3連勝で勝ち上がった。結果だけ見れば出来過ぎなくらいなものだった。決して弱い相手ではなかった。

「よっっっしゃあ! 勝ったぞ!」

「ナイス!」

「これで決勝だ」

 今回は、3人が椅子から立ち上がり、ハイタッチなどをして喜びあっている。少し遅れて、俺もそれに参加する。

「ヴィクターさん! 決勝ですよ決勝!」

 タイガが喜びのあまり、俺に抱きつきながら言う。

「後1個だな」

「そうだぞ、タイガ。お前は勝つためにここに来たんだろ? まだ後1回残ってるのに、喜び過ぎじゃないか?」

 テツが、立ち上がった時に、すっ飛んでいってしまった、椅子を回収しながら、タイガに言う。
 そうだ。その通りなのだ。後一勝残っている。

「だけど、目標達成が目の前にやってきたら、喜ぶのも無理はないよね」

 冷静な顔をしてニシが言うが、勝った瞬間一番喜んでいたのは、ニシに見えたが。

「分かってるよ。そんなの」

 タイガが俺から離れて、椅子に座り直しながら、そう言う。それに続き、俺達も椅子に座り直す。
 撤収の準備をしないといけないから。



 実況
・今回の準決勝を通していかがだったでしょうか?

 解説
・そうですね。第一回大会ではあるものの、かなり完成度の高い、2チームだったと思います。それこそ、きちんと自分たちのチームの特色を活かして、最後まで戦ってましたね



 デバイスを回収しながら大柳さんの話が聞こえてくる。
 大柳さんの言う通り、NEO SPOTは出場チームの中でもかなり、チームの特色が出ているチームであった。才華選手を中心に最後まで、自分たちの出来ることを、個々の仕事を第一優先するチームだ。余程の努力もしてきたのは、用意に想像がつく。
 才華選手が、最後まで自分の役割に徹しところを見ると、なおさらだ。実際の所俺は、最後は一人で何とかしようと、してくると予想していた。
 最後の最後で、それは崩れてしまったが、恐ろしいほどの執念を感じた。



 実況
・両チームとも勝利の方程式のような物が完成していましたからね。視聴する側からだと、予想外なことが起きて、面白かったですけど、選手からしたら大変でしたでしょうね

 解説
・そうですね。その対応力では、ODDS&ENDSが勝っていたわけですね。



 ああやって、お茶を濁す言い方をしてくれるが、俺がもっとしっかりしていれば、もっと楽に勝てた。
 どこか、集中しきれていないところが、あったのは確かだ。俺の原因は分かっている。だけど、それを言い訳にしてはいけない。
 むしろこの3人をもっと褒めてあげるべきだ。日本一が目の前の状況で、初めての大会。ましてや、オフラインで観客もいて、顔をさらす覚悟までして、ここに来ているのだ。
 並大抵のプレッシャーではないはずなのだが、しっかりと自分の仕事に徹して、実力を出し切っている。自分のチームメンバーがなぜ、こんなにも動じないのか不思議でしょうがない。



 実況
・追い込まれはしていた物の、結果としてODDS&ENDSが3連勝で来たのは何が要因だったんでしょうか

 解説
・初動の動き自体は両者悪くなかったんですよね。強いてあげるなら。個々の実力ですかね? NEO SPOTは才華選手にチームメンバーが頼り過ぎているなと印象を感じました。だからワンテンポ行動が遅れてしまうんですよね。一方で、ODDS&ENDSは、誰が残っても、誰がやられてチームとしても強いんですよ

 実況
・なるほど。才華選手だけが脅威なのか、全員が脅威なのかって大きな差ですよもんね。しかし、それを考えると、ここまで上がってきたことの凄さが分かりますね

 解説
・そうなんですよ。あえて理由を付けるならで、ああはいったものの、一切劣ってはいなかったんです。どれも本当に僅差での戦いでNEO SPOTが勝手もおかしくない戦いでした。あきらかにチームの完成度はNEO SPOTの方が高かったですね



 俺達は退場の準備が全て整った。この後は、控室に戻り、次の試合を見て対策を練らなければな。俺たちは先に勝ち上がったから、時間にも余裕があって多少なり有利だ。反省会も十分に出来るだけの時間もある。



 実況
・それでは、選手たちの退場です。健闘した両チームに大きな拍手をお願いします



 その声と同時に会場から大きな拍手がわいてきた。俺達も立ち上がり舞台から降りなければいけないのだが、ふと観客席の方に目がいった。
 ゲームをしている最中は緊張して視界に入っていなかったが、多くの人の笑顔が見えに入る。

「楽しんでもらえたのかな?」

 俺がボソッと口にする。試合中はどうだったのだろうか? みんな盛り上がってくれただろうか? 勝った喜びと、会場の人の笑顔で、胸がいっぱいだ。
 ゲームはここまで人を熱くさせることが、出来ることを再確認できた。俺が今までやってきたことは、間違いでは無かった。きっと今までもモニターの反対側で同じように、喜びの声を上げていてくれたのだろう。

 舞台を降りる前に、大きく手を振ってから、深くお辞儀をした。






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