創造世界の道化英雄《ジェスター・ヒーロー》

帯来洞主

文字の大きさ
11 / 44
第一幕「道化の英雄」・Hero de Jester・

第03話「契りの詠唱」2/3

しおりを挟む

「シロ……!良かった……また会えた……!!」

 再びシロに会えたことに、感極まる創伍。
 偶然ではない。道化師としての宿命が、二人を巡り会わせたのだ。

「ありがとう創伍。きっと来るって信じていたよ」
「ごめん……。俺、頑張ったつもりなんだけど……何も出来なくて……」
「大丈夫。私がいるから、もう怖がらないで――」

 喜び合う二人を他所に、マンティスはシロの出現に驚きを隠せなかった。

「ワイルド・ジョーカー……! 貴様、守凱達ニ追ワレテイナガラ、今更ココヘ何シニ来タ!?」
「ダメだよ、ヒュー・マンティス。創伍は英雄になる存在。キミなんかに殺されるような器じゃない」
「貴様……何ガ言イタイ!? マサカ……コノ真城ト『主従ノ契約』ヲ交ワス気カッ!!」
「うん♪ 私の血を創伍にあげるんだ。少なくともキミにはあるじになる器が無いから、そんなに驚かれても困るけど」
「フ……フザケルナァァァァッ!!」

 シロの挑発めいた発言よりも、彼女の意向に対してマンティスは強い怒りを表す。

「『未知』ト『無限大』トイウ絶大ナ能力ヲ秘メタ貴様ノ血ヲ得ルタメニ、今日マデドレホドノ苦労ヲ費ヤシタト思ッテイル!! オ前ヲ圧倒シタ俺ヨリモ……コノガキヲ選ブトイウノカ!?」
「私にとっての英雄は、生まれた時からただ一人……創伍なんだ。だから創伍は、キミなんかに負けもしない」
「ホウ…………ダッタラ試シテミルカアアアアァァァァ!?」

 殺せるものなら殺してみろという裏返しが、手を止めていたマンティスに拍車をかける。
 対する創伍は、振り翳された刃を前に切り抜ける術も思い浮かんでいない。

「し、シロ?! 負けないったって、俺はどうすりゃいいんだ!?」
「大丈夫だよ――創伍は死なないから♪」
「その自信はどっから来てるんだああぁぁっ!?!?」

「死ィネヤラァアァァァッ!!」

 創伍の危機にシロは動じない。何故なら動かずとも創伍は助かると知っていたからだ。

「――ェゴォォオ!?」

 絶妙なタイミングでマンティスの顔に強烈な飛び蹴りが直撃。弾丸以上の速さで叩き込まれたその威力は、マンティスを出店のショーウィンドウに突っ込ませる。俊敏さを備えたマンティスですら回避できなかった一撃――それはによるものであった。

「ワイルド・ジョーカー、俺がマンティスを阻むと知ってて動かなかったのか?」
「何のこと? 私知らないよー」
「可愛げのない……」

「守凱! ワイルド・ジョーカーは!?」

 守凱とアイナの二人組だ。彼らも二人を保護しなくてはならないため、マンティスの手を阻みに来たのだ。

「アイナ……どうやら真城の奴、キミの記憶抹消の術を破ったようだぞ。後片付けを見落としたな」
「そんな! ご、ごめんなさい――」
「過ぎた事はもういい。キミはワイルド・ジョーカーを拘束してから真城を治療し、また記憶を消してくれ。あの害虫は俺が相手する」
「分かったわ」

 そう言って守凱はマンティスの元へと向かい、アイナは懐から一枚のカードを取り出して印を結び始める。

「嫌だよ。私は絶対に捕まるつもりはない」
「あなたがどう言おうと、これは私達と創伍の為にやらなければいけないことなの」
「他の道がきっと有るはずだよ。今のあなたも、きっとそれを望んでいる」
「…………」

 シロが語り掛ける言葉に戸惑いながら、アイナは印を結び詠唱を開始するのであった。

「――吊るされし者よ。樹木に囲まれ、儀礼として縛られた汝の苦しみを解いて差し上げたい」

 その詠唱は誰かの苦しみを和らいであげたいという献身。縛り上げられたその苦痛から霊魂を解放することで、唱えることが許される。

「故に私の望みを、貴方も望んで欲しい。その呪縛を力に変えて、彼の者に拘束を与えたまへ」

 霊魂は望んで吊るされており、受け入れてもいる。しかし解放されるならば、術者の望みを叶えなくてはならない。それは術者の敵に対して、苦痛を共有させるというものだ。そしてその願いは受け入れられ、アイナが翳したカードから、結界の輪が幾重にも浮き出てくる。

「アップライト・ハングドマン――抑制!」

 その輪は謂わば他者を捕らえる錠となり、シロを目掛けて飛来してきた。

「どうしてもその道を渡るんだね……」

 シロはそれ以上諭すのを諦め、創伍を巻き込まないようビルの屋上へと跳躍し、結界の輪を容易く回避していく。捕らえ損ねた輪は電柱やビルの壁を砕き、容赦なくシロを捕縛せんと絶えず襲い掛かる。

「やめろ!……やめてくれ! アイナぁ!」

「……ごめんなさい。後はあなた次第と言ったけれど、やっぱりあなたが苦しむような道を歩ませたくはない」

 アイナを止めたくても、重傷の創伍はただ叫ぶことしか出来ない。その彼の悲痛な叫びも、シロを捕らえ損ねた結界が砕ける音により掻き消されるのであった。


 * * *


 一方、守凱は閑散とした暗い出店の中で無様に蠢くマンティスと向かい合う。

「ゲェェファ……! ゴアァフ……!」
「立て、マンティス」
「守凱……時勢ガ読メテイナイゾ……! 元々貴様ハ、ダロウ! 今コソ人間達ヲ皆殺シニスル好機ナンダゾ!?」

 細い足を床につけて立ち上がったマンティスは、自らの理を通さんとする。

「何故人間ヲ守ル? 俺達ヲ創造世界トイウ肥溜メニ産ミ落トシ、タダノウノウト生キルダケシカ能ノ無イ虫ケラ共ニ、ソレホドノ価値ガアルノカ!?」
「………………」
「無イカラコソ、道化ハ予言ノ日ヲ選ンデ現レタンダロ! アイツコソ『』ノ再来! 今コソ全世界ガ混沌ニ塗リ替エラレ、ヨウヤク俺達ノ理想郷ヲ創ルコトガデキルノダ!!」

 彼らが住む創造世界は、人間の想像力によって営まれる裏世界。人間が存在する限り生命は生まれ続けるため、己こそが最強と自負する一部の作品達には、いつか自らの脅威になりうる存在が現れることを恐れているのだ。

 しかし、同じ世界に住まう守凱にとっては関係のないことだった。

「下らないな。たかが落書きに触発された貴様らが、時勢だのどうだのと……面白いことを言う」
「ナ、何ダト!?」
「俺は自分の意思で人間を守るつもりはない。ただお前達と、お前達を突き動かしているを――潰すだけだ」
「ググググッ……!!」

 相容れない――殺すべき敵であると認識したマンティスは、迷うことなく武器を繰り出す。両手首から飛び出したのは、一メートル程の仕込み刀。血に濡れながらも銀色に光る刃は、ある意味蟷螂の習性を体現している。

「シィッ――!」

 マンティスが縦横無尽の剣戟けんげきを振るう。常人ではまず回避できないその強襲を、守凱は長い髪一本すら切らせず蝶の如く舞ってかわしていき、隙を見つけ出す。

「はぁっ――!」
「グフッ?!」

 その僅かな隙の間で構えて放つは、闘気と力を右手に集約させて鳩尾に放つ渾身の掌打。物理法則を無視したその一撃により、マンティスの全身には振動と衝撃が与えられ、いくつものビルの壁を貫いて遥か彼方へと打ち飛ばす。

「……お前の言う通り世界は大きく変わるだろう。だが世界がどう変わっていこうと、お前達の理想郷が創られる時など永遠に訪れはしない」

 守凱は、電気街から消え去ったマンティスに言葉を残し、その場を後にした。


 * * *
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

処理中です...