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第二幕「世界の眼」・World Eyes

行間04「忍び寄る魔の手」

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 PM18:54 都内 高速道路上

「……クソっ!!」

 車を飛ばして警察署へ戻る道中、苛立つ真坂部の貧乏揺すりは止まることを知らなかった。

「先輩落ち着いてください……」
「落ち着けだ? じゃあお前は説明出来るのか。エレベーターに乗った少年達が煙の様に消えたんだぞ。どうしたらあんな事が起きる!?」

 車を運転する舘上も、真坂部の気持ちは重々理解している。彼も同じ現場に居合わせていたのだから。

「きっと悪い夢ですよ。僕らここ最近捜査詰めでしたし、疲れてたんじゃないですかね」
「そんなんで片付けられるか! 寝呆けてなんかない。きっとアイツは、今回の事件に関わっているんだ!」
「……その根拠は?」
「刑事の勘だっ!」

 それでも真坂部は諦めなかった。あの少年は何か知っている――そうでなければ、あんな意味深な台詞は言わなかったはずだ。

『俺は人間を誰も殺してない――それだけです』

 人間でなければ殺すのか? という素朴な疑問が、彼の頭を離れないのだ。

 「とにかくあの少年については、俺達だけで捜査する。上部うえには報告不要だからな」
「えぇぇ……まぁいいですよ。どうせ言っても信じてもらえそうにないですし」
「まずは署に戻って、あの少年のことをもっと調べ上げるぞ」

 真相への執念を駈り立てるように、車はスピードを上げて警察署へと急ぐのであった。

 しかし――

「ちょっと待て」

 真坂部が違和感を感じ取った。

「……どうしました? 先輩」
「…………」

 徐に車内のバックミラーを動かす真坂部。自分達の車から約二十メートル後方に、が鏡に映っていたのだ。

「何だ……アレは……」

 現れたのは一台の四輪バギー。黒と炎柄のカラーデザインと、フロントに「夜露死苦よろしく」と描かれた派手な車体。このご時世にはあまり見ない――悪く言うなら時代遅れな車が、騒がしくエンジンを唸らせて真坂部達の後に続いていた。

 それよりも妙な違和感を覚えるのは、塔乗者――先端が鳥のくちばしの如く尖ったヘルメット。銀の装飾を飾ったコートやブーツまで全て漆黒に染まっており、至る所に黒羽を纏う――まるでカラスを模したようなその人物は、ハンドルすら握ることなく悠々と脚を組んで座していた。

 他に走行車が走ってないため、一層目立つその奇妙な光景は、真坂部にある種の恐怖と予感を沸き立たせたのだ。

「っ!!」

 自分達を襲うのではないか――そう予感した時には、バッグミラー越しに映る搭乗者の懐から筒状の何かが取り出される。

 ――拳銃だ。

「伏せろっ!!」

 真坂部が叫ぶと同時、車内の窓ガラスはバックミラー共々轟音により砕け散る。

 けたたましい車のブレーキ音と拳銃の号砲が入り混じり、高架上は現実から隔離された地獄への一本道へと変貌した……。


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