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天界を構成する東、西、南、北の4つの国の内の1つである東の国は、妖精が飛び交い、花と緑が象徴的な風光明媚な国である。農業や畜産業が盛んで、天界のシンボルでもある天界樹を擁している。
西の国は工業、南の国は軍事、北の国は医薬で繁栄しており、お互いが干渉しないようにと国ごとにきっちりと役割分担されていた。
それぞれは国として独立してはいるが、便宜上『国』となっているだけで、実質は神仙の世界である天界を支える機関と言っても差し支えない。
そんな中で東の国は代々女系女神が誕生し、国を豊かに繁栄させてきた。
つい先日まではアーレイの母である第32代の大地の女神が君臨していたが、娘であるアーレイが第33代の大地の女神となった。ちなみに、アーレイの母は東の国の王妃、父は国王でもある。
大地の女神は、大地を操り、蘇らせ、人々の感情を操ることが出来る。天界樹に唯一入ることを許された神。大地の女神が滅びると、天界が滅びると言われている。
そのため大地の女神はこの天界で最高の神仙であり、その能力と美貌で絶対的な存在であった。
そんな誰もが羨む家系に生まれながら、アーレイは今、東の国の王宮の外れにある洗濯場にいる。
「今日は絶好の洗濯日和っ!やるぞー」
朝の陽射しが心地よい。その太陽の眩しさで子鹿のように愛くるしい瞳を狭める。
長い艶のある黒髪を丁寧にまとめ、作業着姿で自分専用のたらいと桜の木で作られた洗濯板を使って自らの衣服を洗濯していた。
(あ~!今日のこのスカートの汚れも落としがいがあるなぁ~!)
楽しすぎて自然と溢れる笑みを浮かべながら洗濯板の上の衣類を洗っていく。
実は先日、数名の洗濯係から女神の姿があると仕事に影響が出ると申し出があった、と侍女長からお小言を言われ、協議の結果洗濯場の片隅に衝立てを作りアーレイ専用の洗濯場を作ることになったのだった。今はそこでひっそり作業中だ。
(まあ、確かに洗濯係の立場からすれば、常に上役がいる中で洗濯したくないよね。)
アーレイは、丁寧に衣類を洗濯板に擦り付けては擦る作業を行った。かなり熟練の手つきである。
小さい頃から掃除と洗濯が大好きだった。
目に見えてすぐに「汚れが落ちる」と言う結果が好きだった。透明な水が洗濯物の汚れを含んで濁った土色になるのが堪らなく快感であり、妙な達成感があるのだ。
成長するにつれ洗濯や掃除を無心で行うと癒される自分がいた。何より、考えごとや頭を整理するにも格好の時間だった。
以前は洗濯場にたびたびこもる王女(女神でもあるけど!)である自分を心配した母や兄が王女らしくない、とことあるごとに責めたが今は諦めたのか見てみぬふりをしてくれるようになった。
洗濯係とも仲良くやっているつもりだし(先日はちょっと横槍があったけど)、何より現場の声がちょこちょこ耳に入るのが気に入っている。
三枚目の衣類に手を伸ばした時に、霊伝が入ってきた。護衛のリュウイだ。
霊伝は、天界に住み霊力が使える者同士で使う会話術。相手ごとに固有の周波数を使い離れた場所にいる者同士が会話出来る便利な術だ。
「リュウイ、また悪い知らせみたいね。」
リュウイの少し震えた声をアーレイは聞き逃さなかった。感情を拾うこともアーレイの能力の1つだ。
(まあ、お母様は誰がどんな感情を持ってるか、とかまで詳細に分かるから私なんてまだまだ修行が足りなのだけど……)
母であり、長年修行に勤しむ先代女神をふと思う。
「アーレイ様。実はまた疫病が発生したとの連絡が入りました」
アーレイの専属護衛であり、東の国の機関の1つである『緑の盾』を束ねるリュウイ。緑の盾は数万年前に災害復旧のために作られたと言われており、現地調査、救護、復旧、諜報活動などいくつもの部門があった。
「今年に入ってから四箇所目ね。今回もやっぱり?」
「はい、やはり――――」
リュウイは、すぐさまアーレイが言わんとすることを理解した。
--やはり。
東の国の心臓部である天界樹の近くで発生した、ということ。本来ならばあまり発生することのない疫病が短期間に、特定の場所ばかりで発生することに意図的なものを感じざるおえなかった。
リュウイに次の指示を出そうとしたその瞬間、誰かに肩を叩かれた。
「アーレイ様」
振り返ると、専属侍女のミルラがいた。
母の遠縁であるミルラとリュウイは実の兄妹で、アーレイと共に育った家族のような存在だ。
アーレイは、頭を右手の人差し指で指指した。霊伝中、と察したミルラが「兄ですか」とささやく。
アーレイが頷くとミルラが直ぐに霊伝に加わった。
「アーレイ様。天界から大至急の要件です。今すぐ天堂に、と」
ミルラが矢継ぎ早に告げだ。
(ふぅ。天界かぁ。)
アーレイは呼び出しの内容をあれこれ考えてみる。
「ありがとう、ミルラ。じゃあ、私はすぐに天堂に向かうから、リュウイは過去見と現場を記録保存できる人を派遣して。何か報告がきたら連絡ちょうだい。急ぎの決裁はお母様に。あと、悪いけどミルラ。お父様とお母様にも天界に行くことを伝えて。あと――」
アーレイは、ミルラに両手を使いごめんなさい、の仕草をした。ミルラは毎度のことか、と言わんばかりに頷く。
「洗濯の続き、よろしく!」
アーレイはそう告げると、急ぎ天界に向かった。
西の国は工業、南の国は軍事、北の国は医薬で繁栄しており、お互いが干渉しないようにと国ごとにきっちりと役割分担されていた。
それぞれは国として独立してはいるが、便宜上『国』となっているだけで、実質は神仙の世界である天界を支える機関と言っても差し支えない。
そんな中で東の国は代々女系女神が誕生し、国を豊かに繁栄させてきた。
つい先日まではアーレイの母である第32代の大地の女神が君臨していたが、娘であるアーレイが第33代の大地の女神となった。ちなみに、アーレイの母は東の国の王妃、父は国王でもある。
大地の女神は、大地を操り、蘇らせ、人々の感情を操ることが出来る。天界樹に唯一入ることを許された神。大地の女神が滅びると、天界が滅びると言われている。
そのため大地の女神はこの天界で最高の神仙であり、その能力と美貌で絶対的な存在であった。
そんな誰もが羨む家系に生まれながら、アーレイは今、東の国の王宮の外れにある洗濯場にいる。
「今日は絶好の洗濯日和っ!やるぞー」
朝の陽射しが心地よい。その太陽の眩しさで子鹿のように愛くるしい瞳を狭める。
長い艶のある黒髪を丁寧にまとめ、作業着姿で自分専用のたらいと桜の木で作られた洗濯板を使って自らの衣服を洗濯していた。
(あ~!今日のこのスカートの汚れも落としがいがあるなぁ~!)
楽しすぎて自然と溢れる笑みを浮かべながら洗濯板の上の衣類を洗っていく。
実は先日、数名の洗濯係から女神の姿があると仕事に影響が出ると申し出があった、と侍女長からお小言を言われ、協議の結果洗濯場の片隅に衝立てを作りアーレイ専用の洗濯場を作ることになったのだった。今はそこでひっそり作業中だ。
(まあ、確かに洗濯係の立場からすれば、常に上役がいる中で洗濯したくないよね。)
アーレイは、丁寧に衣類を洗濯板に擦り付けては擦る作業を行った。かなり熟練の手つきである。
小さい頃から掃除と洗濯が大好きだった。
目に見えてすぐに「汚れが落ちる」と言う結果が好きだった。透明な水が洗濯物の汚れを含んで濁った土色になるのが堪らなく快感であり、妙な達成感があるのだ。
成長するにつれ洗濯や掃除を無心で行うと癒される自分がいた。何より、考えごとや頭を整理するにも格好の時間だった。
以前は洗濯場にたびたびこもる王女(女神でもあるけど!)である自分を心配した母や兄が王女らしくない、とことあるごとに責めたが今は諦めたのか見てみぬふりをしてくれるようになった。
洗濯係とも仲良くやっているつもりだし(先日はちょっと横槍があったけど)、何より現場の声がちょこちょこ耳に入るのが気に入っている。
三枚目の衣類に手を伸ばした時に、霊伝が入ってきた。護衛のリュウイだ。
霊伝は、天界に住み霊力が使える者同士で使う会話術。相手ごとに固有の周波数を使い離れた場所にいる者同士が会話出来る便利な術だ。
「リュウイ、また悪い知らせみたいね。」
リュウイの少し震えた声をアーレイは聞き逃さなかった。感情を拾うこともアーレイの能力の1つだ。
(まあ、お母様は誰がどんな感情を持ってるか、とかまで詳細に分かるから私なんてまだまだ修行が足りなのだけど……)
母であり、長年修行に勤しむ先代女神をふと思う。
「アーレイ様。実はまた疫病が発生したとの連絡が入りました」
アーレイの専属護衛であり、東の国の機関の1つである『緑の盾』を束ねるリュウイ。緑の盾は数万年前に災害復旧のために作られたと言われており、現地調査、救護、復旧、諜報活動などいくつもの部門があった。
「今年に入ってから四箇所目ね。今回もやっぱり?」
「はい、やはり――――」
リュウイは、すぐさまアーレイが言わんとすることを理解した。
--やはり。
東の国の心臓部である天界樹の近くで発生した、ということ。本来ならばあまり発生することのない疫病が短期間に、特定の場所ばかりで発生することに意図的なものを感じざるおえなかった。
リュウイに次の指示を出そうとしたその瞬間、誰かに肩を叩かれた。
「アーレイ様」
振り返ると、専属侍女のミルラがいた。
母の遠縁であるミルラとリュウイは実の兄妹で、アーレイと共に育った家族のような存在だ。
アーレイは、頭を右手の人差し指で指指した。霊伝中、と察したミルラが「兄ですか」とささやく。
アーレイが頷くとミルラが直ぐに霊伝に加わった。
「アーレイ様。天界から大至急の要件です。今すぐ天堂に、と」
ミルラが矢継ぎ早に告げだ。
(ふぅ。天界かぁ。)
アーレイは呼び出しの内容をあれこれ考えてみる。
「ありがとう、ミルラ。じゃあ、私はすぐに天堂に向かうから、リュウイは過去見と現場を記録保存できる人を派遣して。何か報告がきたら連絡ちょうだい。急ぎの決裁はお母様に。あと、悪いけどミルラ。お父様とお母様にも天界に行くことを伝えて。あと――」
アーレイは、ミルラに両手を使いごめんなさい、の仕草をした。ミルラは毎度のことか、と言わんばかりに頷く。
「洗濯の続き、よろしく!」
アーレイはそう告げると、急ぎ天界に向かった。
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