『相川蓮翔』

くろだ

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9月24日 木曜日

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たった三日間休みが続いただけなのに、校門をくぐるとずいぶん久しぶりに来た気がした。
景色も校舎も、通りすがる生徒の声も――いつも通りの学校。
けれど、自分だけが違う場所に立っているような、そんな感覚が拭えなかった。

自転車を停めて下駄箱に向かうと、前方に雄星と颯介の姿が見える。
声をかけようと一歩踏み出しかけて、足が止まった。
――……あの二人は、いつ「好きだ」って気づいたんだろ。気づいて、どうしたんだろ。
 
胸の奥がざわつく。三日間考え続けてきたことが、まだ消えていない。

そのとき――ドンッ!

背中に衝撃が走り、思わずよろけた。
「ごめん!」
振り返る間もなく、謝りながら走り去っていく生徒の背中。

「……蓮翔!」

その声に反応した颯介がこちらを振り向き、手を大きく振ってくれる。
雄星も気づいたようで、すぐに笑顔を見せる。
胸の奥のもやもやは消えないけど――僕は思わず、小さく手を振り返して走って近づいた。

「お、おはよう」
「はよー。……大丈夫か?顔赤いぞ」

覗き込んでくる雄星の視線に、慌てて首を振る。
 
「だ、大丈夫!元気!」

心臓がまだ落ち着かないまま、笑顔を作った。
 
「元気って……お前、無理してね?」
 
颯介が眉をひそめて僕を見てくる。

「ほんとに大丈夫だってば」
 
慌てて笑うと、雄星がにやっと口角を上げる。

「なら、よかったよ」
「無理すんなよ」

2人のやり取りにつられて、思わず笑い声が漏れる。
――ああ、こういうの、ずっと前から変わらない。

「ほら、さっさと教室行かねーと遅刻する」
 
雄星に背中を叩かれ、雄星が颯介に「走るなよ、また転ぶぞ」って突っ込まれる。

そんなやり取りをしながら教室に入ると、ざわざわとした声、黒板に残る先生の字、机の匂い――全部「いつもの学校」だ。
――大丈夫、いつも通りだよね

教室に入って、友達と話して、授業を受けて。
――普通に過ごすはずなのに、どうやって学校でやってきたんだっけ……?

お昼休み、購買に行く雄星と颯介について行く。
廊下の先で、香山さんと並んで歩く明くんが見えた。
香山さんがいて、軽く笑いながら明くんに話しかけている。
自然に、当たり前みたいに。
その光景を見ているだけで、心臓がぎゅっと縮む。
――いいな……僕にはできない。
――どうしたら隣にいられるんだろう。
――会いたかったけど、会いたくなかったな。

そんなことを考えていたら、頭の中がぐるぐるしすぎて、足がもつれた。
 
「わっ……!」
 
体が前に傾いた瞬間、横から腕を支えられる。

「おい、危ねえだろ」

顔を上げると雄星がいて、真剣な目で僕を見ていた。
その目を見て、僕は慌てて笑ってごまかす。

「ご、ごめん……考えごと……してて」

――ダメだ。考えすぎてる。
切り替えないと。

拳を軽く握りしめて、自分に言い聞かせる。
だけど、胸の奥に渦巻く気持ちは、簡単には消えてくれなかった。

結局、放課後も同じことをぐるぐる考えていた。
自転車を押して歩いていても、頭から離れないのは明くんの顔と……あのとき耳に残った香山さんの声。
――「似合わない」って……やっぱりそうなのかな。
昨日、猫の前で「好き」だって認めたのに。
今度はその気持ちをどうしたらいいのかわからない。

胸がじくじく痛む。
明くんに会いたい。けど、会いたくないのかもしれない。

悩みが出口を見つけられず、ただぐるぐると同じところを回っていく。
気づけば、もう家の前に立っていた。
重たい「好き」だけを抱えたまま。
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