おっさんが願うもの 〜異世界行ったらイケメンに大切にされ、溺愛され、聖女と呼ばれ、陰謀に巻き込まれ。それでも幸せ目指して真面目に頑張ります〜

猫の手

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異世界へ 〜襲撃〜

16.おっさん、目が覚める

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 うっすらと目を開けて、周囲の明るさに夜が明けていると気づく。だが、ふわふわと暖かく、ゆりかごに乗っているような心地よい揺れに、もう少しこのままでいたいと、目を閉じた。

 気持ちいい…

 規則的に上下に揺れる心地よさ。そしてトクントクンと聞こえる鼓動の音と、いい匂いにずっとまどろんでいたくなる。

 ロイの匂いだ

 すぐに何の匂いか気付いた。
 ロイから発せられる匂いにはすごく安心する。

 ロイ…

 ロイのことを考え、次第にその記憶が鮮明になってくる。
 目の前で、俺を助けるために自ら腕を引き千切ろうとした姿をハッキリと思い出し、パチっと目を開けた。そのままの勢いで体を起こして顔を上げる。
「ゲヘ!」
 ゴチンと自分の頭頂部あたりに衝撃があり、変な声が聞こえた。
 俺はロイの膝の上で横抱きにされ、その胸に頭を預けて眠っていたらしく、いきなり起き上がったせいで間近にあったロイの顎に頭突きしてしまった。
 頭をさすりつつ横を見ると、顎を撫でるロイの顔を見つける。
「ロイ!」
 その姿を認め、慌てて木にもたれて座っていたロイの膝の上に跨ると、その腕、背中をいろんな角度から見て、触って、怪我の有無を確かめる。
「…怪我して、ない」
 最後にロイの顔を両手で挟んでマジマジと見つめる。
 顔色はいい。灰色の瞳もいつも通り。綺麗な顔に傷は、ついてない。
「ハアァァ…良かったー…」
 手を離すと一気に脱力してロイの肩に両手をつき安堵のため息を吐く。
「心配した?」
「当たり前だろうが!あんな!自分で腕を引き千切ろう…なんて…」
 言葉の勢いが徐々になくなり、ゴニョゴニョと言い淀む。
 その時の状況を思い出したからだ。
 裸にひん剥かれて、レイプされかかった状況を。ロイに全て見られていたことを思い出し、全身に火がついたように真っ赤になる。穴があったら入りたいとはこのことだ。
「大丈夫だよ。それよりも」
 ロイが優しく微笑むと、俺の腰に腕を回して、ぐいっと引き寄せられる。
「ショーヘーが無事で良かった」
 怖いくらいに綺麗な笑顔に、ボンッと音が立ちそうな勢いで赤面する。
「ショーヘー…」
 頭を引き寄せられ、だんだんと近づく顔に、あ、キスされる、と思ったが、抵抗する気も起きなかった。
「ん…」
 ゆっくりと唇が重なり、目を閉じる。長めの重ねるだけのキスから、ロイが俺の唇を舐めたのを合図に、舌を絡ませ合うキスへ変わる。
「ん…ん…」
 熱いロイの舌に絡めとられ、俺も同じように絡める。ハッキリと気持ちいいと感じた。
 やがてゆっくりと余韻を残して離れると、

「ゴホン」

 背後から咳払いが聞こえた。
 驚いて振り返ると、顔を真っ赤にした大男と、ニヤニヤと笑っているメガネの男が立っていた。
「!!!!!」
「あー、なんだ…目が覚めたみたいで良かったな」
 大男がものすごく照れながら、頭をポリポリと掻きながら言う。

 いつから!?
 いつからここにいた!?
 どこから見てた!?

 涙目になりながら、恥ずかしくて恥ずかしくて口がワナワナと震える。
「あ、大丈夫ですよ。濃厚なキスシーンなんて見てませんから」
 含み笑いしながらメガネの男が言う。

 全部見てんじゃねーか!!!

 と心の中で突っ込んだ。




 

「すみません、揶揄うつもりはなかったんですけど」
 メガネの男がお茶を差し出してくる。一応申し訳なさそうにはしているが、今にも笑い出しそうであった。
 メガネの男は、そう、ゲームで言う神官のような格好をしていた。中はわからないが、ロマが着ていたような足首まである長いローブを着ている。
 方やもう一方の大男は完全な鎧ではないが、頑丈そうな胸当てに肩当て。皮でできているであろう、椀甲をつけていた。特筆すべきはその大男の後ろにある大きな盾。俺が2人軽く入るようなかなり大きな盾だ。

 ファンタジーだぁ

 その出立ちだけでも、ファンタジー好きやゲーマーには堪らないだろうな、と思う。
 詳しくは知らない俺でも若干興奮を覚える。

「それじゃあ、改めて自己紹介しましょうか」
 メガネの男が言うと、大男が俺を見てニカっと笑う。
「俺はグレイ。この国の獣士団第二部隊長だ。よろしくな」
 手を差し出され、握手を求めてきたので、その手を握り返す。
 かなりデカい手だった。俺の手が子供の手に見える。
「こいつは熊の獣人。オーガも混ざってるから、やたらデカいし馬鹿力で困る」
 ロイが補足説明を入れる。
 ああ、どうりで。座っているがかなりデカい。立ったら250センチはありそうだ。筋肉がすごくて上腕二頭筋は俺のウエストの2倍はありそうな太さだ。まるで壁のようだと思った。
 だがそんな体型に反比例するように、いかついが穏やかで優しい表情をしている。
 森のくまさん、という印象を持った。
「私はディーゼル・サンドラーク。人族です。魔導士団副団長をしています。どうぞディーと呼んでください」
 逆にメガネの男は普通サイズだった。俺よりも少し背が高いだけで、俺と似たような体型だと思う。脱いだらすごいのかもしれないが。
 俺と違うのは、彼もロイのような美しいと言えるイケメンであることだ。切れ長の目元にある細目のメガネが、インテリの印象を受ける。
 光り輝くような長い銀髪を綺麗に纏めたポニーテールで、男なのに全然嫌味じゃない。むしろ似合っている。美形はどんな髪型にしても似合うらしい。
「こいつは腹黒ムッツリスケベ」
 ロイの補足説明にお茶を噴き出した。ディーの眉がピクリと動く。
 と、ここで気づく。

 苗字?
 サンドラークってどこかで聞いたような。

「この国の第3王子様な」
 思い出した。地図にサンドラーク公国って書いてあった。
「よろしくお願いしますね。ショーヘイさん」
 静かにかつ上品に俺に近づくと、片膝をついて右手を取られ、その甲にチュッとキスをされた。そんな挨拶の仕方に呆気に取られてしまう。こういう挨拶って普通は御令嬢とかにするものではないのか。
「王子妃の席はまだ空いていますので、よろしければ」
「ディー!てめ!」
 ロイがガーっと牙を剥き出したが、ああ、さっきの補足説明の仕返しだとすぐに気付いて笑った。
「島田翔平です。まだ全然この世界のことがわからなくて…どうぞご指導ご鞭撻よろしくお願いします」
 正座してペコリと頭を下げた。ついついサラリーマン時代の癖が出てしまう。
 2人はそんな俺にかなり好感度を上げたようで、ニコニコと微笑んでいた。


 話を聞くと、俺は半日以上眠っていたらしい。外はすっかり日が昇り、時刻は午後2時を過ぎた頃だった。
 俺が魔力を暴走させてしまい、対処しきれなくなったスペンサーが逃げ去ったこと。
 ロイの怪我はメガネの男がヒールという治癒魔法で治療したこと。
 暴走後に俺は懇々と眠り続けていたこと。
 襲撃から今までの経過を聞いた。
「体調はどうですか? どこか痛かったり気持ちが悪いとか、ありませんか?」
「まだちょっと体がダルいかな…」
 そう答えると、
「まだ横になっててください」
 そう言われて、遠慮なくそうさせてもらう事にした。こういう時は無闇に虚勢をはらずに素直になることにする。後から状態が悪くなって後悔した経験が多いからだ。
「それにしても、あの魔力暴走にはビビったぜ…」
 グレイが大袈裟にその光の柱の大きさや高さを身振り手振りで説明してくる。
「確かに。私もあんな暴走は初めて見ましたよ。本当によく無事でした」
 自分にはよくわからないが、そんなにすごい現象だったんだろうか。
 寝転がりながら、頭の方で座って俺の頭を撫でてきたロイへ視線を送り、??という顔をする。
「魔力暴走ってのは、自分の魔力を制御出来なくて出しっぱなしの状態のことだ」
 言葉にしなくても、ロイは俺がわかっていないと伝わったようで、教えてくれた。
「早めに暴走を止めないと、死んでしまうんです」
「相当な魔力量だぞ。俺があの量を放出したら1分持たずに死ぬだろうな」
「ショーヘイさん、魔力はどのくらいあるんですか?」
「…へ?」
 そう聞かれて、変な声を上げた。
「え?」
 ディーとグレイが同時に声を出す。
「計測してないんですか!?」
 ディーが信じられないと言いたげにロイを見る。
「あー…してないな。同調させるスクロールは使ったけど、鑑定のは使ってねー」
 ロイが思い出したように言った。
 同調スクロールと聞いて、言葉がわかるようなった時の羊皮紙を思い出す。
「どうして。ロマ様も鑑定スクロール持っていたはずでしょう」
「あー…あれね。ロマが鍋敷がわりにしてスープひっくり返して駄目にしたわ…」
「な…」
 ディーが呆然とする。
「あのスクロールが一体いくらすると思ってんですか!それを鍋敷に…!?」
「ロマに黙ってろって言われたんだった」
 ロイがテヘペロみたいな表情をする。
「…あのババァ…貴重品をなんだと…」
 ディーが舌打ちし、ボソッと本音を漏らした。
 その後の話から、俺の魔力量は相当なものらしく、とにかく珍しいんだと教えられた。



 夜になり、2人が持っていた食材と、ロイが獲ってきたウサギのような動物を使ってキャンプ飯となる。
 食事しながら、現在の状況を聞いた。もっぱら説明してくれるのはディーだ。

 まずは各地の転移魔法陣が破壊されたこと。
 ジュノーの存在が広範囲に知れ渡ったのは確実で、これからどんどん刺客の手が伸びてくるだろうこと。
 国内だけでなく、国外からもジュノーを奪うために何かしらの行動を起こしてくること。
 一刻も早く翔平を王都へ連れて行き、翔平がサンドラーク公国のジュノーであること、要人であると国内外に知らしめる必要があること。翔平を襲う、奪うということは、サンドラーク公国を敵に回すという意味になるそうだ。

 要約するとこんな感じだ。
 まさか俺が国家の要人レベルだとは、そこまで考えていなかった。ロマが言っていた保護するって、そう言うことか。と改めて認識の甘さを自覚した。

「王都への道筋ですが、転移魔法陣を使えない今、まだ無事な魔法陣のある領地へ向かうか、諦めて王都へ直行するか、ということになるんですが」
「まだ無事な魔法陣は、一番近くてどこだ?」
「ディアス男爵領ですね。ここから2週間ほどです。ただ、現時点で無事かどうかは確認出来ていません」
「確認出来るか?」
「そう思って、今朝方、伝達魔鳥を飛ばしました。明日の朝には戻ってくると思います」
「そうか」
 ロイはそう言うと少し黙り込んだ。食べるのもやめて、真剣に何かを考え始める。
 ロイとディーの会話を聞いていて、上司と部下の関係のようだと思った。さらにディーはかなり優秀な部下だと。
「もし、俺がジュノーを狙う側なら」
 少しの沈黙の後、ロイが話し始める。
「俺もまずは転移魔法陣は破壊する。ジュノーが王都に着くまでに奪取する必要があるしな。
 スペンサーの行動と同じなのがムカつくが。
 加えて、見つけた伝達魔鳥たちも手当たり次第に殺す。王都はもちろん領地、街、村、全ての情報網を遮断する」
 ディーが頷く。
「そして、正確な状況を掴めないようにした上で、偽の情報を流す」
「無事な転移魔法陣の情報ですね」
「ああ」
 そしてまたしばらく考え込み始めた。
 いつになく真剣なロイの表情にドキッとする。まるで軍事会議のような緊張感が漂う。
「よし。決めた」
 考え込んでいたロイが、ポンと膝を叩いて顔を上げる。
「王都へ向かう。だが直行はしない。さらにこっちからも情報を流すぞ」
「なるほど」
 ロイの言葉を理解したのはディーだけだった。
「ありとあらゆる偽の情報を流す。
 ショーヘーの容姿、行き先、同行者、生存情報、考えうるもの全てだ」
 なるほど、と思った。
 嘘の情報をどんどん重ねて、敵側も混乱させると。考えてみれば、スペンサーだって、ロイが守っているという状況判断から俺がジュノーだと思ったんだろう。まだ俺の容姿がバレていないと判断できる。
「んでぇ~」
 ロイがニヤニヤしながら言葉を続ける。
「俺らはこれから、諸国漫遊中の道楽息子御一行様だ」
 ロイが楽しそうに嬉々として言った。



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