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王都への旅路 〜旅の準備〜
18.おっさん、旅に出る
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口がパクパクと動いて何かを話そう、話さなければ、と思うが言葉が出てこない。
ずっと側に
ロイの言葉が頭の中でリピートされて、脳内ではえらいこっちゃと大騒ぎになっている。
これって、プロポーズだよな…
結婚してください、という言葉ではないが、意味合いとしては同じと思った。でも、それは友人として、という意味にも取れる。だが友人に対して跪いて手を差し出す姿勢なんてしないはずだ。まさにいつぞや見た外国の古い映画での求愛ポーズだった。
多分プロポーズだろう、と思うが自信はない。
時間にしたら数秒ではあるが、すごく長い時間プチパニックを起こしていた気がする。
「ぁ…う…」
言葉が出てこない。
そもそも、いきなり好きですだなんて、突然すぎる。心の準備が…。
そもそも告白は割といきなりされるものだと思うのだが、今はそんなことを思い出す余裕もない。
「ショーヘー…?」
なかなか返事をしない自分にロイが不安そうな、泣きそうな表情を見せた。
その表情に、漫画みたいなズキューンという何かが心に刺さる。
捨てられた子犬みたいな顔やめろ
ポポポポッと噴火しそうになるくらい赤面しつつ、必死に考える。
「あ、えっと…」
どうすべきだ、どう応えるべきだ。
「ダメ…かな」
ロイが泣きそうな顔で少し首を傾けて自分を見る。
!!!!
さらにプルプル震えてクーンクーンと泣く子犬を想像してしまい、
「ダメ、じゃ…ないです…」
頭から湯気が出そうになるくらい真っ赤になり、やっとの思いで声を絞り出す。そして、そっとロイの右手を取った。
その瞬間、ロイの表情がパアアアァッと明るく笑顔になり、頬を紅潮させた。
手を取った、ということはロイの告白を、プロポーズ?を受け入れたことになる。それにすぐ気付いて慌ててしまった。
「あ、あの!まずは…お付き合いから…じゃ、ダメ?」
手を取ってしまった後のこの自分の言い分は反則だ。
でも、こればかりは自分に嘘はつけない。ロイに嘘はつきたくない。
「ごめん、俺自身まだはっきりとしてなくて…」
キスを受け入れてしまっている状況を客観的に見ても、自分はロイを嫌いじゃない。むしろ好きなんだと思う。
「ロイのことは俺も好きだよ。一緒にいたいって思う。だけど…」
でも、それが恋愛感情かと聞かれたら、わからないとしか答えられない。
ロイは優しく微笑むと、手を握ったまま立ち上がり、そっと抱きしめてきた。
「うん。今はそれでいいよ」
キュッと抱きしめて、すぐに自分に向き直り、
「絶対俺に惚れさせてみせるから」
ニカっといつもロイの笑顔を見せる。
まだはっきりと答えを見つけられない自分を、それでもいいと言ったロイに心が締め付けられた。
自分はずるい。そう思った。
まだわからないなら手を取らなければいい。でも実際は手を取った。取りたかった、とそう気付いた。
「ショーヘー…キス、していい?」
今更だが、そう聞かれた。
今までの匂いに慣れるためのキスとは違う、好きという感情が籠ったキスへと切り替えるための確認なんだろう。
「…うん」
赤面しながら答える。
「好きだよ、ショーヘー」
耳元で囁かれ、ゆっくりと頬に手を添えられて、静かに唇を重ねる。
「ん…」
目を閉じてロイの唇を感じる。
いつもより甘い気がした。
「何やってたんですか」
ディーが自分とロイの薄汚れた服を見て変な声を出す。
「家の残骸の中からさ、色々見つけたんだ」
自分が閃いたことだったので、説明しまとめておいたポーションやら無事なスクロールを示す。
「おお。これは助かります。よくこれだけ残ってましたね」
「なんか魔法がかけられてたんじゃないの?」
安易にそう言ったが、これが当たりだったらしい。相当貴重であるらしい種類のスクロールはほぼ無事で、ポーションだと思っていた薬はエリクサーという高級万能薬だった。
紛失や破損しないようにしっかりとロマによって保護魔法がかけられていた。
よく気付いてくれました、とディーに褒められて、ドヤ顔をする。
「それじゃあ着替えましょうか」
村で調達してきた衣服を広げ、サイズが合うものをそれぞれ着込んでいく。
それぞれがザ・村人という出立ちになるが、ロイとディーのイケメンっぷりと服装のギャップにどうしても違和感を覚える。
実際にグレイが2人、特にディーを指差し、似合わねーなと大笑いしている。
顔が良いってのは大変だねぇ、と心の中で呟いた。
小さな村であったため、衣服を購入出来るような店はなく、ディーたちは村中を周り、お金ではなくて2頭の馬と交換して衣服や少しの食材を手に入れていた。馬と引き換えということに、村では逆に感謝されたという。
「後は変装ですね」
ディーが一度ポニーテールを解き、両手を使って頭をゆっくり撫で付け、長い髪の先まで手を滑らせると、みるみるうちに銀髪だった髪が焦茶色に変わっていく。ササッと再びポニーテールを結び直した後、自分に何色にします?と聞いてきた。
魔法って本当に便利…と元の世界で1、2ヶ月に一回は髪を染めに行っていた同僚の女性のことを思い出す。
ディーは銀髪から焦茶色に、
グレイは焦茶色にから濃い青色に、
ロイは白髪から黒髪へと変えた。ご丁寧に尻尾まできちんと黒にする。
自分で色は決められなかったので、ディーに色を変えてもらった結果、薄い水色になった。
ディーが持っていた鏡で色を確認し、
うわぁ、アニメキャラだ…。
と思った。
旅の途中でも何度も髪色を変更するらしい。
その後、自分とグレイで家からかき集めたスクロールなどを鞄に詰めたり、持っていた荷物と調達した物を分別しながら整理していく。
その間ロイは焦げて短くなったままの髪をディーに切ってもらい、さっぱりとした短髪へ変わる。
散髪も出来る王子様に別の意味で驚く。戦争中の長い野営生活でどうしても必要になって…と苦笑いしていたが、散髪用のハサミを持っていることが用意周到というかなんというか。
長い髪も似合っていたが、短いのもまた似合っていた。
「長い髪だと色っぽいとか言われるから伸ばしてたんだけどなー」
確かに長い髪のロイは妙な色気はあった。今は色気は軽減されてさっぱりイケメンなっている。
「ただ単に面倒くさがって散髪屋に行ってなかっただけでしょ」
ハサミをしまっていたディーに、すかさず突っ込まれて、ロイがグヌヌとなる。
「さてと、準備できましたね。出発しましょうか」
ディーがそれぞれの姿を確認する。
「はい、質問があります」
サッと手を上げる。
「ディーは王子様で、ロイは英雄とか言われてるなら、顔バレしててどこに行ってもバレるんじゃないの?」
「認識阻害の魔法をかけるので大丈夫ですよ。貴方のいう通り、我々の顔を知っている人は多いです」
なるほどーと納得する。
「特に私ほどのいい男になると記憶に残りますからね」
ディーが本気とも冗談ともわからない口調で言い、グレイがあーはいはいとあっさりかわす。
「貴方にもかけますね」
そう言われて、顔の前をサッと手で拭くような仕草をした。ロイにも、自分にも、ついでにグレイにも同じ動きをする。
「これでよし」
「よし!じゃ行きますか!いざ」
「王都へ!」
「海へ!」
「美味いもん食いに!」
叫んだ3人の行き先がバラバラで、ほんとこのトリオには笑わせられる。
歩き始めて一度振り返る。
燃えて崩れてしまった家が見えた。ここで数日過ごしたんだと感慨にふける。
異世界に来てから後はずっとここにいた。思い出したくもない記憶もあるけど、ロイと過ごした楽しい記憶の方が蘇る。
たった数日だったのに、ずっと長い間ここにいたような錯覚に落ちる。
「ショーヘー、どうした?」
隣を歩いていたロイが肩を抱き寄せて聞いてきた。
「あ、いや。また戻って来れるかなって思ってさ」
その言葉に抱き寄せる手に力が込められた。ロイにも思うところがあるんだろう。
「戻って来れるさ。必ずな」
そう言って、おでこにキスされた。
軽く顔を赤くして前方を見ると、ディーとグレイがニヤニヤしながらこっちを見ていた。
その2人の揶揄いを込めた視線にキスされた時以上に赤面した。
まずはベルトラーク辺境伯の領都へ向かう。
転移魔法陣はすでに破壊されて使い物にならないが、旅をするにあたっては必要物資を揃えないといけない。
近くの村で、とりあえず揃えたものだけではまだまだ不足しているし、衣服もきちんとした旅仕様に変える必要があった。そうなると比較的大きな街へ行く必要が出てくるし、偽の情報を流すという目的も、最初は辺境伯領都が一番近くて都合がいい。
「まずは路銀を確保して、服を買って、装備も…」
道すがら、ディーがブツブツと今後の予定を立てている。あまりにもやることが多くて、独り言を言って確認しているのだ。
そんなディーとは裏腹に、ロイとグレイは辺境伯領の名物、主に食べ物について話している。この温度差にディーが気の毒になった。
数時間おきに休憩しつつ、ゆっくりと歩みを進める。あくまで諸国漫遊中の旅仲間という設定なので、急いで進む必要もない。さらに、自分の体力を考えての移動速度だった。
やはり、1日に数十キロ歩くのはかなりキツい。休み休みとはいえ、数時間後には足が悲鳴を上げ始める。
「もう少し行った先に野営地があるから、今日はそこで休もう」
ロイが一番この辺に詳しく、そう提案してきた。
まだまだ日は高くて先に進む時間はあるが、自分の足はすでに限界を迎えつつあったことに、早々に野営することに決まる。
「お疲れ~」
野営地で焚き火の準備をした後にとりあえず座って休んでいると、グレイに背中をポンッと叩かれて労われる。
思っていた以上にしんどい。
営業で割と歩くことは多かったが、それでもこんなに歩いたのは久しぶりだ。
結局は疲れ切ってしまって、野営の準備などは一切手伝えず、夕飯を取った後すぐにうつらうつらと船を漕ぎ出してしまう。
隣に座っていたロイに肩を抱き寄せられると、そのまま寄りかかって眠ってしまっていた。
旅が始まって2日目、森の中を抜けて草原地帯に出る、そして農村地帯へと進んだ。
所々に畑が存在し、そこで働く農民の姿も見ることが出来た。
この世界に来て、まだ数人の人しか見ていなかったので、そのさまざまな種族に驚きと感動を覚えた。
人の姿はもちろん、ゴブリンやオーク、トカゲやワニに似たリザードマン、犬の頭に人の体した獣人。いろんな種族が混在して、種族を気にすることなく、和気あいあいと農作業をする人たち、畑の間を走り回る様々な種族の子どもたちの姿にほっこりする。
改めて異世界なんだと実感した。
途中、作業を終えた農夫が近隣の村に帰る荷馬車に乗せてもらうことが出来て、この辺が平和であると感じることが出来た。
「この世界も案外悪くないだろ?」
農村の人たちを見て、会話して、無邪気な子供達と触れ合って、この日はあまり疲れを感じなかった。
二日目の野営地でロイにそう言われて、
「ああ。良いところだと思う」
素直にそう感想を言った。
そして3日目。
「ショーヘー起きてみな」
通りがかった商人の馬車に乗せてもらうと、馬車の揺れについつい居眠りをしていたが、不意にグレイに声をかけられて揺さぶられる。
「領都が見えてきたぞ」
そう言われて、ロイが自分の膝を枕にしていたことを無視し、体を起こすと荷台から見えた大きな町に感嘆の声を上げた。
枕がなくなって、ゴチンと後頭部を馬車の床板に頭をぶつけた衝撃でロイも目が覚める。
高く聳え立つ城壁が街を取り囲んでいる。中には、ヨーロッパの古い街並みを彷彿とさせるような家々が所狭しと建ち並んでいた。
「宿が決まってないなら、野兎亭がお勧めだよ。なんと言っても食事が美味い」
乗せてくれた商人が教えてくれた。
「ありがとうございました」
馬車を降りながら、お礼を言うと、商人が帽子を取って挨拶してくる。その頭には猫系の耳が付いており、獣人だったんだとその時初めて気付いた。
改めて、自分の何倍もある高い城壁を見上げ、開いた口が塞がらない。
「この街は初めてかい?」
そんな自分のおのぼりさん状態に、門番のフル装備の兵士が声をかけてくる。
「あ、はい。こんな大きな街は初めてで」
全身を鎧で包んだ兵士に緊張しながらも答えると、
「ニールへようこそ」
と笑ってくれた。
「ちょっと手続きしてくるわ」
ロイとディーが詰所のような所へ行くがすぐに戻ってくる。
「よし行くぞー」
ロイが歩き始めて、その後を追う。
門を通過する時、通ろうとする人が皆何かを提示しているのを見て、直感的に身分証か通行手形かなんかだろうと悟った。
街の中に入って、ますます感動する。
テレビや雑誌で見たヨーロッパ風の街並みが眼前に広がり、行き交う人たちの多さとその種族に圧倒される。
「すげー…」
と思わず声に出していた。
そして、ロイに手を繋がれると、引っ張られるように歩き始める。見るもの全てが珍しくて面白くて、宿に着くまでずーっとキョロキョロしっぱなしになってしまった。
ずっと側に
ロイの言葉が頭の中でリピートされて、脳内ではえらいこっちゃと大騒ぎになっている。
これって、プロポーズだよな…
結婚してください、という言葉ではないが、意味合いとしては同じと思った。でも、それは友人として、という意味にも取れる。だが友人に対して跪いて手を差し出す姿勢なんてしないはずだ。まさにいつぞや見た外国の古い映画での求愛ポーズだった。
多分プロポーズだろう、と思うが自信はない。
時間にしたら数秒ではあるが、すごく長い時間プチパニックを起こしていた気がする。
「ぁ…う…」
言葉が出てこない。
そもそも、いきなり好きですだなんて、突然すぎる。心の準備が…。
そもそも告白は割といきなりされるものだと思うのだが、今はそんなことを思い出す余裕もない。
「ショーヘー…?」
なかなか返事をしない自分にロイが不安そうな、泣きそうな表情を見せた。
その表情に、漫画みたいなズキューンという何かが心に刺さる。
捨てられた子犬みたいな顔やめろ
ポポポポッと噴火しそうになるくらい赤面しつつ、必死に考える。
「あ、えっと…」
どうすべきだ、どう応えるべきだ。
「ダメ…かな」
ロイが泣きそうな顔で少し首を傾けて自分を見る。
!!!!
さらにプルプル震えてクーンクーンと泣く子犬を想像してしまい、
「ダメ、じゃ…ないです…」
頭から湯気が出そうになるくらい真っ赤になり、やっとの思いで声を絞り出す。そして、そっとロイの右手を取った。
その瞬間、ロイの表情がパアアアァッと明るく笑顔になり、頬を紅潮させた。
手を取った、ということはロイの告白を、プロポーズ?を受け入れたことになる。それにすぐ気付いて慌ててしまった。
「あ、あの!まずは…お付き合いから…じゃ、ダメ?」
手を取ってしまった後のこの自分の言い分は反則だ。
でも、こればかりは自分に嘘はつけない。ロイに嘘はつきたくない。
「ごめん、俺自身まだはっきりとしてなくて…」
キスを受け入れてしまっている状況を客観的に見ても、自分はロイを嫌いじゃない。むしろ好きなんだと思う。
「ロイのことは俺も好きだよ。一緒にいたいって思う。だけど…」
でも、それが恋愛感情かと聞かれたら、わからないとしか答えられない。
ロイは優しく微笑むと、手を握ったまま立ち上がり、そっと抱きしめてきた。
「うん。今はそれでいいよ」
キュッと抱きしめて、すぐに自分に向き直り、
「絶対俺に惚れさせてみせるから」
ニカっといつもロイの笑顔を見せる。
まだはっきりと答えを見つけられない自分を、それでもいいと言ったロイに心が締め付けられた。
自分はずるい。そう思った。
まだわからないなら手を取らなければいい。でも実際は手を取った。取りたかった、とそう気付いた。
「ショーヘー…キス、していい?」
今更だが、そう聞かれた。
今までの匂いに慣れるためのキスとは違う、好きという感情が籠ったキスへと切り替えるための確認なんだろう。
「…うん」
赤面しながら答える。
「好きだよ、ショーヘー」
耳元で囁かれ、ゆっくりと頬に手を添えられて、静かに唇を重ねる。
「ん…」
目を閉じてロイの唇を感じる。
いつもより甘い気がした。
「何やってたんですか」
ディーが自分とロイの薄汚れた服を見て変な声を出す。
「家の残骸の中からさ、色々見つけたんだ」
自分が閃いたことだったので、説明しまとめておいたポーションやら無事なスクロールを示す。
「おお。これは助かります。よくこれだけ残ってましたね」
「なんか魔法がかけられてたんじゃないの?」
安易にそう言ったが、これが当たりだったらしい。相当貴重であるらしい種類のスクロールはほぼ無事で、ポーションだと思っていた薬はエリクサーという高級万能薬だった。
紛失や破損しないようにしっかりとロマによって保護魔法がかけられていた。
よく気付いてくれました、とディーに褒められて、ドヤ顔をする。
「それじゃあ着替えましょうか」
村で調達してきた衣服を広げ、サイズが合うものをそれぞれ着込んでいく。
それぞれがザ・村人という出立ちになるが、ロイとディーのイケメンっぷりと服装のギャップにどうしても違和感を覚える。
実際にグレイが2人、特にディーを指差し、似合わねーなと大笑いしている。
顔が良いってのは大変だねぇ、と心の中で呟いた。
小さな村であったため、衣服を購入出来るような店はなく、ディーたちは村中を周り、お金ではなくて2頭の馬と交換して衣服や少しの食材を手に入れていた。馬と引き換えということに、村では逆に感謝されたという。
「後は変装ですね」
ディーが一度ポニーテールを解き、両手を使って頭をゆっくり撫で付け、長い髪の先まで手を滑らせると、みるみるうちに銀髪だった髪が焦茶色に変わっていく。ササッと再びポニーテールを結び直した後、自分に何色にします?と聞いてきた。
魔法って本当に便利…と元の世界で1、2ヶ月に一回は髪を染めに行っていた同僚の女性のことを思い出す。
ディーは銀髪から焦茶色に、
グレイは焦茶色にから濃い青色に、
ロイは白髪から黒髪へと変えた。ご丁寧に尻尾まできちんと黒にする。
自分で色は決められなかったので、ディーに色を変えてもらった結果、薄い水色になった。
ディーが持っていた鏡で色を確認し、
うわぁ、アニメキャラだ…。
と思った。
旅の途中でも何度も髪色を変更するらしい。
その後、自分とグレイで家からかき集めたスクロールなどを鞄に詰めたり、持っていた荷物と調達した物を分別しながら整理していく。
その間ロイは焦げて短くなったままの髪をディーに切ってもらい、さっぱりとした短髪へ変わる。
散髪も出来る王子様に別の意味で驚く。戦争中の長い野営生活でどうしても必要になって…と苦笑いしていたが、散髪用のハサミを持っていることが用意周到というかなんというか。
長い髪も似合っていたが、短いのもまた似合っていた。
「長い髪だと色っぽいとか言われるから伸ばしてたんだけどなー」
確かに長い髪のロイは妙な色気はあった。今は色気は軽減されてさっぱりイケメンなっている。
「ただ単に面倒くさがって散髪屋に行ってなかっただけでしょ」
ハサミをしまっていたディーに、すかさず突っ込まれて、ロイがグヌヌとなる。
「さてと、準備できましたね。出発しましょうか」
ディーがそれぞれの姿を確認する。
「はい、質問があります」
サッと手を上げる。
「ディーは王子様で、ロイは英雄とか言われてるなら、顔バレしててどこに行ってもバレるんじゃないの?」
「認識阻害の魔法をかけるので大丈夫ですよ。貴方のいう通り、我々の顔を知っている人は多いです」
なるほどーと納得する。
「特に私ほどのいい男になると記憶に残りますからね」
ディーが本気とも冗談ともわからない口調で言い、グレイがあーはいはいとあっさりかわす。
「貴方にもかけますね」
そう言われて、顔の前をサッと手で拭くような仕草をした。ロイにも、自分にも、ついでにグレイにも同じ動きをする。
「これでよし」
「よし!じゃ行きますか!いざ」
「王都へ!」
「海へ!」
「美味いもん食いに!」
叫んだ3人の行き先がバラバラで、ほんとこのトリオには笑わせられる。
歩き始めて一度振り返る。
燃えて崩れてしまった家が見えた。ここで数日過ごしたんだと感慨にふける。
異世界に来てから後はずっとここにいた。思い出したくもない記憶もあるけど、ロイと過ごした楽しい記憶の方が蘇る。
たった数日だったのに、ずっと長い間ここにいたような錯覚に落ちる。
「ショーヘー、どうした?」
隣を歩いていたロイが肩を抱き寄せて聞いてきた。
「あ、いや。また戻って来れるかなって思ってさ」
その言葉に抱き寄せる手に力が込められた。ロイにも思うところがあるんだろう。
「戻って来れるさ。必ずな」
そう言って、おでこにキスされた。
軽く顔を赤くして前方を見ると、ディーとグレイがニヤニヤしながらこっちを見ていた。
その2人の揶揄いを込めた視線にキスされた時以上に赤面した。
まずはベルトラーク辺境伯の領都へ向かう。
転移魔法陣はすでに破壊されて使い物にならないが、旅をするにあたっては必要物資を揃えないといけない。
近くの村で、とりあえず揃えたものだけではまだまだ不足しているし、衣服もきちんとした旅仕様に変える必要があった。そうなると比較的大きな街へ行く必要が出てくるし、偽の情報を流すという目的も、最初は辺境伯領都が一番近くて都合がいい。
「まずは路銀を確保して、服を買って、装備も…」
道すがら、ディーがブツブツと今後の予定を立てている。あまりにもやることが多くて、独り言を言って確認しているのだ。
そんなディーとは裏腹に、ロイとグレイは辺境伯領の名物、主に食べ物について話している。この温度差にディーが気の毒になった。
数時間おきに休憩しつつ、ゆっくりと歩みを進める。あくまで諸国漫遊中の旅仲間という設定なので、急いで進む必要もない。さらに、自分の体力を考えての移動速度だった。
やはり、1日に数十キロ歩くのはかなりキツい。休み休みとはいえ、数時間後には足が悲鳴を上げ始める。
「もう少し行った先に野営地があるから、今日はそこで休もう」
ロイが一番この辺に詳しく、そう提案してきた。
まだまだ日は高くて先に進む時間はあるが、自分の足はすでに限界を迎えつつあったことに、早々に野営することに決まる。
「お疲れ~」
野営地で焚き火の準備をした後にとりあえず座って休んでいると、グレイに背中をポンッと叩かれて労われる。
思っていた以上にしんどい。
営業で割と歩くことは多かったが、それでもこんなに歩いたのは久しぶりだ。
結局は疲れ切ってしまって、野営の準備などは一切手伝えず、夕飯を取った後すぐにうつらうつらと船を漕ぎ出してしまう。
隣に座っていたロイに肩を抱き寄せられると、そのまま寄りかかって眠ってしまっていた。
旅が始まって2日目、森の中を抜けて草原地帯に出る、そして農村地帯へと進んだ。
所々に畑が存在し、そこで働く農民の姿も見ることが出来た。
この世界に来て、まだ数人の人しか見ていなかったので、そのさまざまな種族に驚きと感動を覚えた。
人の姿はもちろん、ゴブリンやオーク、トカゲやワニに似たリザードマン、犬の頭に人の体した獣人。いろんな種族が混在して、種族を気にすることなく、和気あいあいと農作業をする人たち、畑の間を走り回る様々な種族の子どもたちの姿にほっこりする。
改めて異世界なんだと実感した。
途中、作業を終えた農夫が近隣の村に帰る荷馬車に乗せてもらうことが出来て、この辺が平和であると感じることが出来た。
「この世界も案外悪くないだろ?」
農村の人たちを見て、会話して、無邪気な子供達と触れ合って、この日はあまり疲れを感じなかった。
二日目の野営地でロイにそう言われて、
「ああ。良いところだと思う」
素直にそう感想を言った。
そして3日目。
「ショーヘー起きてみな」
通りがかった商人の馬車に乗せてもらうと、馬車の揺れについつい居眠りをしていたが、不意にグレイに声をかけられて揺さぶられる。
「領都が見えてきたぞ」
そう言われて、ロイが自分の膝を枕にしていたことを無視し、体を起こすと荷台から見えた大きな町に感嘆の声を上げた。
枕がなくなって、ゴチンと後頭部を馬車の床板に頭をぶつけた衝撃でロイも目が覚める。
高く聳え立つ城壁が街を取り囲んでいる。中には、ヨーロッパの古い街並みを彷彿とさせるような家々が所狭しと建ち並んでいた。
「宿が決まってないなら、野兎亭がお勧めだよ。なんと言っても食事が美味い」
乗せてくれた商人が教えてくれた。
「ありがとうございました」
馬車を降りながら、お礼を言うと、商人が帽子を取って挨拶してくる。その頭には猫系の耳が付いており、獣人だったんだとその時初めて気付いた。
改めて、自分の何倍もある高い城壁を見上げ、開いた口が塞がらない。
「この街は初めてかい?」
そんな自分のおのぼりさん状態に、門番のフル装備の兵士が声をかけてくる。
「あ、はい。こんな大きな街は初めてで」
全身を鎧で包んだ兵士に緊張しながらも答えると、
「ニールへようこそ」
と笑ってくれた。
「ちょっと手続きしてくるわ」
ロイとディーが詰所のような所へ行くがすぐに戻ってくる。
「よし行くぞー」
ロイが歩き始めて、その後を追う。
門を通過する時、通ろうとする人が皆何かを提示しているのを見て、直感的に身分証か通行手形かなんかだろうと悟った。
街の中に入って、ますます感動する。
テレビや雑誌で見たヨーロッパ風の街並みが眼前に広がり、行き交う人たちの多さとその種族に圧倒される。
「すげー…」
と思わず声に出していた。
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せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
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―――
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