おっさんが願うもの 〜異世界行ったらイケメンに大切にされ、溺愛され、聖女と呼ばれ、陰謀に巻き込まれ。それでも幸せ目指して真面目に頑張ります〜

猫の手

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王都への旅路 〜ドルキア砦〜

46.おっさん、孤独を感じる

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 部屋に荷物を運んで来たのは、若い猫の尻尾を持つ獣人の騎士だった。
 かなり可愛い顔をしている。元の世界でアイドルになれただろうに、と思うほど顔が整っていて、失礼だが、なんでこんな可愛い子が騎士なんてやってるんだろう、と不思議に思った。
 その彼が、荷物を部屋のベッドの側に置いた後、何か言いたそうにこちらをチラチラと見てくる。
「ありがとうございます」
 運び終わって、お礼を言うと、周りをキョロキョロと見渡した後、質問してきた。
「あのー…なんかの事件の証人で王都に行くと聞いたんですけど…。」
「はい。そうですね」
「殿下やロイ様達と旅を?」
「はい…そうですが…」
 そう聞くと、若い騎士が興奮したように鼻息を荒くする。
「羨ましい!ロイ様は普段どんな感じなんですか?好きな食べ物とかってあります?」
 ロイ様、ロイ様と矢継ぎ早に質問されて、かなり戸惑った。
「あ、えと…。あんまり良く知らないです…」
 グイグイと詰め寄って来られたが、とりあえず設定通りに、知らない、わからないで通す。
「っち」
 そうすると、若い騎士が明らかに舌打ちした。
 その態度の豹変ぶりに驚き、その理由がわからず、とにかく何も言えずに黙り込んだ。
「あんた、平民だろ?何の事件に巻き込まれたわけ?」
 180度態度が変わり、上から目線で話しかけられる。それに対してかなりイラッとした。
「話すな、と言われてますので」
 視線を逸らして、素っ気なく答える。
 すると、突然バシッと大きな音を立てて、思い切り頬を平手打ちされた。

 は?

 いきなり叩かれて、かなり面食らう。
「平民のくせに、誰に向かって口きいてんのさ。僕は貴族だよ。シギアーノ侯爵家。聞いたことあるでしょ」
 打たれた頬が熱い。かなり容赦なく平手打ちされて、口の中が切れたようで鉄臭い味が広がる。
「…すみません、事件の影響で記憶が曖昧になってまして、わかりません」
 無表情でじっと目を見て答える。
「ふん、使えねー。まあいいや、面倒臭いから、ここから出ないでよね。夜、誰かが迎えにくるからさ」
「…わかりました」
 若い騎士は自分の返事を聞かずに、さっさと部屋を出ていく。
 ドアをバタンと後手に締めると、その後ガチャガチャと外側から鍵を締める音がする。
 完全に閉じ込められた。本当に軟禁状態となり、はぁっと短いため息を着くと、打たれた頬に手をあて、すぐにヒールで治した。

 なんだったんだ、あれ。

 あれで騎士なのか、とかなりイラつく。
 見た目、かなり若いようだったが、濃紺の騎士服から見て、獣士団の騎士であることは間違いない。
 だが、あの態度には腹が立つ。
 平民だと見下して、出自をひけらかす横柄な態度に、賎民思考全開のベネットを思い出す。
 やたらロイの事を聞いてきた。ロイへの憧れがそうさせているのか、ただのファン根性なのか。
 すごくイライラして、ムスッとした表情のまま、窓際に椅子を置いて外を眺め、気分を落ち着かせた。


 ドアの向こうが騒がしい。
 人の話し声がするが、何を言っているかはわからない。
 そうこうしているうちに、ガチャ、ガチャっと鍵が2箇所開く音がした。
「ショーヘー」
 入ってきたのはロイだった。
「お前ら、なんでショーヘーを閉じ込めた」
 声に怒気が含まれており、後ろに控えていた若い騎士が2人オロオロしている。
 さっき、鍵をかけていった可愛い顔の騎士ではなく、同じ獣士団の騎士ではあるが、違う人物だった。
「申し訳ありません。自分たちもまさか鍵がかけられているとは…」
「あ?」
 それでもロイの怒りが収まらないらしく、低い声で若い騎士を睨みつける。
「止めろよ、多分、その人達じゃない」
 犯人は別にいる事を知っているので、2人を庇う。
「じゃあ誰だ」
「…わからない」
 さっきの事を話そうかどうか一瞬悩み、話すのをやめた。
 告げ口のようなことはしたくないし、閉じ込められた当事者だけど、自分は騎士ではない。
 彼の素行は褒められるものではないが、それでも口を出すべきじゃないと判断した。
「間違えたんじゃないか?きっと…」
 そうロイに言うが、嘘をついていることに後ろめたさを覚えて、ロイの視線から目を逸らした。
「…ショーへーがそう言うならいいけどよ…お前ら、勘違いすんなよ。大事な証人なんだから丁寧に扱え。周りにもそう言っとけ」
 そう言い、恐縮して頭を下げている騎士に目もくれず、ドアをバタンと閉めた。
「1人でつまんなかったろ」
「いや、そうでもないよ。ずっと外見てた」
 改めてロイを見る。
 濃紺の騎士服に真っ白いマント。素直にカッコいいと思った。
「やっぱり似合うな」
 素直に褒める。
「カッコいい?」
「ああ」
 そう褒めると、サッと自分の側に来て、自分の腰を引き寄せる。
「惚れ直した?」
 さっきの怒気はどこへやら。すっかり機嫌を直してニコニコしている。
「カッコいいのと惚れ直すのは別」
 そう意地悪を言うと、それでもニコニコしながら顔に手を添えて、顔を近付ける。
 重ねるだけの長めのキスをして向き合うと、どちらかともなく笑う。
「そうだ、これ」
 手に持っていた青い布を自分に渡してくる。
「えー…」
 あの無駄にビラビラした服を手渡される。
「宴会っつっても、一応な」
「前から思ってたんだけど、これってこの国の民族衣装かなんか?」
「まあ、そんなもん。お貴族様はだいたいそんな感じ」
「俺、平民だけど」
 思わず、さっき言われた平民という言葉を使う。
「平民?まさか。ショーヘーはジュノーだ。平民扱いなんてされねーよ」
「そう言ってもなー」
 渡された服を広げて、どうやって着るのかを確認する。
「着替えさせてやろうか」
 ニヤニヤしながらワキワキと手を伸ばしてくるが、いらないと断りつつ、着替えを始めた。
「…あっち向いてろよ」
 ジーッとロイに見られている事に、動きを止めて文句を言う。
「やだ」
 即答されて、仕方なく着替えを続行するが、背中に刺さる視線を気にしながらも何とか着替えを終わらせた。
 ロイが、その姿に満足げに微笑むと、再び軽いキスを仕掛けてくる。
「ちょっと…、迎えに来たんじゃないのかよ」
「まだ時間ある。俺が会いたかったの」
 何度も頬やおでこにキスされ、抱きしめられて、一時のその甘い時間に酔いしれる。



 ロイと共に部屋を出ると、先ほどの騎士2人がペコリと自分たちに頭を下げて、宴会の会場である大広間へと案内された。
 自分の前をマントを翻して颯爽と歩くロイの姿を見て、改めてカッコいいと見惚れる。
 数年前までは、この姿がロイの日常だったんだろうと考えて、知らないロイの過去にズキッと少しだけ心が痛んだ。

 大広間に着くと、その場にいた騎士達が一斉にロイを見る。
「おーこっちだこっち」
 オズワルドが手を上げてロイを手招きすると、自分の手を握って、そのまま騎士達の間を突っ切った。
 引っ張られるままについていくと、不意に自分に向けられた視線の中に、敵意のようなものを感じて、あたりを見渡す。
 ピリッとした他人の魔力が自分の体に刺さるような、嫌な感じがした。
 だが、一瞬だけですぐにその気配が消え、気のせいかと前を向く。
 前の方にオズワルドを始め、各隊長副官がいる。その中にディーとグレイもいてホッとした。
 ディーを見ると、自分と似たような服を着ている事に気付く。貴族の服と言われて納得した。今この場にいるディーは魔導士団副団長ではなく、今は王族としてこの場にいるんだと思った。
「どうぞ」
 アーチーがグラスを渡してくれて、ペコリと会釈する。
 オズワルドの掛け声で、立食形式の宴会が始まった。

 お酒も料理も美味しい。
 だが、何となく自分はこの場いることが段々と苦痛になってきていた。
 ロイも、ディーも、グレイも、久しぶりに会った仲間と楽しそうに話している。
 昔の話や今の砦の状況、そんな軍事的な話から、現在の獣士団について、今ここにいない仲間達の話、自分が知らない話がどんどん出てくる。
 最初はロイ達の側にいたが、たくさんの騎士達に声をかけられ、話して笑う3人の姿に、少しづつ距離を取っていった。

 世界が違う。

 今、この場で、自分と3人の間に見えない壁が出来ているようで、ここにいる意味があるのかと考え始めていた。
 ちょっとづつ距離を取り、最終的には壁側まで下がり、じっと3人を、ロイを見た。
 この場では、自分は異物でしかない。
 この場だけではない、この世界において、自分は異物なんだと考えて、ゾクッと悪寒が走り、思わず腕を摩った。
 4人での旅が、色々あったけど楽しくて、そんな基本的な事を忘れていた。
 自分は異世界に迷い込んだ人間で、この世界からすれば、まさに異物なんだと、今になって思い出す。

 ここに俺の居場所はない。

 そう思い至って思わず俯いた。
「はぁ…」
 小さなため息を吐いて、顔を上げると部屋に戻ろうと考えた。
 声をかけてからにしようかと思ったが、大広間の中心にいるロイが楽しそうに笑う姿を見て、声を掛けるのをやめた。
 素直に邪魔しちゃ悪いと遠慮する事にして、大広間からそっと出る。
 その足で、自分にあてがわれた部屋に向かいつつ、時折り宴会に参加していない、当直の騎士達にすれ違い会釈する。
 通り過ぎた後に、こそこそと自分の事を話しているのが聞こえたが、聞こえないフリをして足早に部屋へ向かって歩いた。
「本気でやるつもりか」
「こんなチャンス滅多にないし。この機会を逃したら、何のために獣士団入ったのかわかんないじゃん」
 別棟へ向かう渡り廊下に差し掛かった時、その向こうから3人の人影が見えて、会話が聞こえてきた。
「既成事実さえ作っちゃえば、後はパパがどうにかするし」
 その声が、自分を平手打ちした若い騎士だと気付いて立ち止まる。
 何となく話の内容に嫌な予感がした。
「昔から来るもの拒まずって人らしいし、この僕に迫られたらコロっと落ちるさ」
「そんなに上手くいくかね」
 一緒にいる若い男が下品な笑い声を立てる。
「きっと溜まってんじゃねーの。絶倫だって噂だしな」
「お前だけじゃ足りねーんじゃね。俺も混ざろっかな」
 そう言って3人でゲラゲラと笑う。
 名前は出ないが、言葉からロイの事だとすぐにわかった。
「いつやんの?やってるところに乱入して騒げばいいんだろ?」
「今日はもう無理だから、明日とか?明後日かも」
「ロイ様とお前がやってんの想像するだけで勃っちまうわ」
 そう言ってさらにゲラゲラと笑う。

 何だ?
 何の話をしてる?
 既成事実?
 ヤる?

 頭の中でぐるぐると言葉が反復される。
「それより、あの証人だかっておっさん、ずっとロイ様と手繋いでて何なんだろうな」
 その言葉にギクッと体を強張らせた。
「ああ、あの平民ねー。ロイ様の慰み者なんじゃないのー?」
 そう言ってクスクスと笑う。
「旅の間のSEX要員かよ。ウケる」
「だとしても、あんなおっさんより僕の方が締まりはいいし、何てったって若いもんねー」
「違いねーや」
 また下品な笑い声をたてる。
 目の前が真っ暗になるような感覚を覚える。
 ザワザワと全身に鳥肌が立ち、わけのわからない、言葉で表すことの出来ない感情が一気に押し寄せた。
「あ、もう交代の時間だ」
「やっとかよ。俺らも広間に行こーぜ」
 3人がこっちに来るとわかり、慌てて身を隠そうとしたが、どこにも隠せる場所がなく、意を決して部屋へ続く渡り廊下を進んだ。
 心の中で、落ち着け落ち着け、と呪文のように唱え、平静を装って歩く。
 そして、その姿が見えて、先ほどと同じようにすれ違い様に会釈をし、歩き続ける。
 一瞬、3人は自分の姿を見てギョッとし歩みを止めて振り返ったが、そのまま通り過ぎた自分に、
「慰み者のくせに」
 わざと聞こえるように言い放ち、クスクスと笑われた。
 それでもグッと歯を食い縛り、聞こえなかったふりをして歩みを止めず、馬鹿にしたような笑いを背に、ひたすら歩いた。
 廊下を渡りきり、上へと続く階段を上がる。
 膝が、ガクガクと震えて、今にもへたり込みそうになったが、必死に堪えて、何とか部屋にたどり着く。
 誰もいない部屋のドアを開けて、中に入ると、後ろ手にドアを閉めて、そのままドアによしかかるとヘナヘナと崩れ落ちる。
「っふ…」
 ボロッと涙が溢れた。
「くそっ」
 湧き上がる感情に耐えきれず、涙が溢れる。
 なんで自分があんな言われ方をしなくはならないのか、悔しくて悔しくて、怒りが湧き上がる。
 それと同時に、彼らの言葉が自分に突き刺さる。

 慰み者。

 その一言が自分の心を抉った。

 自分は慰み者なんかじゃない。
 ロイは真剣に自分を愛してくれている。その愛を感じる。自分もロイを愛している。

 でも。

 あの若い騎士が何をしようとしているのか、話の内容で検討がつく。
 要するに、ロイと寝ようとしてる。
 ロイを誘って、SEXして、その場面を仲間に発見してもらうことで、既成事実にしようとしているんだろう。
 絶対にロイはそんな誘いに乗るわけがない。あり得ない。
 今は自分だけだと言ってくれた。
 その言葉を信じてる。
 信じたい、けど。
 でももし乗ってしまったら。
 裏切られたら。
 そう考えて、トラウマの黒い影がじわりと心を蝕んでいく感覚に体が震え出す。

 怖い。

「う…」
 ドアの前で膝を抱え込み、小さく震えながら耐える。
 今この場にロイはいない。
 ここに、自分の居場所はない。

 助けて…。
 ロイ、そばにいてくれ…。

 そう願っても、ロイはいない。




 異世界に来て初めて、孤独を感じた。

 



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