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王都への旅路 〜新たな関係〜
63.おっさん、はさまれる
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村を出て1日目の夜は野営だ。
あっという間に騎士たちが天幕を立て、食事の準備に取り掛かる。
村でたくさん持たせてくれた食材を使って、野外バーベキューのような、野営にしては豪華な食事が出来上がる。
「ショーヘイさん、体調はもう大丈夫ですか?」
アシュリーが聞いてくる。
「ああ、もう大丈夫だよ。村でゆっくり休ませてもらったし」
食事しながら雑談に花を咲かせる。
全員で後片付けをして、明日の行程を確認してから就寝となる。
ランドール家の天幕には自分たちいつもの4人。騎士の天幕には6人が入るが、自分以外が順番で火の番と見張りにつく。
「それじゃあ、おやすみなさい」
自分以外はまだ焚き火のそばにいたが、早々に1人天幕に入った。
翔平が天幕に入るのを、ディーが目で追いかける。
しばらく焚き火で雑談していたが1人、また1人と天幕に入っていく。
グレイも天幕に入り、最初の見張り2人とロイ、ディーが残った。
ロイが立ち上がると、周囲を見渡す。
「ディー」
座ってるディーに声をかけた。
「ちょっといいか」
指でちょいちょいっと来いと合図されて、返事をせずに立ち上がると黙ってロイの後ろをついて行く。
見張り番のアーロンとクリフは何も言わずに黙って見送る。
2人が親友であることは全員が知っているし、何か自分達には聞かれたくない大切な話があるんだろうと、不思議にも思わなかった。
天幕からだいぶ離れて、ロイが遮音魔法を周囲にかけた。
「何ですか?」
「お前、ショーヘーに何をした」
ロイの声が怒っているのがわかる。その口調にディーは薄ら笑い、やっぱりか、と思った。
ロイにはすぐにバレると思った。
今日の馬車での翔平との抱擁も、寝たフリをして見ていたことに気付いていた。
「答えろよ」
「好きだと伝えました。愛していると」
いつも通りの声のトーンで話し、ニコリと笑う。
「どういうつもりだ」
「どういうつもりも何も。私はただ自分の気持ちを伝えただけです」
そう言ってお手上げのような仕草をする。
「ああ…。キスもしました。赤くなって、可愛かった」
クスッと笑う。
その言葉にカッときたロイがディーの胸ぐらを掴む。
「てめぇ…」
そんなロイに失笑した。
「俺とショーヘーが…」
「知ってますよ。愛し合ってることくらい。周知の事実だ」
ロイのセリフに被せて苛立つように言う。
「愛し合ってるから、私がショーヘーさんを好きになってはいけないんですか? 告白してはいけないんですか?」
ディーのその言葉に乱暴に手を離す。
「いつからだ」
「割と早いですよ。オーバーフローの前くらいですかね」
それを聞いて、ディーが翔平に出会って10日くらいで好意を抱いたとわかった。
それから今までずっと翔平を想っていたのに、全くそんな素振りを見せなかった。
むしろ、自分と翔平を応援するような、態度や行動を取っていたのに。
あれは演技だったということか、と渋い顔をする。
「俺からショーヘーを奪うつもりか」
そう言われて、思わず笑う。
「ハハッ、奪う? 出来るわけないでしょう。貴方達は愛し合っているのに」
ディーの態度と言葉に眉根を寄せる。
「叶わない恋だって、もうわかってますよ」
ディーの声が大きくなる。
「じゃぁ、なんで」
「告白したか?」
ロイが頷く。
「矛盾してるだろ」
「そうですね。矛盾してます」
フゥとため息をつく。
「抑えられなかったんです。自分の感情が」
そう言われて、あの峠で翔平が奪われた時、泣き叫んだディーを思い出す。
あれほど感情を剥き出しにしたディーを初めて見た。
今ディーから話を聞いて、あの行動が翔平への想いからきたものだったと理解出来る。
思い返せば、あの時からディーの行動は少しいつもと違っていたと、今更ながら気付く。
翔平が奪われたあの瞬間から、ディーは翔平への想いを抑えられなくなったんだろう。
「ショーヘイさんから、告白の返事はもらっていません。
聞くまでもないですがね。
……安心してください。ショーヘイさんは貴方を選びますよ」
ディーが自虐的に笑った後、ロイを真剣に見つめる。
「彼が欲しくてたまらない」
ディーのその目が本気だと語っていた。
何かを欲しがってこんな目をするディーを見るのは何年振りだろうと思った。
「意外です」
ディーが苦笑した。
「何が」
「もっと怒るかと思ってました」
そう言われて、少しだけ考える。
確かに、最初は怒りが先行した。俺のものに手を出しやがってと怒りが沸き起こった。
だが、言われた通り、今の自分は冷静だ。
「…お前だからか…」
ポツリと呟く。
その言葉に、ディーがグッと口を真横に結び、徐々に泣きそうな表情を作る。
「狡いな…。
ロイにバレたら、もう親友ではいられなくなると思ってました。
これでも、かなり覚悟してたんですよ」
「ディー…」
「ショーヘイさんが好きです。でも貴方を失いたくない。
もう頭の中がぐちゃぐちゃですよ。
矛盾だらけで、おかしくなりそうだ」
そう言って自虐的にアハハと笑う。
「ディーゼル、お前は俺の親友だ。何があろうとそれは変わらん」
ロイの言葉に目に溜まった涙を拭う。
「嬉しいですよ。そこまで信頼してくれて」
ニコリと笑う。
「ロイ、私がショーヘイさんを愛している事実は認めてください」
「…わかった。お前だから許す」
ロイが苦笑しつつもはっきりと言った。
自分でも、そう返事したことに驚く。
「ありがとうございます。
ロイ、ちゃんと、ショーヘイさんを捕まえておいてください」
ポンと、ロイの胸を拳で叩いた。
そして、静かにその場から離れて行く。
1人になり、目を閉じてゆっくり深呼吸し、ディーのことを考える。
12歳で知り合った。
出会ってすぐに殴り合いの大喧嘩。
最初のうちは会う度に殴り合っていた。
それがある日を境に打ち解けあった。
あの日、ロマに連れて行かれるままに何度目かの王宮へ行った。
毎度毎度、喧嘩するとわかっているのに何故か連れて行かれることに、何度もロマとギルバートに抗議をした。
だが、全く聞き入れてもらえず、半ば無理やり腕を引っ張られて連れて行かれる。
行きたくない理由はディーと会えば殴り合いの喧嘩になるからだが、他にも理由があった。
ディーゼル殿下の友人候補とかで、他にも何人か貴族の似たような年頃の奴らも必ずいた。
ディーに会う前に、応接室のような所で待たされる。
その時が一番苦痛だった。
ロマやギルバートが自分の後見人となっているが、自分は平民だ。貴族の子息令嬢と話が合うわけもない。かつ、かなり馬鹿にされていた。
ディーに擦り寄る虫扱いされ、顔が良いのを揶揄われ、友人候補ではなく、愛人候補とまで言われた。
苛立ちが絶頂を迎える頃にディーが現れ、その苛立ちをぶつけるように、ディーと喧嘩になる。
その日も同じだと思っていたが、自分にとっては言ってはならないことを、どっかの貴族子息に言われた。
親無し子。
顔が良いから拾われた。
その言葉に、一瞬で頭に血が上った。
立ち上がって、その子息を殴ろうとし
たが、自分が殴る前に、部屋に入ってきたディーがその子息を殴った。
ボコボコに殴り、ディー付きの執事が止めに入るまで、殴り続けた。
「行くぞ」
そう言って、手を掴まれ引っ張られ、部屋から連れ出された。
自分が殴ろうと思ったのに、ディーにその行動を奪われて苛つきながらも、なぜディーが殴ったのかがわからずに、黙ってついていく。
ディーの自室に連れてこられて、ようやっと手を離され、じっと目を見られた。
「お前、親がいないのか」
「いない。2年前に殺された」
「そうか。俺と一緒だな」
ディーにそう言われてポカンとする。
その日は、ただ無言で過ごし、お茶を飲んで帰った。
帰ってから、ロマにディーの親のことを聞いてみる。
「ディーゼル殿下も、2年前にお母様、王妃様を亡くされてるんだよ。お前と同じさね。王妃様も殺されたんだ」
その言葉を聞いて、ショックを受けた。俺と一緒だな、と言ったディーの顔を思い出す。
それから、ディーの所へ行っても自分以外の子息令嬢に会うこともなく、真っ直ぐにディーの自室に案内されるようになった。
最初は何を話せばいいかわからなかったが、ディーに見せられた亡くなった王妃の姿絵を見て、ディーにそっくりだと思ってそう伝えた。
「だろ? 妹のユリアなんて、たまに俺のことをママって呼ぶんだぜ?」
「あはは、そりゃないわ」
2人で笑う。
お互いに親を殺された者同士。
そこから仲良くなって、親友になるのは早かった。
1年の半分以上を王宮で過ごし、ディーと同じように、教育を受けた。
ディーは大きくなるにつれてどんどん母親に似てくる。
そのせいか、ディーの兄たち、妹がディーを引くくらい溺愛するようになって、それに反発するようにディーは王宮から抜け出して、街で遊ぶようになる。
その時に、下町のガキ大将だったグレイにも出会った。
勉強して、訓練して、遊んで。
ディーゼルは俺の一番の理解者だ。
そう公言できるような関係だった。
自分も、ディーの一番の理解者だと、思っている。
まさか、1人の男に同時に惚れるなんてな。
はぁ、とため息をついて笑う。
過去を思い出して、ディーの性格や、自分が知っているディーの恋愛遍歴を考えれば、ディーが翔平に惚れるのは当然なのかもしれない、と思った。
ディー本人は気付いていないだろうが、思慮深くて感情も表情も豊な人を好きになる傾向がある。まさに翔平が当てはまる。
それは親友だから、ずっと隣にいたからわかる。
翔平はそれに加えて頭もなかなか切れる。
元の世界での知識なのか、年上のせいなのか、かなり鋭い発言もする。
「まんまディーのタイプだな」
1人呟く。
先ほどのディーの発言から、かなり本気なことはわかった。
だが、これだけは譲れない。
翔平は絶対に渡さない。
叶わない恋だと、ディーはそう言ったが、ディーの性格上、絶対に諦めていないはずだ。
俺に捕まえておけ、と言ったのは、ディーから翔平を守れ、ということだ。
親友だから、一番の理解者だからこそ、わかる。
欲しいのに、守れという。
かなり矛盾している。
「不器用なやつ」
そう呟いて笑った。
「えっと…」
馬車の中で、縮こまって狼狽える。
6人乗りの馬車だから、3:3で向かい合って座れる。
なのに、今自分はロイとディーにの間にはさまれて座っている。
向かい側にはグレイが座り、その隣はガラ空きだ。
「俺、そっちに」
立ち上がって、グレイの隣へ行こうとしたが、2人の手に腕を掴まれて引き戻される。
「立ち上がると危険ですって、昨日言ったでしょ?」
「俺の膝に座るか?」
2人にしっかりと腕を押さえ込まれて、体をはさまれて密着される。
ど、どーしてこーなった。
ぐるぐると思考が回る。
向いに座っていたグレイが腕を組んで、小さくため息をつく。
最近、ディーの様子がおかしいとは思っていたが、その理由が目の前の光景だと理解する。
翔平に目で助けを求められるが、自分がどうこう出来る問題でもないし、翔平には悪いが、関わり合いになりたくないと思ってしまった。
ご愁傷様。
心の中でそう呟き、目を閉じた。
昨日の夜、1人先に天幕に入り、すぐに横になる。
早めに寝たのは、1人になって考えたかったからだった。
だが、答えは真剣に悩まなくてもすぐに出た。
自分はロイが好きだ。愛している。
ディーに告白されて驚いたけど、流石に受け入れるなんてありえない。
ロイを裏切ることになる。出来るはずがない。
裏切るという行為が、いかに卑劣で、恐怖を与えるのか、身をもって経験している。
それだけは絶対ない。
ディーにきちんと伝えて、諦めてもらおう。
今朝のディーのせつなげな表情や馬車での行動を思い出すと、かなりモヤっとするが、それを頭の中から追い出して、結論を出す。
そして次の日、2人の間にはさまれる。
何となくではあるが、察した。
ロイにバレていると。
ディーがロイにも打ち明けたのか、ロイが気付いたのかはわからない。
だが、ディーがロイの前で、あからさまに自分を口説いているとわかる。
な、なんで?
不思議なのは、ロイが何も言わないことだ。
いつもなら、自分にディーや他の人がが抱きつこうものなら、ましてや口説こうとしたら、すぐに怒るくせに、今のこの密着した状態でも、ディーの手が太ももに置かれていることにも、何も言わない。
一体2人の間に何があったのか。
それがすごく気になってしまう。
2人は自他とものに認める大親友。
それが何か関係しているんだろうか。
自分が知っているのは、ここ3ヶ月の2人だけ。
それ以前の2人の関係は、ディーから教えてもらった話しかしらない。
どういうことー???
2人の関係がわからなくなる。
でも、これだけははっきりしている。
ロイは自分の恋人で、ディーはその親友で、今自分を口説いている。
それが現実。
混乱が脳を駆け巡る。
2人にはさまれて、時折足を撫でられ、両側からスンスンと臭いを嗅がれる。
ひー!!!
この状況の答えを!!!
誰か教えてください!!!
心の中で、その誰かを必死に探した。
あっという間に騎士たちが天幕を立て、食事の準備に取り掛かる。
村でたくさん持たせてくれた食材を使って、野外バーベキューのような、野営にしては豪華な食事が出来上がる。
「ショーヘイさん、体調はもう大丈夫ですか?」
アシュリーが聞いてくる。
「ああ、もう大丈夫だよ。村でゆっくり休ませてもらったし」
食事しながら雑談に花を咲かせる。
全員で後片付けをして、明日の行程を確認してから就寝となる。
ランドール家の天幕には自分たちいつもの4人。騎士の天幕には6人が入るが、自分以外が順番で火の番と見張りにつく。
「それじゃあ、おやすみなさい」
自分以外はまだ焚き火のそばにいたが、早々に1人天幕に入った。
翔平が天幕に入るのを、ディーが目で追いかける。
しばらく焚き火で雑談していたが1人、また1人と天幕に入っていく。
グレイも天幕に入り、最初の見張り2人とロイ、ディーが残った。
ロイが立ち上がると、周囲を見渡す。
「ディー」
座ってるディーに声をかけた。
「ちょっといいか」
指でちょいちょいっと来いと合図されて、返事をせずに立ち上がると黙ってロイの後ろをついて行く。
見張り番のアーロンとクリフは何も言わずに黙って見送る。
2人が親友であることは全員が知っているし、何か自分達には聞かれたくない大切な話があるんだろうと、不思議にも思わなかった。
天幕からだいぶ離れて、ロイが遮音魔法を周囲にかけた。
「何ですか?」
「お前、ショーヘーに何をした」
ロイの声が怒っているのがわかる。その口調にディーは薄ら笑い、やっぱりか、と思った。
ロイにはすぐにバレると思った。
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「答えろよ」
「好きだと伝えました。愛していると」
いつも通りの声のトーンで話し、ニコリと笑う。
「どういうつもりだ」
「どういうつもりも何も。私はただ自分の気持ちを伝えただけです」
そう言ってお手上げのような仕草をする。
「ああ…。キスもしました。赤くなって、可愛かった」
クスッと笑う。
その言葉にカッときたロイがディーの胸ぐらを掴む。
「てめぇ…」
そんなロイに失笑した。
「俺とショーヘーが…」
「知ってますよ。愛し合ってることくらい。周知の事実だ」
ロイのセリフに被せて苛立つように言う。
「愛し合ってるから、私がショーヘーさんを好きになってはいけないんですか? 告白してはいけないんですか?」
ディーのその言葉に乱暴に手を離す。
「いつからだ」
「割と早いですよ。オーバーフローの前くらいですかね」
それを聞いて、ディーが翔平に出会って10日くらいで好意を抱いたとわかった。
それから今までずっと翔平を想っていたのに、全くそんな素振りを見せなかった。
むしろ、自分と翔平を応援するような、態度や行動を取っていたのに。
あれは演技だったということか、と渋い顔をする。
「俺からショーヘーを奪うつもりか」
そう言われて、思わず笑う。
「ハハッ、奪う? 出来るわけないでしょう。貴方達は愛し合っているのに」
ディーの態度と言葉に眉根を寄せる。
「叶わない恋だって、もうわかってますよ」
ディーの声が大きくなる。
「じゃぁ、なんで」
「告白したか?」
ロイが頷く。
「矛盾してるだろ」
「そうですね。矛盾してます」
フゥとため息をつく。
「抑えられなかったんです。自分の感情が」
そう言われて、あの峠で翔平が奪われた時、泣き叫んだディーを思い出す。
あれほど感情を剥き出しにしたディーを初めて見た。
今ディーから話を聞いて、あの行動が翔平への想いからきたものだったと理解出来る。
思い返せば、あの時からディーの行動は少しいつもと違っていたと、今更ながら気付く。
翔平が奪われたあの瞬間から、ディーは翔平への想いを抑えられなくなったんだろう。
「ショーヘイさんから、告白の返事はもらっていません。
聞くまでもないですがね。
……安心してください。ショーヘイさんは貴方を選びますよ」
ディーが自虐的に笑った後、ロイを真剣に見つめる。
「彼が欲しくてたまらない」
ディーのその目が本気だと語っていた。
何かを欲しがってこんな目をするディーを見るのは何年振りだろうと思った。
「意外です」
ディーが苦笑した。
「何が」
「もっと怒るかと思ってました」
そう言われて、少しだけ考える。
確かに、最初は怒りが先行した。俺のものに手を出しやがってと怒りが沸き起こった。
だが、言われた通り、今の自分は冷静だ。
「…お前だからか…」
ポツリと呟く。
その言葉に、ディーがグッと口を真横に結び、徐々に泣きそうな表情を作る。
「狡いな…。
ロイにバレたら、もう親友ではいられなくなると思ってました。
これでも、かなり覚悟してたんですよ」
「ディー…」
「ショーヘイさんが好きです。でも貴方を失いたくない。
もう頭の中がぐちゃぐちゃですよ。
矛盾だらけで、おかしくなりそうだ」
そう言って自虐的にアハハと笑う。
「ディーゼル、お前は俺の親友だ。何があろうとそれは変わらん」
ロイの言葉に目に溜まった涙を拭う。
「嬉しいですよ。そこまで信頼してくれて」
ニコリと笑う。
「ロイ、私がショーヘイさんを愛している事実は認めてください」
「…わかった。お前だから許す」
ロイが苦笑しつつもはっきりと言った。
自分でも、そう返事したことに驚く。
「ありがとうございます。
ロイ、ちゃんと、ショーヘイさんを捕まえておいてください」
ポンと、ロイの胸を拳で叩いた。
そして、静かにその場から離れて行く。
1人になり、目を閉じてゆっくり深呼吸し、ディーのことを考える。
12歳で知り合った。
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だが、全く聞き入れてもらえず、半ば無理やり腕を引っ張られて連れて行かれる。
行きたくない理由はディーと会えば殴り合いの喧嘩になるからだが、他にも理由があった。
ディーゼル殿下の友人候補とかで、他にも何人か貴族の似たような年頃の奴らも必ずいた。
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その時が一番苦痛だった。
ロマやギルバートが自分の後見人となっているが、自分は平民だ。貴族の子息令嬢と話が合うわけもない。かつ、かなり馬鹿にされていた。
ディーに擦り寄る虫扱いされ、顔が良いのを揶揄われ、友人候補ではなく、愛人候補とまで言われた。
苛立ちが絶頂を迎える頃にディーが現れ、その苛立ちをぶつけるように、ディーと喧嘩になる。
その日も同じだと思っていたが、自分にとっては言ってはならないことを、どっかの貴族子息に言われた。
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顔が良いから拾われた。
その言葉に、一瞬で頭に血が上った。
立ち上がって、その子息を殴ろうとし
たが、自分が殴る前に、部屋に入ってきたディーがその子息を殴った。
ボコボコに殴り、ディー付きの執事が止めに入るまで、殴り続けた。
「行くぞ」
そう言って、手を掴まれ引っ張られ、部屋から連れ出された。
自分が殴ろうと思ったのに、ディーにその行動を奪われて苛つきながらも、なぜディーが殴ったのかがわからずに、黙ってついていく。
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「お前、親がいないのか」
「いない。2年前に殺された」
「そうか。俺と一緒だな」
ディーにそう言われてポカンとする。
その日は、ただ無言で過ごし、お茶を飲んで帰った。
帰ってから、ロマにディーの親のことを聞いてみる。
「ディーゼル殿下も、2年前にお母様、王妃様を亡くされてるんだよ。お前と同じさね。王妃様も殺されたんだ」
その言葉を聞いて、ショックを受けた。俺と一緒だな、と言ったディーの顔を思い出す。
それから、ディーの所へ行っても自分以外の子息令嬢に会うこともなく、真っ直ぐにディーの自室に案内されるようになった。
最初は何を話せばいいかわからなかったが、ディーに見せられた亡くなった王妃の姿絵を見て、ディーにそっくりだと思ってそう伝えた。
「だろ? 妹のユリアなんて、たまに俺のことをママって呼ぶんだぜ?」
「あはは、そりゃないわ」
2人で笑う。
お互いに親を殺された者同士。
そこから仲良くなって、親友になるのは早かった。
1年の半分以上を王宮で過ごし、ディーと同じように、教育を受けた。
ディーは大きくなるにつれてどんどん母親に似てくる。
そのせいか、ディーの兄たち、妹がディーを引くくらい溺愛するようになって、それに反発するようにディーは王宮から抜け出して、街で遊ぶようになる。
その時に、下町のガキ大将だったグレイにも出会った。
勉強して、訓練して、遊んで。
ディーゼルは俺の一番の理解者だ。
そう公言できるような関係だった。
自分も、ディーの一番の理解者だと、思っている。
まさか、1人の男に同時に惚れるなんてな。
はぁ、とため息をついて笑う。
過去を思い出して、ディーの性格や、自分が知っているディーの恋愛遍歴を考えれば、ディーが翔平に惚れるのは当然なのかもしれない、と思った。
ディー本人は気付いていないだろうが、思慮深くて感情も表情も豊な人を好きになる傾向がある。まさに翔平が当てはまる。
それは親友だから、ずっと隣にいたからわかる。
翔平はそれに加えて頭もなかなか切れる。
元の世界での知識なのか、年上のせいなのか、かなり鋭い発言もする。
「まんまディーのタイプだな」
1人呟く。
先ほどのディーの発言から、かなり本気なことはわかった。
だが、これだけは譲れない。
翔平は絶対に渡さない。
叶わない恋だと、ディーはそう言ったが、ディーの性格上、絶対に諦めていないはずだ。
俺に捕まえておけ、と言ったのは、ディーから翔平を守れ、ということだ。
親友だから、一番の理解者だからこそ、わかる。
欲しいのに、守れという。
かなり矛盾している。
「不器用なやつ」
そう呟いて笑った。
「えっと…」
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なのに、今自分はロイとディーにの間にはさまれて座っている。
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「立ち上がると危険ですって、昨日言ったでしょ?」
「俺の膝に座るか?」
2人にしっかりと腕を押さえ込まれて、体をはさまれて密着される。
ど、どーしてこーなった。
ぐるぐると思考が回る。
向いに座っていたグレイが腕を組んで、小さくため息をつく。
最近、ディーの様子がおかしいとは思っていたが、その理由が目の前の光景だと理解する。
翔平に目で助けを求められるが、自分がどうこう出来る問題でもないし、翔平には悪いが、関わり合いになりたくないと思ってしまった。
ご愁傷様。
心の中でそう呟き、目を閉じた。
昨日の夜、1人先に天幕に入り、すぐに横になる。
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だが、答えは真剣に悩まなくてもすぐに出た。
自分はロイが好きだ。愛している。
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ロイを裏切ることになる。出来るはずがない。
裏切るという行為が、いかに卑劣で、恐怖を与えるのか、身をもって経験している。
それだけは絶対ない。
ディーにきちんと伝えて、諦めてもらおう。
今朝のディーのせつなげな表情や馬車での行動を思い出すと、かなりモヤっとするが、それを頭の中から追い出して、結論を出す。
そして次の日、2人の間にはさまれる。
何となくではあるが、察した。
ロイにバレていると。
ディーがロイにも打ち明けたのか、ロイが気付いたのかはわからない。
だが、ディーがロイの前で、あからさまに自分を口説いているとわかる。
な、なんで?
不思議なのは、ロイが何も言わないことだ。
いつもなら、自分にディーや他の人がが抱きつこうものなら、ましてや口説こうとしたら、すぐに怒るくせに、今のこの密着した状態でも、ディーの手が太ももに置かれていることにも、何も言わない。
一体2人の間に何があったのか。
それがすごく気になってしまう。
2人は自他とものに認める大親友。
それが何か関係しているんだろうか。
自分が知っているのは、ここ3ヶ月の2人だけ。
それ以前の2人の関係は、ディーから教えてもらった話しかしらない。
どういうことー???
2人の関係がわからなくなる。
でも、これだけははっきりしている。
ロイは自分の恋人で、ディーはその親友で、今自分を口説いている。
それが現実。
混乱が脳を駆け巡る。
2人にはさまれて、時折足を撫でられ、両側からスンスンと臭いを嗅がれる。
ひー!!!
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偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
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