おっさんが願うもの 〜異世界行ったらイケメンに大切にされ、溺愛され、聖女と呼ばれ、陰謀に巻き込まれ。それでも幸せ目指して真面目に頑張ります〜

猫の手

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王都編 〜パレードから謁見そして再び囮へ〜

95.おっさん、面会する

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 俺の部屋で、3人とギルバートも昼食をとることになり、次々と食事が運ばれてくる。
「美味そ」
 テーブル並べられた食事にごくりと喉を鳴らす。
「ショーヘイ君、色々大変でしたね。聞いてますよ」
 ちゃっかりと俺の隣に陣取ったギルバートが俺の手を取り、優しく撫でる。
「全く、貴方達や騎士が6人もついていながら…。弛んでますね」
 ギルバートの目の奥が揺らめき、じろっと見られた3人が、ギルバートの圧でグッと口を結んで冷や汗をかくのがわかり苦笑した。
「ランドール卿」
「ギルとお呼びください」
「…ギル様、3人がいなければ俺は今ここにいませんよ」
「君は優しいですね」
 微笑みながら俺の頬を優しく撫でる。
「是非私にも君の優しさを…」
「ギル」
 ロイがムッとして睨みつけるが、ギルバートには全く効果がない。
 この人は相変わらずだな、とギルバートを見る。人を揶揄って遊ぶのが生きがいなのではないかと思うほど、冗談で煽るのが上手だ。

 昼食をとりながら、道中あったことを話し、時折笑いも起こる。
 結局、なんだかんだ言っても、ギルバートは3人のことを認めている。
「お前達、4ヶ月の長い間ご苦労でしたね。
 ショーヘイ君が笑顔でここにいることが、お前達が任務を完遂したことの何よりも証拠です」
 ギルバートが3人を笑顔で褒める。
 それはそれで居心地が悪いのか、3人とも微妙な表情をした後、はにかみながら笑顔になった。

「それはそうと…」
 ギルバートの目線が俺たちのピアスに向いた。
「それを外すことは出来ませんか」
「無理だね」
「嫌ですよ」
 ロイとディーが即答する。
 ギルバートが言わんとしていることがわかって、俺は苦笑した。
「レイブンから状況は聞いたでしょう?」
「ああ、聞いたよ。ショーへーを囮に…」
「そうですね。ショーヘイ君を囮にすることには、私も反対です。
 ですが、そうせざるを得ない状況であるということも考えなさい」
 ギルバートの金色の目がロイとディーを見る。
「私やユリア様の情報網を持ってしても、簒奪者の姿が掴めない。
 これがどういうことか、わからない貴方達ではないでしょう」
 ギルバートの言葉に、2人が黙り込む。
「ショーヘイ君が手に入らないとわかれば、すぐにでも暗殺へシフトしてくるでしょう。
 ペアピアスをつけているだけで、彼を危険に晒すことになるということがわかりませんか」
 ギルバートの言葉に誰も何も言えない。

 昨日、ピアスについては何も問題ないという話になった。
 だが、昨日グレイも言っていたが、このピアスをつけているだけで公表しているのと同じなのだ。

 レイブンもサイファーも、問題ない、とは言った。
 だが、それは彼らの優しさなのだ。

 政治に関係のない俺を巻き込んでしまうこと。
 息子の伴侶になる俺を囮にすること。
 俺に手を出そうとする奴らを、2人が黙認して我慢しなければいけないこと。
 
 諸々に対してレイブン達は俺たちに負い目を感じている。だから、本当はピアスを外してほしくても言えなかった、と悟った。


「囮らしく、か」
 ボソッと呟く。
「ロイ、ディー。決着がつくまで、ピアスは外そう」
「ショーへー!」
「ショーへーさん!」
 2人が勢いよく立ち上がる。
「やっぱり、ピアスをつけていることは公表しているのも同然だよ。
 ピアスのせいで、きっと敵は俺に近寄って来ない。それじゃ意味がないよ」
 ロイもディーも何も言えず、ただ悔しそうに口をつぐんだ。
 何も言えない様子を見ると、彼らも本当はわかっていたと察する。
 囮にされても、ピアスがあるから深入りはしてこない。どこかでこのピアスが防御壁になると、そういう考えがあった。
「だが、もうすでに謁見式で見られてるぞ。それはどうするつもりだ」
 グレイが1人落ち着いて聞いてくる。
「それは護衛するにあたっての作戦だったことにすればいい」
 俺のセリフにギルバートが目を細める。
「表向き、俺たちは何も関係がない。ただの護衛と保護対象。
 そう見せないと、意味が、ない」
 何も関係がない、と自分で言って悲しくなる。涙が出そうになるのを必死に堪えた。
「私も全力で黒幕を調べています。あらゆる手を使って、それこそ武力行使も厭わずにね。
 だが、その影すら掴めない。
 そんな相手に、小手先の策略なんて通用しませんよ」
 ギルバートが忌々しげに語る。
「今日の予定が済んだ後、詳しく説明しましょう。
 時間をあけておいてください」
 そろそろ時間です、とギルバートが立ち上がり、席を離れる。
「また謁見の間で」
 そう一言だけ告げて、見送りもなく静かに部屋を出て行った。


 一気に空気が重たくのしかかり、立ったままだった2人が崩れ落ちるように椅子に座った。
「ロイ…、ディー…」
 2人を見ると、複雑な表情で俺を見た。
「ピアスがなくても、俺はお前達を愛してる。それは真実だから…。忘れないで」
 ポロッと涙が落ちた。
 俺の涙を見て、2人の顔が歪む。
 席を立ち、俺を抱きしめた。

 たかがピアス。
 だけど、2人が俺に贈ってくれた愛の証。
 2人がそばにいない時、無意識にピアスに触れる癖がついていた。
 それだけ、俺の中でこのピアスは大切なものになっていたことに、今になって気付かされた。

「大丈夫。ピアスを外しても、お前達がいなくなるわけじゃないし」
 涙を拭って笑う。
「そうですよ。嫌だって言ってもそばにいますから」
「まとわりついて、ウザいくらいにな」
 3人で抱きしめ合い、その暖かさを確認した。

 大丈夫、大丈夫だ。

 何度も何度も思い込むように自分に言い聞かせ、ピアスを外した。
 グレイが、部屋のキャビネットの引き出しから、小さな箱を見つけると3人へ手渡す。
「今はこれに入れとけ」
 受け取って、2対のピアスをしまい、再びキャビネットに戻した。
「お前らは大丈夫だ。それは俺がよく知ってる」
 グレイが笑う。
「やっぱり、グレイはお父さんみたいだ」
 そう言って笑うと、ロイが破顔して、グレイにパパ、と呼びかけ叩かれる。
「行きましょうか。陰謀渦巻く世界へ」
 ディーが不敵に笑い、おっかねー、とロイが笑った。




 ギルバートと別れた後、再び謁見の間に戻る。
 サイファーだけが謁見の間に残り、レイブン達の姿はなかった。
 俺たちの耳にピアスがないことにすぐに気付き、「ありがとう」と口が動いたのがわかった。

「上の者から紹介して行く。まずは…ギルはよく知っているな」
 つい先ほどまで一緒に居たギルバートが改めて俺の手を取ると口付ける。
「これからもどうぞよろしく」
「はい。こちらこそ、よろしくお願いいたします」
 ニコリと微笑むと、ギルバートがそっと耳打ちし、その言葉にポッと赤面する。
 そんな俺に、護衛のためにすぐ後ろに控えていた3人が呆れ顔でギルバートを睨む。
 何を言ったのかは、聞かなくても翔平の反応でわかった。
 ギルバートが手を振って立ち去ると、すぐに次の貴族を紹介される。
「ジョセフ・アルベルト公爵」
 ランドール、ベネット、アルベルトが三大公爵家となる。
「聖女様、お初にお目にかかります」
 俺よりもずっと背の低い、全体的にころんと丸い感じの初老の男性が、ニコニコと俺の手を取って口付ける。
 そのお尻から、短く小さな犬の尻尾がピコピコ揺れて、笑いそうになる口元を堪えた。
 可愛い、というのが第一印象だった。
「ショーヘイです。よろしくお願いいたします」
 アルベルト公爵、領地持ち、丸くて可愛いおじいちゃん、伴侶は人族の女性と、犬族の男性。
 頭の中で箇条書きにして記憶する。

「次に、侯爵家だ」
 マース家、テイラー家、ジェンキンス家、シギアーノ家。
 4つの家の当主と伴侶を紹介された。
 特筆すべきは、やはりシギアーノだった。
 ドルキア砦で、3男のセシル・シギアーノにされたことを鮮明に思い出す。
「聖女様…、我が息子がとんでもない粗相を…」
 挨拶もそこそこに、深々と頭を下げられる。
「彼には彼の考えがあってのことでしょうから」
 賎民思考全開だったセシルの父親だ。おそらく彼もそうだろうと思いながら、嫌味を込めて返事をすると、隣でサイファーが口元を歪ませ、笑いを堪えているのがわかった。
「息子は廃嫡とし、今は修道院に」
「そうですか」
 言葉に被せる感じで、話を打ち切る。
 その俺の態度に、シギアーノがピクリと反応する。
「しかしながら息子も見る目がありませんな。聖女様のようないい男に気付きもせんとは」
「いい男だなんて…」
 わざと、照れたような態度と言い方をすると、シギアーノが勘違いして鼻息を荒くする。
「聖女様には是非名のある方と縁を持たれた方がよろしいですな。
 もしよろしければ一度我が領地へ足をお運びください。
 我が領地の花を是非ご紹介させていただきたい」
「機会があれば是非。どうかこれからもよろしくお願い申し上げます」
 ニコリと微笑み、丁寧にお辞儀をした。
 その俺にシギアーノは頬を紅潮させて俺の全身を舐めるように見た後に、再び俺の手へキスをする。
 が、そのキスは挨拶のようなものではなく、明らかに下心のあるいやらしいものだった。

 花…ね。

 シギアーノが言った花が、植物ではないとすぐに理解していた。
 隣にいるサイファーをチラッと見ると、口元はニヤついていた。


 続いて伯爵家6家の内、イグリットを除いた5家が紹介された。
 その中にフィッシャーの姿があり、思わず破顔する。

「フィッシャー伯、お世話になりました」
 丁寧にお辞儀をして、彼からも挨拶を返される。
「謁見式はお見事でしたな」
 にこやかに褒められ、嬉しくて破顔する。
「騎士の皆様にも、近いうちにお礼に伺います」
「いえいえ、それには及びませんよ。貴方が来れば、お祭り騒ぎになってしまう」
 フィッシャーの言葉に、おっさん騎士達の騒ぐ姿がありありと想像出来て声に出して笑った。
「皆様によろしくお伝えください」
 ニコニコと握手を交わし、フィッシャーが手を振って去って行く。


 そして子爵家8家の紹介が始まり、バーナード家当主、ウィルの父親に出会った。
「息子から大変素晴らしいお方だと聞き及んでおりました」
 ウイルと同様、優しく穏やかな口調に気持ちが和む。見た目もどこかウィルに似ていて、ホッとした。
「ウィリアム様には、本当に色々なことで助けていただいて。感謝しております」
 丁寧にお辞儀をして感謝を伝える。
「もったいないお言葉でございます。
 謁見式で、仕事を、と望まれるのを聞いて感動致しました。
 どうかこの国をお守りくださいますよう、お願い申し上げます」
 ゆっくりと頭を下げた後、ニコリと微笑む。
「こちらこそ、ご指導ご鞭撻、よろしくお願いいたします」
 同じように頭を下げ微笑み返す。

 いい人だー。

 心の中でほっこりした。


 さらに、ゲーテで会ったダニエルに再会する。
「やぁ、聖女さん。あの時は失礼したな」
 正式な場であるはずなのだが、何故かだらしなく見えるのは何故だろうと、苦笑した。
 歩き方もどことなく猫背で、娼館でだらしなくシャツの前をはだけて娼婦と男娼を両脇に抱いていた彼と、目の前にいる正装の彼が同じにように見えてしまう。
「失礼だなんてそんな。
 お尻を鷲掴みにされたことなんてありましたっけ?」
 そう言うと、ダニエルは一瞬目を丸くして、大きな声で笑った。
「ロイ。今度聖女さんとうちに遊びに来いや」
 俺の後ろにいるロイに言い、最後にピッと背筋を伸ばすと、貴族らしい顔つきになり、静かに手にキスをする。
「また是非お目にかかりたい。出来ることなら口説かせていただきたい」
「機会がございましたら」
 互いに微笑みで牽制しあう。
 後ろに控えていたロイとディーは、ムッと口を結んで最後にダニエルを睨みつけ、ダニエルはそんな2人にウインクして去って行った。


 最後に男爵家7家の紹介で無事に全ての貴族当主との面会が終わり、一旦控室に下がった。
 メイドたちがお茶を淹れて立ち去った後、俺は机に向かって、記憶が鮮明な内に一心不乱に紹介された人達の特徴諸々をメモを取る。後で清書するからと、走り書きで箇条書きで書き込んでいく。
「なぁ、ショーへー」
「今、話しかけないで」
 ロイが甘えてくるような声を出したが、ビシッと手で制し、書き続ける。
 一緒に控室に来たサイファーが口を半開きにしてディーを見た。
「いつもあーなのか?」
「いつもじゃありませんけど…まぁ、基本、真面目ですから…」
 ディーが兄に翔平が何を書いているのか説明し、サイファーが笑った。



 休憩ののち、今度は国を支える各局の説明と局長、副局長や側近たちを紹介された。
 局の説明は事前に受けていたため、ある程度は理解できていたが、人物を紹介され、その人数の多さに記憶容量がすぐにいっぱいになってしまった。
 全部覚えるのは無理だとすぐに諦め、気になった人だけを覚えることにする。

 先ほど紹介された貴族達が局長であるため、その部下達を紹介されるのだが、世襲制であるため、どこそこの息子、娘、第何子であるか、という説明の方が多かった。
 さらに、その子息子女達の説明で、必死に俺にアピールしてくる親や当人達が多くて、辟易する。
 これも囮の役割の一つだと、誘いをかけてきた人物を記憶に残す。
 他に数名、平民出の役職付きも居て、何人かは記憶に残った。

 夕方になって、ようやっと全ての人物の紹介が終了し、自室に戻る。
 自室に戻った後すぐにメモを取り始めた俺に、3人が呆れ顔でただただ見守る。
「ショーへーが全然かまってくれない…」
「仕方ないですよ…」
 ロイとディーが寂しそうにソファで項垂れ、グレイが同じようにソファに座りつつ、大きな欠伸をした。


 さらにその1時間後、王族と有力者達が勢揃いした夕食会が開かれる。
「あともうちょっと…」
 背筋を丸めてため息をつく。
 謁見式から後、紹介、挨拶、紹介、挨拶、とずーっと同じことを繰り返し、そろそろ集中力が切れ始めていた。
「夕食会で今日は終わりですから、頑張ってください」
 ディーがそっと俺の背中を撫でてくれる。
「あともうちょっと…」
 同じセリフを繰り返し、背筋を伸ばすと大きく伸びをした。
「よし、もう一踏ん張りするか」
 フンと鼻を鳴らし自室を出る。


 夕食会には先ほど紹介された面々に加え、レイブン達王族も揃っている。
 差し障りのない会話しかしない、騙し合いのような会話が続き、俺も聞かれたことしか答えないようにしていた。
「聖女様のご出身はどちらですかな」
 シギアーノが、賎民意識全開で聞いてくる。
 聖女とはいえ、平民出だと馬鹿にしているのがありありと伝わってきた。
「申し訳ありません。記憶がないのです」
「記憶がないとは…?」
「この力に目覚めた時、魔力の暴走を起こしまして。
 その時たまたま通りかかった殿下とロイ様、グレイ様に助けられました。
 目が覚めた時は、名前しか覚えておらず…」
 静かに、過去を思い出すような演技をしつつ話す。
「あの時は驚きました」
 3人も俺の嘘に便乗する。
「突然光の柱が立ち上って、何事かと思いましたよ」
 グレイが実際に見た翔平の魔力暴走を思い出す。
「助けた後、近隣の村に聞いても、村の者ではないと言うし」
「色々と話を聞いている内に、彼の魔力量が尋常ではないとわかりました」
「で、もしかしたら俺たちは聖女降臨の現場に居合わせたのかと」
 ロイが感情を込めて、迫真の演技をする。
「記憶もありませんし、そのまま放置するわけにもいきませんので、とりあえず一緒に旅をすることになったわけですが」
「モンスターブレイクに遭遇しまして」
「その一件で彼が聖女であると確信しました」
 3人がスラスラと嘘八百を並べ、顔は微笑みつつ、心の中でゲラゲラと笑っていた。
 聖女発見の筋書きはある程度出来ていたが、こうして実際に話をすると、本当に他人事のように聞こえるから面白い。
「本当に皆様には助けて頂いて感謝しております」
 それは本心のため、にこやかに3人へ笑顔を向ける。
「旅がしたいと言うので送り出したが、まさか聖女を連れて帰るとは思わなんだ」
「しかも1週間くらいの予定が4ヶ月とはね」
 レイブンとサイファーが呆れたように言う。
「父上、それは言わないでください。
 聖女様だと気付かれて、狙われることもあったのですから。
 彼を保護するにあたって、襲撃者の手から逃れるために大幅に迂回してきたのです」
 ディーがここで、聖女が狙われたこと、襲撃の話を持ち出す。
 ささっと列席者の反応を全員で確認した。
「襲撃とは…?」
「ご存知でしょう? 聖女教会ですよ」
 ディーがわざとらしく苦笑する。
「あ、ああ…あの宗教もどきか…」
 シギアーノが若干言い淀んで、教会に聖女がどういう目的で狙われたのか妄想しているのか、嫌な視線でじっと俺を見た。
「それは大変でしたね…」
 丸くて小さなアルベルト公爵が同情の目を向ける。
「途中、王都へ聖女降臨の連絡を入れましたので、騎士団の護衛もつき、ようやっとお連れすることが出来たんです」
「もしかすると、転移魔法陣の破壊工作も聖女教会が…?」
 ジェンキンス侯爵家当主、アーノルドが聞いた。
「可能性はあるが、目下調査中だ」
 テイラー侯爵家当主、マキアスが答える。彼は司法局局長でもある。
 挨拶した時もそうだったが、このマキアスは、一切余計なことを言わず、淡々と話し表情も変えない男だった。
「いやぁ、それでもロマ様が魔導師団とともに各地の修復に向かってくれたおかげで、そろそろ全て復旧しますかな」
「近日中に、全転移魔法陣が使用可能となるだろう」
 レイブンが答える。
「何にせよ、あの伝説の聖女様をこの国にお迎え出来るとは。我が国も安泰ですな」
 シギアーノがワハハと笑う。
「聖女様は、あれですか?ヒールなどの回復魔法を主に?」
 よく喋る男だ、と思いつつ、チラッとレイブンへ目線をやりつつ、答える。
「攻撃も防御魔法も使いますよ」
「戦う聖女様、そう呼ばれていましたね」
「た、戦う?」
 シギアーノが少しだけ怯んだ。
「大型犬程度の魔獣であれば一撃ですね」
 グレイが笑いながら言う。
「そ、そうですか…。それはなかなか…」
 シギアーノは黙り込み、それ以上何も言わなかった。

 それ以降、聖女に関しての話題から離れ、そろそろ冬を迎えるにあたって、農作物の収穫や備蓄についての話題に切り替わった。


 そのまま夕食会は終了し、各々が王へ挨拶して会場を出て行く。
「私は少し打ち合わせをしてから戻ります」
 ディーが残り、3人で席を立つと、レイブン達に挨拶をして自室へ戻った。



 自室へ到着してすぐに、盛大にため息をつく。
「はあああぁぁぁ終わったああぁぁ」
 ぐったりと体を投げ出してソファに沈み込む。
「まだ終わってねーぞ。ギルの話が残ってる」
「うん、わかってるー」
 ソファの背もたれにのけぞって天井を見上げて言うと、ノックとともにマーサ達が入ってくる。
「湯浴みいたしますから、ロイ様とグレイ様は一度ご退室くださいませ」
 ニコリと微笑み、有無を言わさずに2人を追い出す。
 グレイは一度宿舎に戻ると言い、ロイも湯浴みが終わる頃に戻ってくると出て行った。

 マーサのマッサージを受け、緊張して強張った体を解される。
 1時間ほどで湯浴みを終え、後片付けをして出て行ったマーサと入れ違いにロイが戻ってくる。
「あれ?俺が一番最初?」
「ああ、まだ誰も」
 その途端ニヤァとロイが笑う。
「ショーへー」
 当然のようにギュウッと抱きしめられて、クンクンと匂いを嗅ぐ。
「あー…いい匂い…」
「お前、もう癖になってるな」
 首筋や耳の辺りに顔をすりすりと寄せる様子に笑う。
「戻ってくるまでまったりしようか」
 軽く俺からチュッとキスしてやると、ロイが顔を赤くして嬉しそうに笑う。

 フカフカの絨毯の上にクッションを置き、ベッドを背もたれにしてロイが座ると、両手を差し出して、おいで、と微笑む。
 その様子にクスッと笑うと、メモ帳を2冊持って、ロイの胸に背中を預けると、俺を後ろから抱きしめてクンクンと匂いを嗅ぐ。
「くすぐったい」
 時々鼻先がうなじや耳に触れてくすぐったくて身を捩る。
 メモ帳をパラパラ開き、今日書き込んだことを見ながら、もう一冊のメモ帳へ清書していくのをロイが後ろからじっと眺めていた。
「きったねー字w」
 乱雑な走り書きを見て、ロイが笑う。
「うるせーな、急いで書いたから仕方ないだろ。読めればいいんだよ」
 文句を言いつつ振り向いた俺の唇を奪う。
「ショーへー、好きだよ」
「ああ、知ってる」
「ショーへー、愛してるよ」
「ああ、知ってるよ」
 クスクスと笑いながらまったりとした時間を過ごした。
 こんな時間がすごく嬉しいと思う。
 ずっとこのままでいたい。


「ロイ、好きだよ。愛してる」


 振り向いてロイに告げ、何度目かの口付けをかわした。



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