おっさんが願うもの 〜異世界行ったらイケメンに大切にされ、溺愛され、聖女と呼ばれ、陰謀に巻き込まれ。それでも幸せ目指して真面目に頑張ります〜

猫の手

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王都編 〜狩猟祭 プロポーズ大作戦〜

171.おっさん、見守る

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 狩猟祭2日目が始まって2時間。
 昨日と同様に、狩りに出て2時間ほどではまだ誰も戻ってこない。
 ランキングも昨日の終了時点のままで変動はなかった。

 お昼近くになってポツラポツラと戻ってくる参加者達が出てくるが、どの獲物も平均以下の小さいものばかりで、ランキングの100位以下が入れ替わるだけで、上位のランキングの変動はなかった。

「聖女様、メルヒオール殿下やバシリオ殿下から魔石を頂いたとお聞きしましたわ」
 ブリアナがうふふふと楽しげに微笑む。
「是非、その場面を見たかったですわ」
 そう言われてはははと乾いた笑いで返した。
「そういえば…。この魔石って、何か使い道あるの?」
 言いながら、目の前にあるケースを開けて中から赤い石を取り出して眺めた。

 2日目が始まってすぐ、昨日取れた魔石の中から一番大きい物を選んで、アルベルト公爵家のディーンが俺に贈ってきた。
 大きさは3センチほどで、それを見たブリアナが「平均的な大きさですわね」とつまらなさそうに言った。

「魔石は動物の体内で魔素が結晶化されたものだというのはお話しましたよね」
 シェリーが口を開いた。
「魔石は魔素そのものです」
 そう教えてもらうがピンと来ない。
「魔鉱石と何が違うんですか?」
「魔鉱石は石に魔素が染み込み、魔力を帯びた石のことです。
 魔石は、魔素そのものなので、魔鉱石の数十倍の魔力を持っています」
「つまり…?」
「魔石も魔鉱石も魔道具の動力源として使われることが多いのですが、同じ魔法を付与したとして、魔鉱石では10センチの大きさが必要な所、魔石は1センチ以下の大きさで済む、ということになりますね」
「ああ、なるほど」
「単純に宝石としても綺麗なので、ただのアクセサリーにしてもいいのですが、ほとんどは何らかの魔法を付与した状態でアクセサリーにすることが多いです」
「防御魔法とか?」
「そうです」
「武器にも嵌め込まれたりしますよ。
 剣に埋め込んで、炎の剣にしたり、氷の剣にしたり」
 それを聞いて、おお、とゲームの世界の武器に興味が湧いた。
「騎士様がお持ちになってるその剣はいかがですか?」
 俺の後ろにいるオスカーにエリカが聞く。
「私のは硬化魔法が付与された魔石が嵌め込まれていますよ」
 オスカーが微笑みながら、腰に下げている長剣を外し、鞘に収まったまま俺に見せてくれた」
「ほら、ここにあるのがそうだ」
 その柄の根本に赤い魔石があった。
「硬化だけ?火とか出ないの?」
 ワクワクしながらオスカーを見上げる。
「残念ながら火は出ねぇなぁw」
「な~んだ」
 チェッとつまらなそうに言うと、オスカーが笑う。
「そういう武器が見たいなら今度騎士団に遊びに来い。
 炎の剣、氷の剣、雷光剣、よりどりみどりだ」
「マジで。絶対行くわ」
 真剣に言うとオスカーもジャニスも笑う。
「私達みたいに強くなると、逆にそういう魔法の付与は邪魔なのよ」
 オリヴィエがドヤ顔を決める。
「ただね、強すぎて剣がもたないの。だから剣の強度を上げるために硬化魔法の付与は絶対に必要なのよ」
 ジャニスもすごいでしょ、と鼻を鳴らした。
「なるほどね~。じゃぁ俺もこの魔石に何か付与して…」
「あ、それはやめた方がいいぞ」
 速攻で止められた。
「なんで?」
「そんな簡単じゃないんだよ。元々魔石が持ってる魔力と自分の魔力を融合させて、魔石の許容量ギリギリの所で魔法を刻むんだ」
「付与師になるには、何十年も修行が必要なのよ」
「へ~…」
 魔石に用途について詳しく教えてもらい、また一つこの世界のことを理解した。
 魔石を親指と人差し指でつまみ持ち上げ、じっと見つめた。


 魔石か…。


 その綺麗な赤い色を見つめ、あることを考え、薄く笑った。





 ステージ上では次々と戻ってくる参加者達の獲物が紹介され、点数がつけられて行く。
 だが、まだランキング上位に名を連ねたロイ達は帰って来ていなかった。
 ブラッドは今朝ハイメを連行するためにすでに会場を後にしたと先ほど聞いた。このまま10位以内をキープすれば、後日になるがきちんと賞金は支払われるそうだ。

 ランキングボードを眺めながら、50位以下が何度も入れ替わるのをボーッと見ていると、その背後の席の会話が耳に入ってきた。

「お聞きになりました?
 アラン様がシェリー様に魔石を贈られるそうですわ」
「聞きましたわよ。アラン様だけじゃありませんわ。ディーゼル様も、ロイ様もシェリー様に求婚なさるおつもりだとか」
「ジェローム様が失脚なされて、何の障害もなくなりましたものね」
「ほら、ディーゼル様もロイ様もお相手を探してらっしゃるって噂になっていたでしょう?」
「シェリー様は誰をお選びになるかしら」

 その話を聞いて、ザワッと全身に鳥肌が立ってしまった。

 噂を流したのは、アランの話だけだ。それがなぜロイとディーの名前まで出るのか。
 会話の内容に胸が締め付けられる。
 それ以上話を聞いていられず、すぐにランキングボードの前から立ち去り自席に戻った。
「どうかしたんですの?顔色が…」
 ブリアナが少しだけ青ざめた俺に気付き心配そうに覗き込んでくる。
「あ、いえ、大丈夫…」
 そう言って笑顔で取り繕うが、先ほどの会話が頭から離れなかった。


 違う。あれは噂だ。
 流したアランの噂から派生したデマ情報だ。


 そうわかっている。
 だが、嘘だとわかっていても聞きたくない内容だった。
「どうぞ」
 スッと俺の前にティーカップが置かれた。
 置いた人物を見上げると、キースが薄く微笑みながら俺を見ていた。
 そのキースの表情を見て、キースもまた噂を聞いたんだと気付いた。
 ティーカップを手に取り口をつけながら、チラッと横目でシェリーを見る。
 シェリーもまた噂を耳にしたんだろう。俺を気にしているようで、複雑な表情の笑顔を見せた。

 


 
 天幕の席で簡単な昼食を取った後、気分転換のために獲物の集積場の見学に行くことにした。
 シェリーは色々と運営側の仕事と、アレらの後始末が忙しくなってきたらしく、度々席を外しており、昼食の時にも戻って来なかった。もちろんキースもシェリーと一緒に行動しており、噂を耳にしたキースがどんな気持ちでいるのか、話をすることも、様子を伺うことも出来なかった。

「聖女様」
 集積場で狩られた動物を眺めていると、後ろから声をかけられる。
 振り返るとすぐに跪かれた。
「こちらを貴方に」
 ドルキア男爵長男のデニーだった。
「あ…」
 周囲に居た観客達がスーッと移動し、俺たちの周囲に人がいなくなり、注目を集めてしまう。
「あ、ありがとうございます…」
「どうか、真剣に交際を考えていただけませんか」
 見上げてくるデニーの顔を見て、その頭にある猫耳が、豹?チーター?とその種類を気にして、返事に遅れてしまった。
「聖女様?」
「あ、す、すいません…。
 申し訳ないのですが…、私はまだ誰ともお付き合いする気がなくて…」
「誰とも、ですか?」
 デニーが立ち上がると、俺の手を取って、魔石の入ったケースを握らせてくる。
「はい」
 目を見てそう答えると、デニーが笑った。
「良かった。誰か決めた人がいるわけではないのですね。
 それならば、私にもまだチャンスがある」
 ニコリと嬉しそうに笑い、手をギュッと握った。
「どうか、私のことを覚えておいてください。
 貴方をお慕いしております」
 そう言って、チュッと手にキスを落とし、ただの流れのような求婚ではなく、真正面からぶつかってきたデニーの告白に赤面した。
 ニコリとデニーが微笑み、そのまま立ち去っていく。
「いいなぁ、聖女様」
「俺もあんな風に告白されてみてぇ」
 周囲から観客達の声が聞こえ、ますます赤面した。
「も、戻るよ…」
 その場にいることが恥ずかしくなり、オスカー達に苦笑されながら足早に集積場を後にする。

 だが、戻っている最中にも、観客達の声が否が応でも耳に入ってくる。

 アランが、ディーが、ロイが、シェリーに求婚する。
 今3人は狩りの勝敗よりも、魔石を集めることに集中している。

 嘘だ。絶対に嘘だ。
 わかっている。
 わかっているけど。

 モヤモヤを抱えながら歩いた。






「キースさん、これはどのようにしたらいいかしら」
 シェリーが運営本部で、伝達魔鳥から受け取った情報を書面化したものをキースに見せる。
 それを受け取りサッと内容に目を通す。
「こちらはニコール様にお任せしてもよろしいかと思います。
 それよりも、こちらはシェリー様の承認と通達が必要ですね」
 キースが書類を返しつつ、別の書類をシェリーに渡す。
「ああ…なるほど。そうね…」
 今度はシェリーがその書類に目を通し、最後に承認のサインをしようとしたが、一度手をとめて考える。
「いえ、やっぱりこの部分は認められないわ…」
「では、この箇所だけ文面を少し変えられてはいかがですか。
 是とする、ではなく、対応を求めるに」
 キースの提案にニコリと頷くと、サラサラと書き直して、別の執事に渡し、作り直しを依頼する。



 すごいわ。
 どんどん進む。
 アレの失脚でこうなるのは予測していたし、睡眠を削る覚悟もしていたけど…。

 シェリーがじっとキースを見つめた。
 キースは次々と湧いて出て来る認可を求める書類を素早く分類別に分けていく。それだけではなく、後でもいいものに関してはさっさと後ろに回し、明らかに認可出来ないものに関しては、弾いてくれる。
 その手際の良さ、判断能力の高さに惚れ惚れした。


 アラン様が手放したくない、惚れ込むのもわかるわ。

 
 その仕事ぶりもそうだが、彼の立ち居振る舞いは非常に美しい。洗練された挙動は見ていて気持ちが良い。
 ペンを走らせながら、自然と顔が綻ぶが、不安を募らせる。

 あの噂、本当に大丈夫かしら…。






 今日1日だけの専属執事になるように命ぜられて、彼女のそばでサポートしているが、彼女の知能と、全体を見渡せる大局観に圧倒された。


 まるで、アランと仕事をしているようだ。


 アランもまた多種多様な案件を瞬時に把握し、判断を下す能力がある。
 意識の切り替えが尋常でないほど早く正確だった。
 数々の情報を頭の中で整理し最善の結果を出すように指示を出す。

 シェリーもまた同じように指示を出す。執事達、文官達の能力を見極めて仕事を割り振っている。
 素晴らしい女性だと思った。


 そんな彼女にアランが求婚する。


 その話を聞いた時、目の前が真っ暗になった。
 確かに、シェリーほど王族の伴侶に相応しい人物はいないだろう。賢く有能で、容姿端麗。周囲への気配りも出来る。

 相応しいと思うが、ただそれだけの理由でアランが求婚なんてするだろうか、と思った。
 きっとそこに愛はない。
 
 アランは私を愛していると言った。私だけだと。
 何年も拒んでいた私を諦めもせず、ずっと一途に想い続けてくれた。
 それなのに、彼女に求婚するなんて絶対にあり得ない。
 そうアランを信じた。信じている。

 だが、アランは王族だ。
 国のために、愛のない求婚をしてもおかしくはない。

 キースの中で嵐のような不安の風が渦巻く。

 アランを信じている。
 何年もずっと愛してきたから、そんなことをする人ではない。

 わかっている。
 わかっているけど。



 内心とは裏腹に、淡々と仕事を進める。
 


 

 狩りの終了まであと2時間を切り、シェリーとキースも会場に戻ってくる。
「キースさんのおかげで仕事が思った以上に捗りました。
 今日は眠れそうです」
 シェリーが笑顔で言い、徹夜する気だったの?と聞き返してしまった。
「1週間くらいお借りしたいわ」
 とシェリーに真剣に言われ笑ってしまった。
「お疲れ様、キース」
 キースに微笑むと、小さく微笑み返してくる。その表情に、キースの心の内が手に取るようにわかった。
 ああ、きっと不安になってる。けど、アランを信じているんだろうな、とその目を見て思った。
 あんな噂くらいじゃ2人の間に溝なんて出来るわけないか、と少し安心した。
 なんといっても約20年だ。
 ずっとお互いに想い合ってきて、こんな下世話な噂に惑わされるような愛なんかじゃない、と安心した。
 逆に俺の方が嘘だとわかっていてもこんなに動揺してしまったことに恥ずかしさを覚えてしまった。


 俺もまだまだだな。


 キースの愛情の深さに尊敬の眼差しを向けた。



 一気にステージ周辺が慌ただしくなる。一層盛り上がり、次々と戻ってくる参加者達に歓声が飛ぶ。
 それもその筈、獲物の難易度が一気に跳ね上がった。
「マルセル兄弟!!難易度14!アッガイだ!!
 点数は…365点!惜しい!だが、2位に浮上したぞ!!」
 初めて聞く動物の名前に、早速図鑑を開いてその姿を確認する。
 両腕に大きなハサミを持つ、体長6、7mの蟹のような姿だった。思わず茹でて食べるのかな、と蟹の味を思い出す。
 コンテスト上位の参加者達が次々と戻ってくる。
「ここからが本番よ」
 ブリアナがより一層ワクワクしていた。
 彼女が言ったように、一般の観客達の中でもプロポーズがいたる所で行われており、おめでとうなどと言った声も天幕まで聞こえてくる。
 さらに昨日は断っていたいた女性が、再び同じ人物から告白を受けて、今度は承諾する場面を目撃した。
 承諾された男性が嬉し泣きすると、女性が立ち上がり、しっかりと抱きしめ合う姿を見て、少しだけ感動してしまった。
 その時、ロイとディー、グレイがステージに上がる。
「現在1位のロイ!果たして獲物は…難易度14のガロン!
 点数は…これは意外だ!332点!それでもまだまだ1位はキープしているぞ!
 続いてディーゼル殿下!きたぁ!!4体目のゾマだ!!
 点数は…惜しい!368点!また2位が入れ替わる!!
 続いてグレイ隊長!!ロイと同じガロン!!
 点数は…360点!!
 目まぐるしく上位10位以内が変動していくぞ!!」
 ステージを見ながら、ディーも2位に浮上し嬉しくてニヤニヤが止まらない。
グレイも順位を上げたし、後はアランとアビゲイルだ。
 もうワクワクとドキドキが止まらない。



 ステージを眺めていると、こちらに向かってくる数人の参加者に気付いた。
「シェリー様」
「聖女様」
 俺とシェリーの前にそれぞれが跪き、魔石の入ったケースを差し出した。
「どうぞお受け取りください」
「願わくば、今後良いお付き合いをさせていただければ」
「結婚を前提にお付き合いを」
 ブリアナが黄色い声を上げたいのを必死に堪えるために、両手で口を塞いだ。
 シェリーと俺は互いに顔を見合わせて目を丸くする。
「あ…お気持ちは嬉しいのですが…」
 そう交互に言葉を出し、しっかりと断りを入れる。
 ガックリと項垂れて戻って行く姿に苦笑していると、再びシェリーの前に男性が跪く。
 そして俺の前にも。
 立て続けに起こる求婚に驚きつつ、しっかりと俺もシェリーも断りを入れた。


 終了まで後30分。
 テーブルの上に魔石入りのケースが並んだ。
「すごいね…。一気に来たね…」
 若干うんざりしながらケースを眺める。
「予測はしていましたけど…」
 シェリーも苦笑いを浮かべた。
「今更ですわよ。
 その気があるなら、アレらの障害を乗り越えて来ていただきたかったわ」
 確かにシェリーの言う通りだ。
 シェリーを望むなら、アレらと戦うくらいの気概は見せて欲しいと思った。
「すごいですわー。
 お二人とも本当に誰もお選びにならなくてよろしいの?
 聖女様、ディーン様は公爵家のご子息よ?」
 ブリアナが鼻息荒く俺に勧めてくるが、あははと乾いた笑いで誤魔化した。

 その時、ようやっと残りの参加者が一気に戻ってきた。
 次々と紹介されて、もうグチャグチャになってしまったのと、さらにやってきた求婚者にステージを見るどころではなくなってしまった。
 最後の最後で良いところを見逃してしまい、ものすごく悔しい思いをする。
 アランとアビゲイルが戻ってきた時のタイミングで求婚を受け、その獲物も点数も聞き逃してしまい、シェリーも思い切り顔を顰めていた。



 午後5時。
 狩猟コンテストが終了する。
 最後の30分に怒涛のように行なわれた求婚タイムに俺もシェリーも納得がいかないという表情でため息をつく。
 そんな俺たちの様子にキースもオスカー達も同情するように笑った。
「あれだよ、シェリー。来年から告白タイムはきちんと時間を設けた方がいい」
「そうですわね。一番いい所を完全に見逃しましたわ」
「終了1時間前は告白禁止で」
「来年の開催要項に必ず含めますわ」
 そう意見を交わす俺たちに、周囲が声に出して笑った。

 コンテスト結果は次のようになった。

 1位 ロイ 387点
 2位 アラン 382点
 3位 アビゲイル 376点
 4位 ディーゼル 368点
 5位 マルセル兄弟 365点
 6位 メルヒオール 364点
 7位 グレイ 360点
 8位 バシリオ 359点
 9位 ブラッド 348点
 10位 ティム 332点

 2日目、1日目よりも点数が伸びなかった者もいたが、前日の上位者の順番が入れ替わっていた。

 これからすぐに表彰式が行われる。
 シェリーも主催者としてステージに上がることになるが、今日限りの専属執事として、キースもサポートでステージに上がって行った。
 俺とブリアナ、エリカの3人で、ステージ近くまで行きステージを見ることにした。

 サローニャが10位のティムから名前を呼び、呼ばれた者が次々にステージに上がって行く。
 その度に歓声が上がり、野次のような声も飛んでたくさん笑った。
 表彰式と言っても表彰状が贈られるわけでもなく、ただ、上位10人には賞金の目録が贈られるだけだった。

 


 そしてその時はやってきた。
「それでは、ここに狩猟コンテストの終了を宣言いたします!
 皆様ご参加とご声援ありがとうございました!
 今回狩られた獲物は明日の後夜祭で皆様に振る舞われます!是非明日もお楽しみください!!」
 サローニャが叫び、大きな歓声が湧き起こる。
 その直後、アランが前に出た。


 え!?今!?
 まさかこんなステージで!?


 思いもしなかった出来事に、一気に緊張が高まる。
「アラン様?」
 サローニャも気付いて声をかけるが、すぐにハッと噂のことを思い出したのか、観客達に静かに!という合図を送る。
 徐々に歓声が止み、静かになる会場の中、アランがゆっくりとシェリーに近づく。実際にはシェリーの背後にいるキースにだ。
 貴族の中にはアランとキースの関係を知っている人も多くいるだろう。だが、それでもあの噂を信じてシェリーに求婚するつもりだと勘違いしている人もいるはずだ。
 俺の周辺にいる観客達が、ソワソワと体を揺らして、今から始まる求婚に期待を寄せていた。

 アランがシェリーの前に立つと、じっとその目を見つめた後、にっこりと微笑んだ。


 ああ…、そうか。
 アラン様は国のために。

 シェリーを見つめるアランを見て、キースは視線を下に外す。
 見ていることが出来なかった。


 アランはシェリーを選んだのだ。
 国のために、彼女の頭脳を得るために。
 納得するしかない。
 私は一介の執事で、身分が違い過ぎるのだ。


 アランが跪くのがわかった。
 そしてじっとシェリーを見ている。
 シェリーもニッコリ微笑み、アランを見つめる。
 観客達が、固唾を飲んでその求婚を見守った。


 だが、次の瞬間、シェリーが背後にいるキースの腕を掴み、グイッと引っ張ると、自分の前に突き出す。
 下を向いて視線を逸らしていたキースは、そのシェリーの予備動作に気付かず、シェリーに引っ張られるまま、アランに突き出された。
「え」
 背後からシェリーに背中を押され、シェリーを振り返るが、シェリーの笑顔に目を丸くする。
「キース」
 アランが名を呼ぶ。
 そして、目の前に魔石の入ったケースを差し出され、蓋を開ける。
「どうか、俺の伴侶になって欲しい。愛している。お前だけを」
「……」


 シェリーに求婚するんじゃなかったのか。国のために。
 シェリーの前に跪いて…。


「キースさん」
 シェリーが後ろから俺の肩を優しく叩く。
 キースの視線が動き、周囲を見渡し、ロイやディー、グレイ、アビゲイルを。そしてステージ下にいる翔平やオスカー達を見る。
 そのみんなの優しく包み込むような眼差しを見て悟る。


 やられた。
 こんな不安にさせて、どんでん返しなんて…。


 キースの目から涙が流れた。
 噂も、シェリーの限定執事も、全部仕組まれていたと、この瞬間に悟った。
「キース。受け取ってくれ。そして手を取って欲しい」
 アランが優しくキースを見上げる。
「アラン様…」
 ボロボロと涙を流しながら、魔石を受け取った。
 そして、そっとその手に自分の手を重ねる。


 その瞬間、会場中が今までで一番大きく湧き立った。
 まさかのどんでん返しに、観客も貴族達も驚くとともに、王族が執事にプロポーズという姿を見て、興奮が最高潮になる。
 アランが立ち上がり、キースを抱きしめる。
「キース、愛してる」
 キースの頭を引き寄せて自分の肩に押し付けて涙を他人に見せないようにした。
 キースの腕がゆっくりと上がると、その背中に周り、しっかりとアランを抱きしめる。
「愛しています、アラン様」
 大歓声の中静かに見つめ合い、甘いキスをする。
 その光景に大勢の人が黄色い悲鳴をあげ、周囲の人と喜びを分かち合う。


 キース、おめでとう。
 幸せになれ。


 2度目のプロポーズで、答えはわかっていたが、それでも感動が俺を襲う。
 気が付けばボロボロに泣いていた。

 俺の隣で、ブリアナがウワーッと声を上げて泣いていて、その泣き方に笑う。
 振り返ると、ジャニスもオリヴィエも泣いていて、オスカーも目に涙を溜めていた。
 遠くで見守っていたフィンやエミリア、シドニー達近衞も目を抑え、溢れる涙を堪えている。

 ステージで抱き合う2人に、ディーが近付き、2人を抱きしめる。同じようにロイもグレイも、アビゲイルも、それぞれがアランとキースを抱きしめて、おめでとう、と口々に言った。


「サンドラーク公国の未来に幸あれ!!
 盛大な拍手を!!!」

 サローニャがきっちりと締めてくれて、大きな拍手と大歓声に包まれて、アランがキースの肩を抱いて、観衆に手を振りながらステージから降りた。



 キースに不安を与えることに、最初はどうなるかと思ったけど、終わってみれば、ユリアの考えたこの作戦は、2人の愛をもっと深めることになったと思った。
 単純に魔石を贈るだけのプロポーズなら、ここまで心に響き、感動することはなかった。


 後はアビーとシェリー。


 アランとキースのプロポーズで盛り上がってしまった状況に、かなりハードルが上がってしまったような気がする。
 少しアビゲイルに同情した。





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