おっさんが願うもの 〜異世界行ったらイケメンに大切にされ、溺愛され、聖女と呼ばれ、陰謀に巻き込まれ。それでも幸せ目指して真面目に頑張ります〜

猫の手

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王都編 〜勉強する〜

178.おっさん、勉強を始める

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 瑠璃宮前で俺とキース、オスカーとジャニスが馬車から降り、ロイやディー達は王宮へそのまま乗って行った。
 また夜に行くから、と手を握られ微笑む。



「お帰りなさいませ」
 約2週間ぶりに瑠璃宮に戻って来て、玄関で瑠璃宮専属のメイド、執事、コック達に総出で出迎えられた。
 全員が綺麗に並び笑顔で迎えられて、照れながらただいまとみんなに頭を下げる。
「聖女様、キース様、是非お見せしたいものがございます」
 メイドがニコリと微笑みながら俺たちの前に来て、どうぞこちらへと、3階へ案内を始めた。
 キースと2人で顔を見合わせ、素直にそのメイドに従って階段を上がり3階へ向かう。
 3階に上がった途端、すぐに間取りが変わったことに気付く。
 廊下が短くなり、階段正面には大きな2枚扉。左右の壁には白い扉が1枚づつついていた。
 今まであった使用人控室のドアが無くなっている。
「どうぞ中をご覧くださいませ」
 ニコニコの笑顔のメイドに、俺は微笑み返しながら、そういうことね、と声に出さずに笑った。
 キースはというと、ポカンと口を半開きにして呆けている。それもそうだろう。2週間空けて帰ってきたら、自分の部屋がなくなっているのだから。
 いや、そうではない。
 部屋を改装されてしまったのだ。
 白い2枚扉を抜けると、そこはリヴィング・ダイニングだった。
 メイドの説明によると、ここは俺とキースの共同の部屋で、その奥の扉から個室になるそうだ。
 俺は入って右側、キースは左側だ。
「わ、私の、執事の部屋は…?」
 ポカンとしているキースを置いて、俺とオスカー、ジャニスの3人ですっかり改装された部屋を見て回った。







「キース。そりゃぁ当然だろうよ」
 食堂で夕食をとりながらキースの項垂れように笑いが止まらない。
「キース様はもう執事である前に、アラン殿下の婚約者様なのです。いつまでも使用人の部屋というわけにはまいりませんので」
 俺とキースの背後に立ち、給仕をするキリッとした黒い犬耳尻尾の執事ににこやかに言われた。
「私は…」
 それでも納得が行かないと言いたげにキースがため息をついた。
 俺と向あわせで食事をすることも最初はごねたのだ。

 執事によると、俺たちが出発してすぐに改装工事が入り、3階部分の8割を占めていた俺の部屋の間取りが変更されて縮小され、残り2割の空室部分も全て利用され、共同のリヴィング・ダイニングを中央に左右に2人分の居室が出来上がっていた。廊下も短くなってその分部屋を広げている。
 つまり、俺とキースが左右対称の同じ間取りということだ。
 共同リヴィング・ダイニングを中央に、個々のリヴィング、寝室、フィッティングルーム、バスルーム、トイレ、バルコニーがそれぞれにあり、家具もきっちりと揃えられていた。
 そのキースの部屋を覗きに行き、フィッティングルームにあったクローゼットの中には、執事服以外の服がズラッとかけられていて、王族婚約者の住まいとして充分に整えられていた。


「私は執事です…執事なんですよ…」
 キースが項垂れる。
「諦めろ。もうキースは第2王子の婚約者という立場が優先されるんだよ」
 ニヤニヤと笑いながら言うと、キースが恨めしそうに俺を見てきた。
「まさか王子妃になる人をいつまでの使用人控室に住まわせることなんて出来ないだろうw」
 オスカーが笑う。
「そうよね。今後あたし達はこの瑠璃宮でショーヘーちゃんとキースちゃんを守る騎士ということになるのよ」
 ジャニスが楽しそうに笑う。
 ああ、だから騎士がまた1人から2人に増えたのか、と気付いた。
「私は戦闘執事です。そんな守られるなんて」
「まぁそう言うな。あくまでも形式的な話だ。お前が強いのはよく知ってる」
 笑いながらオスカーが食事を続ける。
「キースだって、こうなるってわかってただろう?」
 いつまでも納得しない表情のキースに笑うと、キースがようやっと諦めたようにため息をついた。
「例の件が終わってからプロポーズを受ければ良かったです…」
 小さくボソリと呟き、全員が笑う。
「お前、それはアランの前で言うなよ」
「アラン泣くわよw」
 声に出して笑われ、キースも薄く笑った。





 俺の部屋が狭くなったといっても、俺にとっては今までが広すぎたのだ。はっきりと部屋の広さを持て余していた。
 狭くなっても、まだまだ充分な広さがあるし、高級マンションの一室であることには変わりはない。

 共同リヴィングでお茶を飲みながら、2週間分の贈り物のリストや手紙を読む。
 変わり映えのしない内容や贈り物が、3、4日前から徐々に減り始めているのに気付いた。
「狩猟祭で、メルヒオール殿下やバシリオ殿下、高位貴族からの求婚を見て諦めた人もいるのでしょうね」
 キースが名前を確認しながら呟く。
「あと、俺がまだ誰も選ばないって言ったことが広まったせいもあるんだろうな」
 俺の言葉にキースも頷き、目を通していた中から、2通の手紙を見つけて俺に差し出してきた。
「ジョン・ベルトラーク様と…これは…」
 その名前にピクリと反応して、すぐに読んでいた手紙をよけてジョンからの手紙を受け取る。
「そっちは誰から?」
「帝国のユージーン・バルト様…」
「あ?バルトだと?」
 オスカーが声を上げ、その声に顔をあげてオスカーを見た。
「帝国のお貴族様か?」
「そうだ。バルト公爵家。亡くなったソフィア王妃の生家だ」
「ユージーン様は、ソフィア王妃様の兄、現公爵の三男にあたります」
 キースが眉間に皺を寄せて答える。
「…ってことは、ディーの…従兄弟!?」
「そうなるな…。ちょっと見せてみろ」
 オスカーに言われて俺が読む前にオスカーに渡した。
 俺はその間に、ジョンからの手紙に目を通す。

 相変わらず季節の時候から始まる丁寧な文章で、1枚目はやはりベルトラーク領の現在の状況を書いた報告書のような内容だった。
 だが2枚目からは様子が変わる。
 すでに、ジェロームとジャレットの犯した罪は国内に通知され、当然ながらベルトラークにも伝わっている。
 各貴族の当主にはその罪の内容も通知されており、俺がアレらに襲われたという話も伝わっていた。
 手紙にはそれに対してシギアーノ家を非難する言葉と、俺を気遣う言葉が綴られていた。
 そして最後に、1週間後になるが王都に来るので食事を一緒に、と書かれていた。

 ようやっと個人的なお誘いが来た。
 これはきっと受けることになるんだろうな、と思いながらいつものごとく唇を触る癖を出す。
 
 ベルトラークの歴史について聞いたが、現辺境伯のショーンや手紙の主であるジョンのことは何も知らない。
 これは事前に情報が必要だな、とブツブツと呟きながらじっとその手紙を何度も読み返した。


 その時、メイドに案内されて、ロイとディー、アラン、サイファーがやってきた。
「どうだキース、新しい部屋は」
 サイファーがニコニコしながらキースに聞いた。
「キース、戸惑ってるんだよ」
 俺がキースの代わりに答えると、サイファーが笑う。
「すまんな。お前がアランとの結婚を了承した時点で改装は決まっていたんだ。
 いつまでも使用人扱いは出来んよ」
「…身に余る光栄です…」
 キースが苦笑しながらサイファーとアランを見る。
「しかし、私はまだショーヘイさんの専属執事でいたい」
「わかっている。だから瑠璃宮のショーヘイのそばに部屋を作ったんだ。
 お前はショーヘイの専属執事だが、アランの婚約者だ。せめてこのくらいはさせてくれ」
 サイファーが大切な弟の婚約者を家族に向けるように微笑みかける。
「ありがとうございます」
 キースもサイファーの言葉とその思いを受け取り優しく笑う。
「アラン、キースの部屋に入り浸るなよ」
 ロイがニヤニヤしながらアランを小突く。
「そうですよ。ショーヘイさんの住まいでもあるんですからね」
「わかってるよ…」
 ディーにも揶揄われるように言われ、口を尖らせて顰めっ面をした。その様子から毎日ここに来るつもりだったことがありありとわかって全員が笑った。




 共同リヴィングでそれぞれが座り、今後の話を簡単にする。
「ジョン・ベルトラークからの手紙は読んだな?
 ようやく個人的な誘いがあったから、これを受けてもらうつもりだ」
 サイファーに言われ、コクコクと頷いた。
「これはどうするんだ」
 オスカーがテーブルの上に、持っていた手紙を置く。
「バルト家か…」
「え!?」
 サイファーが呟き、ディーが慌ててその手紙を手に取り目を通した。
「ユージーンが…どうして…」
 従兄弟からの手紙にディーの眉間に思い切り皺が寄った。  
 ロイもその手紙を読み顔を顰めた。
「その手紙以外にも、王宛でバルト家から正式なショーヘイとの見合いの申し込みが来ている」
「断れない、ですか」
「断れんな」
 アランがはっきりと厳しい口調で言った。
 俺もまだ手紙を読んでいないので、アランから受け取ると目を通した。


 そこに書いてあったのは、俺に会いたいという願いが込められた文面だった。
 聖女という存在に憧れを抱いていることや、俺が公国で行使したヒールのことも詳しく書かれており、賞賛の言葉が綴られていた。
 最後には、お見合いの話にも触れているが、ユージーン本人からは、まず友人になりたいと締めくくられていた。
 文面だけ見れば、かなり好感度は高い。
 だが、手紙ではどうとでも言える。
 このユージーンというお貴族様がどんな人なのかを知る必要がある。

「まずは1週間後のジョンとの食事だが、おそらくその後ユージーンとの見合いもしなければならん」
「わかりました」
 頷きながら、また無意識に唇を触る。


 ジョンとユージーンの情報を集めて、ベルトラーク家の現在の状況と、バルト家についてにも調べないと…。
 それと…。


「ああそれと…」
 サイファーと言葉を区切り、思考を中断して顔を上げた。そこに満面の笑みを浮かべるサイファーがいて、一瞬驚いてしまった。
「ダリアが帰ってくる」
 ニコニコと嬉しそうにサイファーが言い、初めて見るその笑顔に俺も釣られて笑顔になった。
「いつだ」
 オスカーが確認した。
「2日前に連絡があってな。
 ユージーンとモーリスが一緒だそうだ」
 モーリスと、また初めての名前に首を傾げる。
「母とマシュー・バルト公爵の弟です。私達とユージーンの叔父にあたりますね。おそらく彼の付き添いで来るんでしょう」
 ディーが説明してくれ、頭の中でバルト家の家系図を作った。
 マシュー、ソフィア、モーリスの3兄弟で、ユージーンはマシューの子供。ソフィアはレイブンと結婚したと。
「モーリスさん、ご結婚は?」
「まだ独身だな。55歳だったか」
 年齢を聞いて、じゃぁこの世界では40代前半くらいかな、と思い浮かべた。
「結構苦手なんですよね、あの人」
 ディーが苦笑すると、アランも俺も、と呟いた。
「まぁそう言うな。ユージーンが心配なんだろ」
 サイファーが笑い、もう伴侶が戻って来ることが嬉しくて仕方がないという感じだ。
 そして、色々考えることもたくさんあるが、ダリアに会うことが本当に楽しみになる。

 以前キースとも話した嫁仲間。
 王族の伴侶になる俺やキースを気遣ってくれた優しさ。元騎士だという気高さに、どんな人なんだろう、とドキドキして、早く会いたいと思った。

「おそらく10日後くらいにはこちらに着くだろう。キドナの件で急を要しているのもあるから、シギアーノの転移魔法陣を使う」
 それを聞いてバシリオのことを思い出した。
 外務局長でもあるダリアがキドナとの外交に必要だということか、と気付く。
「バシリオ様の件はまだ何も?」
「ああ。行方不明のままで、何も情報はない」
「そっか…」
 まだ考えることがあったな、と頭の記憶領域にメモを残す。
「とりあえず、今のところはこのくらいか…何か他にあるか?」
 サイファーが自分からはもうないと言い、全員を見渡した。
 それに無言で応える。
 色々と聞きたいことは山ほどあるが、とりあえず今日の所は帰ってきたばかりだし、体を休めて考えるのは全部明日からだ。
 そう決めて体の力を抜いた。
「それじゃぁ、今日はゆっくり休め」
 それぞれが立ち上がり、サイファーがドアに向かうが、ロイ、ディー、アランが動かなかった。
「お前らも帰るんだよ」
 ニコニコしたまま動こうとしないロイとディーのドアに向かって押し出すと、2人が、えー、と文句を垂れた。
 アランもキースにグイグイとドアの方へ押し出されている。
「ショーヘー~」
「ショーヘイさ~ん」
「キースゥ」
 俺たち2人にグイグイとドアの方へ押されながら抵抗する3人にサイファーもオスカーもジャニスも呆れ顔で見ている。
「はいはい。お疲れ様でした。また明日な」
 廊下へ押し出した後、ヒラヒラと手を振って容赦なくドアをバタンと閉めると、そのドアの向こう側で情けなく俺を呼ぶ2人の声を聞いて苦笑した。
 しばらくドアに背中を預けてその声を聞いていたが、やがて聞こえなくなり、静かに2人の魔力が離れていくのを感じ、寂しい、と小さく息を吐いた。
「別にあと1日くらいいいんじゃねーのか?」
 オスカーに苦笑いされて、俺も苦笑で返す。
「いいんだよ。例の件が終わるまでは我慢しなきゃ」
 いつ誰の目に触れるかもわからない。公認となったアランはともかく、ロイとディーが幾度となくここに通う姿を見られるわけにも行かない。
「ショーヘイさんを差し置いて、私もアラン様をここに受け入れる気はありませんよ」
 キースが俺に気を遣ってアランを追い出したのはわかっていた。それこそ彼らはもう公認となったのだから我慢する必要はない。なのに、俺たちに合わせようとしている。
 そこまでする必要ないのに、と思いつつ、その心遣いに笑顔で返す。
 改めてソファに座り直し、キースを見た。
「キース。ジョン・ベルトラークとユージーン・バルト、それと帝国貴族やキドナのことを知りたいんだけど、詳しいか?」
「私は執事の範疇でしか…。ディーゼル様やアラン様の方が詳しいですし、帝国貴族についてはオスカー様が。国に関してはサイファー様ですね」
「俺で良ければ帝国貴族については教えられるぞ。わかる範囲でだがな」
 元帝国公爵家出身のオスカーがニヤリと笑う。
「オスカー、頼むよ。出来れば力関係とか詳しく知りたい」
「わかった。個人についてはディーゼルが護衛担当の時に聞いたらいい」
「うん。そうするよ。
 それと、グレイの第2部隊が出発するときに見送りに行きたいんだけど」
「わかりました。明日の午後には出発すると思うので、時間を確認します」
「頼むよ。
 えっと…あとは…」
「ねぇ、ショーヘーちゃん。今日はもうその辺にしておきなさいよ」
 ジャニスが笑いながら呆れた声を出した。
「そうですね。戻ったばかりです。今日はもう休みましょう」
 ブツブツと考え込む俺に3人が苦笑する。
「ほんとクソが付く真面目だな。お前は」
 ポンとオスカーに頭を撫でられた。
 そうは言っても時は有限だ。ジョン・ベルトラークに会うまで1週間しかない。
 だが、言われた通り、焦って考えても仕方がない。思いつくことを全部なんて言っていたらキリがない。
 明日の午前中でゆっくりと頭の中を整理して、じっくり考えて優先順位を決めてから動こうと思った。
「じゃぁ、もう寝ようか」
 ソファから立ち上がると大きく伸びをする。
「じゃあお休み」
 オスカーとジャニスも2階の護衛騎士用の部屋へ戻った。
 キースと2人で使った茶器をまとめてワゴンに片付けると、共同リヴィングで別れる。
 リヴィングからそれぞれの部屋に続くドアに近付き、後ろを振り返ると、キースも同じようにこっちを振り返っていた。
「なんか変な感じです」
 離れた場所からキースが言い、笑う。
「そうだな」
 その言葉に笑いつつ、手を振ってお休みと挨拶して自室に入った。

 間取りが変わったせいで、新鮮な気持ちで真っ直ぐバスルームに向かった。
 大きめのバスタブに張られた水を火魔法で一瞬でお湯に変え、1人分にしては大きい湯船に全身を沈めた。
「あ“~…」
 全身から力を抜き、お湯に身を任せると、その気持ち良さに色々考えて緊張していた脳も緩んでいく気がした。
 そのまま何も考えずに目を閉じていると、体が温まってきて睡魔に襲われ始める。
「っと…あぶね」
 ずるっと口元までお湯に滑り落ちてしまい、慌てて目を開けるとザバリとお湯から出た。
 タオルで体を拭き、もう一度クリーンをかけて濡れた髪を拭く。
「ドライヤーがあればいいのにな…」
 いつもタオルドライだけで、髪を乾かすものがないことが気になっていた。
「…ああ、そうか。ジュノーの知識か」
 ブツブツと独りごとを呟きながら、ふと思いついたイメージを具現化してみる。
 手の中に魔力の玉を作り、その玉から温風が出るようにイメージすると、その玉を頭にかざした。
「おお、こりゃいいやw」
 まさにドライヤー魔法が完成した瞬間だった。
 ブオオオォと温風で髪を乾かしながら、この魔法を魔鉱石か魔石に付与すれば、魔力量が少ない人でも使えるようになるはずだ、とブツブツ独り言を呟いた。
「なるほどね。ジュノーの知識はこうやって広まるわけね」
 元の世界にあってこちらにはないもの。聞かれてから答えるのではなく、自分からこれが欲しいと思うものを言ってもいいわけだ。
 髪を乾かし終わって、鏡の前でニンマリと笑うと、明日早速立案書でも作ろうと思った。
 また考えなければならないことが増えたが、新しい魔道具を作れるかもしれないと、少しだけワクワクした気持ちになった。




 朝7時。フカフカのベッドで目を覚まし、顔を洗って着替え、共同リヴィングに出ると、同じタイミングでキースも部屋から出てきた。
「どうだった?新しいベッドの寝心地は」
「慣れるまでしばらくかかりそうです」
 小さく笑いながらキースが言い、揃って1階の食堂に降りる。
「食べたら王宮に行ってきます」
「俺は執務室に篭りたい」
 2階に用意された俺専用の執務室。いつか使いたいと思っていて、使う予定がなかった。色々と考えたり勉強するのにはうってつけの場所で、今まさに使うべきだろ、とニコニコする。
「わかりました」
 キースが笑顔で答え、オスカーとジャニスも一緒に執務室に来ることになる。


 朝食後、執務室に行く前に瑠璃宮の図書室に行き、知りたいことが書かれている本を次々と引っ張り出す。
 流石に1人では持ちきれず、2人にも手伝ってもらった。
「こんなにいるの?」
「とりあえずね。知りたいことがなくてまた取りに来るのも面倒だから、関連書籍を持ってくよ」
 執務室の壁にも本棚が備え付けられていた。だが、本は1冊も入っていない。だから、図書室から執務室に移動させるのだ。
「全部は無理だぞ。とりあえず、そっちに重ねておけ。後で執事に運ばせる」
「ああ、うん。そうだな」
 オスカーに言われて、タイトルから関連していそうな本を手当たり次第に出して分類別に重ねていった。
 そして今すぐに必要になりそうな数冊を手に2階の執務室へ向かうと、とりあえず机の上に重ねた。
 途中オスカーが見かけた執事に、図書室でよけた本を執務室まで運ぶように依頼してくれる。

 執務室の中にある重厚な机と椅子。
 まるでどっかの会社の重役にでもなったような気分だ。
 椅子に座り、引き出しを開けると、まっさらな紙やノート、便箋類がたくさん入っていた。
 ほくほくしながら、ディーに買ってもらった魔導ペンを取り出すと、机の上にあるペンスタンドに刺し、満足した笑顔を浮かべる。
「よし」
 机環境が整った所で、持ってきた本を上から手当たり次第に読み始める。
 しっかり熟読するのは後回しにして、今現在知りたいことが書かれた箇所を探し出してザザッと流し読みしつつ、大事なことをメモして行く。
 その作業を繰り返している間、執事達が図書室の本をワゴンに乗せて運んで来てくれて、分類別に本棚へしまって行く。
 さすがキースと王宮執事長が選んだ執事なだけあって、動きに無駄がない。素早く的確に本が次々と並べられて行った。
 本が並び終わる頃に、メイドもやってきて、俺達にお茶を淹れてくれた。
「ありがとうございます」
 ニコリと笑顔でお礼を言うと、メイドも笑顔で返し、机に温かいお茶を置いてくれた。
 しばしお茶を飲みながら休憩していると、キースが王宮から戻ってきて執務室に来た。
「随分と本を持ち込みましたね」
 それでも本棚の5分の1程度しか埋まっていないが、100冊以上の本が並び、ガランとしていた執務室の様子がかなり変わったことに驚いていた。
「グレイ様の第2部隊は2時に出発するそうです。昼食後獣士団官舎に参りましょう」
「うん。わかった。ありがとう」
「それと、明日の昼食は王宮でレイブン様とご一緒にということです。
 午後には、加工師を呼びましたので王宮の応接室で魔石加工の依頼を行います」
 メモをみながらキースが今後の予定を告げて行く。
「さらに、明日の夜、ギル様、フィッシャー伯がお見えになられます。ジョン・ベルトラーク様のお話です。
 あと一つ…芸術の会のヴィンス様から面会のお申込みがありました」
 キースが机に俺宛の手紙を差し出した。
「ヴィンス…」
 久々に聞いた名前に、芸術の会があれからどうなったのか、何も確認していなかったと思い出した。
 手紙を封筒から取り出して中身を確認する。


 その内容は、芸術の会が事実上破綻し、活動が現在休止しているという報告めいたものだった。
 だが、そんな中でもヴィンスとダミアンが中心になり、芸術家への支援は続けていると書かれていた。
 そして、面会の目的の所で、あ、と声に出した。

 面会の目的、それは、ジェンキンス家のウォルターに顔を傷つけられ、俳優としての道を断たれてしまった男性の治療依頼だった。

「いかがいたしますか」
 キースがなんとも言えない表情で俺を見る。
「個人的な治療の依頼を受けてもいいのなら、受けてあげたいな。
 あの俳優さんは何の落ち度もないし、傷が治ればまた復帰出来るだろう?」
「そうですね。お受けになられても問題ないと思います」
「じゃぁ受ける」
 ニコリと微笑むとキースも破顔する。
「そう言うと思いまして、3日後に予定を入れました」
「さすがキース。ありがとう」
 俺のことをよくわかってると、嬉しくて笑った。
 あの演劇は本当に感動した。シュウ役の彼が、ウォルターの個人的野望のせいでその将来を奪われるなんてあってはならない。彼と直接面識があるわけでもないが、これも何かの縁だと思うし、聖女として、理不尽な仕打ちを受けた人を癒すことも当然な行為だと思った。
 それに、少なからずヴィンスとは縁がある。
 芸術の会は潰れてしまったが、彼は今、支配され操られることもなく、自分の意思でその活動を続けている。少なからず応援したいという気持ちもあった。



 4人で昼食を取った後、王城の広い敷地内を移動する小さな馬車に揺られて獣士団官舎に向かった。
 官舎入口で馬車から降りると、俺が来たことに周囲にいた騎士達にどよめきが広がる。
「聖女様!」
「聖女様だ!」
 ここに来たのは、見学をさせてもらった時以来だ。
 官舎の入口入ってすぐ、すでに出発の準備を整えた騎士達が勢揃いし、馬車と馬が並んでいた。
 騎士達に会釈しつつ奥に進むと、同じように見送りにきたロイとディーに会う。
「お、ショーヘーも来たのか」
 俺に会えてロイが嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。
 その後ろにいつもの巨体のグレイが装備を整えて立っていた。
「グレイ。気をつけてな」
 グレイの前に立つと、その大きな手を握る。
「どのくらいかかるかわからんが、長く離れるのは初めてだな」
 優しい笑顔で言われ、思わず目に涙が浮かんでしまった。
「泣くなよ。今生の別れじゃあるまいしw」
 そう言われるが、半年間ずっと一緒に居て、急に長期間会えなくなるのはやはり辛い。
「ジュリアさんともしばらく会えないんだろ?」
「まぁ、そりゃそうだが、仕方ねえよ」
 昨日、ちゃんと魔石を渡して、しばしの別れの挨拶もしてきた、と破顔する。
「近々ジュリアの叙爵式があるので、その時は転移魔法陣で一度帰って来ますよ。とんぼ返りですけど」
 ディーが苦笑しながら言う。
「時間だ」
 離れた場所に居た獣士団副団長のグレゴリーが呼びかけた。
「グレイ」
 両腕を広げ、その大きな体を抱きしめた。グレイもそんな俺を包み込むように抱きしめ返し、頭を撫でてくれた。
「行ってくる」
 離れるとグレイがニコリと微笑んだ。
「全員!整列!!!」
 グレゴリーの号令が響く。
 その瞬間、各部隊が入口に向かって道を作るようにザッと並び背筋を伸ばした。
「これより獣士団第2部隊、ベネット領領都シュターゲンの治安維持任務に向かう。
 全員騎乗!!」
 グレイが号令をかけると、それぞれが騎馬に馬車に乗り込んだ。グレイも馬車に乗る。
 ゆっくりと、騎士達の間をその隊列が進み始めた。
「第2部隊に!!敬礼!!!」
 その号令に合わせて、騎士達全員、ロイやディー、オスカーやジャニスも敬礼した。
「気を付けて」
 ただの街の警備任務だとはわかっている。だが、それでも離れることが寂しくて、そのせいなのか、少しだけ不安のような気持ちが心に湧き起こった。
 流れる涙を拭いながら、その隊列が見えなくなるまで見送った。
 そんな俺の心情を悟って、ロイとディーが俺の背中をそっと摩ってくれる。

 この世界に来て半年。
 4ヶ月の間一緒に旅をした仲間とのしばしの別れに、寂しさが溢れた。



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小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

転生執事は氷の公爵令息の心を溶かしたい【短編】

堀川渓
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事故で命を落とし、目覚めたそこはーー生前遊んでいた女性向け恋愛ゲームの世界!? しかも最推し・“氷の公爵令息”セルジュの執事・レナートとして転生していてーー!! 短編/全10話予定

2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。

ありま氷炎
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高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。 異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。 二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。 しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。 再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。

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