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王位簒奪編 〜ジョンとのデート〜
186.おっさん、質問に答える
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ジョンの口からジュノーという言葉を引き出した。
やはりジョンは俺がジュノーであると確信していた。いや疑っていたのか。周囲からの情報だけで確証は得られなかったのだろう。こうして俺と直接話し、そう促したせいもあるが、ジョンの中で疑いが確信に変わったのが、その表情でわかった。
「ジュノー?」
「ああ。ショーヘーは記憶喪失なんかじゃない。自分がどこから来て、誰なのかもよくわかっている。
記憶が無いんじゃなく、この世界のことを全く知らないだけだ」
早口にそう言われ、一瞬だけ真顔になると、静かにジョンに向かって微笑む。
そして俺も口を布巾で拭って、お茶を口に含んだ。
「俺がジュノーだったら、ジョンはどうする?」
「だったらじゃない。ショーヘーはジュノーだ。
別の世界からこの世界にやってきた来訪者。知識をもたらす者」
ジョンが両肘をテーブルにつき、手を組んでニコニコと俺を見る。
「だから殿下方はショーヘーを保護した。殿下方の旅行も嘘で、最初からショーヘーを保護するためにベルトラークに来たんだな」
ウエイトレスが食べ終わった食器を片付けに来て、新たなティーポットを置いて行った。
「ジョンは俺がジュノーだと気付いてた?」
「疑ってはいたよ。
あの時、やたら他国からの旅行者や傭兵が入国してきたし、国境警備隊も密入国しようとする者を何人も捕らえていた。
それに加えて、転移魔法陣が破壊された。ベルトラークだけじゃない。国内のほぼ全ての魔法陣が破壊されて、王都への最短ルートが消え失せた」
話しながら、俺と自分のティーカップにお茶を注ぎ、すっと俺に新たなお茶を差し出す。
「それに、とある場所に見たこともない物が流れた」
ジョンがおかしそうに笑う。
その言葉に、俺が妄想した盗品類を扱う闇市のことが頭に浮かぶ。やはり、その市でジョンは俺が紛失した鞄を目にしてると確信した。
「ジュノーが出現したと、その物を見た時は思ったが、その噂はいつのまにか消え、ジュノーの噂が聖女へと切り替わった」
クスクスと目を細めてジョンが楽しそうに笑う。
「きっとディーゼル殿下の策略だろう?
聖女伝説を利用して、出現したのはジュノーではなく聖女だったと塗り替えた。実際にショーヘーは聖女の力も持っていたから成せたことだ」
さすが殿下だ、と称賛の言葉を口にして、俺もディーが褒められたことに素直に喜び笑顔になった。
「否定はしないんだな」
真っ直ぐに目を見つめられて、俺は言葉で肯定も否定もせず、目を細めてただ微笑む。
そこからしばらく沈黙が続いた。
互いにティーカップに視線を落として、ゆっくりとお茶を飲む。
やがて、ジョンが静かに顔を上げると、店を出ようと言い、それに従った。
ジョンが支払いを済ませ、俺は恐縮しながらお礼を言うと、嬉しそうに微笑む。
外に出ると、ジョンが当然のように俺の手を握り、再び手を繋いで散策を始める。
「王宮に閉じ込められているのかと思ったよ」
「え?」
歩きながら、不意にジョンが真っ直ぐ前を見たまま言った。
「聖女だと奉られて、王家に利用されているのかと思った」
「そんなことは…」
「ないと言えるか?」
隣を歩くジョンが俺を斜め上から覗き込む。
「お見合いをさせられているだろう?リンドバーグの末子と観劇に行ったり、シギアーノ令嬢のお茶会、ブルーノの演奏会、狩猟祭。全部、命令されているんじゃないのか?」
ジャンが俺の全ての行動を知っていると言った。その上で、俺が王家に利用されていると懸念しているようだった。
「そこに俺の意思がないと?」
「ある、のか?」
「あるよ。利用なんてされていない」
話しながら歩き、小物を売っている店のショーケースを眺めた。
一緒にその店に入ると、並べられた綺麗な小物入れを眺め、手に取る。
「こういうのが好きなのか?」
「好きというか、入れたいものがあってさ」
大きさや蓋の開閉具合を確認しながら、適当な物を探す。
「買ってやろうか」
「いいよ。これは自分で買いたいんだ」
振り返ってジョンに笑顔を見せる。
ロイとディーから送られた魔石から作ったピアスを入れる専用の箱が欲しかった。
出来れば、目につく所に置きたいと考えていて、ほんと乙女な思考だな、と笑う。
小物入れや、ピアス専用のケースを眺め、いい物が見つからなかったため、そのまま店を出る。
「あっちの通りにも雑貨屋があるぞ」
再び手を繋がれて引っ張られた。
「ジョンは、俺が王家に利用されて苦しんでると思ったんだな」
「状況を見れば、そう思うだろ」
ジョンが苦笑する。
「王宮からほぼ出て来ないし、出られたとしても護衛付き。まるで監視されてるみたいだ」
確かに、第三者にはそう見えるのかもしれない。
四六時中、騎士が張り付いていて、1人になることはほぼない。だが、俺はそれを苦痛に感じたことは一度もなかった。この世界に来て、1人になることの方が怖かったからだ。
「そう見えるか…」
俺が困ったように苦笑すると、ジョンはそっと俺の肩を抱き寄せた。
「閉じ込められて、自由が効かない生活を送っているんだと思っていた」
「ああそうか…、だから護衛をつけるな、か」
そういう見方もあったのか、と考えてクスッと笑う。
確かに俺や王家、騎士達の関係を全く知らない人たちから見れば、俺が囚われているように見えるかもしれない。
「それもあるが、暴漢からショーヘーを守れるくらいの力は俺にもあるよ」
俺の腕をさすりながら、自分の体にギュッと引き寄せて、ニカッと笑う。
その行動に抵抗の意識が芽生える。
「毎日勉強してるんだ」
「勉強?」
「そう」
隣のジョンを見上げてニコリと微笑むと、さりげなく肩からジョンの腕を外す。
「俺はこの世界のことをまるで知らない。元の世界との共通点もあるけど、違う所も多いんだ。
だから勉強してるんだよ。
俺が閉じこもっているように見えるのはそのせいだね」
笑いながら言うとジョンが苦笑する。
「辛い思いは、していないのか」
「まあ色々あるけど、みんな助けてくれるから。割と毎日楽しいかな」
道の角を曲がって別の雑貨屋に入る。
同じような小物入れが並び、それらをゆっくりと一つ一つ吟味しながら良さそうな小物入れを見つけた。
「これ可愛いな」
片手で収まるほどの、全体的に青くてキラキラした模様の入った小物入れを見て微笑む。
以前シェリーから貰った小物入れと似ていて、並べて置けば様になると思った。
「可愛い物が好きなんだな」
「そういうわけじゃないけど、どうせ入れるなら綺麗な箱の方がいいだろう?」
それまではお菓子の空き箱に入れていたから、と言うとジョンが吹き出し声に出して笑った。
値札を確認して持っているお金で買えるとわかり、会計しに行く。
「買わせてもらえないか?」
お菓子の空き箱にツボにハマってまだ笑っているジョンに後ろから声をかけられる。
「これはダメ。俺が自分で買ってこそ意味があるんだ」
金貨2枚を出してお釣りをもらい、包んでもらうと、紙袋を受け取って店を出た。
「寒くないか?」
手を繋いで散策しながらジョンが気遣ってくれる。
「大丈夫。マフラー暖かいよ」
そう言いながらふわふわのマフラーに触れてニコリと微笑むとジョンも笑った。
ジョンに手を引かれて、商業区から少し離れた場所にある、ヴィスタ・ウォールに上がる階段まで歩いた。
「少し疲れるかもしれないが、上まで上がってみないか?」
そう言われて頷くと、ゆっくりと階段を上がり始めた。
城壁に迫り出した葛折りになった階段を休み休み上がっていくと、城壁の頂上に到着した。
城壁の頂上は万里の長城のように、人が通行出来るように結構幅がある。
有事の際にはこの場所に兵士が立つことが想定されており、中世ヨーロッパの城にあるような凹凸の鋸壁があった。
デートスポットになっているのか、周囲には腕を組んだり、手を繋いで歩く人達が多い。
「おお~いい眺め~」
元々王都は緩やかな斜面に作られている。
王城からその都を眺められるようになっており、王城を案内された時に、物見塔から王都の全貌を見たことがあった。
3層目のヴィスタからも下の町が一望出来て良い眺めだった。
後ろを振り返れば、高い王城の塔が見え、さらに普段は見えない騎士団官舎の屋根が木々の間からチラリと見えた。
「ショーヘー」
その景色に感動していると、いつのまにか離れていたジョンに呼ばれてそちらを見ると、少し離れた場所にある屋台で、暖かい飲み物をテイクアウトしている所だった。
素直にジョンの方へ向かうと、ジョンが湯気の立つ飲み物を差し出してくる。
「ありがとう」
それを受け取ると、少し離れた所にあるベンチに腰掛ける。
座った途端、フワリと暖かさがベンチから伝わった。
「面白いだろう?」
外にいるのに、座ると暖かい空気に包まれ、透明なドームの中にいるような感じがした。
「ここは王都の観光スポットでもあるからな。冬でもこの景色が見られるようにベンチに暖房用の魔鉱石が仕込まれているんだ」
ジョンが説明してくれる。
その説明に驚きながら、ベンチのあちこちを見て、その座面の下に、小さな突起がいくつかあるのに気付いた。おそらくその突起の中に魔鉱石が仕込まれているのだろう。
「すごい。よく考えたなぁ」
感心したように呟き、手に持っていた飲み物を口にする。
「あったまる~」
ほぅと息を吐き、甘いホットティーに癒された。
「ジョンは、俺と会って何をしたかったんだ?」
俺とのデートの目的を聞いた。
「…何を…ね…」
隣に座る俺をじっと見て、言葉を探しているような表情をする。
「誤魔化すのも面倒だから、はっきり言うことにするかな」
言葉を探したが見つからなかったようで、諦めたように言った。
「俺は聖女が政治利用されていると思った。
軟禁状態にされて、監視されて、王家にいいように使われているのかと」
真剣な表情で俺を見て、さらに続ける。
「この半年、何人かは廃嫡され、国外追放され、シギアーノに至っては爵位剥奪。コークス家は取り潰し。
ほぼ全てにショーヘーが絡んでいる」
まるで陰謀論を説くようにジョンが言い、俺は苦笑した。
確かにジョンの言っていることは事実だ。
シギアーノ家のセシル、ルメール家のイライジャ、ジェンキンス家のウォルターは廃嫡され、コークス家の犯罪には俺は絡んでいないが、次男ロドニーは俺を襲った。シギアーノのジェロームとジャレッドの件も記憶に新しい。
「まるで、聖女を餌に王家にとって邪魔なものを排除しているようだ」
確かに王位を簒奪しようとする者を探すために、探りを入れたのは間違いない。だが、その結果犯罪が浮き彫りになっただけの話で、ジェローム達は別だが、他の者たちは陥れるのが目的ではなかった。
俺が苦笑すると、ジョンは俺から視線を逸らした。
「王家の政敵を減らすために俺が利用されていると…?」
簒奪者や黒幕も政敵には違いない。
言葉だけを聞くなら、ジョンの言っていることは正解だ。
「そうじゃないのか。だから、殿下や兄弟同然のロイ様がショーヘーを…」
そこまで聞いて、オスカーの推測はほぼ当たっていると思った。
そしてやはり、俺たちの間に愛があると知らないこともわかった。
「あのお二方に口説かれれば誰だって…」
その言葉に対して俺はクスッと笑うと、ジョンが顔を顰めながら俺の表情を訝しげに見る。
「つまり、ロイとディーは俺を利用するために手籠にしたと。
俺をいいように使うために、性的に虜にしたんじゃないかって言いたいわけ?」
ニコニコと笑いながら聞く俺に、ジョンが顔を引き攣らせた。
「あの2人なら出来るだろう。かなりの性豪で、今までにも何人も虜にしては捨ててるらしいしな」
「らしいっていう噂だけで、それが真実かどうか、調べたか?」
そう俺に言われて、ジョンが怯んだ。
その表情で、2人の噂が事実だと思い込んでいたと白状したようなものだ。
黙り込んだジョンに俺は微笑みかける。
「一つ。さっきも言ったけど、その利用されている云々というのは間違い。
俺は利用されていないし、操られてもいない。俺の意思で動いてる」
冷めたホットティーを全て飲み干す。
「二つ。俺が2人に手籠にされたっていうのも間違い。2人ともそんな奴じゃない」
「だがそれは…」
ジョンは、俺が2人に騙されていると言いたげに声を出すが、俺は返事をしなかった。
おそらく俺たちの間に愛があると言っても、今はまだジョンは信じないだろう。
当初はそこに愛があると打ち明けようと思っていたが、ジョンは思っていた以上に状況を独自に分析し判断している。
だから今はまだ匂わせる程度にして、さらなる考察をジョンにさせるべきだと思った。
しばらく互いに無言になる。
ヴィスタ・ウォールに夕日が当たり、俺達をオレンジ色に照らす。
太陽が沈み初めて、徐々に気温が下がり始めていた。
いくらベンチが暖かいと言っても、流石に0度近くまで下がると体も冷えてくる。
「場所を変えようか」
そう言って立ち上がると、ジョンの手を掴んで立ち上がらせる。
ジョンも素直に従いながら、俺の手をギュッと握った。
「ショーヘー、酒は?」
「好きだよ」
笑いながら答えると、ジョンも嬉しそうに笑う。
夕方5時を知らせる大鐘が王都に鳴り響いた。
ヴィスタ・ウォールを降り、再び商業区に戻ると、その街をゆっくり歩き、さらに奥にある酒場が並ぶ歓楽街に入った。
「ここにしよう」
昼食を摂った酒場兼食事処とは違う、少しだけ落ち着いた感じの酒場に入る。
中は静かで、緩やかな音楽が邪魔にならないボリュームで流れていた。すでに飲んでいる客も、割りと中流階級以上の出立で、大声でワイワイ話す人は誰もいなかった。
元の世界にもあった、雰囲気のあるバーのような店だ。
「いらっしゃいませ」
「上、空いてるか?」
ジョンがウエイターに言うと、ニコリと微笑み、どうぞこちらへ、と案内してくれる。
店内を横切って奥にある階段から4階に上がると、下階のあるようなオープン席ではなく、個室に案内された。
流石に狭い個室で2人きりはマズいか、と一瞬顔を顰めたが、それでも今日のこれまでのジョンの行動から、大丈夫だと判断した。
いざとなったら、指輪もあるし、魔法で抵抗しようと心に決める。
「シャルダーニをボトルで。あと適当につまみを」
ジョンがウエイターに告げると、かしこまりましたと頭を下げ、立ち去る。
すぐにジョンが俺の背後に回ってコートを脱がせてくれると、コート掛けにかけ、そちらへ、とソファを勧める。
ジョンもコートを脱ぎ向かい側のソファに腰をおろした。
4階の個室の窓から外を眺めると、陽が落ちて暗くなった道を魔鉱灯が明るく照らしていた。
酒場を求めて行き交う人たちを見下ろして、歓楽街はどちらの世界も同じ雰囲気だな、と薄く笑った。
しばらくして酒とつまみの盛り合わせが運ばれてきて、テーブルに並べられた。
ウエイターが最初だけグラスに果実酒を注ぎ入れ、深々と頭を下げて静かに部屋を出て行った。
「乾杯しようか」
グラスを手にとって、互いに微笑みながらカチンとグラスをぶつけ合った。
少し甘めのお酒で喉を潤し、アルコールが体を温めて行く。
「話の続きだが、利用されていない、自分の意思だという証拠はあるか?」
「今こうしてジョンとデートしていることが証拠かな」
俺の言葉に、ジョンは一瞬だけ考え込んだ。
「ジョンの言い分だと、王家は邪魔だと思う者と俺を引き合わせているってことだよな?」
「…そう…だな…」
「ベルトラーク家って、王家の政敵なのか?」
「……」
それに対してジョンは答えなかった。まさかそこを突かれるとは思わなかったのだろう。
クスッと微笑みながら、果実酒を口に含む。
「ちなみに、今まで俺が関わって人生が狂った人たちは、大体は自業自得だよ」
笑いながら説明する。
「イライジャ・ルメールはそれこそ俺に媚薬を盛って手籠にしようとした。
ロドニー・コークスは聖女教会のフリークスで、やっぱり俺を犯そうとした。
ウォルター・ジェンキンスも父親と同等かそれ以上の爵位が欲しくて俺を支配しようとした。
コークス一族の件は俺とまるっきり関係がなくて、ロドニーと捕まった時期が被っただけ」
喋りながらつまみのジャーキーのようなものを取ると口に入れる。
「シギアーノに関しては少し違って、友達になったシェリーを助けようとしたら、逆に襲われちゃったんだよね」
あっけらかんと言ってのけた翔平にジョンは苦笑した。
「俺はまだこの世界にきて半年で、わからないことも多い。
まだ伴侶とか恋人とか、そういうのに煩わされたくないっていうのも事実。
でも、この貴族社会で求婚してくる相手を無碍にすることも出来ない」
何かを考えているジョンを見つめならさらに続ける。
「だから王家は俺の立場や状況を考えて、相手を選んでくれているんだよ。
聖女の俺だけを欲しがる奴は除外して、真剣に俺個人を大切にしてくれそうな相手を選んでくれているんだ」
ジョンの眉間に皺が寄った。
「つまり…、王家が篩にかけている、と?」
「そう。レイブン様も、サイファー様も、聖女の、ジュノーの相手として相応しいかどうか、相手を調査してから俺と見合いさせてる。
ジョンは、王家の第一次選考を突破した相手ってことになるね」
ニコリと笑う。
自分でも、とっさによくこんな口からでまかせが言えたもんだと、内心ドキドキしていた。
「俺も、ディーやロイ、グレイ、専属護衛騎士達以外の友人が欲しい。
ようやっとシェリーっていう友人が出来て、狩猟祭で他にも友人が出来たよ」
俺の周囲にいる人が単なる保護者や護衛ではなく、友人だと言い切った。
ジョンは想像していたものと違う答えに少し混乱したのか、頬をぽりぽりと掻いた。
「俺は、ショーヘーの友人候補というわけか」
「まずは友人から、かな」
ニコリとジョンに微笑みかける。
「そうか…」
ジョンが納得したようなしてないような、微妙な表情を受かべ、笑った。
ジョンのグラスが空になったのに気付いて、ボトルを取ると、そのグラスに注ぎ、俺も自分で注いだ。
「殿下とロイ様との関係は?」
「それね…」
俺が苦笑する。
「はっきり言うけど、2人は噂されてるような男じゃないよ。
その立場や妬み、やっかみで尾鰭がつきまくって出来た噂だ。
確かに昔複数人と関係はあったみたいだけど、恨まれるようなことはしていない。これは本人にも、周囲の人にも確認済み」
これもはったりだった。
実際にはっきりと確認したわけではなく、多少の俺の願望も含まれている。
「4ヶ月の旅の間、何もなかったのか?」
「……あったよ」
その質問には正直に答えた。詳細は言わないが、表情で匂わせる。
「4ヶ月の間、ジュノーだから狙われた」
目を伏せて、眉を顰めた。
「俺は、何度か死にかけたし、ロイも、俺を守るために2度、死にかけてる。
ディーも、グレイも、必死に俺を守ってくれた。
命懸けで俺を守ってくれて、何も思わない方が不思議だと思わないか?」
顔を上げてジョンを見て、うっすらと微笑む。
そこに愛が芽生えたのかは、ジョンの考察に任せようと思った。
ジョンがじっと俺の目を見つめ、不意にその目が細められてると、微笑んだ。
「大切に、されているんだな」
「ああ…。ありがたいことにね」
そう嬉しそうに笑った。
ジョンもさらに微笑むとグラスの酒を一気に飲み干す。
その様子から、とりあえず、王家から、ロイとディーから俺を救う必要はないと、そう思ってくれたのだろう、と考えた。確信は持てないが。
「もう一つ、質問いいか。
ジュノーであることを公表しないのは何故だ?」
「それは詳しく聞いてない。ただ、外交上の理由とだけ。
それは政治の問題だから、詳しく聞く必要ないし、聞いてもわからないと思ったから確認してないんだよ。
ただ、実際にキドナを始めとして、他国からの間者に何度も襲撃された」
アランに言われた通り、キドナの名前を出して外交上の理由と言った。
その瞬間、一瞬だけジョンがピクリと反応を示したのを見逃さなかった。
今の反応は何だ?
その僅かな反応に引っ掛かりを覚えるが、顔に全く出さず気付かなったフリをする。
「ジュノーを欲しがるのはどこの国も一緒か…」
「そうみたいだね。俺も今までのジュノーみたいに知識をもたらせるかどうかは不明だけどw
この国の建国にジュノーが関わっていると聞いた時にはほんと驚いたよ」
そう言うとジョンが驚いた顔をする。
「何?」
「本当に勉強してるんだな」
「必要だと思ったからね。言われるまま、流されるままなんてまっぴらごめんだし。俺は俺の意思でこの世界で生きるって決めたから」
子供じゃないし、と言うとジョンが破顔する。
「強いな、ショーヘーは」
ジョンはニコリと笑い、俺のグラスに酒を注いでくれた。
「他に質問は?」
そう聞くと、ジョンが首を小さく振った。
「とりあえず、知りたかったことはわかった」
言いながらつまみを数個口に放り込んで、モグモグと食べる。
「それじゃ、次は俺の番だ」
ニコリとジョンの目を見て笑った。
やはりジョンは俺がジュノーであると確信していた。いや疑っていたのか。周囲からの情報だけで確証は得られなかったのだろう。こうして俺と直接話し、そう促したせいもあるが、ジョンの中で疑いが確信に変わったのが、その表情でわかった。
「ジュノー?」
「ああ。ショーヘーは記憶喪失なんかじゃない。自分がどこから来て、誰なのかもよくわかっている。
記憶が無いんじゃなく、この世界のことを全く知らないだけだ」
早口にそう言われ、一瞬だけ真顔になると、静かにジョンに向かって微笑む。
そして俺も口を布巾で拭って、お茶を口に含んだ。
「俺がジュノーだったら、ジョンはどうする?」
「だったらじゃない。ショーヘーはジュノーだ。
別の世界からこの世界にやってきた来訪者。知識をもたらす者」
ジョンが両肘をテーブルにつき、手を組んでニコニコと俺を見る。
「だから殿下方はショーヘーを保護した。殿下方の旅行も嘘で、最初からショーヘーを保護するためにベルトラークに来たんだな」
ウエイトレスが食べ終わった食器を片付けに来て、新たなティーポットを置いて行った。
「ジョンは俺がジュノーだと気付いてた?」
「疑ってはいたよ。
あの時、やたら他国からの旅行者や傭兵が入国してきたし、国境警備隊も密入国しようとする者を何人も捕らえていた。
それに加えて、転移魔法陣が破壊された。ベルトラークだけじゃない。国内のほぼ全ての魔法陣が破壊されて、王都への最短ルートが消え失せた」
話しながら、俺と自分のティーカップにお茶を注ぎ、すっと俺に新たなお茶を差し出す。
「それに、とある場所に見たこともない物が流れた」
ジョンがおかしそうに笑う。
その言葉に、俺が妄想した盗品類を扱う闇市のことが頭に浮かぶ。やはり、その市でジョンは俺が紛失した鞄を目にしてると確信した。
「ジュノーが出現したと、その物を見た時は思ったが、その噂はいつのまにか消え、ジュノーの噂が聖女へと切り替わった」
クスクスと目を細めてジョンが楽しそうに笑う。
「きっとディーゼル殿下の策略だろう?
聖女伝説を利用して、出現したのはジュノーではなく聖女だったと塗り替えた。実際にショーヘーは聖女の力も持っていたから成せたことだ」
さすが殿下だ、と称賛の言葉を口にして、俺もディーが褒められたことに素直に喜び笑顔になった。
「否定はしないんだな」
真っ直ぐに目を見つめられて、俺は言葉で肯定も否定もせず、目を細めてただ微笑む。
そこからしばらく沈黙が続いた。
互いにティーカップに視線を落として、ゆっくりとお茶を飲む。
やがて、ジョンが静かに顔を上げると、店を出ようと言い、それに従った。
ジョンが支払いを済ませ、俺は恐縮しながらお礼を言うと、嬉しそうに微笑む。
外に出ると、ジョンが当然のように俺の手を握り、再び手を繋いで散策を始める。
「王宮に閉じ込められているのかと思ったよ」
「え?」
歩きながら、不意にジョンが真っ直ぐ前を見たまま言った。
「聖女だと奉られて、王家に利用されているのかと思った」
「そんなことは…」
「ないと言えるか?」
隣を歩くジョンが俺を斜め上から覗き込む。
「お見合いをさせられているだろう?リンドバーグの末子と観劇に行ったり、シギアーノ令嬢のお茶会、ブルーノの演奏会、狩猟祭。全部、命令されているんじゃないのか?」
ジャンが俺の全ての行動を知っていると言った。その上で、俺が王家に利用されていると懸念しているようだった。
「そこに俺の意思がないと?」
「ある、のか?」
「あるよ。利用なんてされていない」
話しながら歩き、小物を売っている店のショーケースを眺めた。
一緒にその店に入ると、並べられた綺麗な小物入れを眺め、手に取る。
「こういうのが好きなのか?」
「好きというか、入れたいものがあってさ」
大きさや蓋の開閉具合を確認しながら、適当な物を探す。
「買ってやろうか」
「いいよ。これは自分で買いたいんだ」
振り返ってジョンに笑顔を見せる。
ロイとディーから送られた魔石から作ったピアスを入れる専用の箱が欲しかった。
出来れば、目につく所に置きたいと考えていて、ほんと乙女な思考だな、と笑う。
小物入れや、ピアス専用のケースを眺め、いい物が見つからなかったため、そのまま店を出る。
「あっちの通りにも雑貨屋があるぞ」
再び手を繋がれて引っ張られた。
「ジョンは、俺が王家に利用されて苦しんでると思ったんだな」
「状況を見れば、そう思うだろ」
ジョンが苦笑する。
「王宮からほぼ出て来ないし、出られたとしても護衛付き。まるで監視されてるみたいだ」
確かに、第三者にはそう見えるのかもしれない。
四六時中、騎士が張り付いていて、1人になることはほぼない。だが、俺はそれを苦痛に感じたことは一度もなかった。この世界に来て、1人になることの方が怖かったからだ。
「そう見えるか…」
俺が困ったように苦笑すると、ジョンはそっと俺の肩を抱き寄せた。
「閉じ込められて、自由が効かない生活を送っているんだと思っていた」
「ああそうか…、だから護衛をつけるな、か」
そういう見方もあったのか、と考えてクスッと笑う。
確かに俺や王家、騎士達の関係を全く知らない人たちから見れば、俺が囚われているように見えるかもしれない。
「それもあるが、暴漢からショーヘーを守れるくらいの力は俺にもあるよ」
俺の腕をさすりながら、自分の体にギュッと引き寄せて、ニカッと笑う。
その行動に抵抗の意識が芽生える。
「毎日勉強してるんだ」
「勉強?」
「そう」
隣のジョンを見上げてニコリと微笑むと、さりげなく肩からジョンの腕を外す。
「俺はこの世界のことをまるで知らない。元の世界との共通点もあるけど、違う所も多いんだ。
だから勉強してるんだよ。
俺が閉じこもっているように見えるのはそのせいだね」
笑いながら言うとジョンが苦笑する。
「辛い思いは、していないのか」
「まあ色々あるけど、みんな助けてくれるから。割と毎日楽しいかな」
道の角を曲がって別の雑貨屋に入る。
同じような小物入れが並び、それらをゆっくりと一つ一つ吟味しながら良さそうな小物入れを見つけた。
「これ可愛いな」
片手で収まるほどの、全体的に青くてキラキラした模様の入った小物入れを見て微笑む。
以前シェリーから貰った小物入れと似ていて、並べて置けば様になると思った。
「可愛い物が好きなんだな」
「そういうわけじゃないけど、どうせ入れるなら綺麗な箱の方がいいだろう?」
それまではお菓子の空き箱に入れていたから、と言うとジョンが吹き出し声に出して笑った。
値札を確認して持っているお金で買えるとわかり、会計しに行く。
「買わせてもらえないか?」
お菓子の空き箱にツボにハマってまだ笑っているジョンに後ろから声をかけられる。
「これはダメ。俺が自分で買ってこそ意味があるんだ」
金貨2枚を出してお釣りをもらい、包んでもらうと、紙袋を受け取って店を出た。
「寒くないか?」
手を繋いで散策しながらジョンが気遣ってくれる。
「大丈夫。マフラー暖かいよ」
そう言いながらふわふわのマフラーに触れてニコリと微笑むとジョンも笑った。
ジョンに手を引かれて、商業区から少し離れた場所にある、ヴィスタ・ウォールに上がる階段まで歩いた。
「少し疲れるかもしれないが、上まで上がってみないか?」
そう言われて頷くと、ゆっくりと階段を上がり始めた。
城壁に迫り出した葛折りになった階段を休み休み上がっていくと、城壁の頂上に到着した。
城壁の頂上は万里の長城のように、人が通行出来るように結構幅がある。
有事の際にはこの場所に兵士が立つことが想定されており、中世ヨーロッパの城にあるような凹凸の鋸壁があった。
デートスポットになっているのか、周囲には腕を組んだり、手を繋いで歩く人達が多い。
「おお~いい眺め~」
元々王都は緩やかな斜面に作られている。
王城からその都を眺められるようになっており、王城を案内された時に、物見塔から王都の全貌を見たことがあった。
3層目のヴィスタからも下の町が一望出来て良い眺めだった。
後ろを振り返れば、高い王城の塔が見え、さらに普段は見えない騎士団官舎の屋根が木々の間からチラリと見えた。
「ショーヘー」
その景色に感動していると、いつのまにか離れていたジョンに呼ばれてそちらを見ると、少し離れた場所にある屋台で、暖かい飲み物をテイクアウトしている所だった。
素直にジョンの方へ向かうと、ジョンが湯気の立つ飲み物を差し出してくる。
「ありがとう」
それを受け取ると、少し離れた所にあるベンチに腰掛ける。
座った途端、フワリと暖かさがベンチから伝わった。
「面白いだろう?」
外にいるのに、座ると暖かい空気に包まれ、透明なドームの中にいるような感じがした。
「ここは王都の観光スポットでもあるからな。冬でもこの景色が見られるようにベンチに暖房用の魔鉱石が仕込まれているんだ」
ジョンが説明してくれる。
その説明に驚きながら、ベンチのあちこちを見て、その座面の下に、小さな突起がいくつかあるのに気付いた。おそらくその突起の中に魔鉱石が仕込まれているのだろう。
「すごい。よく考えたなぁ」
感心したように呟き、手に持っていた飲み物を口にする。
「あったまる~」
ほぅと息を吐き、甘いホットティーに癒された。
「ジョンは、俺と会って何をしたかったんだ?」
俺とのデートの目的を聞いた。
「…何を…ね…」
隣に座る俺をじっと見て、言葉を探しているような表情をする。
「誤魔化すのも面倒だから、はっきり言うことにするかな」
言葉を探したが見つからなかったようで、諦めたように言った。
「俺は聖女が政治利用されていると思った。
軟禁状態にされて、監視されて、王家にいいように使われているのかと」
真剣な表情で俺を見て、さらに続ける。
「この半年、何人かは廃嫡され、国外追放され、シギアーノに至っては爵位剥奪。コークス家は取り潰し。
ほぼ全てにショーヘーが絡んでいる」
まるで陰謀論を説くようにジョンが言い、俺は苦笑した。
確かにジョンの言っていることは事実だ。
シギアーノ家のセシル、ルメール家のイライジャ、ジェンキンス家のウォルターは廃嫡され、コークス家の犯罪には俺は絡んでいないが、次男ロドニーは俺を襲った。シギアーノのジェロームとジャレッドの件も記憶に新しい。
「まるで、聖女を餌に王家にとって邪魔なものを排除しているようだ」
確かに王位を簒奪しようとする者を探すために、探りを入れたのは間違いない。だが、その結果犯罪が浮き彫りになっただけの話で、ジェローム達は別だが、他の者たちは陥れるのが目的ではなかった。
俺が苦笑すると、ジョンは俺から視線を逸らした。
「王家の政敵を減らすために俺が利用されていると…?」
簒奪者や黒幕も政敵には違いない。
言葉だけを聞くなら、ジョンの言っていることは正解だ。
「そうじゃないのか。だから、殿下や兄弟同然のロイ様がショーヘーを…」
そこまで聞いて、オスカーの推測はほぼ当たっていると思った。
そしてやはり、俺たちの間に愛があると知らないこともわかった。
「あのお二方に口説かれれば誰だって…」
その言葉に対して俺はクスッと笑うと、ジョンが顔を顰めながら俺の表情を訝しげに見る。
「つまり、ロイとディーは俺を利用するために手籠にしたと。
俺をいいように使うために、性的に虜にしたんじゃないかって言いたいわけ?」
ニコニコと笑いながら聞く俺に、ジョンが顔を引き攣らせた。
「あの2人なら出来るだろう。かなりの性豪で、今までにも何人も虜にしては捨ててるらしいしな」
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そう俺に言われて、ジョンが怯んだ。
その表情で、2人の噂が事実だと思い込んでいたと白状したようなものだ。
黙り込んだジョンに俺は微笑みかける。
「一つ。さっきも言ったけど、その利用されている云々というのは間違い。
俺は利用されていないし、操られてもいない。俺の意思で動いてる」
冷めたホットティーを全て飲み干す。
「二つ。俺が2人に手籠にされたっていうのも間違い。2人ともそんな奴じゃない」
「だがそれは…」
ジョンは、俺が2人に騙されていると言いたげに声を出すが、俺は返事をしなかった。
おそらく俺たちの間に愛があると言っても、今はまだジョンは信じないだろう。
当初はそこに愛があると打ち明けようと思っていたが、ジョンは思っていた以上に状況を独自に分析し判断している。
だから今はまだ匂わせる程度にして、さらなる考察をジョンにさせるべきだと思った。
しばらく互いに無言になる。
ヴィスタ・ウォールに夕日が当たり、俺達をオレンジ色に照らす。
太陽が沈み初めて、徐々に気温が下がり始めていた。
いくらベンチが暖かいと言っても、流石に0度近くまで下がると体も冷えてくる。
「場所を変えようか」
そう言って立ち上がると、ジョンの手を掴んで立ち上がらせる。
ジョンも素直に従いながら、俺の手をギュッと握った。
「ショーヘー、酒は?」
「好きだよ」
笑いながら答えると、ジョンも嬉しそうに笑う。
夕方5時を知らせる大鐘が王都に鳴り響いた。
ヴィスタ・ウォールを降り、再び商業区に戻ると、その街をゆっくり歩き、さらに奥にある酒場が並ぶ歓楽街に入った。
「ここにしよう」
昼食を摂った酒場兼食事処とは違う、少しだけ落ち着いた感じの酒場に入る。
中は静かで、緩やかな音楽が邪魔にならないボリュームで流れていた。すでに飲んでいる客も、割りと中流階級以上の出立で、大声でワイワイ話す人は誰もいなかった。
元の世界にもあった、雰囲気のあるバーのような店だ。
「いらっしゃいませ」
「上、空いてるか?」
ジョンがウエイターに言うと、ニコリと微笑み、どうぞこちらへ、と案内してくれる。
店内を横切って奥にある階段から4階に上がると、下階のあるようなオープン席ではなく、個室に案内された。
流石に狭い個室で2人きりはマズいか、と一瞬顔を顰めたが、それでも今日のこれまでのジョンの行動から、大丈夫だと判断した。
いざとなったら、指輪もあるし、魔法で抵抗しようと心に決める。
「シャルダーニをボトルで。あと適当につまみを」
ジョンがウエイターに告げると、かしこまりましたと頭を下げ、立ち去る。
すぐにジョンが俺の背後に回ってコートを脱がせてくれると、コート掛けにかけ、そちらへ、とソファを勧める。
ジョンもコートを脱ぎ向かい側のソファに腰をおろした。
4階の個室の窓から外を眺めると、陽が落ちて暗くなった道を魔鉱灯が明るく照らしていた。
酒場を求めて行き交う人たちを見下ろして、歓楽街はどちらの世界も同じ雰囲気だな、と薄く笑った。
しばらくして酒とつまみの盛り合わせが運ばれてきて、テーブルに並べられた。
ウエイターが最初だけグラスに果実酒を注ぎ入れ、深々と頭を下げて静かに部屋を出て行った。
「乾杯しようか」
グラスを手にとって、互いに微笑みながらカチンとグラスをぶつけ合った。
少し甘めのお酒で喉を潤し、アルコールが体を温めて行く。
「話の続きだが、利用されていない、自分の意思だという証拠はあるか?」
「今こうしてジョンとデートしていることが証拠かな」
俺の言葉に、ジョンは一瞬だけ考え込んだ。
「ジョンの言い分だと、王家は邪魔だと思う者と俺を引き合わせているってことだよな?」
「…そう…だな…」
「ベルトラーク家って、王家の政敵なのか?」
「……」
それに対してジョンは答えなかった。まさかそこを突かれるとは思わなかったのだろう。
クスッと微笑みながら、果実酒を口に含む。
「ちなみに、今まで俺が関わって人生が狂った人たちは、大体は自業自得だよ」
笑いながら説明する。
「イライジャ・ルメールはそれこそ俺に媚薬を盛って手籠にしようとした。
ロドニー・コークスは聖女教会のフリークスで、やっぱり俺を犯そうとした。
ウォルター・ジェンキンスも父親と同等かそれ以上の爵位が欲しくて俺を支配しようとした。
コークス一族の件は俺とまるっきり関係がなくて、ロドニーと捕まった時期が被っただけ」
喋りながらつまみのジャーキーのようなものを取ると口に入れる。
「シギアーノに関しては少し違って、友達になったシェリーを助けようとしたら、逆に襲われちゃったんだよね」
あっけらかんと言ってのけた翔平にジョンは苦笑した。
「俺はまだこの世界にきて半年で、わからないことも多い。
まだ伴侶とか恋人とか、そういうのに煩わされたくないっていうのも事実。
でも、この貴族社会で求婚してくる相手を無碍にすることも出来ない」
何かを考えているジョンを見つめならさらに続ける。
「だから王家は俺の立場や状況を考えて、相手を選んでくれているんだよ。
聖女の俺だけを欲しがる奴は除外して、真剣に俺個人を大切にしてくれそうな相手を選んでくれているんだ」
ジョンの眉間に皺が寄った。
「つまり…、王家が篩にかけている、と?」
「そう。レイブン様も、サイファー様も、聖女の、ジュノーの相手として相応しいかどうか、相手を調査してから俺と見合いさせてる。
ジョンは、王家の第一次選考を突破した相手ってことになるね」
ニコリと笑う。
自分でも、とっさによくこんな口からでまかせが言えたもんだと、内心ドキドキしていた。
「俺も、ディーやロイ、グレイ、専属護衛騎士達以外の友人が欲しい。
ようやっとシェリーっていう友人が出来て、狩猟祭で他にも友人が出来たよ」
俺の周囲にいる人が単なる保護者や護衛ではなく、友人だと言い切った。
ジョンは想像していたものと違う答えに少し混乱したのか、頬をぽりぽりと掻いた。
「俺は、ショーヘーの友人候補というわけか」
「まずは友人から、かな」
ニコリとジョンに微笑みかける。
「そうか…」
ジョンが納得したようなしてないような、微妙な表情を受かべ、笑った。
ジョンのグラスが空になったのに気付いて、ボトルを取ると、そのグラスに注ぎ、俺も自分で注いだ。
「殿下とロイ様との関係は?」
「それね…」
俺が苦笑する。
「はっきり言うけど、2人は噂されてるような男じゃないよ。
その立場や妬み、やっかみで尾鰭がつきまくって出来た噂だ。
確かに昔複数人と関係はあったみたいだけど、恨まれるようなことはしていない。これは本人にも、周囲の人にも確認済み」
これもはったりだった。
実際にはっきりと確認したわけではなく、多少の俺の願望も含まれている。
「4ヶ月の旅の間、何もなかったのか?」
「……あったよ」
その質問には正直に答えた。詳細は言わないが、表情で匂わせる。
「4ヶ月の間、ジュノーだから狙われた」
目を伏せて、眉を顰めた。
「俺は、何度か死にかけたし、ロイも、俺を守るために2度、死にかけてる。
ディーも、グレイも、必死に俺を守ってくれた。
命懸けで俺を守ってくれて、何も思わない方が不思議だと思わないか?」
顔を上げてジョンを見て、うっすらと微笑む。
そこに愛が芽生えたのかは、ジョンの考察に任せようと思った。
ジョンがじっと俺の目を見つめ、不意にその目が細められてると、微笑んだ。
「大切に、されているんだな」
「ああ…。ありがたいことにね」
そう嬉しそうに笑った。
ジョンもさらに微笑むとグラスの酒を一気に飲み干す。
その様子から、とりあえず、王家から、ロイとディーから俺を救う必要はないと、そう思ってくれたのだろう、と考えた。確信は持てないが。
「もう一つ、質問いいか。
ジュノーであることを公表しないのは何故だ?」
「それは詳しく聞いてない。ただ、外交上の理由とだけ。
それは政治の問題だから、詳しく聞く必要ないし、聞いてもわからないと思ったから確認してないんだよ。
ただ、実際にキドナを始めとして、他国からの間者に何度も襲撃された」
アランに言われた通り、キドナの名前を出して外交上の理由と言った。
その瞬間、一瞬だけジョンがピクリと反応を示したのを見逃さなかった。
今の反応は何だ?
その僅かな反応に引っ掛かりを覚えるが、顔に全く出さず気付かなったフリをする。
「ジュノーを欲しがるのはどこの国も一緒か…」
「そうみたいだね。俺も今までのジュノーみたいに知識をもたらせるかどうかは不明だけどw
この国の建国にジュノーが関わっていると聞いた時にはほんと驚いたよ」
そう言うとジョンが驚いた顔をする。
「何?」
「本当に勉強してるんだな」
「必要だと思ったからね。言われるまま、流されるままなんてまっぴらごめんだし。俺は俺の意思でこの世界で生きるって決めたから」
子供じゃないし、と言うとジョンが破顔する。
「強いな、ショーヘーは」
ジョンはニコリと笑い、俺のグラスに酒を注いでくれた。
「他に質問は?」
そう聞くと、ジョンが首を小さく振った。
「とりあえず、知りたかったことはわかった」
言いながらつまみを数個口に放り込んで、モグモグと食べる。
「それじゃ、次は俺の番だ」
ニコリとジョンの目を見て笑った。
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