おっさんが願うもの 〜異世界行ったらイケメンに大切にされ、溺愛され、聖女と呼ばれ、陰謀に巻き込まれ。それでも幸せ目指して真面目に頑張ります〜

猫の手

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キドナ編 〜断罪劇へ向けて〜

252.おっさん、一難去ってまた一難 / ロイとディー、正体を明かす

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 王宮の別棟にある来賓用の豪華な客間で、メイノールは窓から見える街の灯りを見ながら、食事していた。
 その向かいには自分の護衛である騎士を2人座らせ、夕食に付き合わせている。
 1人で食べる食事ほど味気ないものはない。
 メイノールはこうしていつも誰かを伴って食事をすることを楽しみにしていた。

 食事を共にすることで、部下も気を許してくれることが多い。
 他愛のない雑談の中に、実は重要な情報があったりするのだ。
 今回ここに来ることになったのも、数ヶ月前の部下との食事中の雑談がきっかけだった。


 その時の食事中、年若い文官は雑談として巷に流れる噂話を持ち出した。
 それは、平民の間で語られているエルフと人族の悲恋物語であった。その物語は何度も聞いたことがあり、最初は苦笑いを浮かべながら聞いていた。
 だが、若い文官はその悲恋物語には後日譚があると言った。

 語り継がれてきた悲恋物語には続きがあり、愛を貫くために死を選んだ2人だったが、その死は偽装であり、2人は名前もそれまでの人生も何もかもを捨て別人になり、新天地で暮らし始めるという内容だった。

 メイノールはそれを聞き、己の直感がざわつくのを感じる。

 その悲恋物語のモデルになっているのが、実の妹の話であると知っている。
 人から人へ語り継がれる間に、少しずつ内容を変えていったが、基本は400年前のセシリアとフィリックスの話である。

 メイノールは食事を終えると、すぐに己の影に当時の状況、関わった者達の行動履歴等を詳細に調べるように命令する。
 そしてたった1週間ほどで得た結果から、様々な矛盾点があることに気付いた。
 その当時、メイノールは170歳でまだ若く、物事を深く追求する能力も、思考力もなかった。
 だが、今になって当時の状況を知ると、そこに多くの矛盾と、不可解な動きがあることに気付いたのだ。

 まさか…。

 メイノールは、妹が、セシリアが生きていると確信した。
 そう確信し、すぐに探し出すように命令したが、1ヶ月経っても痕跡すら掴めなかった。

 そんな時、意外な人物から情報が入る。
 その人物はセシリアの件に一切関わっていないにも拘わらず、もたらされた情報は深く絡んでいた。
 メイノールはその時になってセシリアの生存情報と、この件が繋がっていると、何者かが自分をそう誘導したと気付く。

 そしてその意外な人物と相談し、あえてその何者かの計略に乗ることにした。

 誘導した何者か。
 意外な人物。
 そして自分。

 3人の目的はバラバラだが、利用する価値がある。
 もちろんデメリットはあるが、得られるメリットはかなり大きい。



 そして今、メイノールはここにいる。
 自分の目的を果たすため、意外な人物へ協力するために、キドナへ来た。

 




 翔平がナイゼルに向かって怒鳴った頃、メイノールは護衛騎士2人との食事を終えて、食後のお茶を楽しんでいた。
「失礼します」
 そこへ深緑の髪を持つ護衛騎士が客間へ入って来る。
「メイノール様」
 ダイニングの椅子に座るメイノールに近付くと、その耳元へ口を寄せ、ボソボソと耳打ちする。
 報告を受けたメイノールはその顔から笑みが消えた。
「どのくらい時間が経った?」
「食事を始めて1時間ほどです」
 すぐに騎士が答える。
「まずいな…」
 メイノールはすぐに立ち上がると、急ぎ足でドアへ向かう。
「ライアン、一緒に。他はここで待て」
「っは」
 歩きながら報告してきたライアンと呼ばれた騎士を伴って部屋を出る。
 残された護衛騎士はメイノールに敬礼するとその場で待機した。
 ライアンはメイノールの羽織物を手に取ると、駆け足で主人を追いかけ、その肩へそっとかける。
「ありがとう」
 メイノールはライアンに向かってその美しい顔で微笑みを浮かべた。










 ナイゼルが今まさに翔平を楔を打ち込もうとした瞬間、背後の扉がドンドンと叩かれる。
「あ“ぁ?」
 ノックではなく、まさにゴンゴンと拳を打ちつける音に、ナイゼルは振り返ってドアを見つめた。
 だが、ドアが開かれることはなく、静まり返る。
 ナイゼルは数秒ドアを見つめ、再び気を取り直して翔平の足を抱え込むと、改めてペニスをアナルに添えた。
 だが、またしてもゴンゴンと扉を鳴らされ、ナイゼルは舌打ちした。
 そのまま無視することに決め、アナルへ先走りの蜜を塗り込むように動かし、ニヤニヤとだらしなく顔を歪ませる。


 俺のものだ。
 聖女は、これで俺のものになる。
 “あの方”の計画など、俺にかかれば、こんな簡単に覆せる。
 たっぷりと可愛がり、精を注ぎ、生き証人であることも忘れるほど、快楽に溺れさせればいいだけだ。


 その自信がどこから来るのか、ナイゼルは笑いながら、ペニスを押し付けた。
 
 だが次の瞬間、メキメキという音を立てて、鍵のかけられたドアノブが壊れ、外され、バタンと両開きのドアが開かれた。
「な…」
 ここにそんなことをする奴がいるわけがない。
 王太子である自分の居室へ許可もなく入って来るなんて、とナイゼルは振り向きつつ、そこに現れた2人の人物を見た。
「あ…」
 その人物を見て、体が固まる。
「ナイゼル殿。話が違うのではないか?」
 静かに部屋に突入してきた男、メイノールは長い金髪を靡かせて、ベッドへと近付いてくる。
 ドアを破壊したのはライアンで、メイノールよりも劣るが、彼もまた精悍な顔つきの美丈夫だった。
「メ、メイノール殿…。こ、これは…」
 ナイゼルは目に見えて焦っていた。
 メイノールはゆったりとした袖で口元を覆い、その美しい目で、途中までズボンを下ろした状態で見えているナイゼルの尻を、汚いものでも見るかのように顔をしかめた。
 そして、ナイゼルに組み伏せられ、今まさに犯される寸前の翔平を見つめる。

 衣服を引き裂かれてボロボロにされた半裸状態。
 元の形がわからないほど顔が腫れ上がり、その鼻と口の周りには流した血の跡。
 その右の前腕はボッコリと腫れ、折れていることがわかった。

 その酷い有様にメイノールは眉間に皺を寄せるとヒクリと頬を動かし、口元から手を離すとナイゼルを冷たい目で見据える。
「ナイゼル殿…。まずはその見苦しいモノをしまってくれないか?」
 見苦しいと言われ、ナイゼルは慌てて持ち上げていた翔平の足を放り投げるように離し、両手でペニスを隠しつつズボンを上げてしまいこみ、メイノールから離れるようにベッドを挟んで対岸に立つ。
「聖女様をまず僕に、という約束を忘れたのか?」
「わ、忘れたわけでは…」
「ではこれはどういうことだい?
 僕は聖女様が到着したという知らせも受け取っていないよ」
「そ、それは…」
 メイノールは目を細め、横目で睨みつけるように冷たい視線を向ける。
 ナイゼルは言い訳が思いつかないようで、今までの威勢はなりをひそめて、目を泳がせつつ挙動不審になっていた。
「聖女様をまずは僕に預けることが協力の条件だったはずだ。
 その約束を反故したらどうなるか、いくら考え無しの君でもわかるだろうに」
 メイノールの全身から怒りと軽蔑が込められた魔力が湧き立ち、ナイゼルを威圧する。
「おおかた聖女様に煽られ、馬鹿にされて頭に血が上ったのだろうな。
 まったく…。
 腰を振るしか脳の無い猿だな、君は」
 メイノールが小馬鹿にしたようにフフフと笑いながら辛辣な言葉を投げつけ、ナイゼルはぐぬぬと何も言い返せずに顔を真っ赤にして身を震わせていた。



 そんな会話を俺は朦朧とした意識で聞いていた。
 メイノールと聞いてマールデンの第3王子だとわかった。突如乱入してきて、そのおかげでレイプが中断されたことは理解した。
 ナイゼルがメイノールに対して頭が上がらないことも、会話と雰囲気でわかった。
 メイノールはナイゼル側の客人として、扱いを受けている。
 当然、魔力の制限をかけられていないのだろう。メイノールから発せられる魔力は、明らかにナイゼルを上回っている。それは総量だけではなく、研ぎ澄まされ、研鑽されたものであり、いくらナイゼルが武人であっても敵わないのだと察した。
 あまりにも格が違いすぎる。

 だが、会話の内容までは理解に至らなかった。
 ズキズキと顔面が酷く痛み、熱い。そのせいなのか、頭もガンガンと痛んで思考力がどんどん低下していく。
 今にも気を失いそうだったが、痛みのせいでそれすらも出来ず、意識が混沌としていく。



「聖女様に快楽を覚えさせ、操りたいのだろう?
 そのための僕だよ。犯すしか能のない君に、たった1日やそこらで彼を陥落させるなんて出来るわけがないだろう。身の程を知れ」
 メイノールは相変わらずナイゼルを逆なでするような言葉を投げかける。
「お、俺は…」
 今にも噴火しそうな勢いでナイゼルは頭に血が上る。
「だいたい、ただ犯した所で言うことをきくとでも思っているのかい?
 力ずくで蹂躙しても逆効果だと、なぜわからない。
 本当に君は馬鹿だね」
 スラスラと口滑らかに罵声を浴びせるメイノールは、ナイゼルを蔑むような視線を向ける。
 ナイゼルはプルプルと震え、怒りや羞恥、悔しさが全身を襲う。
「彼はこっちで引き取らせてもらうよ」
 メイノールがライアンに目配せすると、彼は静かにベッドへ近寄り、ベッドのシーツを剥ぎ取って、翔平を丁寧に包んだ。
「う“ぅ…」
 動かされ、痛みが走って俺は声を上げた。
 真っ白いシーツで包まれてライアンに姫抱きで持ち上げられた。
「今しばらく耐えてください」
 ライアンが俺に聞こえるくらいの小さな声で言い、俺は返事をしようとしたが呻き声しか出すことが出来なかった。
 顔が腫れ、上手く口を動かすことが出来ない。顔と腕が熱を持ち、ジクジクと鈍い痛みに襲われていた。
 メイノールはナイゼルを一瞥し、フンと馬鹿にしたように鼻で笑うと、クルッと方向を変えてナイゼルの私室を壊したドアから出た。その後ろをライアンが翔平を抱いてついて行く。
 廊下に出てしばらくすると、咆哮のようなナイゼルの声と、暴れ、物が壊れる音が聞こえてきた。

 ナイゼルは自分のものになると思った翔平を掠め取られ、その怒りを全く抑えようともせず、暴れまくった。
 目につく全ての物を滅茶苦茶に破壊する。
 家具や壁がみるみるうちに残骸と化し、見るも無惨な様相へと変わっていく。
 血走り見開かれた両目が悔しさと怒りを滲ませていた。
「メイノールめ…」
 ギリギリとあまりにも強く噛み締めたせいで、口から血を流した。




 “あの方”から示された計画には、メイノールがナイゼルへ協力するとあった。
 その目的は400年前の公国による王女略奪事件への報復であり、ゆくゆくはマールデンとキドナの王族間で婚姻関係を結び、公国へ対抗するためと書かれていた。

 計画にメイノールがナイゼルと、とは一切書かれていないが、ナイゼルは翔平のみならず、あの美しいメイノールをも手に入れられると勘違いした。

 だがキドナを訪れたメイノールは、計画に示されていなかった条件を提示する。

 それは、聖女をまずメイノールが抱くことだった。

 公国に捨てられた哀れな聖女といえど、そう簡単にナイゼルへは靡かない。
 だから聖女の身も心も支配するために、自分の美貌と性技を持って陥落させる。今までにも老若男女問わずそうやって自分の虜にさせ支配してきたから、簡単なことだと彼は笑った。

 その条件を提示されてナイゼルは戸惑った。そんなことをせずとも、犯し蹂躙することで精神を屈服させることが出来ると思っていた。

 だが、メイノールはフフフと妖艶な笑みを浮かべる。
「力づくで支配するのと、望んで支配されるのでは、全く違うんだよ」
 メイノールはナイゼルに近づき、その厚い胸板へ指を這わせ、しなだれかかった。
「僕に任せてもらえれば、喜んで君を受け入れるようになる。
 君のコレが欲しいと、自ら足を開くよ」
 メイノールはナイゼルの股間へ手を滑らせると、ズボンの上からペニスを撫で握り込んだ。
「その時は僕と君で、2人で聖女をたっぷりと可愛がって愛してやればいいんだ」
 ナイゼルのペニスを撫でながら、はぁと熱い吐息をナイゼルに吹きかけた。
 ナイゼルはそのメイノールの誘いに一瞬で戸惑いを吹き飛ばし、ペニスがガチガチに硬くなった。
 ナイゼルはメイノールの頭を掴むと、乱暴に唇を奪う。舌を差し入れ、ジュルジュルと音を立てながらその唇と舌を貪った。
 抱きしめ、メイノールの尻を弄って衣服の上から際どい所を指で弄った。


 この目の前の美しい男も自分のものになる。
 俺は、全てを手に入れる男に相応しい。


 ナイゼルはメイノールの服を脱がせようと胸元に手を添えたが、それを止められた。
「お楽しみは後からだよ。
 まずは聖女様を落としてからね」
 メイノールはナイゼルの手を握り、もう片方の手で唇に人差し指を当てて、子供へするように我慢しろと微笑んだ。
「…任せる」
 ナイゼルは目の前の美しい顔にうっとりしつつ、なんとか欲情を抑えた。
 数日待てば、この顔が快楽で歪む。俺を求めて乱れ狂う、とナイゼルはニヤリと下品な表情を浮かべた。




 暴れる音が聞こえない場所まで進んだ所で、メイノールは歩みを止めて後ろを振り返った。
 すぐに数歩後ろにいるライアンに近付くと、抱えられた翔平の顔を改めて覗き込む。
「可哀想に…」
 苦痛に歪む顔と、目尻に残った涙の跡に顔をしかめると、すぐに両手をかざしてヒールを施す。
「ん…」
 温かな魔力がナイゼルによって負わされた怪我を治していく。
 骨は元通りに、傷ついた筋繊維や皮膚がゆっくりと修復されて元の状態へ戻っていった。
 痛みが消え去り、熱を持っていた箇所が正常に戻ると、俺は薄目を開ける。
「ぁ……天使…?」
 目に映った美しい人に、天使だと思ってそう口にした。
 そして、助けられたという安心と、痛みから解放されたことで意識を手放した。
「…ライアン、聞いたか?僕のことを天使だって」
 メイノールの表情がパアァと明るくなると、嬉しそうに頬を染めてライアンに笑いかける。
「…お姿だけは美しいですからね」
 ライアンは「だけ」を強調して無表情で主に返す。
「…お前くらいだぞ、そんなことを言うのは」
 メイノールはムッとした表情を浮かべると、ライアンを睨みつけた。
「本当のことですから」
 だが、ライアンは顔色一つ変えずに呟くように言った。
 メイノールはさらに顔をしかめ、自分を常に守り、数百年そばにいるライアンの頭をスパンと叩いた。










 12月18日、午後8時。
 屋敷のエントランスで、バルカムは共に会合へ向かうロイ達を待っていた。
 今回も代表してロイとディー、デクスターとバシリオを伴うことになっていた。

 決起まであと2日。
 準備は着々と進んでおり、バルカムはその時の事を考えるとゾクゾクとした興奮のような昂りを感じていた。
 出発は8時15分と伝えているが、その昂りのせいで、15分も早くエントランスに来てしまった。
「お待たせしました」
 ソワソワと落ち着きがなく、パタパタと尻尾を揺らしていると、その背中に声がかかる。
「おお、早い…な……」
 待って数分で後ろから声をかけられ、出発時間よりも早いことに、バルカムは嬉々として振り返る。
 だが、エントランスに向かって階段を降りてくるロイ達の姿に、言葉に詰まらせる。

 同行する代表者だけではなく、ロイとディーを先頭に9人全員が階段を降りてくる。
 驚いたのは全員だったことではなく、その格好だった。

 1人を除いて全員が同じ漆黒の騎士服に黒マントという出で立ちだった。しかもその騎士服の形には見覚えがある。
 キドナのものではなく、それは隣国のサンドラーク公国のものだと、バルカムはすぐに気付く。
 だが、1人、バシリオだけは騎士服ではなく、ここキドナの民族衣装、しかも正装を身につけていた。
「…ガイ殿?これは一体…」
 バルカムは訳がわからず、全員を見渡しつつ、異様な事態に警戒心も露わにした。
「伯爵殿。まずは欺いたことを謝罪します」
 ロイがバルカムの前まで来ると、背筋を伸ばし、頭を深々と下げた。それに倣うようにディーを始め騎士達も頭を下げる。
「欺く?私は騙されていたということか?」
 警戒心をあらわにしながらも、ロイ達の態度に首を傾げる。
「全員、魔法解除」
 ディーが仲間達に笑顔を向けると、それぞれがニコリと微笑み、自身の色を元に戻し、認識阻害の魔法を解除した。

 目の前にいたロイが黒から白へと変わり、ディーが銀髪をサラリと払う。全員が本来の髪色になると、きっちりと横並びに騎士然として整列する。
 バルカムはパカンと口を開けたまま呆然とする。
 ディーが一歩前に進み出る。
「ご無沙汰しております。バルカム伯爵殿」
「……」
 ディーに微笑みかけられ、バルカムは口をパクパクさせて、目を大きく見開いてディーを凝視した。
「ディ…、ディーゼル……サンドラーク、第3王子殿下……」
「はい」
 ようやく隣国王子の名前を口にし、ディーゼルは名前を呼ばれて返事をしつつ、ニッコリと笑顔を向けた。
 バルカムは慌てて一人一人の顔を確認する。
「ロイ…、英雄ロイ?それに…公国の騎士…?」
「サンドラーク公国騎士団第1部隊所属、ジャニス」
「同じく、アビゲイル」
「フィン」
「エミリア」
「俺は元騎士、法務局執行官、ダニエル・クルス」
「弟のデクスター・クルスです」
 順番に本名と所属を告げる。
「あ…、お、ん、く、クルス、子爵か…?」
 バルカムはキョロキョロと目を動かしつつ、明かされた名前と所属に狼狽える。
 何故ここにこのメンバーが揃っているのか、何故欺くようなことをしたのか。
 何故、何故、と思考が追いつかず、言葉をなくした。

 オロオロするバルカムにロイ達は笑いつつ、申し訳なく思う。
 だが、騎士達の後ろから、バシリオが一歩進み出ると、声をかけた。
「バルカム…」
「……!!!!」
 バルカムはバシリオの姿を視界に捉えると、ヘナヘナとその場に崩れ落ちる。
「おっと」
 ロイとディーが腰を抜かしてしまったバルカムを倒れないように支えた。
「で…殿下…」
 バルカムの両目が潤んだ瞬間、滝のように涙が流れる。
「殿下、バシリオ様…」
 床に両手を付いて体を支えながら、死んだと思っていたバシリオを見つめて、大粒の涙をぼろぼろと流しながら嗚咽を漏らした。
「バルカム。騙してすみませんでした」
 バシリオが近付くと、膝を床につき、その手を取る。
「僕はこうして生きています。ロイ達に助けられ、ここに帰って来れたんです」
 ニコリと微笑みながらも、バシリオの目にも涙が浮かんでいた。
「殿下…よくぞ…よくぞご無事で…」
 バシリオの手をその大きな手で包み込むように握り、自分の額に押し付けながら、おおおと嗚咽を漏らした。

 バルカムの雄叫びのような声を聞いた、執事やメイド、使用人達がエントランスに集まってくる。
 そして、ロイ達の本来の姿を目撃して、彼らも固まっていた。
「ご主人様」
 そんな中、筆頭執事がバルカムに近寄って、ハンカチやガーゼを差し出して慰めるように背中を撫でる。彼もまたバシリオの姿を見て、涙していた。


 感動の再会劇は10分ほど続き、出発時間は過ぎてしまっていた。
「急がねば」
 涙を拭い、バルカムが執事とロイに支えられながら立ち上がる。
 腰が抜けて力が入らず、まだふらついていた。
「バルカム。会合へは予定通り、僕とロイ、ディー、デックが参加します。
 ですが、残りの方も後から参加しますから」
 バシリオが告げ、バルカムを馬車へと誘導する。
「馬車の中で経緯を簡単に説明します。まずは向かいましょう」
 ディーも一緒に誘導し、大きなバルカムの体を支えながら玄関を出た。
「ダニエル。後は頼んだ」
「おう。任せろ」
 ロイがダニエルを振り返って言うと、ダニエルはヒラヒラと手を振って見送る。
「もう、何がなんだか…。そりゃロイ殿ならあの強さも頷ける…。傭兵のクラスなど比較対象にもならんよ」
 よろよろしながらバルカムが呟き、一緒に乗り込んだロイ達はあははと笑った。


 先日と同じく30分かけて、会合場所である民家へ向かう。
 その中でロイ達は改めて髪色を変え、認識阻害の魔法をかけて偽装し直した。
 そして、バリシオは事の経緯をかいつまんで説明した。
「詳しくは会合で全員揃ってからお話しします」
 バルカムはようやく気持ちが落ち着き、時折相槌を打ちながら黙って話を聞いていた。
「本当に…、心臓が止まるかと思った…」
 未だにドキドキしている胸を抑え、バルカムは笑う。だが、バシリオの左腕をじっと見つめ、何故義手だったのか理由がわかり、悲しそうな表情を浮かべた。










 ゆらゆらと揺れる感覚と、全身を包む温かい何かに、翔平はゆっくりと意識を覚醒させていく。
 とても気持ち良くて、このまま目を閉じて微睡んでいたいと思ったが、チャプチャプという音と感触に、覚醒した意識がお湯だと気付かせた。
 直前までの記憶がまだ曖昧で、何故お湯の中?風呂?と思いつつ、その気持ち良さに飲まれそうになるのを堪えながら考えた。
 そして、突然記憶を取り戻す。


 パチッと両目を開け、思い出した記憶に慌てて体を動かした。
 だが、急に体を動かしたせいで、足がお湯の中で滑り、ドブンと頭からお湯に突っ込んでしまった。
「っぉぶ!!」
 お湯の中でガボガボと口から空気を吐き出し、慌てて両手を上げると捕まる所を探す。
 手に触れたものが何かと確認する前に握ると、力を入れて上半身を持ち上げた。
「ぶはっぁ!!」
 ぼたぼたと頭から垂れるお湯を気にせず、思い切り空気吸い込みながらはぁはぁと肩を上下させた。
「大丈夫?」
 突然背後から男の声がして、バッと後ろを振り返ると、すぐ背後にゆったりと寝そべるようにお湯に浸かるメイノールがいた。
 もちろんメイノールは裸であり、胸から上をお湯から出した半身浴の状態でそこにいる。陶器のような白い肌が、温かいお湯のせいでほんのりとピンク色に染まり、長い金髪が濡れ、キラキラと輝いているようだった。
 自分との距離は5、60センチほど。
 呆然としつつ、まだ荒い息をした状態で、首を後ろに向けてメイノールと視線を合わせる。
「……???」
 この状況が全く理解できず、俺はじっとメイノールを見て、その艶っぽい姿にカアァと顔も首も耳も真っ赤に染める。
 そしてお湯の中であること、メイノールの膝の上に座っていること、自分も裸であり、今もまだ掴んでいるものがメイノールの腕であること、細かい状況に気付いた。
「わあぁぁぁ!」
 慌てて腕を離し、お湯の中で2人で裸でいることを理解し混乱して、わたわたと体を離すべく動いた。
「あああああ!」
 奇妙な叫び声を上げながら、バシャバシャとお湯を掻いて離れて行く翔平を見て、メイノールはくすくすと笑う。
「落ち着きなよ」
 メイノールは濡れた髪を手でかきあげながら話しかけてくる。
 俺はなんでこんな状況になっているのか、流れが理解出来ず、キョロキョロと辺りを見渡した。
 そこはバスルームであり、少し広めの、4、5人は入れそうな浴槽にいることがわかった。熱くも温くもないお湯から湯気が上がり、バスルーム全体を包んでいる。
「な、なんで??なんで裸!?」
 その浴槽の隅まで移動して、直ぐに上がって何か体を隠す物、と周囲を見渡す。
「風呂だからね」
 至極真っ当な返事をするメイノールを、眉間に皺を寄せながら見る。
「いや、そうじゃなくて…」
「なんで風呂に入ってるか?」
 そう聞かれ、ギュッと体を縮こませながらコクコクと頷いた。

 俺はナイゼルから暴力を受けてレイプされかかった。その直前でメイノールが乱入してきてその行為が中断されたことまでは覚えている。
 そこから先の記憶がない。
 気を失ったとわかるが、あれだけ痛かった顔も腕も今はなんともない。
 ペタペタと自分の顔や腕を触り、元通りに戻っているとわかった。

「体が酷く冷えていたからね。手っ取り早く温めるのに丁度いいかと思って」
 メイノールは悠然と答える。
「そ…そーですか…」
 風呂に入っているのは理由がわかった。
 どのくらい入っていたのか、充分に体は温まっているし、全く寒くもない。
 俺はタオルを探してキョロキョロする。
「上がりたいの?」
「は、はい」
「ちょっと待ってね」
 メイノールはチリンチリンとベルを鳴らす。すると、数名のメイドがタオルやガウンを持って入ってくる。
 ザバァとメイノールが立ち上がり、浴槽から出ると、すぐにメイドが近寄ってその体を拭き、ガウンを羽織らせていた。
 チラッと見えたメイノールのモノに顔を真っ赤にしながら、俺は股間を隠しながら湯船から出る。当然俺にもメイドが2人近寄って俺の体を拭こうとしてきたが、俺は恥ずかし過ぎてタオルだけを受け取って自分で手早く拭いてガウンを着た。
「おいで」
 メイノールが俺へ手を差し出す。
 ガウンの胸元を両手で握りしめたまま背中を丸めてそばへ行くが、その手は取らなかった。
 メイノールはそんな俺を上からじっと見下ろし、ガシッと胸元の手を掴むと強く引かれた。
「あ、ちょっ…」
 そのままグイグイと引かれ、頭を下げたまま見送るメイドの横を通り過ぎると、バスルームのドアを抜けた。
「あの、め、メイノール、様?」
 聞いていた容姿の通りの美しい人だったため、間違いなく本人だと思ったが、名乗られてはいないため、おずおずと尋ねる。
 だが返事はなく、そのまま腕を引っ張られて隣の部屋まで連れて行かれ、見た目からは想像も出来ない力強さで、ブンッと放り投げられた。
「!!??」
 放り投げられた先は天蓋付きの巨大なベッドで、ボフンとスプリングの効いたマットレスに痛くはなかったが、俺は慌てふためいてうつ伏せに倒れた体をすぐに起こした。
 だが、上半身を腕で支え仰向けになった瞬間、メイノールの顔が間近に迫っていた。
「…うぅ…」
 ガウンのまま俺に跨り、俺を挟むように両腕をつき、顔を寄せてきた。
 その透き通るような青い目と長い金色のまつ毛に目を奪われてしまった。
 この世にこんな美しい人がいるのか、と思うほど顔面の破壊力は凄まじかった。
 ロイもディーも、同じエルフのレイン、ゲーテで会ったスカーレットも、ジャニスやアビゲイル。たくさん美人と会っている。
 だが、目の前のメイノールは、完璧な美しさを持っていた。
 そんな顔が間近に迫り、俺は逃げるように頭を後ろに下げるが、下げた分だけ近付けられ、気がつけば倒れ込んでいた。
 俺の顔の横に手をついて、真上から見下ろしてくる顔ですら美しい。
 そんな顔から一切目を離せず、ただただ凝視してしまう。
「名前は?」
 その口から発せられる声も美しいと思ってしまった。
「ショーへー…」
 名前を言うと、その顔がニコリと微笑み、その笑顔の破壊力に顔が真っ赤になるのが自分でもわかった。
「ショーへー、可愛いよ」
 メイノールの体がより倒れ、翔平の頭の横に肘をつくと白魚のような指で頬を、頭を撫でられる。
「とても可愛い…」
 焦点が合わなくなるほど顔が近付き、そのまま唇を重ねられた。
 俺は目を開いたままで、何をされているのかわからなかった。
 唇に何か柔らかくてしっとりしたものが触れている。
 ただ、そう思った。



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小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
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「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
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転生執事は氷の公爵令息の心を溶かしたい【短編】

堀川渓
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事故で命を落とし、目覚めたそこはーー生前遊んでいた女性向け恋愛ゲームの世界!? しかも最推し・“氷の公爵令息”セルジュの執事・レナートとして転生していてーー!! 短編/全10話予定

2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。

ありま氷炎
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高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。 異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。 二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。 しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。 再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。

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