おっさんが願うもの 〜異世界行ったらイケメンに大切にされ、溺愛され、聖女と呼ばれ、陰謀に巻き込まれ。それでも幸せ目指して真面目に頑張ります〜

猫の手

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キドナ編 〜断罪劇の後始末〜

263.おっさん、真相を知る

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 部屋の中がしんと静まりかえった。
「え…?殺が…え?…誰…なんで…?」
 俺は告げられた事実に思考が停止したように、語彙力が著しく低下してしまった。

 ナイゼルの罪を暴いて捕縛し、ベネットとの関係、魔鉱石の略奪、そして背後にいる黒幕の情報を聞き出すはずだった。
 彼が死んだことで、全く情報が手に入らないことになる。

 俺は呆然としてしまった。

「だ…誰が…?」
 ジョンと同じように黒幕と接点を持った生き証人。狙われるのはわかっていた。
 ロイやディー、騎士達もそのことに気付いていたはずだ。彼らがいて、むざむざ殺されてしまうなんて、いったいどんな方法を使ったのか。
 俺は無意識に体が強張り、ギュッと自分の服を握りしめていた。

 バシリオは一度口をキュッと真横に結ぶと、何が起こったのかを語り出す。










 ナイゼルが捕縛され、まずは移動しようと議会場を出る直前にフォスターが現れた。
 もう動くことも出来ない、死を待つばかりだと言われていたにも関わらず、フォスターは支えもなく自力で歩いていた。
 バシリオや貴族達、誰もが驚き、回復の兆しがあると喜んだ。
 フォスターは、ディーやギルバート達の前に立ち、王家の騒乱に巻き込んでしまったこと、聖女に対しては、自身も聖女を略奪しようとしたことを認め、ナイゼルにそう指示したことを陳謝し、深く頭を下げた。

 確かに1度目、2度目の襲撃はフォスターの指示でナイゼルが動いたことかもしれないが、3度目の襲撃は明らかにナイゼルが“あの方”の指示で行動したことだ。
 3度目の王都での襲撃の時は、フォスターはすでに倒れ病の床にあった。
 フォスターは、クルーズ王家の背後にいる”あの方“については、キドナの騎士達が大勢いる前で語ることはしなかった。
 まさか王家が第3者に操られているなど、公言出来るはずもない。

 全ては王である自分の責任である。

 フォスターはそう告げ、頭を下げ続けるが、ディーやギルバートは真の目的である黒幕についてフォスターからも情報が得られるだろうと、謝罪を受け入れるという発言をした。


 フォスターは自力で立ち歩いているとはいえ、少し前までは動くことすら出来ないと言われていた。
 バシリオやディーはフォスターを労り、場所を変えようと提案する。
 ナイゼルを騎士達が王城の地下深くにある牢へ収監するという流れになったが、ロイ達は、黒幕により口封じのために暗殺されるという懸念を強く抱き、キドナの騎士だけにナイゼルの監視と警備を任せるつもりはなかった。
 このまま黒幕が大人しく引き下がるはずはない。
 ナイゼルの移動に公国の騎士を数人つけると進言し、“あの方”の目的を知っているバシリオは、何故?と訝しむバート達を制して受け入れる。

 だが、移動を始めようとした時、フォスターがこの場でナイゼルと話したいと要望した。

 バシリオは少し考えたが、病を抱えた父を対話のために地下牢へ行かせること、逆にナイゼルを牢から出して父の元へ連れて行くという危険性を考え、今この場で話をさせることに決める。

 フォスターはすぐ済むと力なく笑い、ナイゼルの元へ向かう。
 捕縛布で拘束されもう抵抗する気もないのか、ナイゼルは目の前に来た父親を睨みつけていた。
 フォスターはそんな息子の前に膝をつくと、悲しそうな目を向ける。
「ナイゼル…すまなかった…」
 フォスターに謝られ、ナイゼルは驚いたように目を見開いた。
「お前をそのようにしてしまったのは、私の責任だ」
「……よくわかってるじゃないか」
 ナイゼルは、ふんと馬鹿にしたように鼻で笑った。
「母を捨てたように、俺も捨てれば良かったんだ。お前の子はバシリオだけで充分だった。
 バシリオが生まれた時点で、母と俺を放逐すれば良かったんだ」
 ナイゼルの言葉に、フォスターはさらに悲しそうに目を細める。
「確かに、私はジルベスターを愛することは出来なかった。
 だが、ナイゼル、お前のことは愛していた。お前も私の大切な息子だ。
 お前もバシリオも、同じように愛してきた」
 フォスターの言い訳に、ナイゼルはカッとなる。
「愛してきただと!!
 子供の前で母親を蔑ろにしておいて、よくもそんなことが言えるな!!!
 母はいつも怯えていた!!!」
 父に会う時は必ず母抜きであり、稀に3人で会う時、フォスターがジルベスターに向ける目を見て、子供ながらに恐怖すら感じた。
 ナイゼルは怒鳴った後、ふうと息を吐いてフォスターに向けて笑う。
「俺はあんたに復讐することだけを考えていた。
 あんたに最大の苦痛を味合わせて、殺してやると、決めていたんだ」
 ナイゼルの口角が上がり、嬉しそうに笑った。

「マルガリータ王妃を殺したのは、俺だ」

 あはははとナイゼルが大声で笑った。
 バシリオは、ナイゼルの告白に目の前が真っ暗になった。力が抜けて立っていられなくなり、その場に崩れ落ちる。
 そばにいたオリバーとデクスターが咄嗟にその体を支える。
「そんな…」
 バシリオは知った事実にガタガタと震える。

 ロイ達も初めて聞いた王妃の死の真相に驚きを隠せなかった。
 3年前のマルガリータの訃報は公国にもすぐに届けられた。
 だが、その死の状況などは一切公表されず、ただその直後第2王妃のジルベスターが後宮に軟禁されたことから、暗殺されたと思っていたし、そう噂された。

 実は、バシリオも母が死んだ状況を知らされていない。ただ亡くなったと告げられ、その亡骸を見せられた。
 棺の中で花に埋もれ、眠るような表情の綺麗な姿だった。
 何度父王に問うても、原因不明の突然死、としか言われなかった。
 バシリオ自身、ジルベスターを疑って何度も独自に調査した。
 亡くなった時の状況や、そばにいたはずの使用人や従者達を幾度となく問い詰め、毒殺や暗殺者の存在を突き止めようとした。
 だが、何をどう調べても父が言うように突然死という事実は覆らなかった。


 ナイゼルはショックを受けるバシリオを見て笑う。
「俺が王妃を殺した。
 王妃の毎日日光浴する習慣を利用し、殺しに行った」
 ナイゼルが状況を語る。

 マルガリータは昼食後、陽当たりの良い場所でお茶を飲み、ゆっくりと読書を楽しむことを日課にしていた。
 その時は使用人達は別室に控え、そばに誰もいないことは周知の事実だ。
 だが、護衛の騎士達は確実に近くにいる。
 ナイゼルは数年前から計画し、王妃護衛騎士の中に配下を忍び込ませた。
 数年がかりでようやくそのチャンスが訪れ、ナイゼルは1人でマルガリータの元へ向かう。
 突然現れたナイゼルに、マルガリータは全く拒絶することなく、意外な来客に喜んで笑顔を浮かべる。
 座るマルガリータの前で剣を抜いても、その笑顔が消えることはなかった。

『いつか、こうなるとわかっていました。
 貴方の気がこれで晴れるなら、私は喜んで死にましょう』

 マルガリータは静かに本を傍らに置くと、ナイゼルに笑顔を向ける。
 ナイゼルは無表情のまま、その剣先でマルガリータの心臓をゆっくり、静かに突き刺した。
 マルガリータは最後まで笑顔のままだった。


 ナイゼルの告白に、その場が静まり返る。
「ぁ……」
 バシリオの目から大粒の涙が床に落ちる。
「あああ!!!貴様!!!貴様がぁ!!!」
 バシリオが大声で怒鳴り、母を殺した腹違いの兄に突進しようとしたが、それをオリバーとデクスター、バルカムが3人がかりで抑え込む。
「殿下!!」
 オリバーが取り乱し暴れるバシリオを正面から全身を使って抑える。
「う…うぅぅ…」
 力で敵うわけもなく、やがてバシリオは暴れることをやめ、逆に脱力すると泣き崩れた。
 オリバーは嗚咽を漏らしながら体を震わせるバシリオを強く抱きしめ、バシリオもオリバーの服を強く握りしめる。


 ナイゼルは笑い続ける。
 復讐の第一段階として、まずは王妃を。
 そしていずれはバシリオも殺し、最後にその事実をフォスターに叩きつけ、殺すつもりだったと語った。


 フォスターは黙ってナイゼルの告白を聞いていたが、不意に息子の顔に手を伸ばした。
「ナイゼル。お前がマルガリータを殺したことを、私は知っていた」
 はははと笑っていたナイゼルの声がピタリと止まる。
 知っていたなら何故、とその場に居た者が心の中で呟くが、誰も口には出さない。
「知っていて、黙っていたのか。
 そりゃそうか。第2王妃の子が正妃を殺したなど、醜聞もいいところだ。
 周辺諸国から笑いものにされるだろうな」
 ナイゼルが馬鹿にしたように笑い、フォスターもそれを否定することはなかった。
 ただ、ナイゼルが真犯人であると悟られないために、代わりにジルベスターを軟禁し、疑いの目を第2王妃に向けさせたのだ。
「私がお前をそこまで追い込んだのだ。
 王妃が死んだのは、私にも責任がある」
「ああ、そうだ。
 全てお前が招いたことだ。
 あんたは母の心を殺した。
 母は…。ジルベスターは、もう何年も前から、俺のこともわからない。
 小さな人形を俺だと思い込んで、ずっと抱いて、撫で続けてる。
 俺が会いに行くと、俺をあんただと思って、その人形を抱いてくれとせがむんだ。
 人形を差し出して、貴方の息子だ、愛してやってくれと……」
 ナイゼルの目から、涙が流れた。


 ジルベスターは人形を抱き、フォスターだと思ってナイゼルに話しかける。
『貴方にそっくりです。目元もこんなに。
 きっと、貴方に似て立派な王になります』
 ジルベスターが嬉しそうに微笑みを浮かべ、ボロボロになった人形の頬を撫でる。
『そうだな…』
 ナイゼルは母の言葉に頷いて微笑み返し、しっかりと抱きしめる。


 ジルベスターの心は死に、可愛い息子と暮らす妄想の世界の住人になった。
 ナイゼルはそんな母を抱きしめ、フォスターの代わりに愛を囁く。
 心が壊れた母のため、その世界で幸せで居続けてもらうために、父の代役を何年も務め続けていた。

 ナイゼルが父親に対して恨みと殺意、復讐心を抱くのに時間はかからなかった。
 ナイゼルの心も、ゆっくりと時間をかけて壊れていった。


「ナイゼル…。本当にすまなかった…。
 だが、私は今もお前を愛している。父親として、息子のお前を」
 フォスターはナイゼルの涙を指で掬うと、その体を抱きしめる。
「……今更だ。もう何もかも遅い」
「そうだな…もう遅い…」
 フォスターがナイゼルを離し、力なく微笑む。
「全て私が招いたこと。私はその責任を取らねばならない」
 フォスターがナイゼルをじっと見つめる。
「私が最後にお前にしてやれることだ。
 せめて一緒に。共にゆこう」
 フォスターが微笑み、再びナイゼルを抱きしめた。
 ナイゼルの目が抱きしめられた瞬間大きく見開く。
「誰にもお前の命を奪いはさせん。バシリオにも」
 フォスターがナイゼルを抱きしめながらそう呟くと、ナイゼルの見開いた目が静かに伏せられ、何度か瞬きを繰り返した。
 次の瞬間、ナイゼルの口から大量の血が噴き出し、フォスターの肩を濡らす。
「!!!引き離せ!!!!」
 ブラウ騎士団長が叫び、周囲にいた騎士が慌てて駆け寄る。
「ナイゼル。1人では逝かせんよ。私もすぐに逝く」
 数人の騎士達に引き離されたが、ナイゼルの心臓に深々と短剣が刺さっていた。
「ヒールを!!!」
 ディーが叫び、咄嗟にヒールを使える騎士達がナイゼルへ駆け寄る。
 だが、ナイゼルが引き離された直後に前のめりに床に倒れたため、さらに短剣が深く突き刺さった。
 騎士達がナイゼルの体を起こし仰向けにする。
 その胸から大量の血が流れ赤く染まり、今もなお拡大していく。
「すぐに抜くな!!ヒールをかけながら抜け!!!」
 オスカーが怒鳴る。
 すぐに抜けば、さらなる出血で死は早まる。
 ナイゼルを囲んで胸元に手をかざし、必死にヒールを使う。
 だが、その間もナイゼルの口から大量の血がゴボゴボと溢れ、喉や気管が逆流した血で塞がれていった。
「くそ!!」
 ディーが魔力を爆発させ、誰よりも強いヒールを使う。
 ディーの瞳がゆらめき、その目から体から銀色のオーラが立ち昇る。


 このまま死なせてなるものか。
 黒幕への手がかりが消えてしまう。
 いや、そんなことよりも、こんな結末なんて許せない。
 責任を取ると言って、息子をその手で殺すなんて、あってはならない。
 残されるバシリオはどうなる!
 こんなものを見せつけられたバシリオはどうすればいいんだ!!

 ディーは、黒幕のことなどどうでもよい。ただ、同じ王子という立場、数日一緒に居てわかった彼の優しさ、誠実さに、友人として、彼の心を守らなければならないと必死にナイゼルを救おうとした。
 だが。
「フォスター様!!」
「王!!」
 ウェーバーやバルカムの悲鳴のような言葉が聞こえる。
 咄嗟に、離されたフォスターを振り返ると、同じようにギルバートやエルフの騎士達にヒールを施されているフォスターの姿が目に入った。
「……」
 フォスターの命も消えかけていた。
 その口から血を吐き出し、先ほどまで強い意志を示していた目が濁っている。
「フォスター!!」
 ギルバートが懸命に名を呼び、死への道を進むフォスターを引き止めようとしている。
「ナイゼル…、すまない…。私、には…、これしか…。
 ジル…すまなんだ……先に…逝く…」
 ゴボゴボと血を吐き出しながら、フォスターはナイゼルとジルベスターに謝罪の言葉を何度も呟いていた。
「こんな…こんなことって…」
 ディーが愕然としつつ、必死にヒールを使い続ける。

 ナイゼルの目が一点を見つめ、どんどん濁っていく。
 その目には、子供の頃の記憶が映っていた。


 子供の頃、まだ自分の置かれた環境を理解出来ない頃、母と父と手を繋いで歩いた。
 バシリオが生まれ、その姿を見た時、嬉しかった。
 バシリオの小さな手が俺の指を掴んで離さず、俺はその小さな存在を守ろうと思った。
 父や母、マルガリータもそばに居て、みんな笑顔だった。
 バシリオは俺に懐いた。
 兄様、兄様と必死に後をついてくる姿が可愛かった。
 バシリオの手を引き、よく一緒に庭を散歩した。

 俺にもこんな記憶があったのか。
 いつから、進む道が別れてしまったのか。



「兄さん!!!父上!!!」
 バシリオの声が響く。
 起こったことに、バシリオは全身から力が抜けて動けなかった。
 だが、必死に2人の元へ行こうとする。
 その目からボロボロと涙を溢し、父と兄を呼ぶ。


 ああ……。
 俺は……間違えたんだ……。
 どこで、間違えたんだろう……。


 弟の声を聞き、ナイゼルはこんなことをするはずではなかった、何故こうなったのかと死の間際になって自問自答する。

 だが、その答えは出なかった。
 
 ナイゼルの目から命の灯が消える。
 それと同時に、フォスターもまたその灯を燃やし尽くした。




 ギルバートがかざしていた両手をさげ、ゆっくりと首を左右に振る。
 ナイゼルを囲んでいた騎士達も、1人、また1人と両腕を下げ、がっくりと項垂れた。

 バシリオは、目の前で父と兄が死んだと悟り、大声で叫びながら泣いた。

 誰もがこの結末に言葉を失い、バシリオの叫びだけが辺りを包んだ。










 俺は衝撃の事実に両手で顔を覆った。
 嗚咽が止められない。

 
 辛すぎる。
 確かにナイゼルは裁かれるだけの罪を犯した。
 だが、こんな結末なんて惨すぎる。


 俺はソファで背中を丸めて顔を覆い、あまりな悲惨な結末に涙を止められなかった。

 バシリオはうっすらと涙を溜めてはいるが、3日前に散々泣き尽くしていた。
 時間の経過と共に事実を受け入れ前へ進んでいる。
 王太子が起こしたことと、父王と王太子の死に、立ち止まってなどいられなかった。やることは山積みで、感傷に浸り、打ちのめされている暇などなく、進み続けるしかないのだ。
 だが、逆にそれがバシリオを救うことになった。王子として、最後の王族として、その責任は果たさねばならない。
 バシリオはひたすら国のため、民のために動くことで、自我を保っていた。



 翔平は心が痛くて苦しくて、胸元を握り必死に耐える。
 事実を受け止め理解するまで、時間が必要だった。
「私はこれで失礼するよ」
 ここからの先の話は私は必要ないから、とモーリスが言った。
 泣き続ける翔平を見ていられないと、悲しげに呟く。
「ショーヘイ君。君はとても優しい。そしてとても強い人だと思う。
 どうか思い詰めず、前を向いて欲しい」
 部屋を出る前、モーリスはそっと翔平の肩へ手を添え、慰めの言葉を落としていった。





 オリヴィエが冷たい濡れタオルを俺に差し出してくれる。
「ありがと…」
 心が落ち着くまでややしばらくかかってしまい、俺は目の周りを真っ赤にさせ、泣きすぎて腫れぼったくなってしまった目元に、受け取ったタオルをあてる。

「ショーヘイさん……ありがとうございます…」
 バシリオが俺に静かに微笑む。
「兄のため、父のために泣いてくださって、ありがとうございます」
 ニコリと微笑むバシリオに、止まった涙がまた溢れ出す。
 この俺の涙はバシリオの涙だ。
 泣けないバシリオに代わって、俺が泣く。
「兄のしたことは許されない。ですが、兄もまた父に追い込まれていた。
 私はそれに気付くことが出来ずに、ただ責めてしまったことが悔やまれます。
 父のジルベスター様への行いを諌めることが出来たはずなのに。家族の在り方をもっと考えるべきだったのに」
 バシリオが自虐的に笑い、己を責める。
 それはそれに対して首を振った。
「それは違う…。確かにお父上がしたことは人として許されないかもしれない。
 だけど、それは王族というしがらみや責任、そういったものが複雑に絡み合った結果でもあります。
 王様も血筋を絶やさないためという愛のない結婚を強いられて、悩まれたと思いますよ。
 誰にも責める資格はないと思います」
 涙をタオルで拭い、慰めるように思ったことを言うと、バシリオは泣き笑いの表情を浮かべた。
「キドナという国を作る歴史、王族や貴族といった特権階級の存在も絡んでくる。
 今回のことは、そういうことが複雑に絡み合って生まれた悲劇だ。
 フォスター王の政略結婚が無ければ、それ以前に王族のしがらみが無ければ。そんなことを突き詰めてもキリがない」
 ロイが俺の肩を抱き寄せ、やり切れない思いを呟いた。
「本当にそうですね。ただ……」
 ロイの言葉にギルバートが同意するが、静かに怒りをあらわにする。
「今回の結末を計画した“あの方”は絶対に許せません」
 低い声で呟き、組んでいた両手で自分の腕を握り込んだ。
 俺は“あの方”と聞いてすぐに黒幕だと思い、この悲惨な結末が黒幕によって生み出されたことに愕然とした。


 ナイゼルが口封じのために狙われている、公国に始末させようとしていたというのは、なんとなく理解していた。
 だが、ロイ達だってそんなこと気付いている。だから、きっとナイゼルが黒幕の配下に殺されないよう、捕縛後は保護としたはずだ。
「それって…」
 俺はギルバートを見て、ロイやディー、バシリオを見つめる。
「“あの方”は、いくつもの伏兵を用意していたんです」
 バシリオが目を伏せて答える。
「ナイゼル派貴族が雇った傭兵の中に、“あの方”の息のかかった者がいたの。
 内乱の混乱に乗じてナイゼルを殺すように依頼を受けていたと、複数人が証言したわ」
「傭兵だけじゃない。アルノー達騎士団の中にも刺客が入り込んでいた」
「俺たちの断罪も含めて、一斉蜂起した反ナイゼル派との戦闘中に殺害しようとしていたんだ」
「ですが、私たちは一切血を流すことなく断罪も決起も成功させてしまった。
 混乱に乗じた暗殺は全て封じられたんです」
 ジャニス、フィン、ダニエル、ディーが続けて説明する。
「そして、最後の伏兵がフォスター王だった」
 ロイが眉間に皺を寄せ、そのやり方に心底怒りを滲ませているのがわかった。
「父の寝室から、高濃度のエリクサーの入った瓶が見つかりました」
 バシリオが静かに言った。

 フォスターが歩くこともままならないほど衰弱していたのは事実だった。
 だが、フォスターは持っていたそのエリクサーを飲み、断罪後自ら決着をつけるために立ち上がった。

「高濃度のエリクサーは劇薬だ。
 飲めば、死の淵に立つものですらその命を引き延ばす。
 だが、使えば確実に死ぬ。
 一時の生と引き換えに、死を早めることになるんだ」
 ロイはさらに忌々しげに言い放つ。

 俺は黒幕がその劇薬をフォスターに渡したと察した。
 おそらく、この計画が立てられた時には、フォスターに手渡されていた。
 きっとフォスターに殺せとは言っていないだろう。フォスター自身の判断に任せた。
 だが、それはフォスターの性格や心情をよく理解し、どのタイミングで使うのか、使って何をするのか、それすらも予測していたのだろう。

 黒幕は計画を立てた段階で、結末はナイゼルの死という一つだけだが、その方法をいくつも用意し、その準備をしていたのだ。
 他に雇われたという傭兵や騎士達は、きっと黒幕の存在すら知らない。
 バシリオ派に雇われた思っているはずである。

 その用意周到さに、俺は寒気がした。
 黒幕の底知れぬ頭脳に恐怖を感じて鳥肌が立ち、思わず両腕を抱きしめて腕をさすった。

 黒幕に操られていたナイゼル、そしてフォスターはもういない。
 その手がかりは失われてしまった。

「本当に忌々しい」
 ギルバートが怒りを浮かべながら呟き、俺も深いため息をついた。

 だが起こってしまったことは仕方がない。証人を失ってしまったが、黒幕が残した痕跡は残っているかもしれない。
 それを調べるためにバシリオの協力は必須だと思った。ただ、バシリオはどこまで把握しているのだろうか。
 話から、“あの方”という第3者の存在を知っているようだが、こちらの言うところの黒幕の情報は知らないはずだ。

 黒幕の真の目的はサンドラーク家の破滅だと考え、そのためにキドナを利用した。言い換えるなら、キドナも巻き込まれたということになる。
 もし黒幕と公国の間に何も無ければ、今回のことは起こらなかったかもしれない。
 思わずそう考えてしまい、それはさっきロイが言ったように、突き詰めればキリがないという話になってしまう。
 ifの話を持ち出しても現実は変わらないのだ。

 俺は眉間に皺を寄せて悶々と考え込んでしまい、いつもの唇を触る癖を出すと、ロイやディーが苦笑する。
 翔平が何を考えているのか、手に取るようにわかっているようだった。

「ショーヘイ。状況が変わったのにはまだ理由が」
 俺の思考を遮るようにディーに言われ、俺は顔を上げた。
「ショーヘイさん」
 正面からバシリオに呼ばれ、そちらを見る。
「我が国は、公国に対し属国となることを願い出て、受け入れていただきました」
「………」
 ぞっこくと聞いてもピンと来なかった。
 頭の中で、ぞっこく、属国、属する国、従属、とゆっくりと理解していく。
「え!!??」
 俺は意味を理解して、大きな声をあげてしまった。
「レイブン様に、臣従の誓いを立てたのです」
 俺はまた新たな情報にポカンとしてしまった。



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