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キドナ編 〜断罪劇の後始末〜
265.おっさん、兄弟愛に感動する
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「いやあ楽しかった」
赤い顔をしてドサッとベッドに倒れ込む。
「飲み過ぎです」
ベッドで思い出し笑いをする男に水を差し出した。
「ありがと」
起き上がって水を受け取り一気に全部飲み干してコップを返す。
「成功の祝いだ。美味い酒だったよ」
ニコニコしながら答えるスペンサーにクルトは苦笑した。
「確かに。あの人の計画通り2人を始末出来たし、結果だけみれば成功ですね」
「ほんとえげつないこと思い付くよ」
スペンサーが楽しそうにふふっと笑う。
「マジでえげつねえわ…」
父親が息子を殺すよう仕向けるなんて、とクルトも笑う。
「多少計画のズレはあったけど、保険が功を奏したな」
「保険ね…」
クルトは聞いていた道筋が多少変わったことに苦笑した。
「本筋から脇道に逸れたけど、それはそれで面白い展開になったな。
見た?聖女のあの黒い花嫁姿。あの演出は良い。あのナイゼルの顔ったらさ。笑いを堪えるのに必死だったよ」
スペンサーが思い出してケラケラと笑う。
黒幕が立てた計画は途中までは順調に進んでいた。
計画通りに行かなかったのは、翔平がレイプされなかったこと。そしてメイノールの行動。暴動が防がれたこと。
順調であれば、翔平はナイゼルに犯されてボロボロになり、救いにきたロイとディーがその姿を見て暴走。怒りに任せてナイゼルを殺すというものだった。
だが蓋を開ければ翔平はメイノールに助けられ守られていた。そんなことは計画になかった。メイノールは翔平をキドナへ誘き出すためのただの道具に過ぎず、その後の彼の行動は考慮されてはいなかった。
反王太子派の一斉放棄も、王都民を巻き込んだ惨劇になるはずだった。その惨劇の種も撒かれており、芽が出ていたが花開くことはなかった。
国民による暴動は起きず、一切血が流れることなく事は終結した。
いや、血は流れたか。
予定通り、王太子と国王の血が流れた。
本筋からズレはしたが、結果的に目的は果たしたのだ。
黒幕は計画がどのように転んでも、最終的に2人が死ぬように仕組んでいた。そうなるよう、何重にも仕掛けを施していた。
フォスターがナイゼルを殺さなくても、牢に収監された後、毒殺されることになっていたし、フォスター自身も残された時間は僅かだった。
公国がいかに2人を守ろうとしても、結局は無駄だったのだ。まるでそれが運命であるかのように、計画されていた。
「本当に怖い人だよ」
スペンサーがその計画にうっとりしながらはぁと感嘆のため息を漏らす。
人の不幸は蜜の味とはよく言ったものだ。本当に最高の劇だった、とスペンサーは満足気に微笑みクルトを見上げる。
「クルトは少しホッとしてるだろ」
手を伸ばしてベッドに誘う。
「まあそうですね。正直なところホッとしてます」
感想を素直に答えた。
スペンサーの手を取ってベッドに上がり、その体を組み敷き服のボタンをことさらゆっくりと外して行く。
「素直だな。そんなにジュノーが無事だっったことが嬉しいか?」
「まあね。犯されなくて良かったって思いましたよ。そこはあの綺麗な王子に感謝してます」
スペンサーの上着をはだけると、胸元に顔を寄せ、舌と唇を這わせた。
「メイノールな…。あの人も驚いていたよ。まるっきり予測していなかったらしい」
「あの人でもわからないことがあるんですね」
「そりゃああの人だって人だからな。全部見通せるわけじゃない」
クルトの手がスペンサーの体を愛撫しながら会話は続く。
スペンサーもクルトの上着へ手をかけ、脱がせようと動いていた。
「まあメイノールを動かしたのが誰であるかはすぐにわかったみたいだけどな。
今度は奴も手が出せないような計画を練るんじゃないか?」
クスクスと楽しみだと笑うスペンサーにクルトは苦笑した。
「まだ続きますかね」
「そりゃあね。あの人の目的は達成されていないし、これで終わるわけがない」
会話しながら互いに脱がし合い、全裸になると体を重ねた。
「ただ…」
不意にスペンサーが少しだけ真顔になった。
「目的が少し変わった」
「……やっぱりそうですか」
クルトもそれは感じた。
スペンサーは自分と同じように感じているクルトに微笑むと、クルトの首に腕をまわした。右腕の肘から先がないので、中途半端な抱擁になるが、腕に力を込めて引き寄せると、唇を重ね舌を絡ませる。
「まあでも、俺たちは指示に従うだけだ。
幸福だと勘違いしている奴が落ちていく様を見るのは、本当に楽しい」
スペンサーは笑う。
「それは同感です」
クルトもニコリと笑った。
「今しばらくは次がないだろうから、たっぷり楽しもう」
くすくす笑いながら、両足をクルトの腰に巻きつけ、己のペニスをクルトに擦り付けた。
「たっぷりとね」
クルトも笑い、貪るようにスペンサーの唇を塞いだ。
朝目が覚めて、バシリオはオリバーに抱きしめられて眠ったという事実が恥ずかしくて、激しく動揺しながらもそおっと静かにオリバーから離れる。
心臓がバクバクとうるさく、体温が1、2度上昇したように火照っていた。
「リオ様、おはようございます」
離れベッドが揺れたことでオリバーも目を覚まし、背中を向けてベッドの縁に座っているバシリオに声をかけた。
何気ない声掛けのつもりだったのだが、バシリオは思い切りビクッと大きく反応し、自分を振り返ってきた。
その顔、耳も首も真っ赤になっており、オリバーはその反応にポカンとしてしまった。
え?なんで?
まさか俺、何かした!?
オリバーは心の中で焦り、つられるように自分も顔を赤く染めた。
だが、手を出してしまった記憶はなく、無意識にそんなことをするはずもない。
2人でポポポポと湯気を出したように真っ赤になる姿は、何もなかったのにとても滑稽だった。
「あ、あの、着替えて、きます」
「あ、う、うん」
お互いに吃りながら別れ、オリバーは部屋を出る。
「うわぁ…あれは…ヤバい……」
ドアを出た瞬間、オリバーは真っ赤になったまま蹲った。
バシリオに対する恋愛感情のせいもあると思う。思うのだが、恥ずかしがっている彼がものすごく可愛く見え、本当に愛おしくて身悶えてしまった。
バシリオはオリバーが出て行った後、必死に赤面する顔を元に戻そうと、何度も冷たい水で顔を洗った。
同じベッドで寝ただけだ。
ただそれだけなのに、なぜこんなに恥ずかしくて、照れくさいのか。その理由が理解出来ず、かといってどうでもいいことではなく、頭を悩ませた。そのことだけで頭の中がいっぱいになり、数日ぶりに熟睡出来たことに気付ける余裕もなかった。
ふんわりと鼻をくすぐるいい匂いにすごく安心する。その匂いに促されるようにゆっくりと覚醒した。
薄目を開けると、ロイの鎖骨が見え、しっかりと腕の中で眠っていたことを知った。
背中にも暖かさを感じ、ディーがピッタリと体を寄せていることがわかった。
いつものロイの匂いに、俺はスンスンと匂いを嗅いで安心する。
いつも俺の匂いを嗅ぐロイのことを笑えないな、と自分の行動に笑い、起きるために体を動かすと背後のディーが起きたようで優しく頭を撫でられた。
「おはよう」
「おはようございます」
小さな声で反対側を向いてディーに挨拶すると、綺麗な顔で優しく微笑みながら返してくれた。
それと同時にチュッと軽いキスをされ、くすぐったい甘い挨拶に頬を染める。
2人で静かにベッドから降りる。
昨日に比べると随分だるさが取れている。
きっと2人の間で守られるように眠ったことで、心身ともに休むことが出来たんだと思った。体内の魔力を探ってみると、8割ほどまで回復していることがわかった。
顔を洗って身支度を整える。
伸びた髪が邪魔で、髪を留めるピンを探していると、ディーが背後に立ち、器用に髪をハーフアップに結ってくれた。
身支度を整え終わっても、ロイはまだ寝ていた。
「朝食を頼んできます」
ディーが出て行き、俺は布団を足で蹴り上げた寝相の悪いロイに近寄ると、揺れる白い尻尾に触れた。
もふもふの感触に顔が自然にニヤけ、俺は久しぶりのロイの柔らかな毛並みの尻尾に顔を埋め、思う存分満喫させてもらった。
午前中はひたすら休養。
朝食は少しだけ固形物を胃に入れ、後は動かずゆっくりと体を休める。
ロイとディーが俺の護衛と称してずっとそばにいるため、他の護衛騎士達はキドナの騎士団の元へ行っている。
元騎士団長のバルカム伯爵や、現役の騎士団長達に混ざり、騎士団の編成についての協議に参加していると聞いた。
ナイゼル派だったアルノー達3つの騎士団は解体された。騎士団長とその側近達は国家騒乱罪という罪に問われることになるらしい。
他の団員達の半数は不名誉除隊を宣告されて追い出されることになった。
元々騎士になる実力もなく、縁故と金の力で騎士という称号を与えられた奴らだったので、当然と言えば当然である。
一気に100名近くの騎士がいなくなり、最終的に4つまで減った騎士団は再編成されることになった。
そこで、サンドラーク公国騎士団第1部隊の騎士達の出番となったようだ。
彼らは再編に必要な実力を見極める役目と、属国になると決まった今、公国側の騎士団の構成と役割について指導する立場になった。
ロイとディーにも参加して欲しいと要請があったが、ロイは元獣士団、ディーは魔導士団というキドナにはない士団だから、という理由をつけて断ったらしい。
オスカーは同じ騎士団には変わらないだろうと、体良く逃げた2人に苦笑したが、久しぶりの恋人同士の時間を優先させてくれ、無理に話し合いに参加させることはなかった。
俺は午後になって、ダニエルとデクスターを呼んでもらい、彼ら兄弟とロイの治療をした。
まだ完全に魔力が回復したわけではないが、8割以上回復した今なら3人の怪我を治すことに全く問題はない。
ロイの顔を走る傷を消し目を治した。
「おー、ショーヘーの可愛い顔がよく見える」
ニコニコしながら視力が回復したロイは、俺の顔を両手ではさみ、んーと唇を突き出してキスを迫るが、俺は両手でロイの顔を押し返した。
可愛いと言われたことへのささやかな抵抗だ。
ダニエルの顔の火傷跡、デクスターの肩と腕の傷をそれぞれ順番に綺麗に消す。
3人しかいないのであれば、広範囲で3人一気に治すよりも効率良く魔力が使える。
「聖女ちゃん、ありがとうな」
「ありがとうございます」
「このくらいお安い御用です」
ニコッと微笑んで応えた後、俺はじっとデクスターの顔を見つめた。
「あの…、デクスター様」
俺は前々から気にしていたことを口にする。
「その古傷、消しませんか」
デクスターの顔の左半分を覆う酷い火傷の跡。ケロイド状に爛れた皮膚がボコボコした凹凸を作り、その場所だけが赤黒くなっている。
せっかくのイケメンなのに勿体無いと思っていた。
余計なお世話かもしれないが、本人がもし気にしているなら消したい、治療したいと思った。俺ならきっと古傷も消せるという確信があった。
「……これを?」
デクスターは驚いた表情で自分の顔に触れる。
指先にボコボコした感触があり、これがいつもの自分の顔であり、提案にどうしようと考える素振りを見せた。
「デック!消してもらえ!!」
ダニエルが食い付く。
「兄さん…」
兄の懇願に驚くが、デクスターは消すことに戸惑ってしまった。
この傷が出来たのは8歳の時。
その日、両親とともに農作物を街へ卸しに行った。ちょうど街で開拓100年を記念する大きな祭が開かれていたため、両親が連れて行ってくれたのだ。
そしてその帰り道、商会の馬車が野盗に襲われている場面に遭遇し、巻き込まれた。
両親を目の前で殺され、恐怖で逃げることも動くことも出来ず、このまま死ぬと諦めたが、子供は売れると生かされ誘拐された。
閉じ込められ、人身売買組織に売られるまで、野盗の憂さ晴らしのために殴る蹴るの暴行を受けた。
この顔の火傷の跡は、野盗の1人に松明を押し付けられたためだった。
大火傷を負ったが、治療されることもなくその跡は濃く残った。
野盗に売られた後、約1年間人身売買組織に監禁されたのち、ロイの暴走と、公国騎士団によって救出された。
その後、両親がすでに他界していたので、孤児院に引き取られたが、この顔のせいで周りから避けられ続けた。
気持ち悪い、汚い。
そう陰で囁かれたが、デクスターはそんな陰口に負けるような性格ではなかった。
逆にこの傷を利用してのしあがってやろうと、己の力を信じて1人鍛錬を積むようになっていた。
ゆくゆくは孤児院を出て、自分1人の力で生きて行く。この顔を利用して、傭兵や冒険者になる。傷があって当然の仕事につこうと考えていた。
孤児院にはたまに貴族や富裕層の、子供の出来ない夫婦が孤児を養子に引き取ったり、我が子の従者にするべく後見人になることがあった。
こんな顔を持つ自分は当然選ばれることはなく、関係ないと思っていたため、なるべく他の子供達の邪魔にならないよう、誰が来ても隅の方で顔を見せないように俯いてやり過ごしていた。
そんなある日、クルス親子に出会った。
「父上、こいついい目をしてる」
当時騎士団第2部隊の正騎士だったダニエルに頭を撫でられ、どれ?とクルス子爵が覗き込む。
「おお、本当だ。強い良い目だ」
ニコニコと笑う2人に驚くのと同時に、はっきりとこの人は強いと感じたダニエルに、憧れに近い感情を抱いた。
「うちの子にならんか?」
二言目にそう言われ唖然とした。
こんな酷い顔をした自分を引き取るなんて、と最初は断ったのだが、
「強くなりたいんじゃないのか?
剣術、体術、魔法、俺が先生になってやるぞ」
ダニエルに言われ、正にその通りだったため、思わずコクコクと頷いてしまった。
クルス親子はすぐに俺を引き取る手続きをし、俺はクルス子爵家次男デクスター・クルスとなった。
3年後、第3王子ディーゼルの遊び相手として城へ何度か連れて行かれた。そこでロイに再会する。
正騎士であるダニエル、日々鍛錬を重ねて強くなっていくロイとディーに感化され、俺はその頃から騎士を目指すようになる。
本来なら15歳になると寄宿学校へ入ることになるが、俺は行くことを拒否する。別に強制ではないことを知っていたし、他にやりたいことがあったからだ。
学校の代わりに、3年間修行をしたいと申し出る。
理由を聞かれ、俺はこの傷のせいで学校へ行っても馴染めない。むしろ蔑まれ、忌み嫌われるとわかっている場所に行きたくないと素直に己の気持ちを告げた。
ダニーもダニエルも、最初から俺がそう言うとわかっていたのか、全く反対することなかった。逆に、帝国の知り合いの貴族が抱える私兵団での修行を斡旋してくれる。
ただし学校と同じ3年という期限付きではあるが、デクスターは自分の事を理解してくれる父と兄に泣きながら感謝した。
そして修行を終えて18歳で公国に戻った後、騎士になろうと思っていたが、実力を買われてフィッシャー伯爵から黒騎士の勧誘を受けた。
黒騎士の存在理由、その活動、思想に感銘を受けた。
存在を隠した影なる存在。
顔を隠し、素性を隠す。
正騎士が表なら黒騎士は裏。影から表を支える土台となる。
まさに、顔に傷のある自分がなるべき存在だと思った。
そしてその長が、子供の頃に一緒に遊んだこともあるユリア王女だと知り、その聡明さ、気品、覇気など、彼女の存在全てに圧倒され、一生涯仕えるべき人だと、彼女に忠誠を誓った。
デクスターは一瞬で自分の生い立ちを思い浮かべ、この傷があったからこそ、今の自分がいると思った。
もしこの傷がなければ、強くなろうと思うことはなかったかもしれない。
そう思わなければ、デクスター・クルスにならなかったかもしれない。
この傷があったから、黒騎士になった。
この傷は俺の人生そのものだ。
ダニエルが、消してもらえと懇願するように言ってきたが、デクスターは首を横に振った。
「ショーヘイさん、お気持ちだけ受け取らせてください」
「デック…」
ダニエルはとても残念そうに呟く。
「ありがとう兄さん。でもこの傷は俺そのものだ。俺が貴方の弟になれたのは、この傷のおかげだと思ってる」
「傷があったから引き取ったわけじゃない」
ダニエルは慌てて同情なんかじゃない、本当にお前の目に惹かれたんだと、否定した。
「ああ、わかってる。父上も兄さんも、傷なんて関係ない。俺をきちんと見てくれたし、愛してくれた」
デクスターがダニエルの肩に手を置いて嬉しそうに微笑む。
尊敬すべき父と兄。
本当に大切な家族であり、今の俺を作ったのは、この傷であり、家族だと心から思った。
「お前がそういうなら、もう何も言わねえけどよ…」
ダニエルはまだ消してもらいたさそうに口を尖らせる。
「ショーヘイさん、お気遣いありがとうございます。この傷はこのままで」
デクスターが微笑み、俺は了承し頷いた。
傷を気にしていない、むしろすでに自分の一部として納得して受け止めているなら、俺には何も出来ない。
デクスターが傷を含めて自分だと言った気持ちが何となく理解出来て、俺はとてもかっこいい男だと思った。
「せ、せめてよ。一番酷いところだけでも、ちょこっと治してもらうっていうのは?」
ダニエルはまだ諦めきれないようで、食い下がる。
「なんでそんなに治したいんですか?」
ディーが不思議そうにダニエルに問いかけると、ダニエルは口を尖らせる。
「だってよお、せっかくいい男なのによお…」
「傷があってもいい男じゃねえか」
ロイが何言ってんだと突っ込むが、ダニエルは子供の我儘のようにブツブツ呟く。
「……デックに伴侶が出来るかどうか心配でよお……。きっと傷が無ければ引くて数多だと思わねえか?」
ロイとディー、俺も、兄として弟の結婚の心配をしているらしいダニエルの言葉にポカンとした。
「何を言ってるんだ。俺よりもまず兄さんだろう」
言われたデクスターも呆れたように笑いながら言ったが、ダニエルは真顔になる。
「俺は兄として…、クルス家の家長として弟2人の将来をきちんと考えてやらなければならないんだ。俺にはその責任がある。
親父とも、そう約束したんだ」
ダニエルが真剣に言うと、デクスターは一瞬驚き、そして嬉しそうに笑った。
「兄さん……」
デクスターが兄の思いを知り、嬉しくてダニエルを抱きしめた。血が繋がっていないのに、ここまで思ってくれることが嬉しい。
「心配してくれてありがとう」
ギュッと抱きしめて心からこの人の弟で、クルス家に引き取られ家族になれたことが幸せだと思った。
「だけど、兄さん。外見だけで言い寄ってくるような奴は嫌だな」
「そりゃそうだ。傷が治った途端、手の平返してくる奴は願い下げだな」
ロイが言い、ディーも頷いた。
当然2人とも顔の良さだけを見て寄ってこられることが多いと察した。中身を見ようとせず、自分のアクセサリーのように侍らせたいと思う人は多いのだろう。
俺は外見ではないが、聖女だからという理由で言い寄られているという似た話に苦笑する。
「まあ確かにそうだが…やっぱりダメか?」
それでもダニエルは納得いかないような表情を浮かべ、なお諦めきれないらしい。
デクスターは苦笑し、どうやって納得させようかと考えた後、小さく息を吐いた。
「大丈夫だよ。実は、気になっている人がいるんだ」
ダニエルが食い下がるので、デクスターはため息混じりに、内に秘めていたことを告白した。
「!!誰ですか!?」
「俺たちも知ってる奴か!?」
「傷を気にしない人か!?」
俺以外の3人が突然の告白に食い付き、俺もビックリした。ダニエルだけならいざ知らず、何故かロイとディーも同じような反応をした。
「それはまだ教えられない。
まだ1度だけだが、食事に行った。
それと、傷のことを気にするような人じゃないことは確かだ」
「うっひょ~!!!マジか!!」
何故かロイが興奮気味にデクスターに詰め寄る。
「デック…誰だ。どこの誰だ!!」
「女性ですか!?男性ですか!?」
同じようにディーもダニエルも詰め寄り3人で囲んだ。
当然デクスターはその食い付きように怯んだ。
「お……男だ……」
「貴族!?平民!?」
「何やってる奴!?」
「デートは何回した?」
「もうキスしたのか!?」
「まさかもうSEXしたとか!?」
矢継ぎ早にデクスターに詰め寄る3人に俺は呆れる。知りたい気持ちはわかるが、そこまで質問攻めにしなくても、と止めに入った。
「なあ、そこまで問い詰める必要ないだろ」
3人を宥めながら、デクスターから引き剥がそうとする。
デクスターの感じからすると、まだ手探り状態だと思った。ここで相手がバレて余計なことをされても困ると思った。
「……まさか…お前にそんな相手が……」
だが突然ダニエルがショックを受けたように固まる。
「ダニエル?」
不思議に思ったディーが呼びかける。
デクスターとダリルの将来について真剣に心配しているのは本当のことだ。
弟に相応しい相手を見つけようと、いろいろ人脈を使ってもいた。
10歳のダリルはまだとしても、デクスターの傷のこと、さらに職業のことがネックになっていたことは事実だ。
きっとデクスターはこれからも黒騎士として活躍する。その伴侶となる人はそんな彼を理解し、支えてくれるような人物でなければならない。
本人が自ら見つけるのが一番良いことなのだが、まさか本当に見つけているとは思わなかった。
というか、デクスターがそんな色恋沙汰に興味があるというのがショックだった。
デクスターはストイックで己に厳しい。
そこが良い所なのだが、心配になる所でもある。
だから自分が、と考えていたのに、デクスターはちゃっかりいい人を見つけていた。
それが何故だかとても悔しくて、寂しくなってしまった。
ダニエルはキュッと口を真横に結ぶ。
「なあなあ教えてくれよお!どこの誰なんだよお!」
「ロイ!止めろってば!」
デクスターの両肩を掴んで教えろーと揺すっているロイを止めさせようと腕を引っ張っていると、唐突にダニエルが顔を上げた。
「デックが結婚……」
その顔は青ざめてかなりのショックを受けているようだ。
「……やだー!!」
突然ダニエルが叫んだ。
「デックは俺の弟だ!どこの馬の骨かもわからん奴に渡せるかー!!」
そう叫びながらデクスターに抱きつくと、ぐりぐりと顔を押し付け「俺の弟を渡すもんか」と叫ぶ。
さっきまで弟が結婚出来るかと心配していたのに、この変わりよう。
「っぶは!!あははは!」
俺はそのブラコンっぷりに爆笑してしまった。
ロイもディーもダニエルの様子に呆れ、そして大笑いし始めた。
「どんだけ弟が好きだよ!」
ロイがゲラゲラ笑い、デクスターは苦笑する。
上手くいく保証はない。
出会って日も浅いし、誘って食事したのは1度だけ。今こうして1ヶ月も離れてしまい、その間連絡もしていない。
帰ったらまた誘おうとは思っているが、再び会ってくれるかどうかはわからない。むしろ無理だろう。
食事の後、また会って欲しい、連絡すると言ったがそれっきりになってしまっている。次を匂わせておいて放置されたら、ただの社交辞令かと思うだろうし、会ってくれたとしても文句を言われ、3度目はないだろう。
望みはかなり薄いと思っており、言わなければ良かったと後悔してしまった。
だが、会いたい、と心から思う。
家族以外で、ここまで思うことは初めてだった。
王都に戻ったらダメ元で連絡しようと心に決めた。
ロイをデクスターから離し、俺はじっとその目を見る。
「きっとデクスター様が身染めた方なんですから、素敵な人なんでしょうね。
俺でよければいつでも話を聞きますよ」
何故か上手くいくと直感が告げていた。
俺自身、恋愛経験豊富で恋の駆け引きに長けているというわけではないが、恋愛恐怖症に陥るまではそこそこ恋愛経験は積んでいる。
参考にならなくても、一緒に考えることは出来ると思ってそう言った。
「ありがとうございます」
デクスターはニコリと笑って応え、俺は、あ、これは近いうちに相談されるだろうな、と思わずニヤついてしまった。
「俺も相談に乗るぞ」
「私も」
ロイとディーがニヤニヤしながら言うが、
「お前達は過去の行いが悪すぎる」
そう突っ込むとぐぬぬと黙り込み、デクスターに笑われた。
「デックゥ、お兄ちゃんも相談に乗るからな」
「ダニエルも論外」
娼館遊びの激しいダニエルに、ロイとディーが同じタイミングで突っ込みを入れた。
デクスターの意外な告白には驚いたが、俺はクルス兄弟の仲の良さ、その兄弟愛がとても羨ましくなった。
血が繋がっていなくても、ここまで思い合えるなんて、なんて凄いことなんだろうと笑顔になる。
王都で待つ末弟ダリルも、兄2人からたっぷりの愛情を注がれてすくすくと成長している。
ダリルから求婚された俺だが、それはただの憧れの延長であるし、きっと彼の伴侶探しの時には、デクスターも今のダニエルのようになるんだろうなと、心の中で笑った。
それにしても、デクスターの相手とは、どこの誰なのか。
俺もとても気になった。
赤い顔をしてドサッとベッドに倒れ込む。
「飲み過ぎです」
ベッドで思い出し笑いをする男に水を差し出した。
「ありがと」
起き上がって水を受け取り一気に全部飲み干してコップを返す。
「成功の祝いだ。美味い酒だったよ」
ニコニコしながら答えるスペンサーにクルトは苦笑した。
「確かに。あの人の計画通り2人を始末出来たし、結果だけみれば成功ですね」
「ほんとえげつないこと思い付くよ」
スペンサーが楽しそうにふふっと笑う。
「マジでえげつねえわ…」
父親が息子を殺すよう仕向けるなんて、とクルトも笑う。
「多少計画のズレはあったけど、保険が功を奏したな」
「保険ね…」
クルトは聞いていた道筋が多少変わったことに苦笑した。
「本筋から脇道に逸れたけど、それはそれで面白い展開になったな。
見た?聖女のあの黒い花嫁姿。あの演出は良い。あのナイゼルの顔ったらさ。笑いを堪えるのに必死だったよ」
スペンサーが思い出してケラケラと笑う。
黒幕が立てた計画は途中までは順調に進んでいた。
計画通りに行かなかったのは、翔平がレイプされなかったこと。そしてメイノールの行動。暴動が防がれたこと。
順調であれば、翔平はナイゼルに犯されてボロボロになり、救いにきたロイとディーがその姿を見て暴走。怒りに任せてナイゼルを殺すというものだった。
だが蓋を開ければ翔平はメイノールに助けられ守られていた。そんなことは計画になかった。メイノールは翔平をキドナへ誘き出すためのただの道具に過ぎず、その後の彼の行動は考慮されてはいなかった。
反王太子派の一斉放棄も、王都民を巻き込んだ惨劇になるはずだった。その惨劇の種も撒かれており、芽が出ていたが花開くことはなかった。
国民による暴動は起きず、一切血が流れることなく事は終結した。
いや、血は流れたか。
予定通り、王太子と国王の血が流れた。
本筋からズレはしたが、結果的に目的は果たしたのだ。
黒幕は計画がどのように転んでも、最終的に2人が死ぬように仕組んでいた。そうなるよう、何重にも仕掛けを施していた。
フォスターがナイゼルを殺さなくても、牢に収監された後、毒殺されることになっていたし、フォスター自身も残された時間は僅かだった。
公国がいかに2人を守ろうとしても、結局は無駄だったのだ。まるでそれが運命であるかのように、計画されていた。
「本当に怖い人だよ」
スペンサーがその計画にうっとりしながらはぁと感嘆のため息を漏らす。
人の不幸は蜜の味とはよく言ったものだ。本当に最高の劇だった、とスペンサーは満足気に微笑みクルトを見上げる。
「クルトは少しホッとしてるだろ」
手を伸ばしてベッドに誘う。
「まあそうですね。正直なところホッとしてます」
感想を素直に答えた。
スペンサーの手を取ってベッドに上がり、その体を組み敷き服のボタンをことさらゆっくりと外して行く。
「素直だな。そんなにジュノーが無事だっったことが嬉しいか?」
「まあね。犯されなくて良かったって思いましたよ。そこはあの綺麗な王子に感謝してます」
スペンサーの上着をはだけると、胸元に顔を寄せ、舌と唇を這わせた。
「メイノールな…。あの人も驚いていたよ。まるっきり予測していなかったらしい」
「あの人でもわからないことがあるんですね」
「そりゃああの人だって人だからな。全部見通せるわけじゃない」
クルトの手がスペンサーの体を愛撫しながら会話は続く。
スペンサーもクルトの上着へ手をかけ、脱がせようと動いていた。
「まあメイノールを動かしたのが誰であるかはすぐにわかったみたいだけどな。
今度は奴も手が出せないような計画を練るんじゃないか?」
クスクスと楽しみだと笑うスペンサーにクルトは苦笑した。
「まだ続きますかね」
「そりゃあね。あの人の目的は達成されていないし、これで終わるわけがない」
会話しながら互いに脱がし合い、全裸になると体を重ねた。
「ただ…」
不意にスペンサーが少しだけ真顔になった。
「目的が少し変わった」
「……やっぱりそうですか」
クルトもそれは感じた。
スペンサーは自分と同じように感じているクルトに微笑むと、クルトの首に腕をまわした。右腕の肘から先がないので、中途半端な抱擁になるが、腕に力を込めて引き寄せると、唇を重ね舌を絡ませる。
「まあでも、俺たちは指示に従うだけだ。
幸福だと勘違いしている奴が落ちていく様を見るのは、本当に楽しい」
スペンサーは笑う。
「それは同感です」
クルトもニコリと笑った。
「今しばらくは次がないだろうから、たっぷり楽しもう」
くすくす笑いながら、両足をクルトの腰に巻きつけ、己のペニスをクルトに擦り付けた。
「たっぷりとね」
クルトも笑い、貪るようにスペンサーの唇を塞いだ。
朝目が覚めて、バシリオはオリバーに抱きしめられて眠ったという事実が恥ずかしくて、激しく動揺しながらもそおっと静かにオリバーから離れる。
心臓がバクバクとうるさく、体温が1、2度上昇したように火照っていた。
「リオ様、おはようございます」
離れベッドが揺れたことでオリバーも目を覚まし、背中を向けてベッドの縁に座っているバシリオに声をかけた。
何気ない声掛けのつもりだったのだが、バシリオは思い切りビクッと大きく反応し、自分を振り返ってきた。
その顔、耳も首も真っ赤になっており、オリバーはその反応にポカンとしてしまった。
え?なんで?
まさか俺、何かした!?
オリバーは心の中で焦り、つられるように自分も顔を赤く染めた。
だが、手を出してしまった記憶はなく、無意識にそんなことをするはずもない。
2人でポポポポと湯気を出したように真っ赤になる姿は、何もなかったのにとても滑稽だった。
「あ、あの、着替えて、きます」
「あ、う、うん」
お互いに吃りながら別れ、オリバーは部屋を出る。
「うわぁ…あれは…ヤバい……」
ドアを出た瞬間、オリバーは真っ赤になったまま蹲った。
バシリオに対する恋愛感情のせいもあると思う。思うのだが、恥ずかしがっている彼がものすごく可愛く見え、本当に愛おしくて身悶えてしまった。
バシリオはオリバーが出て行った後、必死に赤面する顔を元に戻そうと、何度も冷たい水で顔を洗った。
同じベッドで寝ただけだ。
ただそれだけなのに、なぜこんなに恥ずかしくて、照れくさいのか。その理由が理解出来ず、かといってどうでもいいことではなく、頭を悩ませた。そのことだけで頭の中がいっぱいになり、数日ぶりに熟睡出来たことに気付ける余裕もなかった。
ふんわりと鼻をくすぐるいい匂いにすごく安心する。その匂いに促されるようにゆっくりと覚醒した。
薄目を開けると、ロイの鎖骨が見え、しっかりと腕の中で眠っていたことを知った。
背中にも暖かさを感じ、ディーがピッタリと体を寄せていることがわかった。
いつものロイの匂いに、俺はスンスンと匂いを嗅いで安心する。
いつも俺の匂いを嗅ぐロイのことを笑えないな、と自分の行動に笑い、起きるために体を動かすと背後のディーが起きたようで優しく頭を撫でられた。
「おはよう」
「おはようございます」
小さな声で反対側を向いてディーに挨拶すると、綺麗な顔で優しく微笑みながら返してくれた。
それと同時にチュッと軽いキスをされ、くすぐったい甘い挨拶に頬を染める。
2人で静かにベッドから降りる。
昨日に比べると随分だるさが取れている。
きっと2人の間で守られるように眠ったことで、心身ともに休むことが出来たんだと思った。体内の魔力を探ってみると、8割ほどまで回復していることがわかった。
顔を洗って身支度を整える。
伸びた髪が邪魔で、髪を留めるピンを探していると、ディーが背後に立ち、器用に髪をハーフアップに結ってくれた。
身支度を整え終わっても、ロイはまだ寝ていた。
「朝食を頼んできます」
ディーが出て行き、俺は布団を足で蹴り上げた寝相の悪いロイに近寄ると、揺れる白い尻尾に触れた。
もふもふの感触に顔が自然にニヤけ、俺は久しぶりのロイの柔らかな毛並みの尻尾に顔を埋め、思う存分満喫させてもらった。
午前中はひたすら休養。
朝食は少しだけ固形物を胃に入れ、後は動かずゆっくりと体を休める。
ロイとディーが俺の護衛と称してずっとそばにいるため、他の護衛騎士達はキドナの騎士団の元へ行っている。
元騎士団長のバルカム伯爵や、現役の騎士団長達に混ざり、騎士団の編成についての協議に参加していると聞いた。
ナイゼル派だったアルノー達3つの騎士団は解体された。騎士団長とその側近達は国家騒乱罪という罪に問われることになるらしい。
他の団員達の半数は不名誉除隊を宣告されて追い出されることになった。
元々騎士になる実力もなく、縁故と金の力で騎士という称号を与えられた奴らだったので、当然と言えば当然である。
一気に100名近くの騎士がいなくなり、最終的に4つまで減った騎士団は再編成されることになった。
そこで、サンドラーク公国騎士団第1部隊の騎士達の出番となったようだ。
彼らは再編に必要な実力を見極める役目と、属国になると決まった今、公国側の騎士団の構成と役割について指導する立場になった。
ロイとディーにも参加して欲しいと要請があったが、ロイは元獣士団、ディーは魔導士団というキドナにはない士団だから、という理由をつけて断ったらしい。
オスカーは同じ騎士団には変わらないだろうと、体良く逃げた2人に苦笑したが、久しぶりの恋人同士の時間を優先させてくれ、無理に話し合いに参加させることはなかった。
俺は午後になって、ダニエルとデクスターを呼んでもらい、彼ら兄弟とロイの治療をした。
まだ完全に魔力が回復したわけではないが、8割以上回復した今なら3人の怪我を治すことに全く問題はない。
ロイの顔を走る傷を消し目を治した。
「おー、ショーヘーの可愛い顔がよく見える」
ニコニコしながら視力が回復したロイは、俺の顔を両手ではさみ、んーと唇を突き出してキスを迫るが、俺は両手でロイの顔を押し返した。
可愛いと言われたことへのささやかな抵抗だ。
ダニエルの顔の火傷跡、デクスターの肩と腕の傷をそれぞれ順番に綺麗に消す。
3人しかいないのであれば、広範囲で3人一気に治すよりも効率良く魔力が使える。
「聖女ちゃん、ありがとうな」
「ありがとうございます」
「このくらいお安い御用です」
ニコッと微笑んで応えた後、俺はじっとデクスターの顔を見つめた。
「あの…、デクスター様」
俺は前々から気にしていたことを口にする。
「その古傷、消しませんか」
デクスターの顔の左半分を覆う酷い火傷の跡。ケロイド状に爛れた皮膚がボコボコした凹凸を作り、その場所だけが赤黒くなっている。
せっかくのイケメンなのに勿体無いと思っていた。
余計なお世話かもしれないが、本人がもし気にしているなら消したい、治療したいと思った。俺ならきっと古傷も消せるという確信があった。
「……これを?」
デクスターは驚いた表情で自分の顔に触れる。
指先にボコボコした感触があり、これがいつもの自分の顔であり、提案にどうしようと考える素振りを見せた。
「デック!消してもらえ!!」
ダニエルが食い付く。
「兄さん…」
兄の懇願に驚くが、デクスターは消すことに戸惑ってしまった。
この傷が出来たのは8歳の時。
その日、両親とともに農作物を街へ卸しに行った。ちょうど街で開拓100年を記念する大きな祭が開かれていたため、両親が連れて行ってくれたのだ。
そしてその帰り道、商会の馬車が野盗に襲われている場面に遭遇し、巻き込まれた。
両親を目の前で殺され、恐怖で逃げることも動くことも出来ず、このまま死ぬと諦めたが、子供は売れると生かされ誘拐された。
閉じ込められ、人身売買組織に売られるまで、野盗の憂さ晴らしのために殴る蹴るの暴行を受けた。
この顔の火傷の跡は、野盗の1人に松明を押し付けられたためだった。
大火傷を負ったが、治療されることもなくその跡は濃く残った。
野盗に売られた後、約1年間人身売買組織に監禁されたのち、ロイの暴走と、公国騎士団によって救出された。
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気持ち悪い、汚い。
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逆にこの傷を利用してのしあがってやろうと、己の力を信じて1人鍛錬を積むようになっていた。
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孤児院にはたまに貴族や富裕層の、子供の出来ない夫婦が孤児を養子に引き取ったり、我が子の従者にするべく後見人になることがあった。
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「強くなりたいんじゃないのか?
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本来なら15歳になると寄宿学校へ入ることになるが、俺は行くことを拒否する。別に強制ではないことを知っていたし、他にやりたいことがあったからだ。
学校の代わりに、3年間修行をしたいと申し出る。
理由を聞かれ、俺はこの傷のせいで学校へ行っても馴染めない。むしろ蔑まれ、忌み嫌われるとわかっている場所に行きたくないと素直に己の気持ちを告げた。
ダニーもダニエルも、最初から俺がそう言うとわかっていたのか、全く反対することなかった。逆に、帝国の知り合いの貴族が抱える私兵団での修行を斡旋してくれる。
ただし学校と同じ3年という期限付きではあるが、デクスターは自分の事を理解してくれる父と兄に泣きながら感謝した。
そして修行を終えて18歳で公国に戻った後、騎士になろうと思っていたが、実力を買われてフィッシャー伯爵から黒騎士の勧誘を受けた。
黒騎士の存在理由、その活動、思想に感銘を受けた。
存在を隠した影なる存在。
顔を隠し、素性を隠す。
正騎士が表なら黒騎士は裏。影から表を支える土台となる。
まさに、顔に傷のある自分がなるべき存在だと思った。
そしてその長が、子供の頃に一緒に遊んだこともあるユリア王女だと知り、その聡明さ、気品、覇気など、彼女の存在全てに圧倒され、一生涯仕えるべき人だと、彼女に忠誠を誓った。
デクスターは一瞬で自分の生い立ちを思い浮かべ、この傷があったからこそ、今の自分がいると思った。
もしこの傷がなければ、強くなろうと思うことはなかったかもしれない。
そう思わなければ、デクスター・クルスにならなかったかもしれない。
この傷があったから、黒騎士になった。
この傷は俺の人生そのものだ。
ダニエルが、消してもらえと懇願するように言ってきたが、デクスターは首を横に振った。
「ショーヘイさん、お気持ちだけ受け取らせてください」
「デック…」
ダニエルはとても残念そうに呟く。
「ありがとう兄さん。でもこの傷は俺そのものだ。俺が貴方の弟になれたのは、この傷のおかげだと思ってる」
「傷があったから引き取ったわけじゃない」
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「ああ、わかってる。父上も兄さんも、傷なんて関係ない。俺をきちんと見てくれたし、愛してくれた」
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「心配してくれてありがとう」
ギュッと抱きしめて心からこの人の弟で、クルス家に引き取られ家族になれたことが幸せだと思った。
「だけど、兄さん。外見だけで言い寄ってくるような奴は嫌だな」
「そりゃそうだ。傷が治った途端、手の平返してくる奴は願い下げだな」
ロイが言い、ディーも頷いた。
当然2人とも顔の良さだけを見て寄ってこられることが多いと察した。中身を見ようとせず、自分のアクセサリーのように侍らせたいと思う人は多いのだろう。
俺は外見ではないが、聖女だからという理由で言い寄られているという似た話に苦笑する。
「まあ確かにそうだが…やっぱりダメか?」
それでもダニエルは納得いかないような表情を浮かべ、なお諦めきれないらしい。
デクスターは苦笑し、どうやって納得させようかと考えた後、小さく息を吐いた。
「大丈夫だよ。実は、気になっている人がいるんだ」
ダニエルが食い下がるので、デクスターはため息混じりに、内に秘めていたことを告白した。
「!!誰ですか!?」
「俺たちも知ってる奴か!?」
「傷を気にしない人か!?」
俺以外の3人が突然の告白に食い付き、俺もビックリした。ダニエルだけならいざ知らず、何故かロイとディーも同じような反応をした。
「それはまだ教えられない。
まだ1度だけだが、食事に行った。
それと、傷のことを気にするような人じゃないことは確かだ」
「うっひょ~!!!マジか!!」
何故かロイが興奮気味にデクスターに詰め寄る。
「デック…誰だ。どこの誰だ!!」
「女性ですか!?男性ですか!?」
同じようにディーもダニエルも詰め寄り3人で囲んだ。
当然デクスターはその食い付きように怯んだ。
「お……男だ……」
「貴族!?平民!?」
「何やってる奴!?」
「デートは何回した?」
「もうキスしたのか!?」
「まさかもうSEXしたとか!?」
矢継ぎ早にデクスターに詰め寄る3人に俺は呆れる。知りたい気持ちはわかるが、そこまで質問攻めにしなくても、と止めに入った。
「なあ、そこまで問い詰める必要ないだろ」
3人を宥めながら、デクスターから引き剥がそうとする。
デクスターの感じからすると、まだ手探り状態だと思った。ここで相手がバレて余計なことをされても困ると思った。
「……まさか…お前にそんな相手が……」
だが突然ダニエルがショックを受けたように固まる。
「ダニエル?」
不思議に思ったディーが呼びかける。
デクスターとダリルの将来について真剣に心配しているのは本当のことだ。
弟に相応しい相手を見つけようと、いろいろ人脈を使ってもいた。
10歳のダリルはまだとしても、デクスターの傷のこと、さらに職業のことがネックになっていたことは事実だ。
きっとデクスターはこれからも黒騎士として活躍する。その伴侶となる人はそんな彼を理解し、支えてくれるような人物でなければならない。
本人が自ら見つけるのが一番良いことなのだが、まさか本当に見つけているとは思わなかった。
というか、デクスターがそんな色恋沙汰に興味があるというのがショックだった。
デクスターはストイックで己に厳しい。
そこが良い所なのだが、心配になる所でもある。
だから自分が、と考えていたのに、デクスターはちゃっかりいい人を見つけていた。
それが何故だかとても悔しくて、寂しくなってしまった。
ダニエルはキュッと口を真横に結ぶ。
「なあなあ教えてくれよお!どこの誰なんだよお!」
「ロイ!止めろってば!」
デクスターの両肩を掴んで教えろーと揺すっているロイを止めさせようと腕を引っ張っていると、唐突にダニエルが顔を上げた。
「デックが結婚……」
その顔は青ざめてかなりのショックを受けているようだ。
「……やだー!!」
突然ダニエルが叫んだ。
「デックは俺の弟だ!どこの馬の骨かもわからん奴に渡せるかー!!」
そう叫びながらデクスターに抱きつくと、ぐりぐりと顔を押し付け「俺の弟を渡すもんか」と叫ぶ。
さっきまで弟が結婚出来るかと心配していたのに、この変わりよう。
「っぶは!!あははは!」
俺はそのブラコンっぷりに爆笑してしまった。
ロイもディーもダニエルの様子に呆れ、そして大笑いし始めた。
「どんだけ弟が好きだよ!」
ロイがゲラゲラ笑い、デクスターは苦笑する。
上手くいく保証はない。
出会って日も浅いし、誘って食事したのは1度だけ。今こうして1ヶ月も離れてしまい、その間連絡もしていない。
帰ったらまた誘おうとは思っているが、再び会ってくれるかどうかはわからない。むしろ無理だろう。
食事の後、また会って欲しい、連絡すると言ったがそれっきりになってしまっている。次を匂わせておいて放置されたら、ただの社交辞令かと思うだろうし、会ってくれたとしても文句を言われ、3度目はないだろう。
望みはかなり薄いと思っており、言わなければ良かったと後悔してしまった。
だが、会いたい、と心から思う。
家族以外で、ここまで思うことは初めてだった。
王都に戻ったらダメ元で連絡しようと心に決めた。
ロイをデクスターから離し、俺はじっとその目を見る。
「きっとデクスター様が身染めた方なんですから、素敵な人なんでしょうね。
俺でよければいつでも話を聞きますよ」
何故か上手くいくと直感が告げていた。
俺自身、恋愛経験豊富で恋の駆け引きに長けているというわけではないが、恋愛恐怖症に陥るまではそこそこ恋愛経験は積んでいる。
参考にならなくても、一緒に考えることは出来ると思ってそう言った。
「ありがとうございます」
デクスターはニコリと笑って応え、俺は、あ、これは近いうちに相談されるだろうな、と思わずニヤついてしまった。
「俺も相談に乗るぞ」
「私も」
ロイとディーがニヤニヤしながら言うが、
「お前達は過去の行いが悪すぎる」
そう突っ込むとぐぬぬと黙り込み、デクスターに笑われた。
「デックゥ、お兄ちゃんも相談に乗るからな」
「ダニエルも論外」
娼館遊びの激しいダニエルに、ロイとディーが同じタイミングで突っ込みを入れた。
デクスターの意外な告白には驚いたが、俺はクルス兄弟の仲の良さ、その兄弟愛がとても羨ましくなった。
血が繋がっていなくても、ここまで思い合えるなんて、なんて凄いことなんだろうと笑顔になる。
王都で待つ末弟ダリルも、兄2人からたっぷりの愛情を注がれてすくすくと成長している。
ダリルから求婚された俺だが、それはただの憧れの延長であるし、きっと彼の伴侶探しの時には、デクスターも今のダニエルのようになるんだろうなと、心の中で笑った。
それにしても、デクスターの相手とは、どこの誰なのか。
俺もとても気になった。
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