おっさんが願うもの 〜異世界行ったらイケメンに大切にされ、溺愛され、聖女と呼ばれ、陰謀に巻き込まれ。それでも幸せ目指して真面目に頑張ります〜

猫の手

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キドナ編 〜キドナ最後の夜〜

273.おっさん、聖女の噂を聞く

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 一体何時に終わるのか。
 考えてみれば、夜会というものに参加したのは数回だけで、どれも最後までいたことがない。
 俺のお披露目の夜会では、途中で聖女教会の襲撃事件が起こったため解散となった。
 狩猟祭での夜会では、ハニートラップの最中で、なんやかんやで途中退場している。
 まともに最後までいたことはなく、終わる時間もわからなければ、どうやって終わるのかも知らなかった。
「なあデック、夜会って何時に終わるんだ?」
「特に決まってはいるわけじゃない。
 途中参加、途中退場もありだしな。夜遅くなって人がどんどん減って、じゃあもう締めるか、みたいな終わり方がほとんだ」
「随分適当なんだな」
「夜会っていうのは、貴族社会においての娯楽の一つだからな。
 美味い食事と酒、おしゃべり、探り合いに騙し合い、時々SEX。そういう場所なんだよ」
「娯楽ね…」
 俺は苦笑いを浮かべながら、金のかかった豪華な飲み会のようなものかと思いつつも、それにSEXが付属するのはいかがなものかと思った。

 この世界は俺がいた世界と比べて娯楽が少ない。少ないというか、娯楽施設が全くないのだ。あるのは劇場だけ。
 この世界での娯楽は何だろうと考え、それが飲み食いであったり、おしゃべり、そして快楽なんだと思った。
 性行為に対する壁が低いのも、娯楽の少なさゆえなのかもしれないと考えてしまった。


 それにしても、時間はもうすぐ8時を迎えようとしているが、メイン会場はいまだに大勢の人で溢れていた。
 当然ロイとディーも取り囲まれている。
 俺は他人事のように大変だなあと感想を呟き、ふあぁ、と欠伸をした。
「退屈だよな」
「俺だけ部屋に戻るのはマズいかな」
「それは無理だ」
「だよね」
 即答され笑いながらため息をついた。
 ソファに深く座り、肘置きに寄りかかるようにして頬杖を付き、柵の隙間から下を見下ろしてじっと2人を見続けた。
 話しかけてくる相手に、笑顔で言葉を返しているのが見える。
 その笑顔に俺はモヤッとした感情を抱えた。


 俺が囲まれた時、もうすでに相手がいるとわかると人は散っていったが、ロイとディーの周囲からは人が途切れることがない。ずっと離れようとしない人もいた。
 もしかすると、2人はもう相手がいると話していないのではないか、今のモテモテの状況を楽しんでいるのではないか、と考えもしたが、すぐにその考えを打ち消した。

 俺と2人の違いは、その立場にある。
 ディーは継承権はなくても王族だし、ロイは最高位貴族に名を連ねた。
 2人と結婚することは、何不自由なく暮らせる未来と、最高権力という力が手に入ることになる。
 この世界は複数恋愛も重婚も当たり前だ。きっと2人に相手がいるとわかっても、2番目3番目でもいいから私も俺もと諦めきれないのだ。さらに愛は二の次でその権力だけを求めている者も多いのだろう。

 かたや俺は聖女。
 聖女との結婚は、立場としては有利になり、生活に困らないかもしれないが、権力を得られるかというとそうではない。
 この差が今の状況にある。
 あわよくば2人に見初められたい。
 体を重ねて既成事実を作りたい。
 属国になると決まった今、誰もが絶対的な地位と権力が欲しくて自分を売り込むために必死なのだ。
 さらに親達は家のためと、何とかして取り入れと子供達に発破をかけたのだろう。

「どんだけアピールしても無駄なのに」
 俺はデクスターにも聞こえない呟きを漏らし、目を細めて意地悪そうに口角を上げる。
 ロイもディーも既に俺のものだ。
 2人とも俺を愛しているし、もう俺以外抱けないし、勃たないと言っていた。
 ふふんと意地の悪い表情を浮かべると、ドヤ顔をしながら優越感に浸る。
 そんな自分自身がとても嫌味な男だと思った。


 ずっと同じ場所に座って、ただぼんやりと会場を眺めているだけですることがない。
 ただ黙ってロイとディーを見つめているが、俺だけだと言う2人を信じていても、どうしてもそばにいない分、ほんの僅かな不安は感じる。
 じっと2人を見つめていると、2人が浮気しないかどうか監視しているみたいだと、自分でも呆れてしまった。





 俺たちのいる2階の通路は割と人通りも多い。通路から奥に伸びる廊下に面して休憩室や談話室がある。それらを利用するために多くの人が行き来していた。
 さらに俺たちがいる場所以外にもソファが並べられており、入れ替わり立ち替わり休憩するために人が座り、少し休んだ後に再び会場へ降りて行く。
 どっかりと腰を据えてしまっているのは、俺たちくらいなものだった。
 話したそうにこちらをチラチラと意識して見てくる人もたくさんいたが、俺は気付かないフリをしつつ、近寄るなオーラを纏わせて、そちらを見ることもしなかったため、ここに座ってから話しかけてくる人はいなかった。

 だがそんな時、おしゃべりしながら階段を上がってきた3人の女性の内の1人と目が合ってしまった。
 一瞬ぱちっと合いすぐに視線を逸らしたが、その後もじっと見つめられているのを感じ、さらに近付いてくるのがわかった。
「あの…聖女様。お寛ぎのところ申し訳ございません」
 デクスターが彼女の姿を目で確認すると立ち上がった。その行動で彼女が無視すべきではない相手だと俺もすぐに悟り、同じようにソファから立ち上がる。
「ショーヘイさん、彼女はクローディア・エバンス様です。
 エバンス商会のご令嬢で、会頭ギュンター様のお孫様です」
 デクスターに教えられ、ああ、エバンス商会の…とその名前を思い出す。
「初めまして聖女様。クローディア・エバンスと申します」
 クローディアは足を引き、丁寧なカーテシーで挨拶してくれた。
 一緒にいた女性2人も同じように、カーラ、キャシーという名前を告げ、挨拶してくれた。
「ショーヘイと申します」
 俺もデクスターも彼女たちに丁寧に頭を下げて挨拶を返す。
「あの…もしお邪魔でなければお話させていただいてもよろしいですか?」
 クローディアは遠慮がちに尋ねてきたので、俺は笑顔で了承した。

 ギュンターの孫ということは、彼女はバシリオの従姉妹にあたる。そんな人からの申し出を断ることは出来ない。

 デクスターが席を譲り俺の隣にくると、女性達は向かい側のソファに座る。
 3人は30代前半だろうか。とても清楚で可愛らしいが、落ち着いた雰囲気も持っている大人の女性達だ。しかも、先ほど俺を取り囲んだ人たちのような「是非お近づきに!」という圧を感じなかったため、単純に話をするだけだとホッとする。

「お会い出来て光栄です。
 実はもっと早くお声をかけようと思っていたのですが……」
 クローディアは苦笑いを浮かべて会場にいた時には声をかけられなかったと言った。

 確かに俺は大勢の人が殺到して囲まれた。さらにその外側には順番待ちのように何重にも層が出来てしまっていた。
 話しかけようにも、その中に入ることが出来なかったのだろう。

「タイミングを窺っている内に気が付けば聖女様のお姿が見えなくってしまい…。ここで休憩なさっていたのですね」
 ニコリと微笑みを浮かべるが、俺は「ウザくて逃げてきました」とは言えずただ笑顔を浮かべた。
「大変でしたでしょう?大勢の方にアプローチされて」
「皆さんあわよくばなんて見え見えですものね」
「今も公国の皆様に近づこうと必死ですわ」
 3人がコロコロと笑いながら話す内容に、俺は逃げたことを見抜かれていると笑ってしまった。
 3人は自分たちは違うと言っているのと同じだし、同年代が必死になっている姿を嘲笑っているようでもあった。
「私たちにその気はありませんから安心してくださいませ」
 そんな俺の行動を察してクローディアはニコリと笑いながら言った。
 彼女達も俺にはもう相手がいるという話を聞いたのだろうが、最初からそう言ってもらえると俺も気負わずに済むと笑顔になる。
「ですが、お話させて頂きたいと思っておりましたの。是非お礼を述べさせて頂きたくて」
 クローディアはニコリと微笑む。
 お礼と言われても、彼女とは初対面だ。なんのことだろうと首をかしげた。
「バシリオ殿下の腕を治療して頂き、本当にありがとうございました」
 彼女が言葉と共に頭を下げた。
 単純に従兄弟を治療した俺に礼を言いたかったのかと思った。
「あ…いえ…。俺に出来ることはそのくらいしか」
 俺は手をパタパタと振って、頭を上げてと笑う。
「本当に腕を失くされていたのか、疑ってしまうほど完璧に再生されていて、本当に驚きました」
「ええ本当に。本来なら数ヶ月かかる治療ですものね。それを一度のヒールで一瞬でだなんて。腕を見せて頂きましたけど、にわかに信じられませんでしたわ」
「あ、聖女様の力を疑っているわけではありませんのよ。
 ただ、再生治療は何度か見たことがありますけど、あそこまで完璧なのは初めてで」
 3人は口々に治療に対しての感想を早口で述べ、俺は素直な言い方に、彼女達に対して好感度を上げた。
「殿下も、本当に喜ばれていて…。
 腕が元通りになったこともそうですが、聖女様の治療を、奇跡を体験出来たことが、とても嬉しかったとおっしゃっていました」
 クローディアも心から嬉しそうに笑った。
「殿下が亡くなったと聞いた時は、本当にショックで……辛い思いをしました」
 クローディアはその時のことを思い出したのか、辛そうな顔をした。
「実は私、今朝こちらに戻ったのです。
 王がお倒れになり内戦の兆しが現れたので、私は母と共に王都から避難させられてしまって……」
 本人はそれが嫌だったのか、苦笑いを浮かべていた。
「そうだったんですか」
 確かに彼女はバシリオ派閥の中でも中心となる家のものだ。危険を感じて逃がそうとするのは親心だろうと思った。
「どちらに行かれていたんですか?」
「母がジェラール聖王国の出身ですので、そちらに」
 クローディアがじっと俺を見つめた。
「実はお話したいと思ったのは、お礼を言いたかったのと、もう一つ……。
 聖女様のことでお耳にお入れしたいことがございまして」
 突然真剣な眼差しになり、俺とデクスターを見つめ、僅かに身を乗り出してきた。



「バシリオ殿下にお話してお伝えして頂こうと思ったのですが、その……殿下は今とてもお忙しくて…」
 日中バシリオと会った時に話そうと思っていたのだが、そんな時間はとてもなかった。本来であれば、従姉妹といえど平民である自分の面会申請など待たされて当然なのに、申請してすぐに受け入れられ執務室に通された。
 だが、執務室に入る時に、数多くの文官と入れ替わり、今彼の置かれている状況が嵐のように多忙を極めているとすぐに理解した。
 彼に会えたのはわずか10分程度。
 その後、急かすように文官達が入ってきて、バシリオは申し訳なさそうにしていた。
「わかりますよ。聖女のことで時間を取らせたくなかったんですね?」
 俺が察してそう言うと、クローディアは苦笑いを浮かべ、遠慮がちに頷いた。
「申し訳ありません。父や祖父に話してお伝えしても良かったのですが……。2人も忙しい身でなかなか捕まらず……」
 エバンス商会も今ベネットの件でダニエルに協力している。ダニエルも日中は出掛けていて、ザカン商会の本店や倉庫に出向いているし、膨大な量の書類の精査を始めている。

 彼女はきっと他にも公国側の誰かに話を伝えようとしたのだろうと思った。
 だが、誰1人暇な者はいないし、平民の彼女が立入不可の場所にいる。
 結局、この夜会で誰かに話そうと思ったのだろうが、全員が囲まれてしまった。
 そうこうしている内に、逃げて隅で休憩している俺を見つけたというわけだ。

「話と言っても聖王国で聞いたただの噂話なので、緊急を有するというわけでもないのですが…」
「俺の噂ですか?」
「貴方様のというか、聖女様のです」
 俺は彼女の言葉に首をかしげた。
 聖女の噂なのだから、俺の話ではないのか。
 彼女は俺個人ではなく、聖女のと言い直し、彼女自身も戸惑っているような、そんな言い方をした。



 彼女は親友であるカーラとキャシーと共に聖王国に避難した。
 キドナとの国境沿いにある街に滞在していたそうなのだが、そこで聖女の話を聞いたのだという。


 数ヶ月前、聖王国にある魔鉱石鉱山で落盤事故が発生し多くの怪我人が出たが、たまたま通りかかった聖女が人々を治療し救ったという。
 その聖女は公国で発生したモンスターブレイクを打ち破り、村人を救った人物と同一人物である。
 その後公国王都へ向かったという話は嘘であり、現在公国にいる聖女はその名を騙る偽物である。
 本物は今もなお癒しの旅を続けており、現在は聖王国内にいる。
 

 クローディアは聖王国で聞いた聖女の話を聞かせてくれた。
「そんな噂が……」
 俺は話を聞いてポカンとしてしまった。
 流石にデクスターも驚いて目を丸くしていた。だがすぐに真顔になると何かを考え始めた。
「聖王国の聖女は女性で、治療が終わるといつのまにか立ち去っているそうです」
「女性…」
 まさに聖女じゃん、と俺は他人事のように考える。
「聖王国のその人は毎日創造神に祈りを捧げるとても信仰心に厚い方だそうで、その結果、神から癒しの力を頂いたのだとか」
 それを聞いて、随分具体的だな、と思った。
「おかしいのは、聖王国だけでその噂が広まっていることです。
 聖王国に行くまでは、そんな話聞いたこともありませんでしたもの」
 クローディア自身も驚いたと言った。
「ただの噂話ですからお話する必要もないかと思ったのですが、どうにも気になってしまって……」
 確かに気になるなと俺も思う。


 聖王国にも聖女が現れたという話だけならまだしも、俺を偽物呼ばわりする内容に引っ掛かりを覚える。
 自分で聖女ですと名乗った覚えはないが、いかんせん自分が行使するヒールがかなり非常識であることは認識しているし、それが聖女と呼ばれることに繋がったと理解もしている。
 もし俺と同じようなヒールを使える者が現れ聖女と呼ばれたとしても、俺を偽物扱いする必要がなければ意味もないと思う。
 ただ、同じことが出来ると、それだけでいいはずだ。
 

「貴重なお話をありがとうございます」
 デクスターが笑顔でクローディアに礼を告げる。
「明日お帰りになるとお聞きしました。今ここでお伝えすることが出来て良かったですわ」
 クローディアがニコリと微笑み、ソファから立ち上がった。
 俺たちも立ち上がると、互いに頭を下げて挨拶を交わした。


 彼女達が廊下の先にある奥の談話室へ向かうのを見送った後、俺たちは再びソファに座り直す。
「デック。今の話、どう思った?」
「単純な話なら、聖女という存在を利用した詐欺、だろうな」
「詐欺ね……」
 聖女に成りすまして旅を続け、寝食を提供させる。もしかしたら金品も騙し取っているかもしれない。
 ヒールが使える者なら、行く先々で治療し、私が本物の聖女だと騙ることは可能だろう。
「もしくは本当に聖女がもう1人現れたのかもな」
 俺がそう呟くとデクスターが笑う。
「それはあり得ないな。
 ショーヘイさんのヒールは普通じゃない」
 それは、俺がジュノーであるがゆえだ、とデクスターは笑う。
「……その聖王国の聖女もジュノーだったりしてな」
 俺は笑いながら思いついたことを口にすると、デクスターはギョッとして黙り込んだ。
 あり得ない話ではない。
「真偽を確かめる必要があるな」
「そうだな。黒騎士の出番だ」
 俺はデクスターに微笑むと、デクスターも笑った。



 話がひと段落して、俺は先ほどと同じようにソファにゆったりと沈み込んで、柵の隙間から見える階下を見下ろした。
「あれ?」
 だが、俺はすぐに立ち上がり柵に近寄って会場を凝視した。先ほどまでいた場所にロイとディーの姿がない。
 3人と話していたのは30分もない。
 その目を離した間に、2人はいなくなっていた。

 上から会場を見渡して必死に2人の姿を探す。
 きっとまだ多くの人が取り囲んでいるはずである。所々にある集団を順番に見て、中心になっている人を見る。
 ギルバート、ダニエル、アビゲイル、エミリア…。
 順番に頭の中で名前を呟くが、全部の集団を見ても、その中にロイとディーの姿はなかった。
 俺は何度も、囲まれている中心人物を見て、2人を探した。だがどこにも見当たらない。さらに壁際や飲食コーナー、会場全体をくまなく見渡して必死に探すが見つけられない。
 俺はサーッと血の気が引くのを感じた。
 『夜会にはSEXが付きもの』という言葉が頭に浮かぶ。現にそういう目的で2人がアプローチされていたのも目撃した。
 そんな2人が会場から消えてしまった。


 まさか……。


 そんな考えが脳裏をよぎる。
 デクスターがそんな俺に気づいて立ち上がり、同じように2人を探してくれた。
 だが、見つけることが出来ずに顔をしかめた。


 絶対にあり得ない。
 ロイとディーは俺を愛してると言った。
 これから婚約の公表もするのに、今ここで俺を裏切るなんて、絶対にあり得ない。
 そうわかっていても、信じていても、2人は何度も据え膳を食ってきたという過去が不安と恐怖を掻き立てる。
 しかもアルコールも入っている状況で、酔わされて正常な判断が出来ない、かつ酒の勢いに任せてということも考えられるのだ。


 俺は強烈な不安に襲われ、一気に緊張して体を強張らせた。心臓がバクバクと早鐘を打ち、じっとりとした嫌な汗が噴き出すのを感じた。
「そうだ…魔力を…」
 感知魔法を思い出し俺は2人の魔力を探そうとする。
 だが、かなり動揺しており、体内に感じる魔力の流れが乱れて上手く制御が出来なくなっていた。
 さらに2人の魔力を感じるよりも先に大勢の魔力が感知魔法に引っかかり、その魔力から伝わる様々な感情が流れ込んできた。
 その多くは耐え難い欲望ばかりであり、他にも、妬み、嫉みなどの感情が流れ込み、探そうとすればするほど、それらの感情に心も魔力も乱されてしまった。
 呼吸が乱れ、ハッハッと短い呼吸を繰り返し、過呼吸のような症状を引き起こしてしまう。
 立っていられなくなった翔平は柵に捕まったままその場にへたり込んでしまい、デクスターは慌てて翔平の背中に手を当てて己の魔力を流して正常に戻そうとする。
「ショーヘイさん、落ち着いて。感知魔法を解除して」
 デクスターに言われるが、それもすぐに出来ないほど自分の魔力が制御出来なかった。

 その内、翔平の魔力の異常に気付いた騎士達が集まり始めた。
 彼らは1階の会場で人々に囲まれて会話しながらも、時折翔平へと視線を走らせて状況を把握し、気にかけていた。
 もちろん、そばにデクスターがいることもわかっており、彼が自分たちに気を遣ってくれたこと、彼のおかげでゲストとして夜会を楽しむことが出来ていると感謝していた。

 いち早く駆けつけたジャニスが蹲る翔平を見て青ざめる。
「何があったの!?」
 さらにアビゲイルが、エミリア達も次々と駆けつけた。
 そしてすぐに一番最初に駆け付けるべき2人がいないことに気付いた。
「ロイとディーは?」
 オリヴィエが柵から身を乗り出すように階下を見下ろして2人を探すが、見つけられなかった。
「2人の姿が見えなくなって、取り乱してしまったんだ」
 デクスターが答え、騎士達は翔平の気持ちを察した。

 夜会という場所で姿を消す意味を彼らもよくわかっている。翔平もわかっているから、こんなにも不安に駆られて動揺してしまったのだ。
 だが、彼らはすぐに2人が消えたのはそういう意味ではないと思った。
 あれだけ翔平への愛を示しながら、さらに婚約公表まで控えているのに、そんなことをするなんてあり得ない。

 だとすれば、何かが起こっている。
 一瞬で騎士達の中に緊張が走り、体内のアルコールも一気に吹き飛んだ。


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