ぼっちの田舎暮らしの青年、鉄仮面の貴公子を助けて溺愛される

猫の手

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第二章 両片思いの日々

衝撃の事実と湧き起こる怒り

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 馬を急いで厩舎と繋ぎ、アシェルはバタバタと荷物を持って家に向かった。
 玄関前に戻ると、ルシルが再び容器を持って出てきた所で、中に入ってと腫れた頬を隠しながら言った。
 そんなルシルを気にしながらも、荷物を家の中に置いて再び戻る。
「手伝うよ」
 黙々と新しい容器に乳を移し替えているのを手伝って中に運び込むと、ルシルは片付けてくると納屋へと行ってしまった。

 アシェルはルシルのよそよそしい態度に、会いにきてはいけないのかと不安になった。
 目も合わせてくれないルシルに、会いたいと思っていたのは自分だけだったと思ってしまった。
 何度もお礼に来る、また会いに来ると言っても、ルシルは「別にいいよ」と答えるだけで苦笑いを浮かべていた。
 あれは遠慮や謙遜だと思っていたのだが、そうではなく、はっきりと迷惑だったのだと思った。


 勝手に好きになって、勝手に1人で盛り上がっていた。


 アシェルはそれに気付かされ、ショックを受けてがっくりと項垂れた。
 それでもルシルのためにと買ってきた物をテーブルに並べ、椅子に座ってルシルを待つ。

 昨日、俺と別れた後に一体彼に何があったのか。
 あれは確実に殴られた跡だ。
 それに、乳の入った容器を、引きずった跡があった。身体強化の魔法を使えるルシルなら、簡単に持てるはずなのに引きずったということは、体に異常があるからだ。
 顔と同様に体も殴られたのだ。

 ルシルに何が。

 アシェルは再びルシルを殴った相手に怒りが沸き起こった。





 ルシルは納屋の前で黙々と容器を洗いながら、泣きそうになっていた。

 まさか昨日の今日でアシェルが会いに来てくれるなんて思わなかった。
 淡い期待を胸に抱いていたが、まさか本当に会いに来るなんて。しかもこんなすぐに。

 本当はすごく嬉しいのだ。
 泣きそうになるくらい嬉しいのに、同じくらい泣きそうになるほど辛かった。
 今の自分の状態を見られたことが辛かった。
 力づくで犯されボロボロになっている姿を。他人に汚された自分を見られたくなかった。
 汚い自分を見られたくなかった。

 ルシルは納屋でこっそり泣いた後、泣いたことを悟られないように顔を洗ってから家に戻った。







「ごめんね、待たせちゃって」
 片付け終わって戻ってきたルシルは、家の中に入ってくると明るい声を出す。
 アシェルはいつも通りの声に振り向くと立ち上がってルシルを見る。
「驚いたよ。本当に来てくれるなんて。しかも昨日の今日だよ?」
「ルシ…」
「領都に帰ったんじゃなかったの?あ、もしかして何か忘れ物したとか?」
「ル…」
「家族が心配するんじゃないの?きっとアシェルを待って…」
「ルシル!」
 ルシルは外套を脱ぎながら早口に喋り出し、アシェルに何も言わせまいとしているかのようだった。しかも目を合わせようとしない。
 だが、アシェルの大きな声にその小さな体がビクッと大きく跳ねる。
「……すまん」
 明らかにルシルが怯える反応を見せ、アシェルはハッとして謝った。
「……お茶、淹れるね」
 ルシルは俯きながらいつもの声色で言うと、パタパタとキッチンへ向かう。
 だがアシェルはルシルの左手首を掴んで引き留めた。
「いっ…」
 そんなに強く掴んだつもりはなかったのだが、ルシルの顔が痛みに歪む。
 その表情に、アシェルは眉間に皺を寄せると、痛みを訴えた手首を離して別の場所を掴むと、有無を言わさず袖を捲った。
「あ!」
「……」
 その手首に拘束された跡が残っていた。しかも指の形まで見える。
 それを見た瞬間、ざわりとアシェルの肌が泡立ち、同時に怒りを含んだ魔力が溢れ出した。
 ルシルは拘束の跡を見られ、目の前が一瞬暗くなるほど青ざめた。
「は、離し……」
 ルシルは掴んでいるアシェルの手を右手で引き剥がそうとするが、びくとも動かない。
 それに加えてアシェルから感じる怒りを含んだ魔力と、見られたというショックから体が震え出した。
「何をされた」
 低い声で聞かれ、ルシルは1番知られたくない人にバレたと思い、狼狽え出す。
「…離して……」
 ルシルは震えながらアシェルの手から逃れようとするが、全く解放されない状況にさらに狼狽え、必死に手を離させようとする。
「…嫌……離して」
「ルシル」
 手を掴んで引っ張っても叩いても、自分を掴んでいるアシェルの手が離れない。
 目に映る自分の腕を掴んで離さない手に、昨日、同じようにジェイドに掴まれたことを思い出し、現実と記憶の映像が重なり錯覚を起こした。
「離して!!嫌ぁ!」
 アシェルは突然のルシルのパニックに驚愕し、そして瞬時に悟った。
「ルシル」
 すぐに腕を離すが、パニックを起こしたルシルはそのままアシェルから逃れようと暴れ出した。
「ルシル!大丈夫だ!」
 アシェルは両手を振り回し逃げようとするルシルへ叫ぶ。
 だが、ルシルはアシェルではない別の誰かに恐怖し泣きながら悲鳴をあげた。
「止めて!嫌だ!」
 頭や顔を守るように腕で隠し、ふらふらと覚束ない足元で移動していく。
「ルシル!俺だ!アシェルだ!」
 自分が腕を掴んだことでフラッシュバックを起こしてしまったルシルを落ち着かせようとするが、パニックを起こした状態では何を叫んでも無駄だった。
 ルシルは暴れながらアシェルから逃げ、テーブルや椅子、壁にぶつかる。
 アシェルはギリッと歯を食いしばると、自身に魔法をかけた。

 一瞬でルシルに迫り、その肩を両手で押さえると、ごく僅かな電撃を放つ。
 ルシルは体に走った電流にビクンと体が大きく跳ねた瞬間動きが止まり、そのまま気を失った。
 アシェルは崩れ落ちるルシルの体を正面から抱き締める。


 騎士時代、何度か興奮状態で我を失った者、魔力暴走を起こした仲間を救うために、このショック療法を使った経験があった。
 一歩間違えば命を奪いかねない荒療治ではあるが、効果は絶大だった。


 アシェルは意識のないルシルを抱き上げると、そっと暖炉の前まで運びラグの上に横たえた。
「……」
 流れ落ちた涙を掬い取ると、アシェルは深く息を吐き、頭を抱えながら座り込む。
 ルシルの様子から、何があったかは明白だった。
 アシェルは何度か深呼吸を繰り返し、意を決するとルシルの服に手をかけた。






 ルシルの体に殴られたのだろう無数の痣が浮き上がっていた。
 単純に暴行を受けただけだと思いたかったのだが、胸や肩に残る歯型、腰を強く掴まれたために出来た手形に、彼がレイプされたとわかった。
 アシェルは、身体中に残るその跡の一つ一つに丁寧にヒールをかけて消して行く。
「ルシル…」
 ヒールをかけながら、アシェルは泣いていた。


 必死に抵抗しただろう。
 どんなに辛かっただろう。


 アシェルは治療を終えるとルシルへ服を着せ、椅子にあったブランケットをかけた。

 ルシルの体にあった跡から、襲ったのは少なくても3人だと見抜いた。普通の人族サイズが2人に、大男が1人だ。
 アシェルはその3人を見つけ出しその罪を贖わせてやる、死よりも辛い報復をと怒りをつのらせる。

 それと同時に、ルシルをこんな所へ置いて置けない、彼を説得し絶対に連れて帰ると心に決めた。



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