ぼっちの田舎暮らしの青年、鉄仮面の貴公子を助けて溺愛される

猫の手

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第三章 両思いと甘い日々

家を出る相談を始めますが、なかなか先に進めません

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 2人で今後の予定を詳しく話し合う。
 収穫物や備蓄食料、家畜を譲ることにしたが、どうやって運ぶのかという問題が出てくる。
 何せこの北の森に好き好んで入ってくるものはいない。取りに来て欲しくても、それは命懸けになってしまうのだ。荷車で運び出そうとしても、それだと何日もかかってしまう。出来れば、馬で引く大型の荷馬車が欲しい所だ。
 ということは、ここまで入ってこられる人に荷運びを依頼し、こちらから譲渡先に運ばねばならない。
 ルシルは蓄えてあるお金で傭兵や冒険者を雇い、さらに荷馬車を借りれるだろうかと考えた。
 譲渡先の農家にもお金を出してもらえば、足りるかなと考えていたのだが、アシェルはあっさりとその問題を解決した。
「俺の仕事のために、近々領都から兵団が来ることになってる。彼らに頼もう」
「……ええ…。そんな荷運びを兵団の皆さんに頼むなんて…」
 ルシルは恐縮しそんなこと出来ないと言った。いくらなんでも公私混同過ぎる。
「大丈夫だ。団長の俺が言うんだ。みんな快く引き受けてくれるさ」
「…団、長…?」
「ああ。言ってなかったか?俺はヒューバート家私兵団、蒼天騎兵団の団長だ」
「ええ……」
 確かに鍛えられたいい体をしていると思ったが、貴族の子息が私兵団の団長なんて聞いたことがない。
 愛した人は何者なんだろうと、ルシルは唖然とした。
「俺は元騎士なんだよ。だからお前の父さんドン・シルフォードのこともよく知ってる」
「騎士…様?」
「ああ。知ってるだろ?銀翼の鷹。俺はそこの第1部隊、特攻班班長だった」
「…ドンがいた、銀翼の…?」
「ああ」
「アラスター様の?」
「団長を知ってるのか?」
「うん…。何度も遊びに来てるから…」
「…そうか…そうなのか…」
 今度はアシェルが驚くことになった。


 アラスター・ジルコニアス。
 メイフォール共和国正騎士団団長で、1代限りの騎士爵という伯爵相当の爵位を持っている。
 彼はエルフで長命種であり、ドンが副団長時代においても団長職に就ていた。ドンの盟友で、親友だったと聞いている。
 英雄ドンの話は本になるほど有名だが、それ以上にアラスターから面白おかしくたくさん話を聞いていた。ドンには実際に会ったことがないのだが、アラスターから聞いていたおかげで、騎士団の仲間たちはドンがどんな人物だったのかをよく知っていた。

 そして、その団長に会ったことがあるという話を聞いて顔をしかめた。
「ルシル、何もされてないよな」
「…っふ、あはは」
 アシェルの質問にルシルは笑い始めた。
「されてないけど、確かに来るたびに求婚されたし、攫われそうになったこともあったなあ」
 ルシルは小さな頃から、彼に結婚しようと言われていたことを思い出して笑った。
 その度にドンに殴られ、喧嘩になっていた。18歳で成人した時には連れ去られそうになったこともあったのだ。すぐにドンが助けてくれたが。
 だがそれは冗談でお遊びだ。アラスターはドンと遊ぶために自分をダシにしていたとルシルは思っていた。
 彼らの喧嘩は本気ではなく、じゃれ合いのようなものだったと認識している。喧嘩して殴り合って骨折したり血を流しても、マリー曰くいつものことだと笑っていたから、気にしたことはない。
「あのエロエルフ…」
 アシェルはよく知っているアラスターにものすごい顔をする。

 アラスターはとにかく強い。騎士として、団長として、人として、とても尊敬しているが、唯一尊敬出来ないのが色恋にだらしない所だった。
 好みの男女がいれば見境なく口説きまくる。本人曰く運命の相手を探していると言うが、それにしたってその行動は目に余るものがあった。
 そしてそんなアラスターの好みに、ルシルはピッタリと当てはまる。
 ここに遊びに来ていたと言うが、ドンに会いに来ているのではなく、もしかするとルシルを口説きに来ていたのではないかと思った。
 ルシルが成人になってから連れて帰ろうとした行動も、ずっと目をつけていた子が大人になったから迎えに来たつもりだったのではないか。
 ドンが亡くなって4年。
 よくアラスターが無理矢理ルシルを連れて行かなかったな、手篭めにしなかったな、と思ってしまった。

「ドンが亡くなってからは来ていないのか?」
「来たよ。今も数ヶ月に一度のペースで。前は2ヶ月くらい前かな。その度に一緒に行こう、結婚しようって言われてるけど、本気じゃなくて、もう挨拶みたいなものだから」
 ルシルはカラカラと笑い、アラスターは血は繋がっていなくても親友の忘形見の僕を気にかけてくれただけだと言い、断り続けているらしい。
 それを聞いて、アシェルはますます顔をしかめた。

 違う。
 アラスターはきっと本気でルシルを連れて帰ろうとしてる。そう直感が告げる。
 手を出していないのがその証拠だ。本気でルシルを大切に思っている。
 ドンのためという気持ちも多少はあるかもしれないが、絶対にルシルを狙っている。

 ルシルに会ったのは、きっと彼が幼い時だろう。小さな子供のルシルを見て、アラスターはきっと将来可愛く、美しく成長すると確信し、ずっと通い口説いてきた。
 だが、あまりにも幼少の時から言い続けたことと、さらにドンがルシルに『あいつのは冗談だ』と擦り込みしたおかげで、ルシルはアラスターの求愛の言葉をまともに受け取ることをしなくなったのだろう。
 だが、こんなに素直で純粋なルシルなら、きっといつかアラスターに絆されてしまっていたかもしれないと、ゾッとした。

 ルシルが本気にしなくて、本当に良かったと、心からそう思った。
 本気にするなと言ったドンに感謝する。


「共通の知り合いがいるなんて、なんか不思議だね。やっぱり僕達…は…」
 嬉しそうに話すルシルだったが、言葉の途中で急に顔を赤くした。
「僕達は?」
 続きを促すがルシルはますますカアッと赤くなり、頬を両手で擦る。
「…出会う、運命、だった…のかな…って」
 顔を手で覆い、耳まで真っ赤になってものすごく恥ずかしそうに言うルシルの姿に、特大の恋の矢がアシェルの体を貫いた。
「ルシル」
 アシェルはルシルをギュッと抱きしめる。愛しくて愛しくて堪らない。
 このまま誰にも見せず、自分だけ見ているように閉じ込めてしまいたいと、本気で考えてしまった。
 それと同時に、アラスターに絶対に会わせるわけには行かないと思った。


 ここを出る相談を始めたのだが、再び2人の世界にはまりこんで、抱きしめ合い、見つめあって、キスを繰り返す時間が30分以上続いてしまった。


 全然先に進まない……。



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