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7《災いごとを断ち切る剣》
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大泊瀬皇子が自身の宮に帰って行った後、韓媛は自分の部屋へと戻って来ていた。
先程夕食も済ませて、今は1人部屋でくつろいでいる状態だ。
「それにしても、大泊瀬皇子と再会するなんて思ってもみなかったわ。彼の場合、若干態度が大きのは気になるけど、割りと良くなったかしら」
韓媛はそう言って、自身の髪を止めている紐をほどいた。すると彼女の髪はバサッと広がり、そしてそのまま下に落ちた。
彼女の髪はとても艶があり、本人もこの髪をとても気に入っている。
そのお気に入りの髪を手で触れながら、彼女は先程の大泊瀬皇子との再会を、ふと思い返した。
彼女が思うに、どうやら彼も4年前に比べると、それなりに成長はしていた気がする。
「それに、今後はここにも時々来ると言っていた。皇子もついに政り事に関わる年頃になったようね」
そんな大泊瀬皇子の成長には、韓媛も少なからず興味を覚えた。昔はただただ問題を起して悪さばかりする少年だった。そんな彼がどんなふうに変わったのだろうか。
(自分は大和にとって、なくてはならない存在になるなんて言ってたぐらいだもの。その後は頑張ってたのかもしれない……)
そう思うと、韓媛はまた可笑しくなってきて、少し「クスクス」と笑った。
この4年間、彼がどういう生活を送っていたかは、正直彼女には分からない。彼の事は本当にたまに噂で聞く程度の情報しか入っては来なかった。
彼女がそんなことを考えている時だった。ふと部屋の外から人の声がした。
「韓媛私だ。中に入っても良いか」
外から声をかけてきたのは、彼女の父親である葛城円であった。父親の彼がこんな時間に韓媛の元に来るのは珍しい。
(お父様がこんな時間に訪ねて来られるのは、珍しいわね……)
とりあえず父を外で待たせたままにするのは申し訳ないので、彼女は部屋の中から彼に返事をした。
「はい、お父様大丈夫です。中に入ってきて下さい」
韓媛の返事を聞いた円は、そのまま部屋の中に入ってきた。
そして彼は韓媛の前に来ると、そのまま座った。そんな父親を彼女がふと見ると、彼は何か包み物を持っていた。
「韓媛、こんな時間にすまないな」
円は少し申し訳なさそうにして、彼女に言った。彼はここ葛城を仕切っている人物で、年齢も40手前ぐらいになる。
「いえ、それは構いません。それよりお父様、何か用事でしょうか?」
韓媛は何故こんな時間に父親が来たのか少し不思議に思えた。
「本当はもう少し早い時間に来たかったんだが……お前も知ってると思うが、今日は大泊瀬皇子が来られてたのでな」
どうやら大泊瀬皇子との事があったので、彼がここに来るのが遅くなったみたいだ。それを聞いた韓媛も、それなら仕方ないなと思った。
「確かにそうですね。お父様も色々とお忙しい中、本当にお疲れ様でした」
韓媛も、そんな父親にここまで足を運ばせてしまった事に、とても申し訳なく思う。
だが、彼がこんな時間にわざわざ訪ねて来るとなると、何か急ぎの用件でも出来たのだろうか。
「それでだな。実は今日お前に渡したい物があって、それを持って来たんだ」
彼はそう言うと、自身が手に持っていた包みものを開け出した。
韓媛も一体何だろうと思って見ていると、中から出てきたのはどうやら短剣みたいだった。
「お父様、これは短剣のように見えますが?」
韓媛は何故父親がこんな物を持って来たのか不思議に思った。
「これは昔からこの家にあった剣でな。何でも、『災いごとを断ち切る剣』という意味がある剣なんだそうだ」
「『災いごとを断ち切る剣』ですか?」
韓媛からしたら、こんな剣がこの家にあったのは初耳である。
「あぁ、お前も14歳になったので、護身用も兼ねてそろそろ渡しておこうと思ったのだよ」
彼の話しによると、元々この剣は彼女の母親が自身の元に嫁ぐ時に持って来ていた物らしい。
だがその母親が亡くなったので、ひとまず彼が預かっていたとの事。
「まぁ、このような剣がうちにあったなんて……」
韓媛はとりあえずその剣を手に持ってみた。元々護身用のためか、そこまで重くはない。
(これなら、女の私でも持てそうね)
そして彼女は鞘から剣を抜いてみた。少し古くはあるが、それなりに質は良さそうだ。
「お父様、これは私が持っていたら良いのですか?」
韓媛は、その短剣を色々と細かく見ながら彼に聞いた。
「あぁ、そのために持って来たんだ。本当ならお前の母親から渡すつもりだったんだが、彼女はもう亡くなっているので、私が変わりに渡しにきたんだ」
葛城円はそう彼女に説明した。
「この剣がどんな物なのかは、私も詳しくは知らない。その『災いごとを断ち切る剣』と言う意味も含めてな。だがきっと何かの役に立つこともあるだろう」
韓媛からしてみれば、姫が悪いものから守られるような、まじない的な物なのだろうと思った。それに短剣なので、何者かに襲われそうになった時でも使えるはずだ。
「分かりました。ではこれは有ありがたく受け取らさせて貰います」
韓媛はそう言って、剣を鞘に収めた。
「じゃあ、ここに長居しても悪いので、私は失礼するとする」
そう彼は言って立ち上がると、部屋の外に向かって歩きだした。
韓媛もそんな父親を見送る為、部屋の外の前まで行った。
そして円は、部屋の外の前でふと止まって彼女に言った。
「あ、そうそう。お前も今日大泊瀬皇子に会ったと思うが、皇子から何か変わった話しは聞いているか?」
「え、大泊瀬皇子からですか?確かに話しはしましたが、特にこれといって特別変わった話しは聞いてませんけど……」
韓媛は何故、父親がそんな事を聞いて来るのか、少し不思議に思った。
「いや、特に何もないならそれで良い。まぁ4年ぶりに来られたんだ、これからお前も皇子とは話しをする機会も増えるだろう……彼も一応は皇子だ、くれぐれも失礼がないようにしなさい」
彼はそう韓媛に言って、彼女の元を後にした。
(お父様、一体どうしたのかしら……)
韓媛はそんな父親の発言が少し気になった。
だが大泊瀬皇子がこれから度々来られる事になったので、それに対しての気配りなのだろう。
先程夕食も済ませて、今は1人部屋でくつろいでいる状態だ。
「それにしても、大泊瀬皇子と再会するなんて思ってもみなかったわ。彼の場合、若干態度が大きのは気になるけど、割りと良くなったかしら」
韓媛はそう言って、自身の髪を止めている紐をほどいた。すると彼女の髪はバサッと広がり、そしてそのまま下に落ちた。
彼女の髪はとても艶があり、本人もこの髪をとても気に入っている。
そのお気に入りの髪を手で触れながら、彼女は先程の大泊瀬皇子との再会を、ふと思い返した。
彼女が思うに、どうやら彼も4年前に比べると、それなりに成長はしていた気がする。
「それに、今後はここにも時々来ると言っていた。皇子もついに政り事に関わる年頃になったようね」
そんな大泊瀬皇子の成長には、韓媛も少なからず興味を覚えた。昔はただただ問題を起して悪さばかりする少年だった。そんな彼がどんなふうに変わったのだろうか。
(自分は大和にとって、なくてはならない存在になるなんて言ってたぐらいだもの。その後は頑張ってたのかもしれない……)
そう思うと、韓媛はまた可笑しくなってきて、少し「クスクス」と笑った。
この4年間、彼がどういう生活を送っていたかは、正直彼女には分からない。彼の事は本当にたまに噂で聞く程度の情報しか入っては来なかった。
彼女がそんなことを考えている時だった。ふと部屋の外から人の声がした。
「韓媛私だ。中に入っても良いか」
外から声をかけてきたのは、彼女の父親である葛城円であった。父親の彼がこんな時間に韓媛の元に来るのは珍しい。
(お父様がこんな時間に訪ねて来られるのは、珍しいわね……)
とりあえず父を外で待たせたままにするのは申し訳ないので、彼女は部屋の中から彼に返事をした。
「はい、お父様大丈夫です。中に入ってきて下さい」
韓媛の返事を聞いた円は、そのまま部屋の中に入ってきた。
そして彼は韓媛の前に来ると、そのまま座った。そんな父親を彼女がふと見ると、彼は何か包み物を持っていた。
「韓媛、こんな時間にすまないな」
円は少し申し訳なさそうにして、彼女に言った。彼はここ葛城を仕切っている人物で、年齢も40手前ぐらいになる。
「いえ、それは構いません。それよりお父様、何か用事でしょうか?」
韓媛は何故こんな時間に父親が来たのか少し不思議に思えた。
「本当はもう少し早い時間に来たかったんだが……お前も知ってると思うが、今日は大泊瀬皇子が来られてたのでな」
どうやら大泊瀬皇子との事があったので、彼がここに来るのが遅くなったみたいだ。それを聞いた韓媛も、それなら仕方ないなと思った。
「確かにそうですね。お父様も色々とお忙しい中、本当にお疲れ様でした」
韓媛も、そんな父親にここまで足を運ばせてしまった事に、とても申し訳なく思う。
だが、彼がこんな時間にわざわざ訪ねて来るとなると、何か急ぎの用件でも出来たのだろうか。
「それでだな。実は今日お前に渡したい物があって、それを持って来たんだ」
彼はそう言うと、自身が手に持っていた包みものを開け出した。
韓媛も一体何だろうと思って見ていると、中から出てきたのはどうやら短剣みたいだった。
「お父様、これは短剣のように見えますが?」
韓媛は何故父親がこんな物を持って来たのか不思議に思った。
「これは昔からこの家にあった剣でな。何でも、『災いごとを断ち切る剣』という意味がある剣なんだそうだ」
「『災いごとを断ち切る剣』ですか?」
韓媛からしたら、こんな剣がこの家にあったのは初耳である。
「あぁ、お前も14歳になったので、護身用も兼ねてそろそろ渡しておこうと思ったのだよ」
彼の話しによると、元々この剣は彼女の母親が自身の元に嫁ぐ時に持って来ていた物らしい。
だがその母親が亡くなったので、ひとまず彼が預かっていたとの事。
「まぁ、このような剣がうちにあったなんて……」
韓媛はとりあえずその剣を手に持ってみた。元々護身用のためか、そこまで重くはない。
(これなら、女の私でも持てそうね)
そして彼女は鞘から剣を抜いてみた。少し古くはあるが、それなりに質は良さそうだ。
「お父様、これは私が持っていたら良いのですか?」
韓媛は、その短剣を色々と細かく見ながら彼に聞いた。
「あぁ、そのために持って来たんだ。本当ならお前の母親から渡すつもりだったんだが、彼女はもう亡くなっているので、私が変わりに渡しにきたんだ」
葛城円はそう彼女に説明した。
「この剣がどんな物なのかは、私も詳しくは知らない。その『災いごとを断ち切る剣』と言う意味も含めてな。だがきっと何かの役に立つこともあるだろう」
韓媛からしてみれば、姫が悪いものから守られるような、まじない的な物なのだろうと思った。それに短剣なので、何者かに襲われそうになった時でも使えるはずだ。
「分かりました。ではこれは有ありがたく受け取らさせて貰います」
韓媛はそう言って、剣を鞘に収めた。
「じゃあ、ここに長居しても悪いので、私は失礼するとする」
そう彼は言って立ち上がると、部屋の外に向かって歩きだした。
韓媛もそんな父親を見送る為、部屋の外の前まで行った。
そして円は、部屋の外の前でふと止まって彼女に言った。
「あ、そうそう。お前も今日大泊瀬皇子に会ったと思うが、皇子から何か変わった話しは聞いているか?」
「え、大泊瀬皇子からですか?確かに話しはしましたが、特にこれといって特別変わった話しは聞いてませんけど……」
韓媛は何故、父親がそんな事を聞いて来るのか、少し不思議に思った。
「いや、特に何もないならそれで良い。まぁ4年ぶりに来られたんだ、これからお前も皇子とは話しをする機会も増えるだろう……彼も一応は皇子だ、くれぐれも失礼がないようにしなさい」
彼はそう韓媛に言って、彼女の元を後にした。
(お父様、一体どうしたのかしら……)
韓媛はそんな父親の発言が少し気になった。
だが大泊瀬皇子がこれから度々来られる事になったので、それに対しての気配りなのだろう。
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