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16《木梨軽皇子の決意》
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雄朝津間大王の突然の崩御により、大和内は慌てふためく。そして次の大王を誰にするかで家臣達は悩んでいた。
本来なら皇太子の木梨軽皇子が即位する筈である。だが彼は同母の妹である軽大娘皇女と恋に落ちてしまい、そんな彼から皆心が離れ出している。
そして変わりに、第3皇子である穴穂皇子に心を寄せるようになる。
そのため、皇太子の木梨軽皇子ではなく、彼の弟の穴穂皇子を次の大王に立てるべきではと言う意見が徐々に増えていった。
また雄朝津間大王が体調を崩していた当時も、彼は大王の代理として動く事が多かった。それもあって彼の評価は一気に上がっていく。
無論、同じ皇子である大泊瀬皇子もそれなりの評価は受けていた。
だが彼はまだ若く、性格に傲慢さが少しかいまみられていた。
なので穴穂皇子を次の大王に推すのが妥当だろうと、家臣達は思うようになっていった。
一方その話しは、木梨軽皇子自身の耳にも入ってきていた。
彼も実の妹と恋が周りに知られてしまった時点で、どんな待遇に合うかそれなりの覚悟はしていた。
だが自分から家臣達の心が離れ、そして弟の穴穂皇子は、今の現状をどう思っているのだろうか。木梨軽皇子は日々そんな不安にかられていた。
「くそ、父上がこれ程早く亡くなるとは考えていなかった……そして恐らく、今は早急に次の大王を立てようと動いているはずだ。
だが今の現状で、自分を大王に推す者はまずいないだろう」
木梨軽皇子は妹との恋が発覚して以降、政り事に関わる事を止められている。いわば謹慎中の身だ。
「このままでは、穴穂が家臣達に推されて、自分を廃太子にするために動くかもしれない」
木梨軽皇子は、ここ最近ずっと謹慎中だったためか、そんな事を考えるようになっていた。この時代、兄弟間での皇位争いもそう珍しくはない。
「穴穂も、本心では大王につきたいと思ってるのではないか。ならば、こちらから動くしかない……」
木梨軽皇子はそう思いたつと、彼の腹心である物部の小前宿禰を頼って、彼の元に行く事にした。
小前の住居は、皇子が馬を走らせて1時間程の所にある。
小前も突然木梨軽皇子がやって来たので、最初は非常に驚いた様子だった。だが彼の今の心境を察し、ひとまず彼を自身の家に招き入れる事にした。
そして木梨軽皇子は小前の元に身を寄せてから、急に兵と武器を集めだした。どうやら穴穂皇子と戦うつもりのようだ。
それに、物部は元々鉄器と兵器の製造・管理を主に管掌を行なっている一族でもある。
(ここまで来てしまったからには、さすがにもう引き返しは出来ない……)
木梨軽皇子が小前宿禰の元に身を寄せ、兵と武器を集めている話しは、直ぐさま穴穂皇子の元にも届く事となった。
「何だって!木梨軽の兄上が兵と武器を集めてるだと!!」
穴穂皇子は衝撃の余り、手に持っていた酒を、入れ物ごと床にめがけて叩きつけた。
そして彼はその場で激しい怒りを顕にした。
兄の木梨軽皇子の行動は、皇太子としては許されるはずもなく、あるまじき行為である。
そんな兄の木梨軽皇子に対して、彼は不適にうすら笑いを見せた。
「兄上がその気なら、こちらも容赦はしない。直ぐに武器と兵を集めて、小前宿禰の元に向かってやる……」
さらにこの話だと、物部の小前も今回の挙兵に加担している事になる。
それに木梨軽皇子が物部にいるとなると、武器も集めやすいだろう。
(くそ、小前め、お前も裏切るつもりか……)
穴穂皇子は直ぐさま、家臣達を自身の元に呼び寄せて、今回の経緯を説明した。
それを聞いた彼らも、木梨軽皇子の挙兵の話しは既に聞いていたようで、直ぐに納得した。
「いいか、木梨軽の兄上は絶対に逃さずに捕まえろ! ただし無抵抗な人間はむやみに殺す必要はない」
それから穴穂皇子は、急いで武器と兵を集める事にした。
その際に、木梨軽皇子が作った矢は内部を銅にして作り、その矢を『軽矢』と呼んだ。
また穴穂皇子の方でも矢の武器を作った。こちらは後の世と同じように、鉄の矢じりのついた矢で、矢の名を『穴穂矢』と呼んだ。
こうして穴穂皇子は、武器が集まると軍勢を起こし、小前宿禰の元へと向かった。
穴穂皇子は小前の屋敷の前に来ると、彼の家を包囲した。そして彼が小前宿禰の家の門前に立つと、急に激しい氷雨が降ってきた。
すると小前は慌てて門に出てきて、穴穂皇子を出迎える。
すると穴穂皇子は、彼に対して歌を詠んだ。
「大前(おおまえ )小前宿禰(おまえすくね)が 金門陰(かなとかげ) かく立ち寄りね 雨立ち止めむ」
(大前 小前宿禰の家の 金門の陰に このように立ち寄りなさい 雨が止むまで待つとしよう)
すると小前宿禰は、彼に返歌をして申し上げた。
「宮人の 足結の小鈴 落ちにきと 宮人とよむ 里人もゆめ」
(宮廷にお仕えする人の 足結についた小鈴が落ちて 人々がさわぎ立っている 里の人達もさわぎ立てないこと)
大前はさらに続けて穴穂皇子に言った。
「穴穂皇子、どうか同母兄に対して兵をお差し向けになるのはお止め下さい。
もし兵をお遣わしになれば、かならず世間から笑われてしまいます。私が木梨軽皇子を捕えて、皇子にお引き渡しましょう」
(小前が、木梨軽の兄上を引き渡してくれるなら構わないだろう……俺も無理して戦いたい訳ではない)
それを聞いた穴穂皇子は、部下に指示を出して、兵の囲みを解く事にした。
「分かった、小前。お前の言う通りにする」
そして彼の兵は、後方に退いた。
本来なら皇太子の木梨軽皇子が即位する筈である。だが彼は同母の妹である軽大娘皇女と恋に落ちてしまい、そんな彼から皆心が離れ出している。
そして変わりに、第3皇子である穴穂皇子に心を寄せるようになる。
そのため、皇太子の木梨軽皇子ではなく、彼の弟の穴穂皇子を次の大王に立てるべきではと言う意見が徐々に増えていった。
また雄朝津間大王が体調を崩していた当時も、彼は大王の代理として動く事が多かった。それもあって彼の評価は一気に上がっていく。
無論、同じ皇子である大泊瀬皇子もそれなりの評価は受けていた。
だが彼はまだ若く、性格に傲慢さが少しかいまみられていた。
なので穴穂皇子を次の大王に推すのが妥当だろうと、家臣達は思うようになっていった。
一方その話しは、木梨軽皇子自身の耳にも入ってきていた。
彼も実の妹と恋が周りに知られてしまった時点で、どんな待遇に合うかそれなりの覚悟はしていた。
だが自分から家臣達の心が離れ、そして弟の穴穂皇子は、今の現状をどう思っているのだろうか。木梨軽皇子は日々そんな不安にかられていた。
「くそ、父上がこれ程早く亡くなるとは考えていなかった……そして恐らく、今は早急に次の大王を立てようと動いているはずだ。
だが今の現状で、自分を大王に推す者はまずいないだろう」
木梨軽皇子は妹との恋が発覚して以降、政り事に関わる事を止められている。いわば謹慎中の身だ。
「このままでは、穴穂が家臣達に推されて、自分を廃太子にするために動くかもしれない」
木梨軽皇子は、ここ最近ずっと謹慎中だったためか、そんな事を考えるようになっていた。この時代、兄弟間での皇位争いもそう珍しくはない。
「穴穂も、本心では大王につきたいと思ってるのではないか。ならば、こちらから動くしかない……」
木梨軽皇子はそう思いたつと、彼の腹心である物部の小前宿禰を頼って、彼の元に行く事にした。
小前の住居は、皇子が馬を走らせて1時間程の所にある。
小前も突然木梨軽皇子がやって来たので、最初は非常に驚いた様子だった。だが彼の今の心境を察し、ひとまず彼を自身の家に招き入れる事にした。
そして木梨軽皇子は小前の元に身を寄せてから、急に兵と武器を集めだした。どうやら穴穂皇子と戦うつもりのようだ。
それに、物部は元々鉄器と兵器の製造・管理を主に管掌を行なっている一族でもある。
(ここまで来てしまったからには、さすがにもう引き返しは出来ない……)
木梨軽皇子が小前宿禰の元に身を寄せ、兵と武器を集めている話しは、直ぐさま穴穂皇子の元にも届く事となった。
「何だって!木梨軽の兄上が兵と武器を集めてるだと!!」
穴穂皇子は衝撃の余り、手に持っていた酒を、入れ物ごと床にめがけて叩きつけた。
そして彼はその場で激しい怒りを顕にした。
兄の木梨軽皇子の行動は、皇太子としては許されるはずもなく、あるまじき行為である。
そんな兄の木梨軽皇子に対して、彼は不適にうすら笑いを見せた。
「兄上がその気なら、こちらも容赦はしない。直ぐに武器と兵を集めて、小前宿禰の元に向かってやる……」
さらにこの話だと、物部の小前も今回の挙兵に加担している事になる。
それに木梨軽皇子が物部にいるとなると、武器も集めやすいだろう。
(くそ、小前め、お前も裏切るつもりか……)
穴穂皇子は直ぐさま、家臣達を自身の元に呼び寄せて、今回の経緯を説明した。
それを聞いた彼らも、木梨軽皇子の挙兵の話しは既に聞いていたようで、直ぐに納得した。
「いいか、木梨軽の兄上は絶対に逃さずに捕まえろ! ただし無抵抗な人間はむやみに殺す必要はない」
それから穴穂皇子は、急いで武器と兵を集める事にした。
その際に、木梨軽皇子が作った矢は内部を銅にして作り、その矢を『軽矢』と呼んだ。
また穴穂皇子の方でも矢の武器を作った。こちらは後の世と同じように、鉄の矢じりのついた矢で、矢の名を『穴穂矢』と呼んだ。
こうして穴穂皇子は、武器が集まると軍勢を起こし、小前宿禰の元へと向かった。
穴穂皇子は小前の屋敷の前に来ると、彼の家を包囲した。そして彼が小前宿禰の家の門前に立つと、急に激しい氷雨が降ってきた。
すると小前は慌てて門に出てきて、穴穂皇子を出迎える。
すると穴穂皇子は、彼に対して歌を詠んだ。
「大前(おおまえ )小前宿禰(おまえすくね)が 金門陰(かなとかげ) かく立ち寄りね 雨立ち止めむ」
(大前 小前宿禰の家の 金門の陰に このように立ち寄りなさい 雨が止むまで待つとしよう)
すると小前宿禰は、彼に返歌をして申し上げた。
「宮人の 足結の小鈴 落ちにきと 宮人とよむ 里人もゆめ」
(宮廷にお仕えする人の 足結についた小鈴が落ちて 人々がさわぎ立っている 里の人達もさわぎ立てないこと)
大前はさらに続けて穴穂皇子に言った。
「穴穂皇子、どうか同母兄に対して兵をお差し向けになるのはお止め下さい。
もし兵をお遣わしになれば、かならず世間から笑われてしまいます。私が木梨軽皇子を捕えて、皇子にお引き渡しましょう」
(小前が、木梨軽の兄上を引き渡してくれるなら構わないだろう……俺も無理して戦いたい訳ではない)
それを聞いた穴穂皇子は、部下に指示を出して、兵の囲みを解く事にした。
「分かった、小前。お前の言う通りにする」
そして彼の兵は、後方に退いた。
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