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御食子はそういってにっこりと笑って見せる。
だがもう少しで日が落ちそうな時間に、こんな年頃の青年がここいるのは、はっきり言って不自然である。
それでも今は犯人を追うのが先決だ。早く行かないと犯人に逃げられてしまいかねない。椋毘登はそんな焦りを感じながら彼にいった。
「君と稚沙がどこで知り合ったのかはこの際さておき、今は急いでいるんだ。悪いが先を行かせて頂く」
「あ、ちょっとまって下さい。実は今回のこの事件に加担していのは、中臣の者達の仕業なんです」
「な、なんだって、まさか中臣氏がそんなことを?それは一体どういうことだ!!」
椋毘登は思わず驚愕するも、すぐさま御食子にくってかかり、彼に事の理由を問いただそうとする。
元々中臣氏は今回の事件に対して占っていたはずだ。まさかそんな彼らが事件を引き起こしていたというのか。
「あなたもご存知のはずです。今の中臣がどういう立場に追いやられたかを」
「あぁ、それは知っているさ。中臣はかつて物部と一緒になって、仏教を受け入れるのに酷く抵抗した一族だ」
「そうです。ただそれも昔の話で、大方の人達は今の現状を潔く受け入れています」
「ふん、だが一族の中には、今だに納得がいっていない者達がいると?」
「はい、その通りです」
御食子は同族の事ながら、何とも他人事のようにしてあっさりと答える。
これが事実なら中臣氏にとっては大問題になりかねないはずなのに。それともこの一族は元々縁が希薄なのだろうか。
一方、自身の一族への思いが強い椋毘登からしてみれば、彼のそんなぞんざいな態度に苛立ちをおぼえる。
そんな彼は稚沙からしてみれば、思わず刀を抜いて今にも相手に斬りかかりに行きそうな気迫だった。
「ち、ちょっと椋毘登落ち着いて!今はここで対立なんかやってる場合じゃないでしょう!!」
「くそ、確かに稚沙のいうとおりだ。御食子殿、同じ中臣のあなたがこの話を教えてくれたことには感謝する。このお礼はまた別の機会に」
椋毘登はそういうと、再び稚沙を連れてそのまま犯人たちが向かっている金堂へと走り出した。例え相手がどんな一族であれ、今回の事件は絶対に喰い止めなければならない。
一方、先ほどの場に1人残された御食子は、そんな彼らの後ろ姿を見送りながら、やれやれといった感じで一言ぼそっと呟いた。
「あの女の子が一緒にいたのが、まさか蘇我の人間だったなんて。はぁー何とも皮肉だな」
だがもう少しで日が落ちそうな時間に、こんな年頃の青年がここいるのは、はっきり言って不自然である。
それでも今は犯人を追うのが先決だ。早く行かないと犯人に逃げられてしまいかねない。椋毘登はそんな焦りを感じながら彼にいった。
「君と稚沙がどこで知り合ったのかはこの際さておき、今は急いでいるんだ。悪いが先を行かせて頂く」
「あ、ちょっとまって下さい。実は今回のこの事件に加担していのは、中臣の者達の仕業なんです」
「な、なんだって、まさか中臣氏がそんなことを?それは一体どういうことだ!!」
椋毘登は思わず驚愕するも、すぐさま御食子にくってかかり、彼に事の理由を問いただそうとする。
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「あぁ、それは知っているさ。中臣はかつて物部と一緒になって、仏教を受け入れるのに酷く抵抗した一族だ」
「そうです。ただそれも昔の話で、大方の人達は今の現状を潔く受け入れています」
「ふん、だが一族の中には、今だに納得がいっていない者達がいると?」
「はい、その通りです」
御食子は同族の事ながら、何とも他人事のようにしてあっさりと答える。
これが事実なら中臣氏にとっては大問題になりかねないはずなのに。それともこの一族は元々縁が希薄なのだろうか。
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そんな彼は稚沙からしてみれば、思わず刀を抜いて今にも相手に斬りかかりに行きそうな気迫だった。
「ち、ちょっと椋毘登落ち着いて!今はここで対立なんかやってる場合じゃないでしょう!!」
「くそ、確かに稚沙のいうとおりだ。御食子殿、同じ中臣のあなたがこの話を教えてくれたことには感謝する。このお礼はまた別の機会に」
椋毘登はそういうと、再び稚沙を連れてそのまま犯人たちが向かっている金堂へと走り出した。例え相手がどんな一族であれ、今回の事件は絶対に喰い止めなければならない。
一方、先ほどの場に1人残された御食子は、そんな彼らの後ろ姿を見送りながら、やれやれといった感じで一言ぼそっと呟いた。
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