夢幻の飛鳥~いにしえの記憶~

藍原 由麗

文字の大きさ
44 / 105

44

しおりを挟む
古麻こま、心配かけてごめんね」

  稚沙ちさは少し申し訳なさそうにして、彼女にそう答える。今回は理由が理由なだけに、中々思いの内を話す訳にはいかなかった。

「まぁ、気にしないで。誰だって人にいいにくいこともあるわ。
  もし何か困ったり、話したくなった時はいつでもいってね。私ちゃんと聞くから!」

  古麻は稚沙に笑ってそう答えた。彼女自身も前回の恋人との別れから、だいぶ吹っ切れたようである。

「ありがとう、古麻。本当に話したいことが出来たらお願いする」

「えぇ、是非そうしてちょうだい。じゃあ私は仕事に戻るわね」

  そういって彼女は、稚沙のもとを離れていった。

(いつか、古麻ともこういった色恋事の話が出来るようになりたい……)

  稚沙が男性を好きになったのは、今回が初めてである。

  実家にいた頃も、年の近い男の子達もいるにはいたが、10歳を越えたばかりの彼女には、まだ恋と呼べるような感情を抱くまでには至らなかった。

「とりあえず今は、まず目先の仕事を早く終わらせないと。そうしないと厩戸皇子に合わせる顔がないもの!」

  その後彼女は、頑張って気持ちを切り替え、仕事に取りかかることにした。

  日頃は仕事で失敗も多い彼女だが、いざとなると、凄い勢いで仕事をこなしていく。
  彼女もやる時はやるようだ。

  彼女が忙しく仕事をしていると、何やら誰かの話し声が聞こえてきた。

「なぁ、聞いたか?今日遠方に出ていた厩戸皇子うまやどのみこが、急遽に斑鳩宮いかるがのみやに戻られたそうだ」

「何、そうなのか。まだ斑鳩宮は出来たばかりなのに、何もなければ良いが」

(え、厩戸皇子が斑鳩宮に?)

  稚沙は少し動揺した。厩戸皇子は今日出先から、小墾田宮に直接くると聞いている。斑鳩宮で何かあったのだろうか。

「あ、すみません。斑鳩宮で何かあったんですか?」

  稚沙は話をしていた男性2人に思わず声をかけた。

「いや、詳しいことは聞いてないね。出先で急に斑鳩宮に向かったので、何か急用でも出来たんじゃないかな?」

「そうですか……分かりました。ありがとうございます」

  稚沙はそれを聞いて、その男性達に対して軽く頭を下げてお礼をいった。

(ここ小墾田宮には、何も連絡は来てないし、先程の男の人がいっていたように、何か用事が出来たのかもしれない)

  稚沙も少し不安であるが、とりあえず今は厩戸皇子を信じて待つ外ない。

  こうして彼女は、皇子との待ち合わせまで、仕事に打ち込むことにした。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

因果の糸、断ち切り申す

クリヤ
歴史・時代
お江戸の町に、一匹の妖かしを連れた男がフラリと現れる。 大きな不幸に嘆き悲しむ人の前に。大きな不幸に見舞われた家の前に。 その優男は、フラリと現れる。 『その因果の糸、俺ァ、断ち切れるが、どうしやす?』 男の言葉に頷けば、悲しみを引き起こす因果の糸は断ち切られる。 どこまでも過去を遡って。 ただし……。 因果の糸に絡まっているのは、不幸だけじゃあない。 幸せだった思い出も、一緒に断ち切られることになる。 男に出会った人が選ぶ運命の選択は? 男が糸を断ち切って歩く目的とは? 男が連れている妖かしにも、何やら事情がありそうで……。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

処理中です...