夢幻の飛鳥~いにしえの記憶~

藍原 由麗

文字の大きさ
104 / 105

104

しおりを挟む
  すると稚沙ちさ椋毘登くらひとを見ながら、少し照れくさそうにしながら話し出した。

妹子いもこ殿がいうに、私と厩戸皇子うまやどのみこはきっと一緒になる縁ではなかったのだろうといわれたの。きっと、私の相手は別にいるって」

「へぇ、妹子殿がそんなことを?確かに人と人との間には縁はあるんだろうけど」

  椋毘登も何とも意外な話しだなと思った。

「前世に縁で結ばれていた人同士は、今世でも廻り合い、また出会うんですって。
私達には前世の記憶はないけど、魂には記憶がちゃんと刻まれている。だから私の運命の人は別に必ずいるって!」

  稚沙はそういって、椋毘登の顔を真っ直ぐ見つめた。

  小野妹子おののいもこの話が本当なら、自分と椋毘登も前世で知り合っていたのではないのだろうか。

「ふーん、その話からいくと、俺達も前世で出会っていたということになるのか?」

  椋毘登はそういうと、稚沙の頬に優しく手を添えた。

「うん、そうだったら良いなと思ったの。魂に刻まれた記憶を辿って、またあなたと巡り会えたって……」

  稚沙は満面の笑みを見せて、彼にそういった。

「確かに、そうかもしれないな」

  そういって椋毘登は、稚沙に優しく口付けた。

(もしかすると、昔にもこんな風に君と……)

(きっと、私たちも前世では……)


  それから椋毘登は、彼女から唇を話して続けていった。

「確かに以前の記憶はないし、それがどんないにしえの時代なのかも分からない。でもそれでもきっと、俺は稚沙を探していたと思う」

  それから2人して、クスクスと笑った。

「でもそれなら私達、前世はどんな立場で出会っていたのかしら?
椋毘登ならそうね……意外に皇子だったりして?」

「はぁ!?皇子だって。それは勘弁だね。大和の皇子だなんて絶対に嫌だ。何か厩戸皇子みたいで……」

  椋毘登は思わずムスッとした。

(椋毘登ったら、厩戸皇子にも嫉妬していたの?)

「でも椋毘登が皇子なら、私は皇女かしら?」

  稚沙はふとそんな自分を想像してみた。それはそれで面白そうだ。

「まぁ、お前は炊屋姫に憧れてたよな?というか、この話しはもう終わりにしよう」

  そういって椋毘登はその場で立ち上がった。そして彼女に手を差し出してくる。

「じゃあ、そろそろ戻ろう。余り長居すると、宮の人達が心配するぞ?」

  稚沙もそれを聞いて、それもそうだなと思った。

「うん、分かった」

  彼女はそういうと、彼の手につかまった。

  そして彼の手に支えられて立ち上がり、そのまま馬を置いてる場所まで向かう。

  それから2人は馬に乗ると、すぐさま走り出して、そのまま小墾田へと戻っていった。


  その道中に稚沙はふと和歌を読んだ。


秋深し、想いもつのり、愛しきみ、
心思えば、まこと嬉しき

 (秋が深まるように、愛しい人への想いが深くなる。そう思えることが、本当に嬉しい)



  こうしてここ飛鳥の時代に、稚沙と椋毘登は偶然にも出会うことになった。

  小野妹子の話すように、互いの運命と記憶を巡り、2人はふたたび同じ時代に生まれたのだろうか。

  だがその真相は、今の2人には分からないままである。







(また、同じ時代に私達は生まれ変わる。


ねえ皇子、そうでしょう?


だから、また私を見つけてね。


何度生まれ変わっても、私達はきっと出会うはずだから……)





                  END




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

因果の糸、断ち切り申す

クリヤ
歴史・時代
お江戸の町に、一匹の妖かしを連れた男がフラリと現れる。 大きな不幸に嘆き悲しむ人の前に。大きな不幸に見舞われた家の前に。 その優男は、フラリと現れる。 『その因果の糸、俺ァ、断ち切れるが、どうしやす?』 男の言葉に頷けば、悲しみを引き起こす因果の糸は断ち切られる。 どこまでも過去を遡って。 ただし……。 因果の糸に絡まっているのは、不幸だけじゃあない。 幸せだった思い出も、一緒に断ち切られることになる。 男に出会った人が選ぶ運命の選択は? 男が糸を断ち切って歩く目的とは? 男が連れている妖かしにも、何やら事情がありそうで……。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...