大和の風を感じて2〜花の舞姫〜【大和3部作シリーズ第2弾】

藍原 由麗

文字の大きさ
1 / 68

1P《序章 新たな大王の誕生》

しおりを挟む
  佐由良さゆら瑞歯別皇子みずはわけのおうじが最初に出会った丘の上での再会から、6年が経過していた。

  佐由良は瑞歯別皇子の妃となり、2人の間には1人の姫が生まれていた。
  その姫は阿佐津姫あさつひめと名付けられ、今年で4歳になる。

「見て、お父さま。あそこに鳥が止まってるわ」

「あぁ、そうだな。もうすぐ春だから、きっとまた沢山見られるさ」

  父親である瑞歯別皇子は、娘を抱き上げたまま、一緒にその鳥を眺めていた。

「阿佐津姫、お父様はこれから大王の所に行かないといけないから、それぐらいにしなさい」

  彼女の母親の佐由良が横から声を掛けた。

「お父さま、もう行っちゃうの?」

  阿佐津姫はシュンとした。

「あぁ、悪いな。どうも大王の体調が優れないらしく、稚田彦わかたひことちょっと行ってくるよ」

  先日大王の家臣達から、瑞歯別皇子の元に連絡が来ていた。
  最近何かの病にでもかかっているのか、大王は酷い頭痛と体の怠さが消えず、部屋の中で寝ている事が多いとの事だった。


  皇子はそんな娘の頭を撫でてやってから、そのまま佐由良に渡した。

「さぁ、阿佐津姫。お母さまと一緒に待ってましょう」

  それを聞いた阿佐津姫「はーい」と答えた。

  そんな親子水入らずで話している丁度その時、その場に稚田彦がやって来た。

「瑞歯別皇子、お待たせして申し訳ありません」

「あぁ、稚田彦。来たか」

  彼はそばに来るなり、皇子の横にいた佐由良と阿佐津姫にも挨拶をした。

「佐由良様、阿佐津姫、どうもご無沙汰してます」

「稚田彦もお元気そうね」

  佐由良が彼ににっこりと言った。

  ただ彼女の腕の中にいる阿佐津姫はキョトンとしていた。

  それから稚田彦は、皇子達親子をとても興味深く見てから言った。

「それにしても、阿佐津姫もすっかり皇子に懐かれましたね。姫が産まれた時なんか、皇子が抱く度に大泣きでしたから」

「本当そうだったわ。それに引き換え、伊莒弗いこふつのお父様が抱くととても喜んでいたのよね」

  そう言うと佐由良はクスクスと笑いだした。

「おい、佐由良。もうその話しはよせ」

  瑞歯別皇子は、当時娘に余りに嫌がられていたので、非常に気にしていた。




  その時だった。
  別の家臣の者が、大慌てで彼の元にやって来た。

「瑞歯別皇子ー!!」

「うん、一体慌ててどうした」

  家臣の男は「ぜーはーぜーはー」と呼吸を整えてから言った。

「たった今大王の従者の者から連絡が入りました。
  今日の朝方から大王の体調が急に悪化し、その後大王が崩御されました」

「何だって大王が!お前、それは本当か!!」

  瑞歯別皇子は余り事に一瞬で顔を青ざめた。
そして彼はその家臣に詰め寄り、家臣を揺さぶった。

(そ、そんな事があるはずない。大王……兄上がまさか!!)

  家臣もそんな状態の瑞歯別皇子を見て、涙が出そうなの必死で堪えて言った。

「ほ、本当でございます」

  それを一緒に聞いた、佐由良や稚田彦も言葉を失った。

「な、何で大王が……」

  瑞歯別皇子は俯いて手を強く握りしめた。
  そして、彼の目からは一筋の涙が落ちた。

「皇子……」

  佐由良は皇子の肩にそっと手を当てた。

「佐由良、済まない。予定よりも帰りが遅くなるかもしれん」

「はい、分かってます。阿佐津姫とここで待ってます」


  その後瑞歯別皇子は、稚田彦と他数名を引き連れて大王の宮へと向かった。




  こうして即位から6年目にして、去来穂別大王いざほわけのおおきみは崩御した。

  それから暫くして葬儀も行われ、皆大王の崩御をとても悲しんだ。

  だがいつまでも悲しみに浸っている訳にはいかない。
  次の新たな大王を決めないといけないからだ。

  現状では、大王の皇子の市辺皇子いちのへのおうじはまだ6歳になったばかりである。
  2年前に、皇子の母親である黒媛くろひめも既に他界している。

  そんな幼い皇子を大王にするのは無理があった。


  そこで臣下達は考えて、弟の瑞歯別皇子を次の新たな大王にする事を決めた。

  彼の唯一の妃である、皇女ではない佐由良を皇后にするかどうかは意見が分かれた。
  そこで佐由良に関しては、一旦妃のままでいる事で話しがまとまった。


「瑞歯別皇子いえ、瑞歯別大王みずはわけのおおきみ。この度はご決断頂き、真にありがとうございます」

  臣下達は皆彼に頭を下げた。

(今のこの現状では、自分が大王になる他ない)

  彼は何の抵抗もなくこの事実を受け入れた。




(出来れば、佐由良や阿佐津姫とこのまま静かに過ごしたかった。だがあの2人を守る為なら、俺は何だってやってみせる)


  こうしてこの大和王権に、新たな大王が誕生した。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

(学園 + アイドル ÷ 未成年)× オッサン ≠ いちゃらぶ生活

まみ夜
キャラ文芸
年の差ラブコメ X 学園モノ X オッサン頭脳 様々な分野の専門家、様々な年齢を集め、それぞれ一芸をもっている学生が講師も務めて教え合う教育特区の学園へ出向した五十歳オッサンが、十七歳現役アイドルと同級生に。 子役出身の女優、芸能事務所社長、元セクシー女優なども登場し、学園の日常はハーレム展開? 第二巻は、ホラー風味です。 【ご注意ください】 ※物語のキーワードとして、摂食障害が出てきます ※ヒロインの少女には、ストーカー気質があります ※主人公はいい年してるくせに、ぐちぐち悩みます 第二巻「夏は、夜」の改定版が完結いたしました。 この後、第三巻へ続くかはわかりませんが、万が一開始したときのために、「お気に入り」登録すると忘れたころに始まって、通知が意外とウザいと思われます。 表紙イラストはAI作成です。 (セミロング女性アイドルが彼氏の腕を抱く 茶色ブレザー制服 アニメ) 題名が「(同級生+アイドル÷未成年)×オッサン≠いちゃらぶ」から変更されております

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...