大和の風を感じて2〜花の舞姫〜【大和3部作シリーズ第2弾】

藍原 由麗

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2P《忍坂姫の嫁ぎ先》

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  新たに即位した瑞歯別大王みずはわけのおおきみは、即位と同時に丹比柴籬宮たじひのしばかきのみやを新たな宮としてかまえた。

  そして、そこには妃の佐由良さゆらや娘の阿佐津姫あさつひめも一緒に住まわせる事にした。

  また彼の補佐は稚田彦わかたひこが付き、内部的な事は佐由良の父親である物部伊莒弗もののべのいこふつが先の大王から継続して行う事になった。


  こうして新たな大和王権の体制が、着実に整えられていった。




  そんな矢先の事である。
  ある一人の男が何やら酷く何か考え事をしていた。
  彼は今の大王の父親である、大雀大王おおさざきのおおきみの弟の稚野毛皇子わかぬけのおうじだった。

「皇子、何をそんなにため息なんかつかれて」

  そんな彼を横で呆れながら見ていたのは、彼の妃の百師木姫ももしきのひめだ。

  彼女は豪族息長おきながの娘で、皇族の皇子である稚野毛皇子の元に嫁いで来た。

「いやな、娘の忍坂姫おしさかのひめの事だが」

「え、忍坂姫ですか?」

  忍坂姫とは、稚野毛皇子と百師木姫の間に生まれた第一皇女で、今年で15歳になっていた。

  だが皇女とは言っても、両親からは割りと自由に育てられてきた娘である。
  そしてとても控えめで大人しい妹の衣通姫そとおりひめと違い、彼女は意志が強く、少々お転婆な所があった。

「あぁ、そろそろあいつの嫁ぎ先を決めなければと思ってな」

  どうも稚野毛皇子は、娘の将来を考えて最近色々と候補を考えているようだった。

「そうですね。ただあの子は大人し目な衣通姫と違って、何分ちょっとお転婆ですから」

  百師木姫も、忍坂姫のそんな性格を少し気にしてた。

「忍坂姫は一応皇女だから、今の大王の后にとも一瞬は考えた。あの子なら皇后にもなれるからな。だが大王は今の妃をとても寵愛してるから、そこに忍坂姫を入れてもな……」

  大王の正妃でる后や皇后になれるのは、葛城の磐之媛を例外として、原則皇女のみである。他の豪族の姫は妃の扱いだ。
  また大王以外の皇子の妻も妃と呼んでいる。

「まぁ、あの子の性格を考えたら、今の大王の后なんて務まるはずがありません」

  瑞歯別大王は今の妃をとても大事にしており、過去にも他の妃入りの話しはあったが、大王は全て断っていた。

  そこに自分達の娘を嫁がせようものなら、逆に大王の逆鱗に触れてしまいかねない。

「だから、一瞬考えただけだ。そうなると他のどこかの豪族の皇子にでも嫁がせるか……」

「ちなみに、皇子。息長は無理ですよ。既に忍坂姫の性格等は知られているので、年頃の青年達は遠慮しますわ」

  息長にも姫の歳の合う青年もいるにはいるが、妹の衣通姫ならともかく、忍坂姫は皆避けたがっているようだ。

「うーん。まぁ、意志が強くそれなりにしっかりはしてるから、正直勿体ない気はしている。それなりに身分のある者でも、あの子ならしっかり支えられるはずだ」


「うーん、そうですね。あの子には誰が良いのかしら」

  百師木姫も夫と一緒になって考え出した。

和珥わに葛城かつらぎ蘇我そが物部もののべ……私も他の豪族は余り知らないので」

  百師木姫自身、息長で大事に育てられてきた姫で、彼女は他の豪族との交流は無いに等しい。

「そう言えば、葛城から皇族に嫁がれた磐之媛いわのひめは、確か皇子を4人産んでましたよね。確かもう1人皇子がいたはず」

「うん、磐之媛?そうか、その手があったか!」

  稚野毛皇子は思い出した、磐之媛が産んだ末の皇子の事を。

  今の瑞歯別大王の弟に当たる雄朝津間皇子おあさづまのおうじがいたのだ。

「私の計算では、雄朝津間皇子は今年18歳になられてるはずだ。だが妃を娶ったと言う話しは聞いていない。
  今の大王は皇子の頃から政り事に携わっていたが、雄朝津間皇子は表向きには政り事に余り携わってないから、すっかり忘れていた」

「そうですわね。忍坂姫とは従兄弟同士でも、2人は幼少期の頃しか会わせてなかったので、逆に新鮮かもしれません」

  百師木姫も雄朝津間皇子が相手というのは、身分的にも釣り合っているので、娘の嫁ぎ先としては申し分ないと思った。

「よし、では早速瑞歯別大王にお伺いを立ててみるか」

  稚野毛皇子の中でも、雄朝津間皇子で考えがまとまった。
  となると、他の姫に先を越されないよう、急いで話しを持ち掛けたい。

「でも、皇子。まずは忍坂姫にも言わないと」

  百師木姫は今にも動き出しそうとする夫を止めて言った。

  この婚姻は娘の忍坂姫のものだ。彼女の意思も聞かずに進めるのは流石に母親として忍びない。

「ただこの話しをしても、あの子が素直に動じるだろうか?」

  この時代、族同士の政略結婚なんてものは、当たり前に行われていた。

  皇族の娘である忍坂姫も例外ではない。

「分かりました皇子。忍坂姫には私から言います。それで良いですね」

  妻である百師木姫にそう言われ、稚野毛皇子も渋々了承した。
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