大和の風を感じて2〜花の舞姫〜【大和3部作シリーズ第2弾】

藍原 由麗

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7P《見えない物を写す鏡》

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  忍坂姫おしさかのひめはその後、1ヶ月間もの間、雄朝津間皇子おあさづまのおうじの宮で過ごす事になった。
  彼女自身はてっきり数日間だけの滞在と思っていたが、話しがどんどん進んでいきその結果1ヶ月もの長期になってしまった。
  これは父親の稚野毛皇子わかぬけのおうじ瑞歯別大王みずはわけのおおきみの力の入れようが伺える。

「何で、こんな事になってしまったのかしら。別にすぐ近くだからわざわざ皇子の宮で過ごさなくても……」

  忍坂姫は元々、母親の百師木姫ももしきのひめの実家である息長で暮らしていた。それが数年前から母と妹の衣通姫そとおりひめと一緒に、父である稚野毛皇子の元で暮らすようになった。

  とりあえず1ヶ月の期間と言う事もあり、姫のいる宮の使用人の女達数名が、いそいそと出発の準備をしてくれていた。
  そして出発はいよいよ明日となった。


  そんな時だった、忍坂姫の母親である百師木姫が彼女の部屋へとやって来た。

「忍坂姫、ちょっと良いかしら」

  忍坂姫は何かの用事かと思い、立ち上がって母親の元に駆け寄った。

「お母様、どうかしたの?」

  忍坂姫がふと百師木姫を見ると、彼女の手には何か布に包まれた物が持たれていた。

「ちょっとこれをあなたに渡そうと思って持ってきたのよ」

  そう言って、百師木姫はそのまま布に包まれた状態で彼女に渡した。
  実際に持ってみると、少しだけ重さを感じる。

  忍坂姫は一体何だろうと、その場で中身を見てみる事にした。

  布を取ると中には鏡があった。大きさにすると彼女の手より一回りほどの大きさだ。
  見た目は少し古いが、特にそれ程珍しい感じには見えない。

「これは鏡のようだけど、これがどうかしたの?」

  忍坂姫は色々角度を変えて見たが、特別変わった感じはしなかった。

「これは私が実家から持ってきた鏡よ。忍坂姫、あなたも15歳になってそろそろ婚姻の時期に差し掛かったので、渡そうと思ってね」

「ふーん、そうなの……」

  忍坂姫は不思議そうにその鏡を見ていた。

「この鏡は不思議な話しがあって、見えない物を写す鏡と言われてるの。私が皇子の元に嫁ぐ時に母から受け取ったもので、いずれは忍坂姫に引き継ごうと思っていたのよ」

「つまりは花嫁道具って事?それに見えない物を写す鏡って一体どういう意味?」

  婚姻がまだちゃんと決まってもないのに、こんな物が渡されるとは思ってもみなかった。

「えぇ、私も花嫁道具として貰っていたのだけれど、余り布から出す事はなかったわ。だからその見えない物を写す鏡って言うのは実際は何なのか良く分からないのよ」

  つまりこの鏡は、単なるお飾りみたいな物と言う事だろう。確かに古い割には余り使われた形跡は見受けられない。


「お母様、分かりました。とりあえずこの鏡は受け取っておきます」

  そう言うと、忍坂姫はそのまま鏡を再度布に包んだ。折角の母からの贈り物だ、これは大事に持っておこう。

「じゃ明日が出発だから、今日はしっかりと休みなさい」

  百師木姫はそう娘に言って、彼女の部屋を後にした。

  たかが1ヶ月と言えども、初めて親元を離れる事になる。忍坂姫も全く不安が無いと言ったら嘘になる。しかも行き先がもしかしたら嫁ぎ先の相手になるかもしれない男の元だった。

「あ、そうだ。一応この鏡も磨いておこうかしら。かなり古い物で、お母様もずっと布に包んだままだったようだし」

  そう思った忍坂姫は、台の上に置いて中から鏡を取り出した。

「そんなに目立った汚れは無いわね。とりあえず、布で拭いておきますか」

  そして部屋の中にある布を取ってきて、鏡を拭こうとした丁度その時だった。

  鏡に自分とは違う人物が浮かんでるように見えた。

「へぇ?何これ!?」

  彼女は思わず鏡を手から離して、少し後ろに下がった。

  鏡には、少し暗くてはっきりとはしないが、男性が映ってるように見えた。しかも割りと若い青年のように思える。

(な、何で、知らない人が映ってるの……)

  彼女はすぐさま後ろを振り返ったが、そこには誰もおらず、部屋の中には忍坂姫しかいなかった。

  そして恐る恐る再度鏡を見てみると、鏡には元の自分の姿が映っていた。

「あれ、気のせい?」

  それでもしばらくその状態で様子を見ていた。しかしその後も特に何の変化もなかった。

「変ね、気のせいだったのかしら?」

  鏡にも特に異常は見られない。何か目の錯覚だったのだろうか。

「とりあえず、拭くだけ拭いて布に戻しておこう」

  それから忍坂姫はさっさと鏡を拭き、布で包んだ。もしかすると何か変な影でも入ってしまったのかもしれない。

「そう言えばさっき、お母様がこの鏡は見えない物を映す鏡って言ってたわね。まさかね……うん、きっと気のせいだわ」

(もしかしたら、さっきそんな話しを聞いたから、そんな物が目の錯覚で見えたと思っただけなのかも)


  こうして、忍坂姫は明日に備えて身の回りの荷物を再度確認し、明日に備えて今日は早く寝る事にした。
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