大和の風を感じて2〜花の舞姫〜【大和3部作シリーズ第2弾】

藍原 由麗

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20P《姫と皇子の心の葛藤》

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  忍坂姫おしさかのひめは皇子の宮に戻るなり、その鏡をジーと見ていた。

「やっぱり鏡に映っていたのは、本当の事だったのね。でもそれなら最初に見た時に映っていたのは一体誰だったんだろう?」

  彼女がそんな事を思っていると、いきなり「忍坂姫?」と言われて誰かが部屋の中に入って来た。

  彼女がふと振り向くと、そこには雄朝津間皇子おあさづまのおうじが立っていた。どうやら今回の七支刀しちしとうの剣の処理が終わって、宮に戻って来たようだ。

「あら、雄朝津間皇子だったんですね。急に入ってくるからびっくりしたじゃないですか」

  彼女にそう言われて、皇子は少しクスッと笑った。

「君がそれを俺に言うか。昨日の君なんてもっと酷かったじゃないか」

  それは昨日忍坂姫が、雄朝津間皇子の部屋に突然押しかけて来た件の事だろう。
  それを言われると、忍坂姫も中々言い返せなかった。

  そして部屋に入ってくるなり、皇子は忍坂姫の前に来て、その場に座った。

「とりあえず、七支刀の件の礼を言おうと思ってね。忍坂姫、本当に今回は助かったよ」

  雄朝津間皇子は真っ直ぐに彼女を見つめて言った。
  そんな彼に見つめられてどうして良いか分からず、彼女は少し下を向いた。

「いいえ、そんな事。私も物部伊莒弗もののべのいこふつの誤解が解けて本当に良かったと思います」

  そんな忍坂姫を見て、雄朝津間皇子はふと笑みをこぼした。

「とりあえず、これで君に貸しが出来てしまったよ」

  雄朝津間皇子はそう彼女に言った。

  忍坂姫が思うに、これは自分と言うよりも、この鏡のおかけだ。だがそんな事を話しても信じては貰えないだろう。

「べ、別に貸しなんて良いですよ。私がただ好きで動いただけなので」

  だが今回は忍坂姫の大胆な行動があったからこそ、剣も見つかり、物部伊莒弗の無実も無事証明する事が出来た。

  雄朝津間皇子がそう思った時だった、彼はふとある事を思い出した。

「そう言えば、自分の言う事を聞いてくれたら何でもするって言ってたっけ?」

  それを言われた忍坂姫は思わずビクッとした。あの時は本当に必死で、後先なんて全く考えていなかったのだ。

(あぁ、やっぱり皇子はその事は見逃してくれないのね)

  雄朝津間皇子は「どうしようかな~」とふと考え出した。

(雄朝津間皇子が自分に望んでいる事……やっぱり婚姻の解消かしら。でも大王からの指示もあるし、ここで取り止めには出来ないだろう)

  しばらくして、雄朝津間皇子は何かを閃いたようだ。

「昨日いきなり、俺の部屋に飛び込んで来た訳だし、その続きをやるってのはどうだ」

(はい!?)

  忍坂姫は雄朝津間皇子の言われた事の意味が、いまいち理解出来ない。

  そんな思考の忍坂姫をよそに、皇子はいきなり距離を近付けてきた。

  忍坂姫がハッと我に返ると、彼女の目の前には皇子の顔があった。

  そんな皇子の顔を見た瞬間、前に鏡に映っていた青年と、皇子の顔が被って見えた。

  あの鏡に映っていたのは、もしかすると雄朝津間皇子だったのだろうか。

  そんなふうに思った忍坂姫は、思わず雄朝津間皇子の顔を見つめた。

  そんな彼女を見て皇子は不思議に思った。

(うん?どうして何も抵抗してこないんだ)

  雄朝津間皇子は、思わずそんな忍坂姫の目に引き寄せられた。
  彼女はとても意思のある強い目をしている。

  すると、そんな彼女に引き寄せられるかのようにして、思わず彼女に口付けた。

  すると忍坂姫は「ハッ」と我に返った。

「い、嫌ー!!!」

  そう彼女は叫んで、皇子を思いっきり突き放した。

  雄朝津間皇子もまさかそこまで抵抗されるとは思ってなかったので、力が入らずそのまま後ろに簡単に飛ばされてしまった。


「い、痛いな」

  その結果、雄朝津間皇子は思いっきり床に頭をぶつけてしまった。

「お、皇子、一体何をなさるんですか!」

  忍坂姫は余りの事に、自分の体を抱きしめてから彼に言った。

「だって、俺が近付いても君が全然抵抗しそうになかったから。てっきり同意の元かと思ったんだよ」

  雄朝津間皇子は、ぶっきらぼうにそう言った。彼からしてもこんなに女性から拒否されたのは初めてだった。

「だからって、やって良い事ではないでしょう!」

  忍坂姫は思わず涙をにじませていた。
  彼女からすれば、男性との口付けなんて今までした事がなかった。

  雄朝津間皇子は頭を抱えながら彼女に言った。

「とりあえず、悪かったって。はぁ、君はお転婆というか、ちょっとじゃじゃ馬のようだね」

(な、何ですって……)

  それを聞いた忍坂姫はだんだんと怒りが込み上げてきた。

「それは、悪かったですね。こんな娘は皇子の好みにはさぞ合わないんでしょうね」

  そんな言い方をされた雄朝津間皇子は、呆れた感じで言った。

「そうだね。俺は君みたいな女の子じゃなくて、もっと控えめで従順な子が好きだな」

  一体何で自分はこんな娘に手を出してしまったんだろう。これでは大王の思うつぼである。

  そして雄朝津間皇子がふと忍坂姫を見ると、彼女は酷く傷付いたような表情をしていた。
  そして目からポロポロと涙を流し出した。

  それを見た彼は流石にまずいと思った。

「あぁ、ごめん。今のは俺もちょっと言い過ぎたよ」

  思わず雄朝津間皇子が忍坂姫に歩み寄ろうとしたら、忍坂姫は思わず皇子の手を払いのけた。

「もう、お願いですから、部屋から出て行って下さい」

  雄朝津間皇子は彼女にそう言われて、何だか頭を殴られたような感覚になった。

「おい、ちょっと待てって!」

  それでも忍坂姫は皇子を拒みたいらしく、大きな声で叫んだ。

「もう、あなたなんか嫌いです!!出て行って!!!」

  そこまで言われてしまうと、雄朝津間皇子は何も反論が出来ず「分かったよ」と言って立ち上がり、そのまま部屋を出ていった。

  雄朝津間皇子が部屋から居なくなると、忍坂姫はその場でワンワンと泣き出した。

  皇子からしたら、自分はその辺の村の娘以下なのかも知れない。

(やっぱり、こんな婚姻は初めから無理だったんだわ)

  それから彼女は涙が枯れるぐらいまで泣き続けた。




  その頃、雄朝津間皇子は彼女の部屋からだいぶ離れた所まで来て立ち止まった。

  そして思いっきり壁を叩いた。

「くそ、何でこうなるんだよ!」

  彼は、こんなに1人の女性に対して訳のわからない感情を抱いたのは始めての事だった。何とも悲しいやら悔しいやら、酷く心が痛いと思った。

  そして、そのまま彼は自分の部屋へと戻って行った。
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