大和の風を感じて2〜花の舞姫〜【大和3部作シリーズ第2弾】

藍原 由麗

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35P《鏡に映った男女》

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「じゃあ、俺はそろそろ自分の部屋へ戻るよ」

  朝の食事を終えた雄朝津間皇子おあさづまのおうじは、そう言って、忍坂姫の部屋を出て自分の部屋へと戻って言った。

  忍坂姫おしさかのひめはそんな彼を部屋の入り口から見送り、その後部屋の中に戻った。

(とりあえず、何事も無くて安心したわ)

  忍坂姫自身、まさか雄朝津間皇子がここまで変わるとは思ってもみなかった。
  まるで彼が、自分に嫌われないように気を遣っているふうに見える。

(まぁ、私が日頃言っていた嫌みを、単に気にしていただけかもしれないけど)

  それでも皇子自身が変わってきているのは良い兆しである。
  瑞歯別大王みずはわけのおおきみも今回の事を知ったら、きっと喜ばれるだろう。


「それにしても、あの千佐名ちさなって子の件は、何か良い方法はないものかしら」

  忍坂姫はどうしたものかと再び考え込んだ。しかしこれといって良い考えは中々浮かんでこない。

  すると、ふと台の上に置いてある鏡に目がとまった。前回の七支刀しちしとうの件以降、鏡は袋から出したままにしていた。

(もしかしたら、今回も何か見えるかも?)

  彼女はそう思い、鏡の前に来て座った。
  だが鏡には特に何も映ってはいなかった。

「お願い、千佐名と言う娘を助けたいの。どうしたら良いのか教えてちょうだい」

  そして暫くすると、また鏡に奇妙な光景が映り出した。

  忍坂姫は思わず鏡に釘付けになって、その光景を見た。

(これはどこかの村の家かしら?結構立派な家ね)

  その家は普通の農民の住居と比べてとても立派で広く、この辺りを取り仕切っている家のように思えた。

 その家の入り口に、1人の青年が立っていた。年は17、18歳前後ぐらいに見える。割りと整った顔立ちの青年で、誰かを待っているのだろうか。
  そして手には何やら包みものを持っている。

  すると、今度は家の中から1人の少女が出てきた。こちらは忍坂姫ぐらいの年齢ぐらいのように見える。割りと綺麗な娘で、翡翠で出来た耳飾りをつけていた。

  その少女を見るなり、青年は包みから何かを取り出して、その少女に渡した。
  何を渡したのだろうかと思ってよく見ると、何やら髪飾りのようで、赤茶色で先に小さな石が紐で結ばれていた。

  少女はその髪飾りを受け取り、とても喜んでいるようだった。

(この2人は一体誰なんだろう?)

  忍坂姫がそう思っていると、そこでその光景が消えて、鏡には元の彼女の顔が映っていた。

「うーん、今回も何か不思議な光景が出ていたわね」

  ただ鏡に映っていた場所がどこか分からないのと、そこに映っていた2人も誰なのかさっぱり分からない。

「あ、そうだわ!この宮の人に今見た家の特徴を話してみたら、誰か知っているかもしれない」

  そう思った忍坂姫は、早速部屋を出ていき、宮の人に聞いてみる事にした。


  忍坂姫は宮にいる人で、外に出て行く機会の多そうな人に当たってみる事にした。

「あの男性、確か宮の使いでよく外に出て行ってる人よね。あの人に聞いてみましょう!」

  忍坂姫はそう思い、その男性に声をかけた。そして先程見た家の特徴を説明してみると、男性からは何とも意外な答えが帰ってきた。

「あぁ、それでしたら日田戸祢ひだとねの家ですね。宮の使いで良く行くので間違いないです」

(え、日田戸祢の家?)

  忍坂姫はそれを聞いてとても驚いた。
  しかしそれなら、さっきその家から出てきていた娘も聞いてみる事にした。

「それは恐らく日田戸祢の娘ですね。確か千佐名とか言ってましたっけね」

  どうやら、さっき鏡に映っていた娘が、雄朝津間皇子の言っていた千佐名のようだ。今思えば、確かに控えめで従順そうな少女に見える。

(あぁ、あの子がそうだったのね)

  ちなみにその千佐名が話していた青年に関しては、誰かは分からないとの事だった。

「分かったわ。色々教えてくれてありがとう」

  そう言って、忍坂姫はその男の元を離れた。

  それから宮の中をブラブラと歩きながら、どうしたら良いものかと考えていた。
  日田戸祢の家の場所は誰かに聞いたら直ぐに分かるはずだ。
  だが何の理由をつけて、その家に行ったら良いのだろう。
  また先程鏡に映っていた青年はまだ誰だか分からないままである。



  すると、近くから宮の女達の話し声が聞こえてきた。

「先日聞いたのだけれど、ここから少し行った所にツツジやサツキなんかの花が沢山咲いたみたいよ」

「あぁ、それは聞いたわ。確か日田戸祢の家の直ぐそばみたいね。私も気分転換に出掛けてみようかしら」

  忍坂姫は思わぬ事を聞いて、足を止めてしまった。

(これはなんて話しを聞いたのかしら。であれば、その花の咲いてる場所に行って待っていたら、もしかするとその男性も見つけられるんじゃないかしら。
  あの鏡に映っていた訳だし、可能性があるかも)

  そう思った忍坂姫は、雄朝津間皇子に外に出て良いか、早速聞いてみる事にした。
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