大和の風を感じて2〜花の舞姫〜【大和3部作シリーズ第2弾】

藍原 由麗

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雄朝津間皇子おあさづまのおうじがそんなふうに気にかけて下さっていたなんて、本当に知りませんでした。凄く嬉しいです」

  忍坂姫おしさかのひめは満面の笑顔で彼にそう言った。

  忍坂姫としては、この件は本当に可笑しくて仕方がなかった。
  だが彼がそんなふうに考えてくれるようになった事を知って、彼女はとても嬉しく思った。
  しかも今回は自分の為に、わざわざこんな朝早くから会いに来てくれたのだから。

  雄朝津間皇子も、忍坂姫からそんなふうに言われて少し照れ臭そうにはしていたが、内心はとても喜んでいるようだった。

「でも、その千佐名ちさなと言う娘、本当に大丈夫なんですか?
  皇子が暫く来られなかっただけで、寝込んでしまったんですよね」

「まぁ、そうなんだよね。これは前々から本人や彼女の父親には言っているんだが。
  大和の皇子である俺が、彼女を妃にするのは中々難しい。
  だから彼女の幸せを考えるなら、他のもっと彼女を幸せに出来る男性を見つけた方が良いと俺は思っている」

  雄朝津間皇子曰く、皇子自身も彼女の幸せを考えているとの事。
  それで彼は、もう自分の事は忘れて他の男性を見つけた方が良いのではと説得もしたそうだ。
  だがそれでも、千佐名は自分の側にいたいと言い、それだけで自分は十分幸せだとの事だった。

  そして結局は、ずるずるとそのままの関係が続いているのだそうだ。

(その娘は、完全に雄朝津間皇子しか見えなくなってるのね)

  忍坂姫は千佐名の事をそう思った。

「今まで俺に近付いてきた娘は、欲が強くて俺の皇子としての身分につられてくるか、割り切った関係で構わないと言う娘が大半だった。だがそんな中、千佐名だけが俺を純粋に好いてくれてたんだよね」

  だからこそ、雄朝津間皇子は千佐名だけは少し特別扱いをしていたのだろう。
  彼が前に言っていたように、おしとやかでとても柔順な娘なんであろう。

「ただその千佐名って娘は、本当に不敏でならないですね。
  本当に世の中の男性が皆、今の大王みたいな人だったら、世の全ての女性が幸せになれるんでしょうけどね」

「まぁ、確かにそうだけど……てか、何でそこで大王が出てくるんだよ」

  雄朝津間皇子はちょっと不満そうにして彼女に言った。

「別に良いじゃないですか。ちょっと例えで言っただけなんですから」

(今まで大王の話しをしても全く動じる事はなかったのに、どうしたのかしら?)

  また千佐名自身も、彼女を本当に大切に思う男性が現れて、また千佐名もその男性の事を好きになれたら良いのにと忍坂姫は思った。


「とりあえず、千佐名の事を心から大切に思ってくれる男性が現れる事を祈るしかないですね」

「まぁ、そうだね。だがそんな相手がいきなり都合良く現れるとも、思えないけどね」

  忍坂姫は何か良い方法はないかと、ふとその場で考えてみた。

「例えば私がその村の男性に、彼女に好意を持ってる若者がいないか、片っ端から聞いて回ってみるとか?」

  それを聞いた雄朝津間皇子は、何て事を言うんだと少し呆れてしまった。

「忍坂姫、村にどんな男がいるか分からないのに、そんな危ない事を君にさせる訳にはいかないだろう。君はもっと警戒心を持った方が良い。もし村の男どもに襲われでもしたらどうするんだ」

  雄朝津間皇子は、少しきつめの言葉で彼女に言った。

「雄朝津間皇子、本当にごめんなさい。私ついつい軽々しい事を口にしてしまって……」

  忍坂姫は雄朝津間皇子にそう注意されて、思わずシュンとしてしまった。

「でもその千佐名って子の事、何故か私気になって。多分、本心では彼女も幸せになりたいと願ってるように思います。
  なので、どうか彼女にも幸せになって貰いたいです」

  忍坂姫はふとそんな事を思ってしまった。
  彼女とは実際に会った事はないが、少し気になってしまう。
  彼女も辛い恋をしているのだろうから。

  そんな彼女の話しを聞いた雄朝津間皇子は、彼女は何故こんなにも、他の娘の事を心配出来るのだろうかと思った。思えば七支刀の時もそうだった。

(まぁ、そこが彼女の良い所なのかもしれないな……)

  雄朝津間皇子は忍坂姫の事を見て、そんなふうに思った。

「とりあえずこの件に関しては、ここでどうこう言ってても仕方ない。
  ところで、忍坂姫。朝の食事がまだだろう。俺も食べてないから一緒に食べないか」

  雄朝津間皇子にそう言われ、まだ食事をしていなかった事に彼女は気が付いた。

  そして彼女は少し照れながら「はい」と皇子に返事をした。
  そんな彼女が少し可愛らしく見えた。

  伊代乃いよのの話しだと、市辺皇子いちのへのおうじは昨日寝るのが遅くなった為、まだ起きて来てないとの事だった。

  そこで彼女にお願いして、彼女の部屋に2人分の食事を持ってきてもらうようお願いした。

  伊代乃も「はい、分かりました」と言って、快く引き受けてくれた。

  それから暫くして、部屋に2人分の朝の食事が運ばれてきた。

  そして食事を始めてから雄朝津間皇子は思った。
  彼女がこの宮に来て、2人だけで食事をしたのは、これが初めての事であったと。

(今日は、何か彼女を独占している気分だな。食事の時はいつも市辺いちのへが一緒だったから)

  そう思うと、雄朝津間皇子は何だかとても嬉しく思えてきた。

  こうして2人は、始めて2人だけで朝の食事をとる事となった。
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