大和の風を感じて2〜花の舞姫〜【大和3部作シリーズ第2弾】

藍原 由麗

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37P《青年 房千嘉の恋模様》

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  こうして忍坂姫おしさかのひめは、雄朝津間皇子おあさづまのおうじに連れられて、日田戸祢ひだとねの家の側の花の咲いている場所に行ける事になった。

「わぁ、これは凄い。何て綺麗なんでしょう」

  忍坂姫はその光景にとても感動した。
  そこではツツジやサツキ等の春の花が咲いていて、鳥や蝶も飛んでいた。

  こんなに綺麗な光景であれば、ずっと見ていても退屈はしないと思った。

「確かに、噂どおりだね。これは俺も驚いたよ」

  雄朝津間皇子も忍坂姫の横で、同じように驚いていた。

「雄朝津間皇子、連れて来てくれて本当有り難うございます」

  忍坂姫はそう笑顔で答えた。
  本来の目的とは違うが、彼とこの光景を見れた事はとても嬉しいと思った。

  すると、雄朝津間皇子は忍坂姫の肩に手を回してから言った。

「いや、別にたいした事はしてないよ。でも、君にそんな風に喜んで貰えて、本当に良かった」

  雄朝津間皇子は、忍坂姫の目を見ながら嬉しそうにして言った。肩に手を回されている為、2人の距離はとても近かった。

(雄朝津間皇子的には、そこまで深く考えてないのかもしれないけど、距離が近いとどうしても緊張してくる……)

  皇子に自分のそんな状態が気付かれないよう、彼女は必死で平静を装うよう努めた。

(でも今日は天気も良いし、本当に来て良かった)

  そしてしばらくの間、2人はそのまま景色を眺めていた。


  それから暫くして、雄朝津間皇子が忍坂姫に言った。

「じゃあ、ちょっと日田戸祢に会ってくるよ。君をここにずっと1人にしておく訳にもいかないから、出来るだけ早く戻るようにはする」

  それを聞いた忍坂姫は、むしろ出来るだけ長く日田戸祢の所にいて貰いたいと思ったが、流石にそれは言えなかった。

「雄朝津間皇子、分かりました。私は大丈夫なので、気にせずに行って来て下さい」

  それを聞いた雄朝津間皇子は、彼女はなんて思いやりのある娘だろうと、とても感心した。

「忍坂姫、本当にありがとう。もし何かあったら大声で叫ぶんだよ。日田戸祢の家に仕えている者にも伝えておくから、そこの人達が助けに来てくれるはずだ」

  雄朝津間皇子は忍坂姫を軽く引き寄せて、彼女の頭をポンポンと撫でた。
  そして「じゃあ、行ってくるよ」と彼女に言い、日田戸祢の家の方へと向かった。

(雄朝津間皇子は最近本当に変わってきたわね。この間千佐名ちさなの元に行って帰って来てからが特にそうだわ。
  そんなに不誠実な人間と思われるのが嫌になったのかしら。それに少し接し方も前より積極的になった気がする)

  忍坂姫は雄朝津間皇子を見送りながら、そんなふうに思った。


「さてと、雄朝津間皇子がいなくなったので、とりあえずこの近くを探ってみよう。鏡に映っていた青年を探さないと」

  彼女はそう思うと、その場所から離れる事にした。
  花の咲いている場所を出た所は、小道になっていたのだが、そこを歩いている青年に彼女は思わずぶつかってしまった。

  すると、彼の持っていた荷物がその場に落ちて散らばってしまった。

(しまった!私とした事が)

  忍坂姫は慌ててその場に座り込み、その場の荷物を拾っていった。
  そして拾い終えると、それをその青年に渡した。

「本当に、ごめんなさい」

  彼女は本当に申し訳ない気持ちで、その青年に謝った。
  それからふと彼の顔を見て思わずハッとした。

(あの、鏡に映っていた青年と同じ顔だわ)

  そこには忍坂姫が先日鏡で見た青年が立っていた。恐らく農民のようだが、そこまでみすぼらしい格好はしていない。
  顔立ちも割りと整っていて、それなりの好青年に見える。

  そんな彼は忍坂姫にじーと顔を見られて思わず動揺した。
  何故この娘は自分の事をずっと見ているのだろうか。

  そして青年は少し顔を赤くしながら、忍坂姫に言った。

「あの~済みません。僕の顔に何かありますか?」

  それを聞いた忍坂姫は思わず「はっ」とした。

(やだ私ったら。初対面の人に対してなんて事を……)

  彼女は慌てて、その青年から離れた。

「ごめんなさい。特に深い意味はなくて」

  そして彼女は再度彼を見た。
  とりあえず彼の方も、そこまで気にしている感じではなさそうだった。

「えぇーっと、あなたはこの辺りに住んでる方かしら。私は人に付き添ってもらって、ここの花を見にきていたの」

  それを聞いた青年は「あぁ、なる程ですね」と言って、手元の荷物を確認しながら、彼女に言った。

「あなたも何か用事だったのかしら」

  忍坂姫は彼にそう尋ねた。

「はい、そうなんです。今日はそこの日田戸祢様の家に行く予定なんです。そこの娘とは幼なじみでして、彼女が体調を崩したと聞いてお見舞いも兼ねて」

  青年はにっこり笑って、忍坂姫にそう説明した。この青年はどうも真面目でとても優しそうに見える。

(わざわざお見舞いに来るなんて。これは可能性ありそうね)

  忍坂姫は余り時間がなく、雄朝津間皇子が戻ってくるまでに話しを終える必要があった。なので、ここはもう直球で行く事にした。

「それは確か千佐名って名前の娘よね。あなたは彼女の事が好きなの?」

  忍坂姫にいきなりそんな事を言われて、彼はかなり動揺した。

「えぇ~!そ、そんな僕はただ彼女の事が心配で」

  そう言うなり、彼は顔をひどく赤くした。

  それを見た忍坂姫は何とも性格の分かりやすい青年だなと思った。
  そして彼女は思わずクスクス笑ってしまった。こんな純粋な青年を見たのは久々だ。

「あ、ごめんなさいね。ついつい笑ってしまって。あなたは思っている事が凄く顔に出ていて、とても分かりやすいものだから」

  それから忍坂姫は、彼の話しを聞いてみる事にした。
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