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第7獣
怪獣7-10
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帰ってこないものを無くして、これからはどうすればいいんだ? そう、責めているようにも見えたのだ。
心の中で深々と頭を下げて、三人はゆっくり静かに歩くのだった。
「秀人、戦いが終わったら、いつになるか分からないけど、俺らなりの責任を取るぞ」
秀人の気持ちを察し、蘭が声をかける。
「もちろん! するに決まっているよ!」
「本当か? さっきまでしないような感じだったんだが」
秀人の気持ちを解きほぐす、軽い冗談。それは功を奏し、いつもの秀人に戻るのだった。
『気配がどんどん近づいている。気をつけろ』
体にひしひしと感じる、グリフォンの気配だ。全身から恨み、怒りに満ち溢れていた。
この島に居る人間を、象徴をすべて破壊してやる。それは一つの目的によって動いていた。完全なる復讐だ。
日本列島から生きるもの全てが居なくなるまで、破壊しつくしてやる。そんなエネルギーの塊がグリフォンだ。
「さぁ……、ふんどし締めていけよぉ。あの野郎とご対面だ!」
蘭の言葉を聞いて、気が引き締まる。何としてもここでグリフォンを倒さないといけない。
だが、どうしても気がかりなことがあった。カナンガ人の魂が言っていたのは、本当なんだろうか? もしそうだとしても、何の証拠もない話を信じるわけには行かない。今の目的はグリフォンを完全に倒して、日常を、そして平和や安全を取り戻すのが目的だ。
「今、余計なこと考えるなよ。目の前に集中しろ!」
『そうだ。もう少しで来るぞ!』
秀人の考えを察した蘭とゴリアスは声をかけ、秀人は現実に戻る。
近くにはぶった切られた北陸自動車道の向こう側で火柱が上がっていた。余りにも熱く、空気を吸っただけで体の中が火傷してしまうと思われるくらいの、熱を持っていた。
「何だっ!」
「蘭、あれを見て!」
秀人は北陸自動車道を挟んだ、向かい側を見るように言う。
火柱の根本はそこにあった。それは佐藤池野球場、運動公園、総合体育館がまとめて建てられている、市民の憩いのスポーツスポットだった。
普段なら、スポーツやレクリエーションを楽しむ利用者で溢れているのだろうが、この時は違っていた。同時に、蘭と秀人は災害発生時のマニュアルを思い出した。
そういう広いスペースや体育館を備えていたら、そこは緊急避難所として、利用されることを。そして火柱の根元がそこにあるのも。
「まさかっ!」
二人の頭の中で最悪の事態がよぎる、自然と足が速くなっていた。幸いにも、歩く場所は畑のど真ん中なので、人家を気にする必要はなかった。
ドズン、ドズンと足音を響かせ、土埃と土砂を撒き散らしながら前進する。
「急ぐ気持ちは分かるけど、近くには注意して!」
「んなもん分かってらぁ!」
蘭の気持ちを察した、秀人が注意する。それでも急がなくてはいけない。あそこに大勢の人が居たら、今頃どうなっているのだろう?
巨大怪獣を見て、恐怖に怯えているに違いない。今の蘭と秀人もゴリアスという巨大怪獣になってはいるが、少しでも不安を取り除くことをしないといけない。
それが力を持つ者の責任なんだろうと、二人は思っていた。
責任を果たして、平和を取り戻す。それが蘭と秀人が今、なすべきことだ。
北陸自動車道を慎重にまたぎ、進む。
鼻に焼け付く匂いと熱波が体に伝わる。熱は火柱に近づいている証拠だが、この匂いは何なのか、それはすぐに分かった。
「蘭……、あれを見て……」
秀人が地面に目をやると、蘭は思わず声を上げそうになった。ゴリアスは何も言わず、地面を見て呆気に取られ見ている。
「なんだよこれ……」
『あそこだ!』
ゴリアスは視線を火柱に移した、三角形が特徴的な体育館の屋根を熱でひしゃげさせ、黒く炭化させていた。
出口らしき場所から、小さな火がぽつぽつと出ていた。それはマッチの火のようなもの、ゆらゆらと地面を動いていた。
心の中で深々と頭を下げて、三人はゆっくり静かに歩くのだった。
「秀人、戦いが終わったら、いつになるか分からないけど、俺らなりの責任を取るぞ」
秀人の気持ちを察し、蘭が声をかける。
「もちろん! するに決まっているよ!」
「本当か? さっきまでしないような感じだったんだが」
秀人の気持ちを解きほぐす、軽い冗談。それは功を奏し、いつもの秀人に戻るのだった。
『気配がどんどん近づいている。気をつけろ』
体にひしひしと感じる、グリフォンの気配だ。全身から恨み、怒りに満ち溢れていた。
この島に居る人間を、象徴をすべて破壊してやる。それは一つの目的によって動いていた。完全なる復讐だ。
日本列島から生きるもの全てが居なくなるまで、破壊しつくしてやる。そんなエネルギーの塊がグリフォンだ。
「さぁ……、ふんどし締めていけよぉ。あの野郎とご対面だ!」
蘭の言葉を聞いて、気が引き締まる。何としてもここでグリフォンを倒さないといけない。
だが、どうしても気がかりなことがあった。カナンガ人の魂が言っていたのは、本当なんだろうか? もしそうだとしても、何の証拠もない話を信じるわけには行かない。今の目的はグリフォンを完全に倒して、日常を、そして平和や安全を取り戻すのが目的だ。
「今、余計なこと考えるなよ。目の前に集中しろ!」
『そうだ。もう少しで来るぞ!』
秀人の考えを察した蘭とゴリアスは声をかけ、秀人は現実に戻る。
近くにはぶった切られた北陸自動車道の向こう側で火柱が上がっていた。余りにも熱く、空気を吸っただけで体の中が火傷してしまうと思われるくらいの、熱を持っていた。
「何だっ!」
「蘭、あれを見て!」
秀人は北陸自動車道を挟んだ、向かい側を見るように言う。
火柱の根本はそこにあった。それは佐藤池野球場、運動公園、総合体育館がまとめて建てられている、市民の憩いのスポーツスポットだった。
普段なら、スポーツやレクリエーションを楽しむ利用者で溢れているのだろうが、この時は違っていた。同時に、蘭と秀人は災害発生時のマニュアルを思い出した。
そういう広いスペースや体育館を備えていたら、そこは緊急避難所として、利用されることを。そして火柱の根元がそこにあるのも。
「まさかっ!」
二人の頭の中で最悪の事態がよぎる、自然と足が速くなっていた。幸いにも、歩く場所は畑のど真ん中なので、人家を気にする必要はなかった。
ドズン、ドズンと足音を響かせ、土埃と土砂を撒き散らしながら前進する。
「急ぐ気持ちは分かるけど、近くには注意して!」
「んなもん分かってらぁ!」
蘭の気持ちを察した、秀人が注意する。それでも急がなくてはいけない。あそこに大勢の人が居たら、今頃どうなっているのだろう?
巨大怪獣を見て、恐怖に怯えているに違いない。今の蘭と秀人もゴリアスという巨大怪獣になってはいるが、少しでも不安を取り除くことをしないといけない。
それが力を持つ者の責任なんだろうと、二人は思っていた。
責任を果たして、平和を取り戻す。それが蘭と秀人が今、なすべきことだ。
北陸自動車道を慎重にまたぎ、進む。
鼻に焼け付く匂いと熱波が体に伝わる。熱は火柱に近づいている証拠だが、この匂いは何なのか、それはすぐに分かった。
「蘭……、あれを見て……」
秀人が地面に目をやると、蘭は思わず声を上げそうになった。ゴリアスは何も言わず、地面を見て呆気に取られ見ている。
「なんだよこれ……」
『あそこだ!』
ゴリアスは視線を火柱に移した、三角形が特徴的な体育館の屋根を熱でひしゃげさせ、黒く炭化させていた。
出口らしき場所から、小さな火がぽつぽつと出ていた。それはマッチの火のようなもの、ゆらゆらと地面を動いていた。
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