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終章 笑顔
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吹き抜ける潮風が肌を撫でるのを心地よく感じながら、乗客が落ちないよう作られている手すりに後ろ向きに肘をついて、空を見上げる。
青空は憎々しいほど澄み渡っており、雲一つない。
それが見渡す限りどこまでも広がっていた。
グリモア達が国境を出てから、既に五日が経っていた。
騎兵達による追手も完全に振り切り、いまはフェーデからさらに離れるべく船に乗って移動している。
幸いと言うべきか、街の様子や住民からの話を聞く限り、まだ国外にフェーデの騎兵が捜索に来ているという事はなさそうだ。あの待ち伏せの後、近辺に隠れたか進路を変えたとみて、まだ国内を捜しているのだろう。関所を通っていないのだから、国外に出たと騎兵が考えられないのも無理はない。それでなくともフェーデは神子の不在を国内外に隠したまま捜索を行っているのだ。大規模な人数は動かせない上に、国外で動き回る理由も必要になる。簡単には捜索隊を出せないだろう。これでしばらくの間は時間を稼げるはずだ。
しかしそれも一時しのぎでしかない。いずれ多くの騎兵がなりふり構わず自分達を追って、あらゆる国を捜し回るだろう。もしかしたら他国に助力すら願い出るかもしれない。それほどまでに神子の存在価値は計り知れない。この命を掛けた誘拐は、まだまだ終わってなどいないのだ。
「気持ちいいものですね」
正面から歩いて来たマビナが、隣に肘をついて海を見渡す。
大聖殿から出た事のなかったマビナは、海を見るのが生まれて初めてだったらしい。
「ずっと外の世界に憧れていましたが、本当に体験できるとは思っていませんでした」
「そのうち見飽きて、帰りたくなるだろうよ」
「かもしれませんね」
グリモアの皮肉に、マビナは微かに笑む。
遠い目をして水平線の先を眺めながら、マビナは独り言のように呟いた。
「本で読み、教えられ、知ったような気になっていましたが……」
感動に目を輝かせ、自然な笑みを浮かべるマビナ。
「世界というのは、こんなにも広いものだったのですね」
マビナが自作の歌を歌い始める。
その心地良い歌声に、グリモアは耳を澄ませた。
グリモアの復讐は、神子がフェーデに存在しない事で成り立つ。
フェーデを崩壊させるためには、神子という絶対の象徴があってはならないのだ。
だが。
横目でマビナを盗み見る。
その顔に浮かぶ笑みを見る頻度が、フェーデを出てから増している事を思い出して、グリモアも同じように遥か海の先に視線を泳がした。
いま自分の横で歌っている彼女は、神子とは言えないだろう。
感情を凍らせ、役割を演じ、表情を殺した神子は、もうどこにもいない。
いま隣で笑っているのは、どこにでもいる普通の十四歳の少女だ。
神子ではなく、マビナだ。
彼女が笑っている事こそが、神子を殺したという証明になる。
なら俺は、この笑顔と命を死ぬ気で守ろう。
二度とマビナが神子に戻らないよう、全力で逃げ続けて、世界を見せて笑わせよう。
俺の復讐は、それで達成されるから。
マビナの目的も、それで果たされるから。
夢を見ているように笑う彼女を、俺はずっと守り続ける。
青空は憎々しいほど澄み渡っており、雲一つない。
それが見渡す限りどこまでも広がっていた。
グリモア達が国境を出てから、既に五日が経っていた。
騎兵達による追手も完全に振り切り、いまはフェーデからさらに離れるべく船に乗って移動している。
幸いと言うべきか、街の様子や住民からの話を聞く限り、まだ国外にフェーデの騎兵が捜索に来ているという事はなさそうだ。あの待ち伏せの後、近辺に隠れたか進路を変えたとみて、まだ国内を捜しているのだろう。関所を通っていないのだから、国外に出たと騎兵が考えられないのも無理はない。それでなくともフェーデは神子の不在を国内外に隠したまま捜索を行っているのだ。大規模な人数は動かせない上に、国外で動き回る理由も必要になる。簡単には捜索隊を出せないだろう。これでしばらくの間は時間を稼げるはずだ。
しかしそれも一時しのぎでしかない。いずれ多くの騎兵がなりふり構わず自分達を追って、あらゆる国を捜し回るだろう。もしかしたら他国に助力すら願い出るかもしれない。それほどまでに神子の存在価値は計り知れない。この命を掛けた誘拐は、まだまだ終わってなどいないのだ。
「気持ちいいものですね」
正面から歩いて来たマビナが、隣に肘をついて海を見渡す。
大聖殿から出た事のなかったマビナは、海を見るのが生まれて初めてだったらしい。
「ずっと外の世界に憧れていましたが、本当に体験できるとは思っていませんでした」
「そのうち見飽きて、帰りたくなるだろうよ」
「かもしれませんね」
グリモアの皮肉に、マビナは微かに笑む。
遠い目をして水平線の先を眺めながら、マビナは独り言のように呟いた。
「本で読み、教えられ、知ったような気になっていましたが……」
感動に目を輝かせ、自然な笑みを浮かべるマビナ。
「世界というのは、こんなにも広いものだったのですね」
マビナが自作の歌を歌い始める。
その心地良い歌声に、グリモアは耳を澄ませた。
グリモアの復讐は、神子がフェーデに存在しない事で成り立つ。
フェーデを崩壊させるためには、神子という絶対の象徴があってはならないのだ。
だが。
横目でマビナを盗み見る。
その顔に浮かぶ笑みを見る頻度が、フェーデを出てから増している事を思い出して、グリモアも同じように遥か海の先に視線を泳がした。
いま自分の横で歌っている彼女は、神子とは言えないだろう。
感情を凍らせ、役割を演じ、表情を殺した神子は、もうどこにもいない。
いま隣で笑っているのは、どこにでもいる普通の十四歳の少女だ。
神子ではなく、マビナだ。
彼女が笑っている事こそが、神子を殺したという証明になる。
なら俺は、この笑顔と命を死ぬ気で守ろう。
二度とマビナが神子に戻らないよう、全力で逃げ続けて、世界を見せて笑わせよう。
俺の復讐は、それで達成されるから。
マビナの目的も、それで果たされるから。
夢を見ているように笑う彼女を、俺はずっと守り続ける。
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