The Lone Wanderer

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1章:見知らぬ地

虐殺の地

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私はしばらく川辺で休んだ後、川を辿って歩き続けた。

もう、かれこれ半日ぐらいは経つだろうか。
ずっと川辺を歩き続け、空腹に慣れてきた所だ。
太陽は沈み、空には赤色のオーロラが一面を彩っていた。
時々、無線を確認しているが誰からも応答はない。
此処は何処なんだろうか。
イェレナやジェイク、アレックスやTは何処かに居るのだろうか
もしかして、私はただ一人 この世界に居るのだろうか…
そんな考えが頭を過ぎる。
いくら歩いても人の姿は見えず、見えるのは見たこともない動植物ばかりだった。
キノコや植物が青や赤に光り、暗闇を照らしていた。
時折、草むらが音を立てる
私は銃口を向け、いつ何が出るか分からない中、常にストレスを感じていた。

すると、森の中に火の光が見えた。
私はゆっくりとその方角に足を進めると、いくつもの木で出来た家らしき建物が大きな木を囲むように建ち並んでいた。
数は15ほどだろうか、おそらく村だろう。
村の中心の木の周りにある松明がゆらゆらと燃えており、辺りを照らしていた。
村人は寝ているのか、音もなく静かなものだった。

いや、静か過ぎた。
寝息も何も聞こえず、聞こえるのは風の音と歩みを進めるたびに鳴る足音だけだった。
ふと、風が吹くと強烈な異臭が鼻をついた。
むせそうになる異臭は村から放たれている様子だった。
嫌な予感を感じながら、私は一軒の家のそばにより、耳を澄ませた。
だが、何も音は聞こえなかった。
ライフルを構えながら、家の扉に近づき、ゆっくりと戸を開けた。

中は暗く、何も見えなかった。
異臭は強くなり、此処から放たれている様だった。
異臭に耐えながら、ゆっくりと足を踏み入れると、水の音が聞こえた。
足元を見ると、なにやら濡れているようだった。
ポケットからジッポーを出し、火を付けた。
「……!」
私は息を飲んだ。
先程は暗くて見えなかったが、足元を照らすとおびただしい量の血が辺りを濡らしていた。
足を進め、家の奥へと進むと人の足が見える。
ゆっくりとジッポーを上に照らすと、その足の本人が見えた。

おそらくこの家の主人だろう男が、壁に打ち付けられていた。
手首には杭を打たれ、腹を切り開かれていた。
すぐその横には、小さな男の子も同じように打ち付けられていた。
「一体、誰がこんな残酷な事を…」
私はその遺体に近づき、首元に触れた。
まだ少しだけ暖かく、少し前まで生きていたようだった。
私はポケットから小型端末を取り出し、撮影モードに切り替えた。
この惨状の証拠を抑えるため、辺りを撮影した。

私は遺体から離れ、辺りを見渡した。
どうやら、部屋の中で一悶着あったらしく、食器やら様々なものが転がっており、血飛沫が部屋中に飛び散っていた。
ドアに近づき、外の様子を眺めた。
辺りは相変わらず静かで、不気味なままだった。
ライフルを構えながら家を離れ、隣の家の に向かった。
中に入ると、先程の家の様に辺りは血の海状態だった。
「クソ…神よ…」
こちらの男は頭を二つに割られ、床に転がっていた。
脳やら何やらが散乱しており、目をあてられぬほど悲惨な姿だった。

私は一軒一軒、生き残りが居ないか探したが、見つけたのは酷い殺され方をした住人だけだった。
上半身と下半身が裂かれていた者や、何度も何度も刺された者。首を斬られていた者や、手足が切り取られていた者だっていた。
ただ、遺体は男や男の子や老婆のものばかりであり、若い女や女の子の遺体は見当たらなかった。
土を見ると、いくつもの足跡が行ったり来たりしており、複数の人間が行き交っていたのが分かる。時折、二つの線や大きな跡を見つけた。
これは誰かに引きずられた跡だろう、この跡や足跡は門の入り口らしき所へ伸びていた。
村の入り口らしき門に近づき、辺りを観察すると、何やらが細めの車輪の跡が村の外まで伸びており、車輪の所で先程の引きずられた跡が消えていた。
大勢の足跡や、馬の蹄の跡がいくつもあり、所々、容器が転がっていた。
中から液体が漏れており、その匂いを嗅ぐと、ワインのようだった。
「この村を襲って人を攫っていったのか…そして、残りの者は皆殺しってわけね…しかもこいつらは殺しを楽しんでいる様ね。こんな残酷な事をするなんて…」
私は一度村の中に戻り、食料を探す事にした。
とても罰当たりな行為だとは思うが、この状況ではそうも言ってられない。
いくつかの家から果物や、乾燥した肉などの保存食を見つける事が出来た。
途中で布で出来た袋を見つけ、先程見つけた食料をその中に入れた。
袋を持ったまま村から少し離れ、光る植物のそばに腰を掛けた。
袋を開け、先程頂いた食料の中から果実に齧り付いた。
甘い果実を齧りながら、この先どうするか考えた。
仲間達の消息も掴めず、この場所が何処かも分からない。
任務を続けようにも、そうは出来ない状況だった。
この状況を生き抜くのがやっと…まだマシなのは、人間の姿が見えた事だった。
すでに遺体になっているが、人が存在するのが分かっただけでも有り難い。

先程観察した様子から、皆やたらと古い服装をしており、馬車が存在している様だった。
そして遺体に刻まれたのは裂傷跡のみで、射殺された者は一人もいない様だった。
この様な服装や、未だに剣で人を襲う輩など世界広しと言えども、2100年には存在しているはずはなかった。
辺りは私が任務で赴いた中東では無く、涼しい風や鬱蒼とした森からヨーロッパの様だった。
だが、私の知る限り光る植物や赤いオーロラが常に輝く夜空など存在するはずがない。
そんなものが存在すればテレビやネットで知るはずだ。
そして…何よりも目覚めた時に襲われたあの緑の小人。
ファンタジー作品で見たことのあるゴブリンそのものが未だに信じられない。
あんなものが存在しているのならとっくに世界中に広がってるはずだ。

信じたくは無いのだが、私は別の世界にやって来たのだろうか…こんな事が現実にあるなど考え難いが、どうしてもその考えが頭を過ぎる。
私は目覚める前の事を考えた。
あの胸が熱くなった感覚や、手の平に出来た光の球。
そして何より、あのマントの男。
あいつがやったのかは分からないが、まるで魔術の様な力でジェイクを吹き飛ばし、イェレナを締め付け、私を持ち上げた。
あの男が何か知っているはずだ。

この先、あの男を捕まえる他、元の世界に戻る方法は無さそうだ。
若しくは、この現象を知る人物を探すか
あの男がこの世界に存在しているか、万に一つの可能だが、それに賭けるしか無い。
もしかしたら、仲間もこの世界に来ているかも知れない。
だとすると、この先はこの世界で生き抜き、仲間を探しながらあの男を探そう。

まず初めにする事は、この村を襲った奴らを探す事だ。
もしも、イェレナが近くに居たのならこいつらに連れて行かれた可能性もある。
彼女に限って、ヘマをするとは考えにくいが、何も情報がない中、可能性を一つでも潰すのが先だ。
それに、この様な惨劇をした奴らを生かしておく訳には行かない。

私は立ち上がり、村の門の近くに戻った。
足跡や車輪痕は村から道へ続いており、私はその跡を辿る事にした。

1、2時間ほど跡を辿ると、何やら火が見えた。
女の叫び声や男の怒号が聞こえ、近づくと、草原に大きなテントが3つほど並んで建っていた。そよ近くには薄っぺらな布を着た、野蛮な男らが焚き火の側で三人ほど立っていた。
恐らく、こいつらは見張りだろう。
三人ほどで何やら談笑をしながら、辺りを見渡している。

テントの中からは聞くに耐えない音が漏れており、恐らく攫われて人達はこの中に居るのだろう。
何をされているのかは、考えたくもないが少なくとも生きている様だ。

このまま攻撃を仕掛けるか…そう考えたが、攻撃に気付かれると中の人々げ危険に晒される。
静かに、気付かれずにやるしか無い。
私はRO2096を肩に掛け、MC-17を取り出した。
腰のベルトから消音器を取り出し、銃口に付けた。
草木に隠れながら、気配を殺し、ゆっくりと近づいた。
すると、テントの中から半裸の男が出てきた。
見ると、泥酔した様子でこちらの方角へと近づいてきた。
私は木の影に隠れ、様子を伺う。
男はすぐ近くの草むらの側に立つと、小便をし始めた。
見張りらしき男達はこちらの反対側を向いており、この男を仕留めるチャンスだった。
MC-17をホルスターに直し、ナイフを右手に取り出すと、ゆっくりとその男に近づいた。

男が小便を終えズボンを履いた瞬間、私は左手でその男の口を覆った。
「しー…声を上げちゃダメ」
小声でその男の耳元に囁くと、右手のナイフを男の喉の左側に突き立てた。
ナイフは男の首に深々と刺さり、男は小さく呻き声を上げた。
ナイフをそのまま右へ動かし、喉を切り裂くと血飛沫が舞い、草むらを濡らした。
そのまま、男を抱えて地面に転がせた。
男は少しピクピクと動いているが、しばらくすると動かなくなった。
MC-17を取り出し、テントのそばに積まれていた木箱の影に移動した。
木箱の影から男達を見るがら奴らは何も気付いてない様だ。
どうやら外に居るのはこの三人だけのようだった。
腰を落としたまま、三人の後ろから近づく。

男達のすぐ後ろに近づき、照準を男達の1人の頭に向け、トリガーに指をかけた。
トリガーを引くと、ほんの小さな音が銃口から鳴る。
そして、男は前のめりに倒れ込んだ。
次に照準をずらして異変に気付いた隣の男の頭を後ろから撃ち抜く。
最後の1人はこの異変に気づき、こちらを向いた瞬間、眉間を撃ち抜いた。
男達は力無く倒れ込んだ。

私はそのまま端の騒がしいテントの入り口に立ち、中の様子を伺った。
中では酒に酔った男5人が縛られ、裸に剥かれた女達に辱めを与え、時折暴力を振るっていた。
勢いよく中に入りながら男の1人の頭を撃ち抜き、そのまま他の2人も撃ち殺した。
私に気付いた男の1人が私に掴みかかろうとしたが、左手でそれを防ぐと腹部に銃口を当てトリガーを引いた。
男は腹を抑えながら倒れ込み、私はそのまま近くにいた男の胸に向け発砲した。
もう1人は急な襲撃に腰を抜かしたのか、酔っ払って足が動かないのか、へたり込んだまま後ろに下がろうとした。
足元を見ると、先ほど腹を撃った男が地面に倒れたまま、必死に逃げようとしていた。
私はその男に銃口を向け、何回かトリガーを引いてとどめを刺した。
撃たれるたびに男はピクピクと動き、3発目くらいに動かなくなった。
そして、未だに腰を抜かしている男の胸辺りに照準を向け、2回トリガーを引いた。

この状況を見ていた5人の女達は私を見ると怯えた表情をしており、さらに涙を浮かばせた。中にイェレナの姿は無い。
「大丈夫…私は貴女達の敵じゃ無いわ… ちょっと待っててね。すぐに解放するから」
言葉が伝わるのか分からないが、ジェスチャーも含めてそう伝えた。
女達はコクコクと頷いたので恐らく伝わったのだろう。
テントを出て、次のテントの入り口に移動した。
中を見ると同じように男5人が女達をいたぶっていた。
先程と同じように、中に入ると次々に男達を撃ち殺す。
私に躊躇いは無い。
男達は血の雨を降らせながら、テントを染めていた。
時折、顔に返り血が付いたが、気にする事もなく淡々と撃ち殺した。
ここにもイェレナの姿は見えなかった。
「待っててね、すぐに助け出すから」
そう言い終わると、私は最後のテントに近づいた。
中を見ると、先程の女達よりもさらに若い、少女達が中にいた。
そして、男達の1人は大柄で様々な装飾品を身につけていた。 
この坊主頭の男が恐らく頭だ。
私は勢いよく中に入り、男達に照準を向けてトリガーを引いた。
血飛沫が舞いながら、一人一人確実に絶命させていく。
最後の1人である頭を撃ち殺そうとしたが、男はすぐそばまで近付いていた。
急いで照準を向けるが、間に合わず銃を掴まれた。
「クソ!離せ…ってきゃあ!」
男は私を掴み上げると、外に投げた。
投げられた途中で肩に掛けたRO2096も私から離れ、少し離れたところに転がっていた。

テントを見ると、男がMC-17を放り投げながら、素手でテントから出てきた。
ナイフも投げられた時に落としたのか、武器は何も持っていなかった。
「仕方ない…やるしか無いか」
立ち上がり拳を構えた。
「お前が俺の仲間を殺ったのか?」
男はこちらに近づきながら、そう言った。
どうやらこの世界でも言葉は通じるらしい。
「見ての通りよ」
「この…クソ女が!」
男はそう叫ぶと、こちらに突進してきた。
私はそれを横に飛んで避けた。
そして、男に近づき左で顔にパンチを入れると顔を逸らすが、あまり効いてなさそうだった。
そのまま右、左と顔を殴るが、男は口から軽く血を流すだけで余裕の笑みを浮かべた。
「嘘でしょ!?なんてタフなの……ウグッ!」
すると、男に顔を殴られ、私は吹き飛ばされた。
私は倒れたまま、頬を擦った。
「痛った~、なんてパワーなの…これは一筋縄じゃ行かなさそうね」
立ち上がり、もう一度拳を構えた。
そして、男に近づくと男はもう一度右手を振った。
私はそれを左に避け、体を回しながら、右足を上げた。
男の顔に回し蹴りが当たると、男はよろめいた。
そして、左足を振り上げて顔を蹴り上げ、次に右脚で顔を蹴り上げた。
男はよろめきながら後ろに後退り、顔を抑えた。
鼻血が垂れ、顔には青筋が浮いていた。
男は両手で私に掴みかかろうとしてきたが、後ろに下がってそれを避けると逆に男に飛び込み、膝で顔を蹴り飛ばした。
そして、回りながらしゃがみ込むように足元を蹴り飛ばすと男は倒れ込んだ。

私はそのまま、男の喉元を踏みつけ、思いっきり力を込めて喉元を捻った。
骨が折れる音が聞こえると、男は白目を向いたまま絶命した。
「ふぅ…これで終わった…」
私は殴られたところを擦りながら、落ちている武器を拾った。
だがナイフだけが見つからなかったが恐らくテント中だろうと思い、中に戻った。
中を見ると、何人かの男達にはまだ息があり、なんとか逃げ延びようと這いつくばっていた。
だが、逃げ延びようとする輩の前に黒髪の短い髪をした少女が立ちはだかった。
少女は大体14、5程の年齢だろうか、股からは血を流し、顔にはアザがいくつもあった。
「ど…どけ…このクソガキ…」
男が少女に向かってそう言うと、少女の足を掴んだ。
少女はそれに動じる事もなく、手には私のナイフが握られていた。
「ちょっと……」
私がそう声を掛けた瞬間、少女はナイフを両手で握り、男に向かって振りかぶった。
何度も、何度も。
血飛沫が少女の顔を赤く染め、気がつくと男は少女の足を掴んだまま、動かなくなっていた。
少女は男の手を蹴って振り払うと、他の生きている男に近づいた。
男はその様子に怯えており、必死に逃げようとしていたが少女は男の背中にナイフを突き刺した。

止めるべきかと考えたが、この少女が受けた屈辱を考え、好きにさせた。
この少女は復讐を望み、彼女にはその権利がある。
私が無理やり止める権利はない。
ただ、彼女が少しでも復讐に躊躇いを見せたときには止めるつもりだ。
その時は、私が仕留めてやる。

少女はまた1人、逃げようとする男の首元を掻き切り、血飛沫を浴びた。

最後の1人はみっともなく命乞いをしていたが、少女は動じる事もなく、腹にナイフを突き刺した。
ナイフを捻り、そのまま腹を裂いた。
少女は、ナイフを持ったまま、テントの真ん中でペタンと座り込んだ。

「……気は済んだ?」
私が声をかけると少女はこちらを向いた。
少女の虚な目は絶望を語っていた。
私は少女の手からゆっくりとナイフを取り上げて、鞘に戻した。
少女の目を見ながら顔を撫で、顔についた返り血を拭った。
すると、ボロボロと目から涙をこぼした。
私は腰を落として少女を胸に抱いた。
「今は何も考えなくていいから…」
私は少女に優しくそう諭した。
しばらくして、私は少女の頭を撫でながら、立ち上がった。
辺りを見ると少女だけじゃなく、少年もいた。
見た目の麗しい少年も連れてきたのだろう。
私は彼女達の手についた縄を解き、他のテントの女性達も解放した。
そして、テントの側にあった馬車まで行くように言った。
気がつくと、夜は明けてきて空は青くなっていった。
解放された女性達は馬車の荷台に次々と乗り込んでいった。
するとその中の茶色のボブヘアをした女性が口を開いた。
「あ、あの。ありがとう…ございます…私たちを助けて頂いて…」
「ごめんね、もっと早くに助けられなくて。それで…貴女達はこれからどうするの?貴女達は近くの村から連れてこられたんでしょう?」
「え、ええ」
「あの村には…誰も生き残りは居ないわ…残念だけど」
「分かっています…私たちはこの近くの街に向かおうかと考えています。領主様に助けを求めようかと…」
「街がこの近くにあるの?」
「ここから大体、10里程の場所に…ところで貴女様は一体…」
「私はアメリカ合衆国の兵士。貴女達の敵じゃないわ。あと聞きたいんだけど、ここは何処なの?」
「アメリカ軍…?なんの事か存じませんが、ここは西の地の豊穣の森でございます」
この口ぶりから、アメリカの事を知らないようだ…
やはり、ここは異世界なのだろうか。
恐らく街でこの世界の情報を集めるとしよう。
だが、このまま彼女らと一緒に街に行ってそこの兵士にいろいろ聞かれるのも面倒だ。
近くで降りて、一度観察するのが良さそうだ。
「ねぇ、私も街の近くまで乗っていくわ。街に着くまで護衛も兼ねてね」
「ありがとうございます、そうして頂くと心強いわ…」
すると、私の服を軽く摘む感触があった。
振り向くと、先程の少女が私を掴んでいた。
私は少女の髪を撫でると、馬車の女性達に声を掛けた。
「ねぇ、この中にこの子の母親は居る?」
「あぁ…この子は10年前、村の側で拾われ、村長が育てていたのですが… 村長もその…」

つまり、この子は育ての親も無くした孤児って事か…
私は少女の脇に手を回し、軽く持ち上げて馬車に乗せた。
「さぁ、そのまま馬車に乗って。街まで一緒に行きましょう。誰か、馬車を動かせる人は居ない?」
「ええ、私が」
茶色のポニーテールをした女性がそう言うと、運転席側に移動した。
私は一度馬車から離れ、テントの中を見渡した。
中からあるだけの食料や水を取り、馬車の中の女性達に渡した。
そして、近くに落ちている松明を拾い、焚き火の火をつけた。
中には、もう人攫いの遺体が転がっているだけだ。
こういったものは燃やして灰にしてしまった方がいい。
私は片っ端からテントに火をつけた。

私はRO2096を手に持ったまま、馬車に乗り込み、15人の女性達とこの地を後にする事にした。
馬車の荷台に乗り込むと、黒髪の少女は私に抱きついてきた。
「それで…貴女の名は?」
少女はしばらくすると口を開いた。
「ルーシー、それが私の名前……」
「そう、よろしくね。ルーシー」
少女が落ち着くように、頭を撫でながら、燃え盛るテントを見つめた。
少女も抱きつきながら、私と同じ方を向いた。
彼女の瞳には、燃え盛る炎がどう映っているのだろうか。
私はそんな事を考えながら、視線を少女に移した。
彼女の顔には彼女自身が殺めた奴の返り血が付いており、手は血で染まっていた。
年齢に見合わぬその姿を見ると、彼女自身が選んだ事とは言え、私がした選択は誤っていたのだろうかと考える。
いや…これで良かったと思う事にしよう。
この少女は、自ら復讐を望み、それを果たした。それを邪魔する権利は私には無い。
この選択が彼女の未来にどう影響するかは分からないが、私は…ただ、彼女が奴らと同じ暴力を悪用する外道の道を選ばないようにと願うだけだ。

私があの人拐い達に行った暴力も、悪といえば悪なのかもしれない。
殺したのだから。
だが、私は兵士だ。
私の銃は人を守るために使われる、そう信じて戦い続けてきた。
この少女は先程まで復讐に取り込まれていたが、今後は何かを守るために戦ってほしい。
ただのエゴだってのは分かっているが、私は少女の背に手を回し、ただ、そう願った。













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