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第二章:再会
8話
しおりを挟む猪には、何が起こったのかも分からなかっただろう。
自分が死んだことさえも。
命を失った肉体はなおも走りを止めなかったが、しかし脚をもつれさせ、その軌道を大きく変えて横倒れになった。
地の表面を舐めるように滑り、そして間もなく動きを止めた。
鉄球の穿った傷跡から、赤黒い血液がとめどなく溢れてくる。
「……慣れないことは……するもんじゃないな……」
見事に猪を退治したソルトだったが、実のところはギリギリの勝利であり、少しでも対応が遅れていれば少なからず痛い思いをしていただろう。
猪の滑走跡が彼のすぐ側に作られたことからも、決して余裕があったとは言えないことを証明している。
(まあ、助かったから良しとするか)
ソルトはすぐに思考を切り替えて、倒れた猪の元へと向かった。
猪の死体をそのまま放置して先に進む、というわけにはいかないからである。
埋めるなり持ち帰るなりと、何らかの処置を施さなければならない。
なぜなら、猪が流した血の臭いによって、他の獣たちが集まってくる可能性があるからだ。
「さて、どうしたものかな……」
猪の死体を見下ろしてソルトは悩む。
なにせ、肉塊の捌きなどをしたことがない彼である。
幼い頃に大人たちが捌いていたのを見ていたことは覚えているが、実際に自分が捌いたわけではないし、それも物心がつく前のことであったから、あまり覚えてもいないのである。
そうやって彼が悩んでいるそこに、
「どっこいしょー!」
と、猪が出てきた草むらから、飛び出してきた人影があった。
声から判断するに、少女である。
背はソルトより頭一つ分高いが、年恰好は分からない。
目元には色付きのゴーグルを掛け、頭全体をマスクで覆っている。
手には大事そうに銃を抱え、上下には濃緑色の防護服を着込み、背には小さな袋を負っている。
恐らくは獣を退治するための、選りに選った装備なのだろう。
それらの装備から判断するに、相手は狩人のようであった。
「あ、君! 大丈夫!?」
ソルトの視線を感じたのか、或いはその足元に転がっている猪の肉塊を視界に入れたのか、その少女は彼の側へと慌てたように近寄って、その頭や身体を軽くはたくように触れていく。
「……あの、怪我は無いですから」
「それは良かった!」
困惑しているソルトの言うことを頭から信じることなく、確かに怪我が無いことを自身で確認した後、少女は軽く息を吐いた。
「いやね? 追っていた猪の先に人がいるなんて思ってなかったからさー、慌てちゃったよね。迂闊だったなー!」
「迂闊ですね」
「……はい。迂闊でした、ごめんなさい……」
少女は抱えていた銃を背負うと腰を曲げ、ソルトに向かって頭を下げた。
どうやらソルトが思っていた以上に気にしているらしく、その姿はどんよりとした重たい影をも背負っている。
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