巨大魔物討滅作戦

広畝 K

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第三章:故郷

16話

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 ソルトのその言葉を聞いて驚いたのは、シュガーと彼自身を除いた全員だった。

「魔道具を扱う店に、お客さんが入るのかしら?」

「さて、どうでしょう?」

 母親二人が言うのは、魔道具はこんな山にある田舎村でもそう珍しい物ではないということである。

 魔道具は魔力を内包している魔石で動く道具、或いは複雑な機構を持った機械の総称だ。
 十年ほど前に魔石の採掘場が幾つも建てられ、数年前には魔石を用いた魔道具の大量生産が軌道に乗ったという経緯がある。
 これまで高価であった魔道具が安い価格で市場に流れ、一般世帯に普及することになったのだ。

 その生産革命の波は大陸中に広がって、こんな山の中の辺鄙な村にまで影響を及ぼしている。

 しかしソルトは、「だからこそ開いてみようと思っている」と言ったのだ。

 彼が魔法学校で学んだ知識や技術は、魔法だけのことではない。
 もっとも意欲的に彼が取り組んだのは、魔道具の構造・製作・改良などに関わる技術的知識であったという。

 その分野は、魔法学校では未だに取り扱っておらず、専門として扱う教授もいなかった。

 それでも彼は魔道具に対して強い興味と執着を示し、魔道具に関する学問を専攻として独自に学んだのだ。
 結果として魔法学校内では学年次席という破格の成績を保っていたから、特別に講師が付くこととなった。

 魔法と精霊に関する学問を専攻とする、変人で有名な教授である。
 彼はソルトにいたく興味を持ち、型に捕らわれぬ独創的な助言でもって、知識と技術の確立を助けることとなったのである。

 が、そうそう現実は甘くない。
 世間は魔道具が大量普及している時代になったにも関わらず、未だに魔道具に対する深い興味というものを強く持てないでいた。

 と言うのも、今では魔道具は安価で大量に流通しているため、誰でも簡単に手に入れられるものであったという事情が、かえって人々の興味を薄らげたのである。

 生産に関しては大型魔道機械によって人の手を介さず作られることが知られていて、さらには人の手が途中で半端に入ることで無用の誤作動を引き起こしてしまう可能性が常に懸念されていたことも大きかった。

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