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第三章:故郷
15話
しおりを挟む食後のお茶を淹れ、しばらくのんびりとした停滞の時間が流れた。
が、再びソルトの母が彼に尋ねてその空気の停滞を先へと促した。
「で、どうなの?」
「どうって、何が?」
当然、そのゆったりとした空気にこれ以上ないほど馴染んでいたソルトは、唐突な母の発言についていけなかった。
しかしその憂鬱そうな表情を見て、彼女が何を言いたいかを察せられるくらいには、彼はぼんやりとはしていなかった。
母の視線から目を逸らさぬまま、彼は静かに口を開いた。
「……しばらく、こっちで自分のできることを考えてみようと思ってる」
息子のその答えで、母たる彼女は理解したのだろう。
都会で職に就くことができず、手紙に書いた言葉に従い、故郷に戻ってきたというわけだ。
その心中を思いやると、下手な慰めや同情を言うのは憚られた。
「そう……」
ゆえに彼女は何を言っていいか分からず、そうして一言だけ、相槌を打つに留めた。
ソルトの口が回らぬところは、母親から伝えられたものであるのかもしれない。
父は父で我関せずを貫いて、ゆったりとした雰囲気を崩さぬまま、お茶の湯気をぼんやりと眺めている。
彼は自分よりも母である彼女の方が息子をしっかりと導いてきたことを知っているし、自分にその役目は多大に過ぎると感じていたからでもあった。
「え? ソルトくんはしばらく村に滞在するの?」
「そうだよ」
空気を読まぬシュガーの言葉に、ソルトは軽い返事をもって答えた。
昔からこの姉貴分は、重大な話を重大とも思わぬ態度で扱うのだ。
時によってそれは長所とも短所ともなりうるものだが、今回に関しては場の空気が重くなることを避けたかったため、姉貴分の言葉にありがたく乗った彼である。
「じゃあさ、ソルトくんも私と一緒に狩りしないかい?」
「……僕、体を動かすのは得意じゃないから」
「助手で良いから! 荷物持つだけだから! 体力無くても大丈夫だし!」
彼女が熱心に勧誘をするのは、何も弟分であるソルトを気にかけているというだけではない。
そもそも村の主産業である商品作物の畑を荒らす害獣を、駆逐できる者が少ないのだ。
年寄り連中を含めて五人にも満たない有様で、深刻な人材不足に陥っているのである。
しかし、ソルトはそれを知っても自分ができることではないと判断した。
軽い荷物持ちならできなくはないだろうが、足が遅くて迅速な行動は望めない。
加えて、実際に獣が現れた場合にはシュガーの行動についていけないだけでなく、足手まといになるのがオチであろう。
なにせ彼は銃を使えず、反動で尻もちをつくほどに体に力が無いのである。
逃げる獣を追う彼女に、追いつけるほどの足も無いのだ。
シュガーはそれでも良いと言うが、ソルトとしては姉貴分の足手まといになるのは御免であった。
ゆえに、断る理由の一つを出した。
「実はね、この村で魔道具屋でも開こうかなって思ってるんだよ」
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