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第四章:開店
21話
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ソルトの魔道具屋が開店して数日経ったが、客の足は一向に伸ばされることは無かった。
「なんでさ!?」
「いや、どうしてシュガーが怒ってるの?」
カウンターに幾つか設置された席のひとつに座って、シュガーは腕を組んでいる。
その顔は怒りに満ちてはいるものの、元々愛嬌と笑顔の似合う顔であるから、いまいち迫力というものに欠けていた。
頬を膨らませた彼女の顔を横目に見ながら、ソルトは軽く息を吐く。
その手には、魔道具を磨くための布と、磨かれていた用途不明の魔道具がある。
彼は磨き終えた魔道具をカウンター内にある棚に丁寧に置きながら、ぶうたれるシュガーの愚痴をそれなりに流しながら聞いていた。
「だってさー、せっかく綺麗なお店なのに誰も来ないんだもん!
中の様子を見に来るくらいはするでしょ、ふつう……!」
「いや、子どもたちはたまに来るけど」
「ちびっ子たちだけは見る目があるよねー。
大人ってやつらは目が曇ってるからさー」
ころころと機嫌を変える彼女もまた、村の子どもたちと同様に、魔道具屋の数少ない客でもあった。
もっとも、どちらの客も遊びや話をするのが主な目的であって、魔道具そのものに関しては二の次であることが多かったが。
(まあ、畑仕事をするよりはよっぽど楽で良いやね)
ソルトは客層に文句はなく、むしろ冷やかしでも人が店に訪れることを良しとしていた風であった。
というのも、どの客も――子どもばかりではあったが――店に置かれている魔道具を珍しがり、詳しい説明や使い方を聞いたり、試しに魔道具を使ってみたりと、まるっきり興味がないわけでもなかったからである。
「まあ、子どもたちにすら興味を持たれない可能性はあったからね。
今のところ、大成功とは言えないまでも、成功とは言っても良いと思うよ」
「ふーん、そういうもんですかねー」
不貞腐れたような声を出したシュガーだったが、何かを思いついたように「あ、そうだ!」と不意に声を上げ、椅子から勢いよく立ち上がった。
怪訝な顔をしたソルトが何事かを問う前に、彼女は彼へと笑顔を向ける。
「一緒に狩りに行こうよ!」
「……ちょっと待って、理解が追いつかない」
だからさぁ、とシュガーが言うには、開店祝いのために肉を獲りに行こうというのである。
店もソルトがいうところの成功を果たしているわけで、祝わずにはいられないのだと、彼女はそう主張したのだ。
「別に、僕まで狩りに行く必要はないよね?」
「たまには店から出て狩りくらいしないと、老後の健康に響くよ?」
その後、幾度かに渡って不毛な遣り取りを交わしてから、ソルトはシュガーに頷いた。
彼がどれだけ行きたくないと言っても、彼女は行こうと譲らなかったからであり、遂には落ち込み始めたからである。
古来より男は女の涙に弱いものとされており、それはこの世界でも伝統であるらしい。
彼としては店から出ず、魔道具を磨いて過ごしたかったところではあった。
しかし、確かに彼女の言い分ももっともだとソルトは感じていた。
彼はここしばらく店内に篭って魔道具を磨いたりメンテナンスしたりして日々を終えていたものだから、彼女が彼を少しでも外に連れ出そうと思ったのも、頷ける話ではあったのだ。
「なんでさ!?」
「いや、どうしてシュガーが怒ってるの?」
カウンターに幾つか設置された席のひとつに座って、シュガーは腕を組んでいる。
その顔は怒りに満ちてはいるものの、元々愛嬌と笑顔の似合う顔であるから、いまいち迫力というものに欠けていた。
頬を膨らませた彼女の顔を横目に見ながら、ソルトは軽く息を吐く。
その手には、魔道具を磨くための布と、磨かれていた用途不明の魔道具がある。
彼は磨き終えた魔道具をカウンター内にある棚に丁寧に置きながら、ぶうたれるシュガーの愚痴をそれなりに流しながら聞いていた。
「だってさー、せっかく綺麗なお店なのに誰も来ないんだもん!
中の様子を見に来るくらいはするでしょ、ふつう……!」
「いや、子どもたちはたまに来るけど」
「ちびっ子たちだけは見る目があるよねー。
大人ってやつらは目が曇ってるからさー」
ころころと機嫌を変える彼女もまた、村の子どもたちと同様に、魔道具屋の数少ない客でもあった。
もっとも、どちらの客も遊びや話をするのが主な目的であって、魔道具そのものに関しては二の次であることが多かったが。
(まあ、畑仕事をするよりはよっぽど楽で良いやね)
ソルトは客層に文句はなく、むしろ冷やかしでも人が店に訪れることを良しとしていた風であった。
というのも、どの客も――子どもばかりではあったが――店に置かれている魔道具を珍しがり、詳しい説明や使い方を聞いたり、試しに魔道具を使ってみたりと、まるっきり興味がないわけでもなかったからである。
「まあ、子どもたちにすら興味を持たれない可能性はあったからね。
今のところ、大成功とは言えないまでも、成功とは言っても良いと思うよ」
「ふーん、そういうもんですかねー」
不貞腐れたような声を出したシュガーだったが、何かを思いついたように「あ、そうだ!」と不意に声を上げ、椅子から勢いよく立ち上がった。
怪訝な顔をしたソルトが何事かを問う前に、彼女は彼へと笑顔を向ける。
「一緒に狩りに行こうよ!」
「……ちょっと待って、理解が追いつかない」
だからさぁ、とシュガーが言うには、開店祝いのために肉を獲りに行こうというのである。
店もソルトがいうところの成功を果たしているわけで、祝わずにはいられないのだと、彼女はそう主張したのだ。
「別に、僕まで狩りに行く必要はないよね?」
「たまには店から出て狩りくらいしないと、老後の健康に響くよ?」
その後、幾度かに渡って不毛な遣り取りを交わしてから、ソルトはシュガーに頷いた。
彼がどれだけ行きたくないと言っても、彼女は行こうと譲らなかったからであり、遂には落ち込み始めたからである。
古来より男は女の涙に弱いものとされており、それはこの世界でも伝統であるらしい。
彼としては店から出ず、魔道具を磨いて過ごしたかったところではあった。
しかし、確かに彼女の言い分ももっともだとソルトは感じていた。
彼はここしばらく店内に篭って魔道具を磨いたりメンテナンスしたりして日々を終えていたものだから、彼女が彼を少しでも外に連れ出そうと思ったのも、頷ける話ではあったのだ。
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