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終章「戻ってきた日常」

270話

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「まったく、マスターにも困ったものですね」

「恥ずかしかったの……」

「ちょっと待って、それって俺のせい?」

 七之上たちは泉の前に集まって、軽く昼食を取っている。
 すぐ側を通り過ぎてゆく娘たちは彼らに挨拶を交わしながらも、早足で作業場へ向かってゆく。
 多くの娘が作業場に留まっており、それぞれ昼食を取ったり、作業をしたり、と忙しない。

 そして作っているものは、

「外敵防止用の防壁、ねえ……」

 聖域には必要ないんじゃないの、と七之上は言うが、従者たちは首を横に振る。
 娘や自分たちは聖域外に住んでいるため、町を囲んでいたようなしっかりとした防壁がどうしても必要だ、と言うのである。

 むしろ防壁の作成に関しては、ディーネの方から提案があったそうだ。
 その提案は、今回の戦いにおける準備不足の影響が、聖域に訪れた動物や魔物に緊迫感を与えていたことを考慮しているとのことらしい。
 今後も同様の事件が起きる可能性があるため、防壁は必要だと判断したらしい。

「それに、まだまだ娘の数も増えるの」

「どれくらい?」

「昨夜から今朝にかけてマスターが頑張ったお陰で、卵が軽く百を超えています」

 このままでは揺籃小屋の増設も間に合わない勢いです、とエリザベスに言われた七之上は、特に何も言うことはないといった態度を以て、そのまま昼食のデザートに手を伸ばす。

 酸味のある果物を使った焼き菓子で、お気に入りの代物だ。
 それが手に届くより早く、横からマリーに召し上げられた。
 七之上の視線は、マリーが左右に揺らしている焼き菓子に釘付けとなっている。
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