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終章「戻ってきた日常」

271話

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「ということで、このままではここが手狭になっていくのは明白です」

 どこか別の場所に村を作れるところがないか、探っておく必要もあると思うの、とマリーもエリザベスに続いて言った。

 七之上としては反対する理由がない。
 どうぞ好きにやって下さいという思いである。
 それより焼き菓子を返せと言わんばかりに、マリーに詰め寄っていた。

「わざわざ言うってことは、大体の目星はついてるんだろ?」

「そうですね、否定はしません」

 ですがまあ、それはまだまだ先の話であって、現在は拠点としての地盤を固める段階ですけれど、とエリザベスは言う。
 マリーは焼き菓子を手ずから七之上に食べさせつつも、やがては各地域に拠点を置いて、世界を少しずつ自分たちの住みよい環境にしていく予定なの、と、世界の征服を宣言するようなことを言っているが、焼き菓子の甘酸っぱい風味、さくふわ食感の快よさに酔い痴れている七之上の頭には、あまり強く響くことはなかった。

 天性、支配や統率などの言葉には縁の無い、無害な男なのである。
 二人の話を聞いてもどこ吹く風で、

「そりゃ壮大な話だなあ」

 と、軽く聞き流す程度の反応だ。

 七之上がそんな風に適当に流して頷くと、従者の二人は揃って綺麗に微笑んだ。

「そのために、というわけでもないですが。子どもはどんどん作りましょうね」

「どんどん作るの!」

 二人の笑顔を見て軽く体を引きながら、七之上は思う。

 ――ガチャチケット、二枚もすぐに使うんじゃなかったかな。

 しかし、七之上がそう思っていられるのは、ガチャチケットで二人が召喚されたればこそであり、彼もそれについてはしっかりと認識していた。
 口にこそしないが、従者の二人や生まれてきた娘たちに感謝もしている。

 それでもそう考えてしまうのは、今よりも良い現実を作れたかもしれないと夢を見る、人間としてのサガかも知れない。

 ともあれ、彼らが進む道は、これからもまだ続いていくのだろう。
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