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生魚が嫌だという婚約者と別れた話

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「……君、魚なんかを食べるのか。理解できないな」

 それは婚約者を領地に招いて一日目、夕食の時間でした。

 領地自慢の海鮮料理を披露したところ、婚約者は顔を蒼褪めさせて先の言葉を口にしたのです。

 まあ、分からないでもありません。

 内地では新鮮な魚介を食べる機会がありませんからね。

 私の家の領地は海沿いなので、新鮮な魚を食べることが出来るわけです。

 しかし婚約者は私の言葉に耳を貸すことなく、その日の内に領地から出て行ってしまいました。

 それから間もなく、婚約破棄にも至りました。

 異なる文化による価値観の相違は、仕方が無いところがありますからね。そんなものです。



 後年、私の家の領地で生の魚が食べられるということで王族や他国の要人が訪れるようになり、一等地として栄えました。

 他の領地もまた、その繁栄の誉れに浴しようとして魚食に対する研究を熱心に行い、内地でも安全で美味しい魚食を楽しめるように整えたのです。

 元婚約者は時代の流れについていけず、他の貴族から味の分からぬ愚者として扱われ、社交界から締め出されたそうです。
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