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Chapter01 - Side:Sugar - A
03 > 憩いの場 ー1(甘党と辛党)
しおりを挟むガション、ガタンッ!
音と同時に自販機の取り出し口に落ちてきているのは見間違うことのない超有名メーカーのブラック珈琲の缶。
それを取り出すためにかがんだ相手に会うのは、本当に久しぶりだった。
一瞬、なんて声をかけようかとためらってると、自販機に映った俺の影に気づいた相手が振り向きざまに
「おう」
呼びかけてくれたので内心胸を撫で下ろした。
「めずらしいな? お前が向こうの喫煙ルームじゃないの」
「あー、まぁ、ね」
そう言うと、汐見は右手で頭をガリガリかいた後、左手に持った缶珈琲のプルタブを開けた。
プシっ! と音を立てた缶を見ながら一口飲むと、ヨレッとしたズボンのベルトを後ろ手で引き上げ、盛り上がってる腰の尻肉に引っ掛けた。
俺は、一瞬できた汐見の尻に食い込む【谷間ライン】をガン見……エッロ……
「疲れた顔してるな。どうした?」
あくまでも平静を装って問いかける、俺。
「ん~~~、まぁ、仕事っつうよりも、だな」
汐見は苦笑に失敗して表情をゆがませた。
俺はお目当てのめちゃくちゃ甘い缶珈琲を買うために汐見が立ち塞がってる自販機に近づく。
〝あ、久しぶり……この匂い……〟
汐見が開けた缶からは珈琲独特の芳醇な香りが漂ってくる。
それにも増して汐見自身の少ししょっぱそうな、それでいてほっとするような体臭が香る。
〝……あ~。この匂い嗅ぎまくりながらこいつの身体中舐め回したい……〟
ただの同僚にこんなアブナイ妄想を抱かれてるとは、こいつは絶対に気づいていないだろう。だが、だからこそ、こんな近くにいられるし、その心地よさに安心していられる。
「お前は相変わらず甘党だな」
「お前こそ辛党は卒業しないのか?」
「……甘党辛党に卒業ってあるのか?」
「無いんじゃないか?」
「じゃあ問題ない」
「確かに」
汐見と話していると些細な話題にさえ自然な笑みがこぼれる。
そんな自分を自覚してもう何年経つのだろうか。
「しっかし佐藤、お前はそんな甘い缶珈琲ばっか飲んで……血糖値大丈夫か?」
「それを言えば、お前だろ。血圧大丈夫かよ?」
お互いに甘党・辛党にそれぞれの健康上の問題が出そうな話題を振る。
互いに顔を見合わせて ふはっ と笑いが出た。
「まぁなぁ。俺たちももう若くないしな」
「いや、30代はまだ若いだろ」
「そうかぁ? 新入社員とかぴっちぴちだぞ?」
「俺たちだって10年前はぴっちぴちだっただろ?」
くだらない会話を続けて久しぶりに心地よい時間を過ごしていると
「……紗妃がなぁ……」
不意に汐見がしみじみと名前を出した。
「……紗妃ちゃん、元気か?」
「あ、あぁ。元気だよ。おかげさまで」
「今は? 主婦やってんの?」
「まぁな。ちょっと心配だったし、オレの給料だけでもやっていけるしな」
「? なんか問題でもあるのか?」
「……ん~、や、なんてーか」
家庭の事情ってヤツだろうか? 言いあぐねているのが見てわかる。
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