【第1部完結】佐藤は汐見と〜7年越しの片想い拗らせリーマンラブ〜

有島

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Chapter01 - Side:Sugar - A

13 > 佐藤・飲み会の帰宅後ー1(リサーチ)

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 坂田と別れたのは平日の木曜夜、午後11時を過ぎる直前だった。

 まぁ、ホント、その飲み会は酒がマズいことこの上なかった。
 だが、聞いたことをうっかり忘れないようスマホにメモりながら、旧姓・春風紗妃の話を微に入り細に入り聞いた。

 もちろんイソスタのアカウントもちゃんと確認していた俺は、帰宅と同時にコップ2杯の水を飲んでほろ酔いを吹き飛ばし、風呂に入って酒と汗臭さを脱ぎ捨てた。

 風呂上がりに3杯目の水である500ccのペットボトルを持ったまま書斎に入ると、室内灯も点灯せず、ドアから差し込む明かりを頼りにPCの電源を入れて起動。

 6畳フローリングの書斎に、幅120cmのPC机。その上に置かれた2枚の32インチ画面が明滅すれば室内灯なんかいらないくらい明るくなる。
 手慣れた作業だ。

 PCの起動を確認して、画面上にソフトのアイコンが並ぶのを待つと、ブラウザを立ち上げて早速捨てアドを作成。即、イソスタを検索して新規登録画面を出すと、既存のアカウントにアクセスしないよう細心の注意を払って新規でアカウントを作成し、即ログイン。5件ほどダミー投稿した後、アプリから提案された30人くらいを一気にフォローした後『春風紗妃』を検索してフォロー。その直後に20人くらいフォローするのも忘れなかった。

 俺は2枚のドでかいPCディスプレイの光源を見つめていた。

「我ながら女々しいよな……」

 イソスタグラムでの『春風紗妃』、もとい〈春風〉は、男といるであろう写真のハッシュタグにはことごとく
【#夫と】と書いてUPしていた。もちろん、その男は本当の夫・汐見潮ではない。

「……投稿は土日の夕方か、週明け。【#週末に】【#夫と】【#大好きな夫と】……か」

 一応、春風も用心しているらしい。ランチなど日中の明るい写真はご丁寧に週末や週末明けにUPされていた。そして、夜の写真が圧倒的に少なく……だが、甘い。

「夫は平日働いてる会社員なんだから、夫との週末デートだよ、ってアピールするのはまぁ、当然だな。でもデータの方はどうかな……」

 そう、俺はひとりごちると、ペットボトルの水をこぼさないようにしながら、カタカタとパソコンを操作して写真データのダウンロードを始めた。

「まぁ、ストーカーに張り付かれるほどの被害に遭ったことがなければ……君は【今も昔も頭の中がお花畑】なんだろうね……紗妃ちゃん」

 俺は学生時代どころか小学生の物心つくかどうかの頃からストーカーに張り付かれた経験がある。劇的に増えたのは高校に上がってからだったが、社会人になってからの方が圧倒的に増えた。

 彼ら彼女らの言い分はいつもこうだ。

『だって、佐藤くんがいつも甘い顔で私(僕)に笑いかけるんだから! それって私(僕)のことが好きってことでしょう?! そう思ってもなかなか行動できないシャイな佐藤くんの代わりに私(僕)がこうやって行動してあげてるんじゃない!』

 まるでこちらに非があった?と勘違いさせられるような全く意味不明な言い分じゃないか? そんなことを言い募るイカれた人間ばかりだった。

 だから、俺は、仕事以外では可能な限り塩対応──プライベートでは笑顔を見せない、極力会話しない──を徹底して行動してる。
 プライベートで俺の営業スマイルが、思い込みの激しい人間に勘違いされて面倒なことになるのなんて、もううんざりだったからだ。

 その、俺自身の元ストーカーだった一人から聞き出したストーク相手の追跡手法の一つが───

《SNSにUPされた写真をダウンロードして写真にある詳細情報を確認すること》

 運が良ければそれにGPSの位置情報や実際に撮影された日時などから、現在の居場所を特定することもできるんだ、とご丁寧にストーキングの基本を教えてくれたのだ。

 まぁ、彼らに倣って同じ行動をしている今の俺に? 
 彼らを侮辱する権利はないんだけどな?

 ダウンロードした写真データを確認し、詳細を閲覧すれば、その写真が本当に撮影された日時と場所が割り出せた。

 それくらいのことも知らずにこんなところ──公共のSNS──にUPするなんて、無用心にも程があるだろう。

「はっ! 平日に屋外ランチ? 隣県や県境まで行って?」

 平日の昼時にそんなところでランチできるほど汐見潮は時間に余裕がある仕事をしていない。責任を任され、外部に発注している人員さえ管理するPMだ。そんな男に平日のお昼時にランチを外食する時間などあるはずがないだろう?

 そもそも普通の会社員が、仕事でもないのに毎週のように隣県まで行くようなことがあるはずがないのに……

「ほんと、二股とか不倫するような人間は……信じてる人を裏切るなんて蚊を殺すのと同じくらいの気持ちなんだろうなぁ……」

───ダウンロードして確認した写真はほぼ全て、投稿された日時が、そのハッシュタグとは異なるものだった。

「は~っ……嘘ばっかのタグかよ……しかも、ご丁寧に全部……」

 男と写っているハッシュタグは決まって【#大好きな夫と】だと。










※当小説はフィクションです。ストーカー規制法(2000年5月18日成立・同年11月24日から施行)によりストーカー行為は法律で罰されます。当小説で推奨するものではありませんのでご注意ください。
※現在、このような手法が使えるのかどうかは未確認です。
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