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Chapter03 - Side:Other - A
41 > 事情聴取ー5(休憩)
しおりを挟む「どうしました? 気分でも?」
「ヨネさん、汐見さん、怪我してるんすよ。ちょっとここらで休憩とりませんか?」
「ん? あ、あぁそうだな。一旦休憩にしましょうか?」
「……そうして、もらえると……助かります」
「わかりました。ではちょっと我々も失礼して、喫煙所に行って来ますわ」
そう言うと、でっぷり腹刑事・米山と大男の刑事が立ち上がって個室から出て行った。
2人の刑事を改めて視認すると、二人とも左耳に透明なイヤホンをつけている。おそらく常に警察無線を聞いているのだろう。
また、佐藤は大男の耳が潰れているのを見て身震いした。
〝あれ、明らかに柔道有段者じゃん……あんなでかい男が……〟
2人を見送った佐藤が汐見の顔を覗き込むと、表情は青白くなり眉間にシワが寄っている。
「汐見? 大丈夫か?」
「ああ、ちょっとナースコールする……」
ナースコールすると、すぐさま柳瀬が飛んできた。
「大丈夫ですか? 汐見さん?!」
「……大丈夫です……ちょっと気分が悪くなってしまって……」
「当然ですよ! 30分どころか1時間過ぎちゃってますから! 顔色悪いです! 痛みはありますか? 吐き気は? 点滴しておきますか?」
矢継ぎ早に心配と質問をされて汐見のみならず佐藤までもが苦笑する。
「痛みが……少し……顔色、悪いですか?」
「……顔色というか……入院中の抗生剤の投与は様子を見ながら行ってますが、それとは別に疲労回復に有効な点滴とかもあるので、鎮痛剤とそちらを……」
「そうなんですか……じゃあそれ、お願いしてもいいですか……」
「わかりました! 先生に確認してきますね! ちょっと待っててください!」
バタバタと柳瀬は慌ただしく出て行った。
汐見は自分では気づいていなかったが、思った以上に疲労していたらしい。もともと無理するのが常態化していて我慢を我慢とも思わない性質なのがこういうときに裏目に出る。
もっとも、実際には気分が悪い理由はそれだけではなかったのだが───
「もっと早く言えばいいのに……お前は……」
佐藤は半ば呆れながら、でも〝お前らしいよな……〟と感心しながらもいたわしそうに汐見を見ていると、汐見がふと顔を上げたので目が合った。
〝顔色は悪いけど……木曜に自販機前で会った時より目元のクマはだいぶ良くなってるな……〟
佐藤は常に汐見を鑑賞……観察しているので、鏡を覗き込む汐見本人ですら気づかないほどの表情や顔色を克明に記憶している。汐見の隈が消えたのは喜ばしいことだと素直に喜び、声を掛けた。
「よく眠れたのか?」
「ああ、昨日はな」
「昨日は? 一昨日は?」
「……なんか、色んなことがありすぎて眠りが浅かった気がする」
「考えすぎなんだよ、お前は……まぁ、仕方ないけどな」
「……そういうお前は心配しすぎだけどな」
「それこそ仕方ないだろ! あんな連絡の仕方するから! 俺の方は昨夜全然眠れなかったんだぞ!」
「……だろうな。すまん。でも、お前の顔にクマができてるの久しぶりに見たな」
はは。と力なく笑う汐見を抱きしめたくてどうしようもなくて、佐藤は自分の衝動を抑えるのに100%の理性を総動員した。
だが───
とうとう佐藤は汐見の右手を自分の右手で捕まえてしまった。
「? 佐藤?」
顔を見られるとその目から感情まで読み取られてしまいそうだった、から。
佐藤は目を閉じて顔を伏せた。
ゆっくりと、汐見の手を自分の両手で包み込む──大切に────
乞い、願うように────
「心配、したんだ……本当に……胸が、潰れるかと……」
「……すまん……」
泣きそうになる自分を叱咤しつつ佐藤が二の句を告げようとしたところで、柳瀬が点滴スタンドとビニールを被せたボウルを2個を持って入ってきて
「汐見さん!」
汐見の手を両手で握っている佐藤を目撃してしまった。
「! って、あっ、すみません!」
一瞬イケナイものを見てしまった気がした柳瀬は即座に謝罪した。
「? どうしたんですか?」
不思議がっている汐見に対し、顔をあげた佐藤はさりげなくスッと手を引っ込めた。
〝見られた、よな……まずかったかな……〟
相変わらず鈍感な汐見を憎らしく思いつつ、やはり自分の汐見に対する行動は他人から見るとおかしいのだ……と感じた佐藤は今後も人前では注意しようと心に誓った。
「あ、と。て、点滴、してもいいですか?」
「? はい、どうぞ」
出された左腕に残っている点滴用の針を確認して、今度はこれまでとは別の表記がされた点滴バッグが掛けられ処置を施される。
「2~30分で滴下終わると思うので。警察の方は、まだ?」
後半はちょっと小声だったが、汐見は笑いながら
「ええ。休憩してから、ってことでした。でももう少しで終わると思います」
「そうですか、よかった。やっぱりこういうの、怪我もしてるので、メンタルにキますからね」
「……そうですよね……」
「あ、あとこれ。吐瀉物を入れるため用に一応。こちらに置いておきますね」
柳瀬が刑事2人組が座る側に置こうとしたので佐藤がすかさず
「すみません、それ、僕が預かっていいですか?」
「あ! はい。じゃ、お願いします……」
申し出て、ボウル2つを受け取った。それを見ていた汐見が
「……お母さんかよ……」
微かに苦笑する。その笑みにさえ佐藤は胸が痛くなる。
「こんな時は甘えとくんだよ。お前はいつも我慢しすぎだ」
少し沈んでいる汐見と、心配そうな佐藤の表情をチラ見しながら、柳瀬は思う。
〝この人……多分……〟
柳瀬は看護師としてはかなり優秀な方だ。
本人は無意識だが、コールドリーディングできるので看護師として患者の些細な状態も見逃さない。それが患者ではない人間相手だと、表情と仕草から本人の気持ちを知らず読み取ってしまい、ほぼ外れたことがない。
そして──汐見に対する佐藤の気持ちと、佐藤に対する汐見の気持ちとに相当の温度差があることも感じ取ってしまった────
コンコン、とノックの音がして汐見が「どうぞ」と答えると、刑事2人組が入室してきた。
「さて。後半戦、と行きますか」
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