【第1部完結】佐藤は汐見と〜7年越しの片想い拗らせリーマンラブ〜

有島

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Chapter07 - Side:EachOther - B

98 > 汐見宅で2人ー7〜 未来を夢見て [Side:Other]

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【Side:Other】



「……紗妃と付き合う前……オレ、結婚はしないだろうな、と思ってたから転職の機会を伺ってたんだ」

 食卓の床から立ち上がった汐見は、テーブルの椅子を引いて座る。

「……」

〝ちょっと、待て……なにを……なにをいってるんだ、しおみは……〟

「本当はもっと早くに転職したかったんだけどな……なかなかタイミングが掴めなかったのと、紗妃の状態が安定してからじゃないと動けないと思ってたんだ」

〝しおみ、しおみ……〟

「紗妃がまだどうなるかわからないが、そっちが片付いたら早めに動こうと思ってな。ほら、橋田の親父さん、もうリタイアしたらしいけどGAFEの本社とか行ってた人だから色々話聞いてみたいんだよ」
「……」

 目の前が真っ暗になるとはこのことだ、そう佐藤は思った。
 妻である紗妃とのことが解決したら、きっとまた汐見は自分と一緒にいてくれる、そう信じていたから佐藤は汐見の協力に尽力している。
 
 汐見と一緒に過ごす未来を夢見て───

 今現在、汐見との接点は『同じ会社にいる』ことしかなく、唯一の接点がなくなれば汐見と会う機会は必然的に激減する、しかも───

「こんなの、夢でしかないからまだ言いたくないんだが……それに、いつになるかもわからないし……でも、一度アメリカのITの本場に行って仕事したいんだ……だからいまTOEFILの勉強中でさ……」
「……」

 夢を語る汐見の瞳にはなんの曇りもなく、それが本心からなのだと佐藤にはわかる。

「35を過ぎると結婚も転職も逃すって言われてるし……挑戦できるタイムリミットが近づいてるから、チャンスをものにしたくて……って、佐藤?」
「……」

 黙りこくってしまった佐藤を見て、汐見が訝しがる。

 佐藤の方は、汐見が話す想像を超えた内容が信じられず───

〝お前の心に……俺の声はこれっぽっちも届いてないのか……どれだけお前を想ってもお前は俺に見向きもしない……わかっているのに……わかっていたのに……〟

 ぽろり、と涙がこぼれた。

「え?! 佐藤?!」
「……」

〝どうしたらいいんだろう……夢見る汐見を、夢を実現できるお前を繋ぎ止めておくことなんて俺にはできない。俺にはそんな資格がない。でもお前が……お前との唯一の接点がなくなってしまったら俺は……〟

 先週の木曜日から、不意にあふれる涙を止めることができない。
 ぎゅっと目を閉じて、その水滴を手の甲で無造作に拭う。

 なぜこんなにもすれ違うのか。
 これほど欲しい人間が、手が届く目の前にいるのに。

 佐藤は苦しくて、でも汐見を失いたくなくて身悶える。

〝どうすればお前は俺を、たった一人の人間として見てくれるんだろう……俺にはお前しかいないのに。お前も俺しかいなくなればいいのに……〟

 ラーメンの準備をしていたことを思い出して、佐藤は機械的に動き出す。
 ヤカンを取って、二つ並べたカップ麺の上に注いで蓋をすると、その上に皿を載せ換気扇に引っ付いているタイマーをセットする。

「佐藤? だ、大丈夫か?」
「……」

 なんと言えばいいのかわからない。
 なんて言うのが汐見の正解なのか、わかってても言いたくない。

 転職を考えてるなんてすげえな、とか、待遇に納得がいってないのか?とか。それこそ、色々。

 だけど、出てきたのは

「そう、か……お前、仕事、大好きだもんな」

 励ますでもなく、引き止めるでもなく、ただただ知っている事実を告げた。

「? 佐藤?」
「……ん?」

 いつもと違う反応に汐見の方が戸惑う。

「もしかして……反対、なのか?」
「なにが?」

「その……オレが転職すること……」
「そんなこと言ってないじゃん。まぁ……お前が相談もせずに先手で動くのは、今に始まったことじゃないしな……」

〝その行動力に毎回俺は驚かされて……今回が一番驚いてるな……〟

「……さと」

 ピピピっ! ピピピっ! ピピピっ!

 タイマーがラーメンの仕上がりを合図する。
 佐藤は二つのラーメンの上に置いていた皿をどけると蓋を開け、まな板の上に乗せていた具材を適当に盛り付ける。

「カップのままだけど、いいよな。食器汚したら洗わないとだし」
「あ、あぁ……佐藤……その、お前、怒ってる? のか?」

「……なんで?」
「いや、その……」

 汐見は鈍感だが、それは自分に対する好意にだけだ。

 それ以外に関してはちゃんとわかっている。

 佐藤が涙を流した理由はわからなくても、佐藤の態度がおかしいことには気づいていた。

〝お前の鈍さは諦めてたけど……お前が転職するっていうのは……考えてなかったな………〟

 キッチン越しに、食卓に座っている汐見の顔をぼうっと見つめる。

 佐藤を見つめ返す汐見。
 2人の視線が絡まる。

 なのに、そこには一切の色が無い。
 あるのは佐藤からの一方的な想いの深さだけで。

 絡まる視線を振り切るように、佐藤が

「……今日はもうお前はここに泊まった方がいいな」

 二つのカップラーメンを手にとって、食卓まで運ぶ。

「え?」
「今から移動するよりは、さ」

「だ、だが……」

〝なんか、佐藤の様子が変だ……〟

「俺は……家でやらないといけないことあるから、今日は帰るけど……大丈夫?だよな?」
「……」

「自分の家の方が落ち着くだろ。リビングにはあまり出入りしないようにすればいい」
「……あ、あぁ……」

 佐藤がため息を吐き出すと

「怒ってはいない。ただ……呆れてるだけだ」

 本音を吐露した。

 本当に、呆れていた。自分に。
 こんなにも未練たらしく汐見に執着する自分に。

「佐藤……」
「俺の家の鍵、渡しとく。明日、適当に帰ってこいよ。一人でも大丈夫だろ?」

「な……なんだよ、子供扱いか、オレは!」
「そうじゃないけどさ」

 うっすらと笑みを浮かべた。

〝ああ、笑えた……でも……これ、きっついな……〟

「佐藤……その……」

 汐見が何かを聞こうとして、聴きあぐねて

「なに?」
「……お、お前が好きな人って……オレも知ってる人か?」

「……」
「そ、その……ふ、不倫とか……なら、その……」

「……不倫はしてない。俺の……片想いだから」

「!!」

〝え? って、え?じゃ、じゃあ……〟

「結婚してる。ってのは正解。だから……【彼女】、ではない」
「つ、付き合ってない、ってこと、か?」

「そうだな……」

〝付き合いたいよ……〟

「え、でも……」
「……長いけどな……片想い自覚してから……だいぶ経つ」

「そ、……うか」

〝こんなに身近にいてオレは佐藤にそんな相手がいることにも気づかなかった……長いって……〟

「お前の知らない人だよ」

〝だって、お前は『俺に好意を寄せられてる自分』なんて……知らないだろう?〟






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