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Chapter07 - Side:EachOther - B
99 > 汐見宅で2人ー8〜 裏切らないもの [Side:Other]
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【Side:Other】
「佐藤……」
「……ま、気にすんな。俺の問題だ。お前はお前の問題を片付けないとな」
佐藤は汐見が座ってる食卓テーブルの対面の椅子を弾いて苦笑いしながら腰掛ける。
「ラーメン、食べようぜ。麺が伸びるとマズくなる」
「……あ、……その、変なこと聞いてすまん……」
「んぁ? いや、変なことではないだろ。まぁ、俺もずっと言わなかったしな」
「……お、オレは……」
「……今は俺のことはいいんだよ。お前が一番大変な時期なんだから。あっと、橋田には後で連絡とってみる。それでいいか?」
「あぁ……なんか悪いな……何から何まで……」
「気にするなって。お互い様だろ」
ラーメンを啜る二重奏を奏でながら、合間合間に話をする。
「……オレは別に……」
「俺んとこの原田のやつが最近取ってきた案件、かなりやばかったらしいのに、お前直下のチームでなんとか回したって話じゃないか。ありがとな。あいつ、人付き合いは上手いのに仕事の見通しが下手でなぁ……」
「……それ、先週俺らが死んだ案件だな……」
「マジか!! それ早く言えよ!」
「ははっ。まぁ、でも後輩たちにはいい経験になったと思う。今後そういう案件増えるって話だからな」
「あ~。そういえば、俺のとこにもなんか似たようなのが何個か来てるな。今まで手動だったのをシステム化したいとか、っての」
「DX(※)だな。今、流行の」
「そうなんだ?」
「まぁ、無理にシステム化する必要はないと思うんだけどなぁ……システム化さえすればなんでも解決できると思ってる経営者が多いんだよな。受けた後、設計のやり直しを説得するのに1時間以上かかったこともある」
「……大変だなぁ……」
生き生きと仕事内容の説明する汐見の顔をぼんやりと見ながら佐藤は思う。
〝もうこの顔も……もしかしたら今年中には……〟
汐見の誕生日が迫っている。
その誕生日が来ると34になる。
とすると、その年齢をもって汐見は転職に向けて動く気持ちだったのだろう。
〝俺に相談……しないか……〟
汐見と出会った当時、可愛がられていた先輩のいきなりの手のひら返しを受け、パワハラ・モラハラ行為の末、転職を決意して行動していた。あの頃の自分を思い出しても
〝転職活動してるって同僚に言い出すのは……なんか……厳しいもんがあるんだよな……〟
同じ職場で仲良く働いてると思っていた仲間がいきなり別の会社に転職する、そのために活動しているとわかって、笑顔で見守ってくれる同僚というのは一体どれくらいいるのだろうか。
そう思うと、自分の身を振り返っても言い出しにくいのは想像に難くない。
だが
〝こんなに……ほぼ毎日同じ職場で顔合わせて、一番仲がいいと思ってる俺にも……お前は言い出さないのか……〟
秘密主義なのかなんなのか、そういう話をすると決まって汐見は言った。
『……秘密主義、というか……う~ん……オレ自身の中で固まってないこととか、その、検証してないこととか、裏取りできてないこと、実現できるかどうかわからないこと、とかを……あまり口に出したくないんだ。あとでそれが間違ってたり実現できなかったりすると、嘘ついたり約束破ったりした気分になるから、オレが気になるんだよな』
〝誠実バカもここまで来るといっそ、清々しいというか、馬鹿正直というか……だから〈春風〉みたいなのに捕まるんだろうな……〟
佐藤の、紗妃に対する気持ちは幾分か和らいでいた。それは彼女の壮絶な過去に触れたからだというのはわかる。
だが、それと、汐見が転職して自分の元を離れようとしているのは別だ。
「なぁ……汐見……」
ラーメンを啜っている汐見のメガネが曇ってるのを鑑賞しながら
「ん?」
「聞いていいか?」
「んぁ……なんだ?」
「……なんで今頃転職したいと思ったんだ?」
汐見はちょっと考えて
「まだ現役でいたいんだよな……ほんとは、退職するまで現役エンジニアでいたい」
「……それはわかるけど……今の会社では無理なのか?」
「お前もだと思うけど……オレ、今期決算終わったら職位上がるだろ?」
「あぁ」
〝順当な上がり具合だと思うけどな。いくら上が詰まってるからと言っても、働きからすると遅いぐらいだけどな〟
「2階級特進で課長に、って言われたって言っただろ」
「あぁ、まぁ、納得だったけど?」
「オレは嫌だった」
「……」
「まぁ、人の管理が苦手ってのが一番かなぁ……」
「……」
「お前もわかると思うけど、オレ、相手が何考えてるのかわかんない中で動くの一番ストレスなんだよ」
「……だよな」
〝だからお前は鈍感だって俺や橋田に言われるんだ〟
「それくらいならシステムと一日中向き合ってたい。毎日18時間コード読んでるのは辛くないけど、毎日8時間、腹のわからない相手と過ごすのはキツイ」
「お前、同僚でも? きついと思うのか?」
「……まぁ、たまに」
「いずれそういうポストに、ってこの2~3年で言われるのはわかってるんだ。でも新しい技術にまだ触れていたい。それに……人間と違って、プログラムは裏切らないから……」
「!!!」
それが、汐見にとって、最大の理由だった───
※DX=デジタルトランスフォーメーション=digital transformation
デジタル技術の存在を前提として、既存の組織や仕組み、手順、モノや情報の流れといったものを根本的に変革すること
「佐藤……」
「……ま、気にすんな。俺の問題だ。お前はお前の問題を片付けないとな」
佐藤は汐見が座ってる食卓テーブルの対面の椅子を弾いて苦笑いしながら腰掛ける。
「ラーメン、食べようぜ。麺が伸びるとマズくなる」
「……あ、……その、変なこと聞いてすまん……」
「んぁ? いや、変なことではないだろ。まぁ、俺もずっと言わなかったしな」
「……お、オレは……」
「……今は俺のことはいいんだよ。お前が一番大変な時期なんだから。あっと、橋田には後で連絡とってみる。それでいいか?」
「あぁ……なんか悪いな……何から何まで……」
「気にするなって。お互い様だろ」
ラーメンを啜る二重奏を奏でながら、合間合間に話をする。
「……オレは別に……」
「俺んとこの原田のやつが最近取ってきた案件、かなりやばかったらしいのに、お前直下のチームでなんとか回したって話じゃないか。ありがとな。あいつ、人付き合いは上手いのに仕事の見通しが下手でなぁ……」
「……それ、先週俺らが死んだ案件だな……」
「マジか!! それ早く言えよ!」
「ははっ。まぁ、でも後輩たちにはいい経験になったと思う。今後そういう案件増えるって話だからな」
「あ~。そういえば、俺のとこにもなんか似たようなのが何個か来てるな。今まで手動だったのをシステム化したいとか、っての」
「DX(※)だな。今、流行の」
「そうなんだ?」
「まぁ、無理にシステム化する必要はないと思うんだけどなぁ……システム化さえすればなんでも解決できると思ってる経営者が多いんだよな。受けた後、設計のやり直しを説得するのに1時間以上かかったこともある」
「……大変だなぁ……」
生き生きと仕事内容の説明する汐見の顔をぼんやりと見ながら佐藤は思う。
〝もうこの顔も……もしかしたら今年中には……〟
汐見の誕生日が迫っている。
その誕生日が来ると34になる。
とすると、その年齢をもって汐見は転職に向けて動く気持ちだったのだろう。
〝俺に相談……しないか……〟
汐見と出会った当時、可愛がられていた先輩のいきなりの手のひら返しを受け、パワハラ・モラハラ行為の末、転職を決意して行動していた。あの頃の自分を思い出しても
〝転職活動してるって同僚に言い出すのは……なんか……厳しいもんがあるんだよな……〟
同じ職場で仲良く働いてると思っていた仲間がいきなり別の会社に転職する、そのために活動しているとわかって、笑顔で見守ってくれる同僚というのは一体どれくらいいるのだろうか。
そう思うと、自分の身を振り返っても言い出しにくいのは想像に難くない。
だが
〝こんなに……ほぼ毎日同じ職場で顔合わせて、一番仲がいいと思ってる俺にも……お前は言い出さないのか……〟
秘密主義なのかなんなのか、そういう話をすると決まって汐見は言った。
『……秘密主義、というか……う~ん……オレ自身の中で固まってないこととか、その、検証してないこととか、裏取りできてないこと、実現できるかどうかわからないこと、とかを……あまり口に出したくないんだ。あとでそれが間違ってたり実現できなかったりすると、嘘ついたり約束破ったりした気分になるから、オレが気になるんだよな』
〝誠実バカもここまで来るといっそ、清々しいというか、馬鹿正直というか……だから〈春風〉みたいなのに捕まるんだろうな……〟
佐藤の、紗妃に対する気持ちは幾分か和らいでいた。それは彼女の壮絶な過去に触れたからだというのはわかる。
だが、それと、汐見が転職して自分の元を離れようとしているのは別だ。
「なぁ……汐見……」
ラーメンを啜っている汐見のメガネが曇ってるのを鑑賞しながら
「ん?」
「聞いていいか?」
「んぁ……なんだ?」
「……なんで今頃転職したいと思ったんだ?」
汐見はちょっと考えて
「まだ現役でいたいんだよな……ほんとは、退職するまで現役エンジニアでいたい」
「……それはわかるけど……今の会社では無理なのか?」
「お前もだと思うけど……オレ、今期決算終わったら職位上がるだろ?」
「あぁ」
〝順当な上がり具合だと思うけどな。いくら上が詰まってるからと言っても、働きからすると遅いぐらいだけどな〟
「2階級特進で課長に、って言われたって言っただろ」
「あぁ、まぁ、納得だったけど?」
「オレは嫌だった」
「……」
「まぁ、人の管理が苦手ってのが一番かなぁ……」
「……」
「お前もわかると思うけど、オレ、相手が何考えてるのかわかんない中で動くの一番ストレスなんだよ」
「……だよな」
〝だからお前は鈍感だって俺や橋田に言われるんだ〟
「それくらいならシステムと一日中向き合ってたい。毎日18時間コード読んでるのは辛くないけど、毎日8時間、腹のわからない相手と過ごすのはキツイ」
「お前、同僚でも? きついと思うのか?」
「……まぁ、たまに」
「いずれそういうポストに、ってこの2~3年で言われるのはわかってるんだ。でも新しい技術にまだ触れていたい。それに……人間と違って、プログラムは裏切らないから……」
「!!!」
それが、汐見にとって、最大の理由だった───
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